悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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獣の本能

橋の上へ四体が散った瞬間、デルタ――いや、白金の翼を背にしたケルビムは、こちらが声をかけるより先に喉の奥で獣みたいな雄叫びを上げ、そのまま真正面から突っ込んだ。

ためらいも様子見もなく、最初の一歩から相手の陣形を食い破るつもりで踏み込むあたりが、懐いているくせに妙なところで遠慮のないこいつらしかった。

 

亡と迅が即座に前へ出る。

橋の幅を使わせないように、片方が正面で受け、もう片方が死角へ回る、無駄のない近接の並びだった。

その背後で滅と雷が少しだけ間を空け、遠距離武器の射線を橋の中央へ通す。

海東らしい。

どちらが先に潰れるかを見るんじゃない。

どう動き、どう庇い、どう崩すかを眺めるための配置だ。

 

ケルビムは亡の踏み込みを恐れず、左腕で受けるように見せて半身をずらし、そのまま翼の付け根ごと身体を回す勢いでオーインバスター50を横へ払った。

亡の防御姿勢ごと橋の欄干近くまで押し流し、追いすがった迅の蹴りを肩でいなして、返す肘で胸元を打つ。

軽い。

速い。

だが、それだけだ。

そう判断した瞬間には、滅と雷の射線がケルビムの背中へ通っていた。

 

俺は二人の間へ滑り込む。

ライドブッカーを開く動きと同時に、飛んできた弾道を横へ弾き、橋の欄干で火花に変える。

遅れてもう一発。

今度は低い。

雷の癖だ。足を止める位置を狙ってくる。

その軌道へブッカーの刃先を差し込み、射線そのものを上へ逃がすと、弾かれた火花が夜の川面へ散った。

 

「そっちは俺が見る」

短く告げると、ケルビムは一瞬だけこちらを見て、面越しでも分かる勢いで笑った。

「任せて、ボス!」

 

その返事と同時に、こいつは亡と迅の真ん中へさらに深く踏み込んだ。

逃がすつもりがない。

自分へ二枚引きつけたまま、力で盤面をひっくり返す気だ。

 

滅が詰める。

雷も遅れず横へ走る。

二対一でも構わない。

むしろ、その方が海東の思惑が見えやすい。

二人とも基本形態のままなのに、連携の組み方だけはやけに洗練されていた。

滅が前から圧をかけ、雷がわずかに遅れて角度を変える。

一撃で倒す気じゃない。こちらの反応を積み上げ、癖を読むやり方だ。

 

「見世物にするには、相手が悪いな」

 

そう言って、滅の振り下ろしをライドブッカーで受け流す。

重い。

だが、受け止める必要はない。

刃同士を噛ませた瞬間に力の向きを殺し、そのまま身体を開いて滅を横へ流す。

空いた脇へ雷が踏み込んでくるが、足運びが見えた時点でもう遅い。

踵を軸に半回転し、肘で雷の手元を跳ね上げると、逸れた一撃が橋の欄干を削った。

 

その背後では、ケルビムが亡と迅をまとめて薙ぎ払っていた。

白金の装甲が橋の街灯を受けて冷たく光り、そこへ背中の翼が一度大きく開く。

亡の腕を押し切り、迅の突進を上から叩き落とし、そのまま二体の間へ身体をねじ込む。

力任せに見えるのに、押し方が雑じゃない。

天使めいた外見のくせに、戦い方はずいぶん獣じみている。

 

迅が一度距離を取り、そのまま上へ抜けた。

飛ぶ気だ。

橋の上の横幅を捨てて、空から速度で押し潰しにくる。

それを見た瞬間、ケルビムは迷わなかった。

腰のバイスタンプ群へ手を走らせ、翼を模したユニットが一斉に鳴る。

次の瞬間には背中からさらに大きな翼が噴き出し、羽ばたきではなく爆ぜるような加速で上へ跳んでいる。

 

「逃がさないっ!」

 

夜空へ抜けた迅の脚を、上から追い越して掴む。

そのままコンドルの飛翔力で軌道をねじ曲げ、バッタの跳躍力を乗せた勢いで、橋の中央へ向けて叩き落とした。

迅の身体がアスファルトへ激突し、遅れて橋全体が短く震える。

そこへ亡が飛び込み、仲間を抱えるみたいに受け止めた。

連携は悪くない。

悪くないが、もう遅い。

 

ケルビムの全身が、そこで一段階深く変わった。

翼がさらに広がり、両腕の爪が獣のように伸び、腰の後ろでは尾めいた影がうねる。

バッタ、コンドル、スコーピオン、アノマロカリス。

四つの要素が一斉に噛み合い、ただの強化じゃない、生き物として一段階別のものへ踏み込んだ圧が橋の上へ落ちた。

 

『More!』

 

女性音声が夜気を裂き、その直後、畳みかけるように力の名が重なる。

『バッタ! コンドル! スコーピオン! アノマロカリス!デモンズレクイエム!!』

 

踏み込んだ。

そうとしか見えなかったが、実際には橋の中央と亡たちの間にあった距離が、最初から存在しなかったみたいに消えていた。

バッタの跳躍で一気に間合いを殺し、コンドルの翼で軌道を固定し、スコーピオンの尾のように鋭い一撃が芯を穿ち、最後にアノマロカリスの鉤爪じみた両腕が亡と迅の身体をまとめて貫き抜く。

二体の装甲が同時に軋み、白金の軌跡だけが橋の上へ残った。

 

爆ぜた衝撃で、亡が迅ごと後ろへ吹き飛ぶ。

橋の欄干ぎりぎりまで弾き飛ばされた二体は、そのまま黒い火花を散らしながら地面を滑り、しばらく起き上がらなかった。

ケルビムはその場に着地し、広がった翼をゆっくり閉じる。

勝ったつもりの顔じゃない。

次を探している顔だ。

それで十分、今の一撃がどれだけ深く通ったか分かる。

 

滅がわずかに足を止め、雷の視線が橋の中央へ流れる。

その隙を逃す理由はなかった。

俺は滅の懐へ踏み込み、ライドブッカーの刃で武器ごと押し上げ、そのまま肩を入れて体勢を崩す。

そこへ雷が割って入ろうとするが、さっきまでの余裕はもうない。

二対二のはずなのに、片側が一瞬で押し潰されたせいで、海東の盤面そのものが狂い始めていた。

 

「見てるんだろ、海東」

滅を押し返しながら、夜の上へ向けて吐き捨てる。

「趣味の悪い手並み見せは、もう十分だ」

 

返事はすぐには来ない。

ただ、橋のどこにもいないはずの男の笑いだけが、遅れて川面の上から転がるみたいに落ちてきた。

 

「いや、十分どころか期待以上だよ」

 

海東の声だった。

姿は見せないまま、それでも楽しそうに響く。

 

「その白い子は、思ったよりずっといい」

少しだけ間があって、今度は俺の方へ向く。

「君もちゃんと庇うんだね、ツカサ。そういうところは、昔から変わらない」

 

橋の上の風が、そこでようやく吹いた。

ケルビムが翼を半開きのままこちらへ顔を向ける。

滅と雷はまだ倒れきっていない。

海東もまだ、姿を見せる気はない。

つまり、これはまだ挨拶代わりということだ。

 

「……褒められても嬉しくないな」

 

そう返しながら、ライドブッカーを握り直す。

夜の橋は、まだ終わる気配を見せていなかった。

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