悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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“宝の匂い”が濃くなる

朝の教室は、相変わらず騒がしかった。

窓際では消しゴムのかすが丸められ、前の列では漢字ドリルを前にした鉛筆の先だけが妙に真面目な顔をしている。黒板に書いた例文を読ませると、声の大きい子と小さい子の差がそのまま教室の温度になる。そういう、どうでもいいようでどうでもよくない乱れ方を見ていると、この学校はまだ平穏の側にいると分かる。

 

だからこそ、窓の外に残る視線が浮いた。

校門の向こう、植え込みの陰、止め方の雑な車。そこにいる連中は、子どもを見ている目じゃない。学校そのものを見ているようで、正確には“ここに出入りする誰か”を測っている。昨日より数が増えているのに、隠し方は雑なままだった。

 

「……まだいるな」

 

独り言は、それだけにしておく。

こちらが気づいていると知らせる意味はあるが、やりすぎると引かれる。見えているうちは、まだ追える。

 

昼休み、屋上へ上がる階段の踊り場で足を止めた。

少し先、非常階段の陰で小さく声がする。なのはとユーノだ。姿は見えない。だが、立ち位置が分かる程度には近い。

 

「昨日の反応、やっぱり変だった」

なのはの声は小さい。それでも、ただの不安じゃなく、もう一歩踏み込んだ警戒が混じっている。

「うん。ロストロギアに近いけど、記録とぴったりじゃない」

ユーノが答える。人の姿の時のあいつの声は、最初に見た時から妙に耳に残る。

 

最初にユーノの人間体を見た時は、さすがに足が止まった。

喋る雪貂の時点で十分理屈の外だったのに、その次は何食わぬ顔で人の姿を取って現れた。あの時、廊下の向こうで立ち尽くしたこっちに気づいたなのはが、ほんの一拍だけ目を泳がせてから、妙に明るい声を出したのを覚えている。

 

――「あ、えっと、この人はユーノくん。別の場所に住んでる友達で、たまたまこっちに来てて……」

――「たまたま、ね」

――「う、うん。ちょっと色々あって」

――「色々で済ませるには、ずいぶん妙な紹介だな」

 

あの時のなのはは、嘘をつくのが上手い顔じゃなかった。

誤魔化しているのは見え見えだったし、説明の雑さも子どもらしかった。けれど、隠したいものを抱えたまま、こっちを巻き込みたくないと思っていることだけは分かった。だから、それ以上は踏み込まなかった。

納得したわけじゃない。ただ、言わない事情があるなら、言わないままで泳がせる方が拾えるものもある。

 

「転生者って、やっぱり関係あるのかな」

なのはの声で、意識を今へ戻す。

その単語を、あっちももう知らないままじゃいられなくなったらしい。

 

ユーノはすぐには答えなかった。

短い沈黙なのに、かえって重い。

「……可能性はある」

ようやく落ちた声は、断定を避けた分だけ現実味があった。

「未来を知ってるみたいに動くのに、魔法の記録とは噛み合わない力を持ってる。そういうのが、最近いくつか混じってる」

 

階段の陰で、無意識に指が止まる。

未来を知っているみたいに動く。記録にない力を持つ。転生者。

拾っていた点が、少しずつ線になってきた。

 

「先生には、まだ何も言わない方がいいよね」

なのはがぽつりと言う。

「巻き込みたくないし」

ユーノの返事は速かった。

「うん。先生は普通の人なんだし」

 

思わず、口元だけが少し動く。

普通の人、か。そう見えているなら都合はいい。下手に説明されるより、そのままの方が動きやすいこともある。

ただ、なのはがあの時ついた“友達”という雑な嘘も、たぶん同じ理由から出たんだろうと思うと、笑いきれないものもある。

 

別に構わない。

事情を説明されなくても、見えるものは見えるし、聞こえるものは聞こえる。

むしろ、あっちが隠している間に拾えるものの方が、今は多い。

 

二人の足音が遠ざかるのを待ってから、踊り場を離れる。

窓の外では雲が低く、校庭の端の木の影が濃い。空の色が鈍っていて、昼なのに、もう少しで夜の底に触れそうな気配があった。

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