悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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赤い龍と白い龍

 踏み込んでくる白月を前に、俺は火炎剣烈火を静かに構えた。剣身から立ち上る炎は消える気配がなく、常に揺らめきながら間合いそのものを焼いている。白月が距離を詰めようとするたび、その熱が先に触れる。近接で奪う――それが奴の勝ち筋だと分かっているからこそ、俺は一歩も無駄に動かない。剣は振り回さない。構え、待ち、踏み込みの起点を読む。

 

 白月が拳を振り抜く。最短距離で、最速の一撃。だが、俺は刃を前に出すだけでいい。火炎剣烈火の腹で軌道を逸らし、そのまま半身で受け流す。衝突した瞬間、炎が弾け、白月の動きが一瞬止まった。奪おうとした力が、熱で弾かれる。吸収の“手応え”が得られなかったことに、白月の表情が歪む。

 

「ちっ……!」

 

 短く舌打ちし、連打に切り替えてくる。拳、肘、蹴り。どれも近づけば危険だ。だから俺は距離を刻む。剣先で牽制し、踏み込みを潰し、足運びで半歩ずつ外す。世界を渡ってきた。剣士の世界、武人の世界、力押しが正義の世界――その全部で、俺は“勝ち方”を覚えてきた。今やっているのは、最適解をなぞっているだけだ。

 

 白月が無理に踏み込んだ瞬間、俺は初めて刃を走らせる。横薙ぎではない。斜め、最短、必要最低限。火炎剣烈火が空気を裂き、炎が帯のように残る。白月は辛うじて避けるが、肩口をかすめた熱で動きが鈍る。吸収しようとしても、常に燃え続ける炎が介在するせいで、力が定着しない。

 

「近いほど、奪えると思ったか?」

 

 言葉は淡々と投げる。挑発のためじゃない。事実を告げているだけだ。白月は怒りに任せて距離を詰めようとするが、そのたびに剣が先に来る。刃で、炎で、間合いそのものを支配する。拳が届く前に、熱が届く。吸収の起点が作れない。

 

 連続して踏み込み、俺は剣を振る。振る、というより、置く。相手の進路に刃を“置いておく”。白月はそれを避けるために動き、動くたびに体勢を崩す。そこへ、短い斬り返し。深くは斬らない。崩し、止め、次の動きを封じる。剣術は力じゃない。経験だ。数え切れない世界で積み上げた失敗と成功が、今の一太刀を作っている。

 

 白月が距離を取ろうと跳ぶ。その瞬間、俺は一歩前に出て剣を振り下ろす。炎が地を舐め、白月の着地点を焼く。逃げ場を潰す。吸収のための“安全圏”を与えない。白月は歯を食いしばり、再び近づくしかなくなる。

 

「……奪えない……!」

 

 焦りが声に滲む。だから、そこを突く。俺は剣を引き、構えを変える。次の一撃は大きく見せる。白月がそれに反応して踏み込む。狙い通りだ。直前で刃を返し、最短の突き。火炎剣烈火の炎が爆ぜ、白月の体勢を完全に崩した。

 

 倒れ込む白月の前に、剣先を止める。炎は消えない。だが、これ以上踏み込む必要もない。剣術だけで十分だ。

 

 焦りを剥き出しにした白月が、叫ぶように踏み込んでくる。考えなしの突進。触れさえすれば勝てると信じ込んだ、最後の悪足掻きだ。その姿を見て、俺は少しだけ息を吐いた。ああ、もう終わりだな、と。強さを欲した理由は分かる。だが、欲しいだけで手に入るほど、力は優しくない。

 

「奪えば勝てると思ったか」

 

 火炎剣烈火を構えたまま、左手でネオディケイドライバーにカードを滑り込ませる。白月の瞳が見開かれた。その反応だけで十分だった。こいつは、これから起きることを“理解している”。

 

『FINAL ATTACK RIDE SA SA SA SABER!』

 

 駆動音と共に、火炎剣烈火の刀身が限界まで赤熱する。炎は荒れ狂うのではなく、研ぎ澄まされ、刃に沿って集束した。次の瞬間、地を割るように灼熱が噴き上がり、紅蓮のドラゴンが姿を現す。俺は迷いなくその背を踏み、空間を蹴った。

 

「っ、逃げるな!」

 

 白月の叫びが背後で弾ける。だが、逃げているわけじゃない。上を取る。それだけだ。昇るドラゴンが次々と生まれ、足場となる。跳び、踏み、切る。縦に、横に、斜めに。世界を渡り歩く中で、何度も学んだ。力を叩きつけるより、流れを制する方が確実だと。

 

 斬撃が走るたび、炎が白月の動線を焼き、吸収の起点を潰していく。近づこうとする意志そのものを拒絶するように、灼熱が先に触れる。白月が腕を伸ばすが、届かない。奪えない。焦りが恐怖に変わるのが、手に取るように分かる。

 

「やめろ……! 俺は、もっと強く――!」

 

「強くなりたいなら、順番を間違えるな」

 

 ドラゴンの背を蹴り、俺は白月の死角に回り込む。炎を纏った剣で、斜めに一閃。さらにもう一歩、角度を変えて斬り返す。連続する斬撃は、感情じゃない。積み重ねてきた経験そのものだ。多くの世界で、多くの敵を見てきた。その中で学んだのは、焦った奴ほど、同じ失敗を繰り返すということ。

 

 最後のドラゴンが足場となり、俺は真上に跳ぶ。白月が見上げた、その一瞬。火炎剣烈火を両手で握り、灼熱を解き放つ。

 

「――終わりだ」

 

 振り下ろされた一撃が爆ぜ、紅蓮の炎が白月を包み込む。吸収しようとした力は、炎の中で霧散し、何も残らない。俺は着地と同時に剣を下げる。炎はなおも揺らめいているが、戦いは完全に終わっていた。

 

 胸の奥に、わずかな重さが残る。こいつもまた、力に救いを求めた一人だった。それでも――止めると決めた以上、迷いはない。

 

 俺は火炎剣烈火を静かに構え直し、倒れ伏した白月を見下ろした。

 

「力は奪うものじゃない。背負うものだ。……覚えておけ」

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