路地の空気が、もう何度目かも分からない銃声で震えた。
青い閃光が俺の肩口を抜け、その直後にマゼンタの光が海東の足元を抉る。互いを撃っている。狙いは最初からそこだ。だが、その間に赤いオーラをまとった馬場が滑り込み、追加戦士の残骸みたいに散った火花の向こうで、強引に間合いをこじ開けようとしていた。
「まだやる気か」
吐き捨てた声に、馬場は笑う。笑っているが、呼吸は浅い。
カリブレードを返し、低く沈んだ体勢のまま一気に踏み込んでくる。速い。踏み込みの一拍が消える、あの嫌な加速だ。
ライドブッカーをソードモードのまま差し込む。
受け切る気はない。刃の角度だけを当て、切っ先を外へ流す。金属が擦れ、火花が散る。押し込まれた重みが腕へ来る前に、膝を入れて距離を剥がした。馬場の体が半歩浮く。その半歩へ、横から青い一発が刺さる。
「っ!」
ネオディエンドライバーの射撃。
海東の弾は、いつもそうだ。倒すためじゃない。動きを壊し、次の被弾位置へ押し出すための一発。馬場の脇腹が捻れ、体勢がぶれた。
そこへ、俺は海東へ撃つ。
マゼンタの光弾は本来、海東の胸を撃ち抜くはずだった。だが、海東は読んでいたみたいに身をずらす。外れた射線の上に、馬場がいる。避けきれない。光が肩を掠め、赤いオーラが一瞬だけ薄くなる。
「……趣味が悪いな」
「君にだけは言われたくないね」
海東がカードを抜く。
俺も同時に、腰へ手をやった。最悪だ。呼吸が合っているわけでもないのに、こういう時だけ噛み合う。
馬場もそれに気づいたらしい。
笑みが消える。ラッパラッターを鳴らそうとした指が、わずかに迷う。その迷いは致命的だ。俺と海東、二人分の視線が、同じ一点に落ちた。
カードを滑らせる。
ベルトが低く唸るように応じる。
『FINAL ATTACK RIDE DE DE DE DECADE』
音声が夜道に響いた瞬間、マゼンタの光が足元からせり上がる。
それはただの発光じゃない。路面に散った火花も、砕けた破片も、街灯の白まで巻き込んで、一直線の圧に変わる。撃ち抜くための色だ。
ほぼ同時に、海東の側でも青が走った。
ネオディエンドライバーが持ち上がり、銃口の周囲に冷たい光が集束する。
『FINAL ATTACK RIDE DI-DI-DI-DIEND』
青い音が、路地の空気を一段細くする。
海東は笑っていた。いつもの、あの腹の立つ顔のまま。けれど、銃口だけは一切ぶれない。撃つ。奪う。そこに迷いがない。
俺は前へ出る。
海東は半歩だけ横へ滑る。
本来なら、俺の必殺は海東を裂くためのものだ。海東の一撃も、俺を撃ち抜くためのものだった。
その真ん中へ、馬場が赤いオーラをまとったまま突っ込んだ。
抜けるつもりだったのだろう。二つの必殺の、わずかな隙間をこじ開けて逃げるつもりだった。だが、遅い。
マゼンタが走る。
青が重なる。
二色の光が、交差した。
その交点にいた馬場の身体が、まとめて呑まれる。衝撃は一拍遅れて腹へ来た。爆ぜる音、押し返す熱、焦げた匂い。爆煙が路地いっぱいに膨らみ、街灯の光を塗りつぶす。
腕で顔を庇う。
熱が引く。煙が流れる。視界の向こうで、何かが崩れ落ちる鈍い音がした。
煙が薄れる。
馬場は倒れていた。カリブラスターも、カリブレードも、濡れた路面に転がっている。赤いオーラはもうない。追加戦士の気配も消えていた。
「まぁ、良いか。今回は、これだけ貰っていこうか」
それと共に既に奴の姿は消えていた。
「……やっぱりか」
爆煙の残り香だけが、そこに残っていた。
海東大樹は、もういない。好き勝手に場を荒らして、決着の瞬間だけを持っていく。昔から、最後まで気に入らない男だ。
それでも、家の方を見れば灯りはまだ消えていなかった。