悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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蠍の隙間

橋の上の夜気が一段冷えて、さっきまでの火花の匂いが、ただの前口上だったと告げるみたいに薄れていった。

滅の視線がこちらへ戻り、雷の足が半歩だけ前に出る気配で、次に何が来るかは分かりやすいほど分かりやすかった。

 

「海東、観客席から手を叩くなら、せめて舞台の照明くらい点けていけ。」

 

俺が吐き捨てると同時に、雷が先に踏み込み、拳の角度だけでこちらの呼吸を奪いにくる格闘の構えを見せた。

 

ライドブッカーを刃にして受けるが、雷は受けに来ていない、触れた瞬間に手首を絡めて足を止めるつもりで狙ってくる。

 

「足を殺せば勝ち、って顔だな」

俺がわざと軽口を混ぜた瞬間、雷の踏み替えが速くなり、膝と肘を連続で打ち込んで間合いを固定してきた。

 

滅はその背後で一拍だけ遅れて距離を取り、アタッシュアローの構えを作りながら、こちらの回避ルートを橋の上から消していく。

雷は格闘で足止め、滅は矢で牽制、二人の役割分担は綺麗だが、綺麗すぎる連携は逆に読める。

「情況は単純だ、俺を止める役と、俺を削る役が揃ってる」

 

雷の拳が顎を狙い、俺の刃がそれを弾いた瞬間、滅のアタッシュアローが風を裂き、橋の欄干へ火花を散らした。

射線は俺の退路を潰すためのものじゃない、雷の“拘束”が成立した瞬間に、俺の身体へ確実に通すための圧だ。

 

「悪いが、俺はお前らの実験台になる趣味はない」

 

俺は雷の手首を外すのではなく、外せないまま前へ踏み込み、わざと相手の中心へ体重を預けてバランスを崩す。

その一瞬の隙でディケイドライバーへ指を滑らせ、カードを差し込む動作だけを最短で作る。

『KAMEN RIDE OOO』

音声が橋の夜へ突き刺さり、装甲が塗り替わるように重なって、視界の色まで変わる感覚が背骨を走った。

 

雷が驚くより早く、滅の矢が二射目へ移る気配が見えたので、俺は判断を口に出して自分の迷いを潰す。

 

「牽制が増える前に、まず雷を剥がす」

 

その言葉を合図みたいに、俺はフォームの選択を一段だけ尖らせ、次のカードを叩き込んだ。

 

『FORM RIDE BIKASOCONBエビ!カニ!サソリ!ビ・カ・ソ!ビ・カ・ソー』

 

ビカソコンボの獣じみた機動が脚へ乗り、雷の足止めの理屈を、理屈の外側から踏み抜くように上書きする。

雷の拳が追い縋るが、俺は受けない、蹴りの軌道で相手の視線ごと引っ張って、逆に距離を作らせない。

 

「お前の足止めは上手いが、止めるなら最初から折りに来い」

 

一瞬だけ間合いが開いたところへ、俺は雷の胸へ蹴りを叩き込み、衝撃で相手の体幹を浮かせる。

浮いた雷の身体を踏み台にするみたいに床を蹴り、俺はそのまま滅へ一直線に滑り込んで、矢の射線の内側へ入る。

滅がアタッシュアローを引き絞るより早く、俺はライドブッカーの刃で弓身を斬り、牽制そのものを切り裂いて無効化した。

 

滅の瞳がほんのわずかに揺れたのを見て、俺は状況判断を短く落とす。

「今のは見せ場じゃない、次で終わらせる。」

背後で雷が着地の音を鳴らし、二人が挟撃へ移ろうとする気配が走った瞬間、俺は迷いなく最後のカードを叩きつけた。

『FINAL ATTACK RIDE O O O OOO』

 

腕のカニシザースが展開し、鋏の形をした圧が空気を噛み砕くみたいに鳴って、次の動きが“技”として固定される。

俺は滅へ百烈拳を叩き込みながら、拳の連打で相手の足元を削り、同時に雷が踏み込む角度だけを潰していく。

滅の身体が衝撃で後ろへ弾かれ、雷が割って入った瞬間には、その雷も連打の渦へ巻き込まれて、二つの装甲が同じリズムで軋んだ。

 

百の拳は飾りじゃない、逃げ道を消して、二人の呼吸を同時に折るための手数だ。

最後の一撃を叩き込む瞬間、俺は海東へ聞こえるように、わざと冷たい声を選ぶ。

「観客がいるなら、幕引きも派手にしてやる。」

 

衝撃が橋を揺らし、滅と雷の身体が同時に沈み、火花が夜の川面へ散っていった。

俺は息を整えながらライドブッカーを握り直し、まだ姿を見せない海東の位置を、音の反響だけで探る。

「次はお前の番だ、海東、舞台に上がるなら逃げ道は残すなよ。」

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