悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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未来の未知

仮面の男の影をかわした直後、指先に残った欠片の冷たさが離れなかった

濡れた路地の匂いに混じって、甘い香料がまだ喉の奥に引っかかる

追えば追える

でも追った瞬間、背中の守るべき方角が軽くなる

それが一番まずい

 

掌の上で欠片をひとつ転がす

軽いのに、作りの癖だけがやけに主張してくる

割れた音の記憶も、仮面の眼差しも、どれも薄皮一枚で嘘くさい

それでも狙いだけは本物だった

美雷を消す

闇の書の復活に邪魔だから

その理屈が一番気持ち悪い

 

「……イータに見せるか」

独り言を噛むように落として、欠片をポケットへ滑り込ませる

布越しに角が当たり、歩くたびに小さく位置がずれる

消えるなよ、と内心で釘を刺す

この欠片は鍵になる

少なくとも今は、そう信じるしかない

 

謎が多すぎる

監視は排除に変わり、変装は作り物めいて、未来を語る転生者まで現れた

それでも家の灯りはまだ消えていない

だから足を止めず、欠片の重みだけを確かめながら前へ進む

 

美雷の息が浅いまま続いていた

本を抱えた腕が固く、指先が白い

未来を言葉にすれば救える、と信じている顔だった

その信じ方が危うくて、銃口を下げきれない自分が嫌になる

 

「未来の話は、全部はいらない」

言い切った瞬間、美雷の足が止まりかけた

だから手のひらで空気を押して、歩けと合図する

止まったら囲まれる、それだけは分かる

 

「でも、知ってたら助けられるはずで……」

 

「分かる」

短く返してから、言葉を選び直す

優しくするのは簡単だ

甘くすると、次に誰かが死ぬ

そういう場面をいくつも見てきた

 

「ただな、知ってる未来が確定してるとは限らない」

美雷がこちらを見る

理解と反発が目の中でぶつかっている

その混ざり方が子どもっぽくて、胸の奥が少しだけ軋んだ

 

路地の暗がりが一度だけ揺れた気がした

見ている連中が、こちらの言葉の重さを測っている

俺は歩幅を落とさず、声だけを落とす

 

「俺は何度も見た、決まってるはずの結末がひっくり返る瞬間を」

一拍置いて、息を吐く

「昔、地球が死の星になるって話があった、それでも覆したやつがいる、天道みたいにな」

 

美雷の唇が動く

言いたいことが多すぎて、喉で詰まっている

そのまま吐かせたら、言葉が足枷になる

聞いた俺も縛られる

縛りは敵が一番好きだ

 

「未確定の情報は便利に見える、でも間違った前提で動くと犠牲が増える」

視線を本へ滑らせる

閉じているのに紙の匂いがにじむ

あれが動けば、また来る

さっきの仮面みたいに黙って首を取りに来る

 

美雷が本の背を撫でる

落ち着こうとしているのに、余計に緊張している

俺は銃口をわずかに外し、声の角も少し落とした

 

「だからこうしよう」

言い聞かせる形にする

命令だと折れる

折れたら終わりだ

 

「俺が聞く、答えるのはお前だ、先に全部吐くな」

美雷の呼吸がひとつ揺れる

それでも逃げない

 

「未来を握りしめると手が塞がる、今は手を空けろ」

前を向いたまま続ける

「はやてを守るなら、走れる方がいい」

 

「……分かりました」

声は小さい

でも逃げない

逃げないという一点だけで、今は十分だ

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