悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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その奥にある者

遺跡の奥に落ちたユーノの声は、石壁にぶつかって鈍く返り、湿った空気の中で何度もかすかに震えていた。

さっきまでエルナの顔をしていた女は、もう隠す気もないらしく、唇の端だけを吊り上げて、他人の皮を被ったまま気楽そうに首を鳴らす。

 

「お前は一体、何者なんだっ」

 

問いかけたユーノの肩は強張っていたが、それでも足だけは引かなかった。

知っている相手の顔をした何かへ向けて、逃げずに言葉を投げた時点で、あいつなりに腹は決まっている。

 

「うぅむ、それはかなり難しいねぇ」

 

舌の上で転がすような返事だった。

エルナの声帯を使っているのに、そこに乗る響きだけがまるで別物で、相手を苛立たせるためにわざと間を伸ばしているのが見え透いている。

 

「難しいだと」

 

「ぁあ。この身体は確かに君の言うエルナで間違いないが、実際に俺は全くの別人だからね。まぁ、名前なんて、今はどうでも良いけどね」

 

その言い方は軽い。

軽いくせに、他人の身体を借りていることへのためらいがまるでない。

そこがいちばん気に入らない。

 

「……一体、何が目的なんだ」

 

ユーノの問いは、さっきより少し低くなっていた。

怒鳴る代わりに、今度は相手の本音だけを引きずり出そうとしている。

 

「君だよ、ユーノ」

 

「僕」

 

「そう。君はこの世界でなのはと結ばれる可能性がある。故に、その身体を頂く為にここまで誘導した」

 

そこで、さすがにユーノの呼吸が乱れた。

驚いたのは身体を狙われたことだけじゃない。

自分たちの先を、こいつが“知っている前提”で話している、その気味の悪さだ。

 

「むっ、結ばれるって、何を」

 

「これからは一緒にいるからね。まぁ言ってしまえば、俺達はお前達を知っている。転生してね」

 

「転生」

 

その単語が遺跡の中で妙に浮いた。

知っている顔、知らない声、未来を知っているみたいな物言い。

ここまで揃えば、もう偶然では済まない。

 

「まぁ、ここから先は乗っ取ってからにしようか」

 

「っ」

 

次の瞬間、床の割れ目から黒いものが跳ね上がった。

蛇のように細長く、鱗とも煙ともつかない質感のそれが、ユーノの手首と胴へ一気に巻きつき、逃げる暇もなく動きを奪う。

暴れた足が石を蹴り、乾いた音が遺跡の奥へ散った。

 

「ディアバウンド。俺の頼れる相棒さ。あぁ、心配しないでくれ。すぐに済むから」

 

言い方だけはやけに親しげで、だから余計に虫唾が走る。

これ以上黙って見ている理由は、もうどこにもなかった。

 

「本当に面倒な事になったな」

 

壁の陰から出ると同時に、ベルトへ手をかける。

こっちの姿を認識した瞬間、あいつの目がわずかに見開いた。

 

『KAMENRIDE DECADE!』

 

マゼンタの光が遺跡の薄闇を押し返し、装甲が一つずつ身体へ噛み合っていく。

石壁に反射した光が文様の上を走り、古びた遺跡の真ん中にだけ、場違いなほど鮮やかな色が立った。

 

「なっ」

 

「仮面ライダー」

 

「ディケイドっ、世界の破壊者がなんでっ」

 

面越しでも、思わず口元が動く。

その呼び名は、最近じゃすっかり聞かなくなっていた。

 

「世界の破壊者」

肩を軽く鳴らして、ライドブッカーを引き抜く。

「はぁ、その呼び名は久し振りだな」

 

「だっ、だが、お前もまた転生者なんだろ! その力もまた借り物っ」

 

そこだけは、少しだけ鼻で笑った。

借り物なのは事実だ。

だが、だから同じだと思われるのは気に食わない。

 

「……借り物なのは認めるが、お前らのような転生者じゃねぇよ」

 

「ほざくなぁ!」

 

怒声と同時に、ディアバウンドが口を開いた。

黒い塊が槍のように伸び、一直線にこちらの喉元を噛み砕きに来る。

速い。だが、見えている。

 

ライドブッカーを横へ払う。

一閃。

黒い攻撃は刃の軌道で断ち切られ、砕けた影が遺跡の床へ黒い泥みたいに散った。

止まらない。切り裂いたその勢いのまま踏み込み、距離を詰める。

目の前で、エルナの顔をしたそいつの笑みが一瞬だけ引きつった。

 

「この程度ならば、特に問題ないよ」

 

刃先は、もう喉元のすぐ下まで届いていた。

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