C.E70。日本皇国が保有する資源衛星“飛鳥”の一室に、一人の男性が誰かと電話をしている最中であった。
「なるほど、地球連合軍もオーブと共同でMSと母艦を開発、建造したと……はい、宜しいのですか?」
男性は電話越しの言葉に驚いた様子であった。
「いえ、私は問題無いのですが………判りました。では、後日」
男性は受話器を一度、置くともう一度手に取り何処かへと連絡をする。
「私だ。山城大佐と福本中佐を私の部屋へ来るように伝えてください」
そう言うと、男性は受話器を置き椅子の背もたれに身を任せる。
「地球軍とプラントとの戦争は激しくなるだろうな………」
男性は身を起こすと、デスクの引き出しから複数の書類を手に取る。
「我々も他国の事を言える立場では無いんだがな………」
男性は失笑するのであった。
「福本勇気中佐並びに山城正人大佐、只今、参りました」
「すまんな。急に呼び出してしまって」
男性の執務室に福本勇気と山城正人が敬礼しながら入室する。男性は二人を労うとソファーに座るように促し、二人はソファーへと座った。
「さて、先ほど地球連合軍第八機動艦隊司令官ハルバートン提督から連絡があって、オーブの保有する資源衛星ヘリオポリスにてモルゲンレーテと共同でMSを開発し、ロールアウトした事を伝えられたんだが………」
男性は先ほどの電話の内容を二人へ説明する。
「それがどうかしたのですか?」
山城正人大佐が男性に質問をする。
「提督曰く、日本皇国からもそのMSを見に来ないかという申し出だったんだ」
「「ッ⁉」」
男性の言葉に二人は驚く。地球連合軍の一提督が勝手に他国に情報を流した事に対する事と、なぜ日本皇国なのかという二つの意味で驚いていたのである。
「それが罠だと言う事は無いのですか?」
福本勇気中佐が男性に尋ねる。尋ねた意味は、月面都市「コペルニクス」にてテロ行為があり、日本皇国側も多くの死傷者が出た事件があった為である。だが、この事件はプラントと地球連合軍内での説明に食い違いがあり、日本皇国は独自で捜査をしている最中であった。
「いや、彼はその様な卑怯な手を使う様な者ではない事は、お前も知っている筈だが?」
「ですが‼」
「まぁまぁ、お二人とも、話が進まないので、事務次官、続きをお願いします」
男性は日本皇国の軍事事務次官であった。その為、資源衛星「飛鳥」で執務をしていたのである。
「そうだな。すまない。さて、続きなのだが俺は行くつもりでいる」
「親父‼」
事務次官である男性の言葉に福本勇気中佐は、プライベートの様な口調で怒り出した。
「福本中佐、ここは家では無いんだぞ? 場を弁えろ」
「うっ……申し訳ありません、福本事務次官」
勇気はそう言って頭を下げる。
「さて、なぜこの話を君たち二人にしたのかと言うと………」
「播磨を出せ。と言う事ですね?」
山城の言葉に事務次官は頷き、口を開く。
「それから、試作機もロールアウトしていると聞いている。何があるか判らない昨今だ。あっても困りはしないだろう」
「判りました。準備を整えておきます。出発は何時頃の予定で?」
「準備にも時間が掛かるであろうから、再来週頃の出発を予定している」
「判りました、では準備に取り掛かります。行くぞ、勇気」
「はい、先輩」
山城に促されて、勇気は執務室を後にする。
「何も無ければ良いのだが………」
福本事務次官は一人となった執務室で静かに呟くのであった。
そして、時は流れ日本皇国が保有する資源衛星「飛鳥」のドックに一隻の戦闘艦が出航の準備を整えていた。
その戦闘艦の名は播磨型宇宙戦艦一番艦「播磨」。日本皇国が建造した一隻で、四隻が就役しており飛鳥に集結していた。また、飛鳥内のドックには多くの戦闘艦が並んで停泊していた。
ここ、飛鳥は資源衛星と表面上では明記されているが、実際は軍事衛星としての役割も担っているのである。
飛鳥は確かに資源衛星であり、軍事衛星でもあると言う中立国家が持っていてはおかしなものであったが、地球軍にしてもプラントとしても日本皇国に対し、強く言えない何かがある様で、飛鳥の建造の際には一悶着あったが、結果的には認められ、今も日本皇国の縁の下の力持ちとなっているのである。
播磨の艦橋には既に福本事務次官、艦長の山城正人大佐、副長の福本勇気中佐が出航時間を待っていた。
「福本事務次官、時間となりました」
「では、ヘリオポリスへ向かって下さい」
山城は時間であることを告げると、福本事務次官は頷いて命令を下す。
「出航‼」
山城の音頭で、播磨は静かにその巨体を静かに動かし、ヘリオポリスへと向かい始める。
「そう言えば、今回の遠征では播磨以外は待機と命じられていましたが、宜しかったのですか?」
播磨単艦で出航した事に疑問を持った山城が福本事務次官に尋ねる。
「ええ、今回は軍事行動ではありません。だが、大名行列の様に大勢で行くよりも、単艦で尚且つ新造艦なので練習航海も兼ねて今回は播磨を使う事にした」
福本事務次官の説明に山城は頷いて納得をする。今回のヘリオポリスへ向かうのは、軍事行動ではなく、あくまでも地球軍の高官から誘われた為であるからして、一隻で向かう事に何も問題は無いのだが、戦闘艦で向かうのはある意味でオーブに対し、軍事行動をしているようなものと捉えられても、何も言えないのだが、そもそも、中立国であるオーブが保有する資源衛星「ヘリオポリス」内で、地球軍と共同でMSを開発している事を知っている日本皇国からすれば、同じようなものであった。
「さて、数日もすればヘリオポリスに到着するだろうから、俺は部屋でのんびりと過ごさせてもらうよ」
「判りました。何かありましたら、ご連絡差し上げます」
「よろしく頼む」
福本事務次官は艦橋を後にする。その結果、艦橋内にあった緊張感がやや薄まった感覚を全員が覚える。
「副長、積み荷に不備はないな?」
「ええ、大丈夫です。プロトタイプではありますが、何機かは搬入して今頃整備しているでしょう」
「そうか、今回の積み荷が無駄になる事を願うばかりだな」
「ええ、その通りです」
漆黒の宇宙を見つめる二人の先に何が待ち受けているのか、そして日本皇国はどの様にこの戦火に巻き込まれてしまうのかは、神のみぞ知る事であった。