アークエンジェルのMSデッキに膝立ちとなっている零と零・ジャグラーの足元に立っていたシルヴィアとセルベリアは誰かを見つけると一目散に駆け出し、男性に抱き着いたのであった。
〈えぇぇぇぇぇぇぇぇっ⁉〉
この光景に二人に鼻下を伸ばしていた整備士たちは驚きの余り声を上げてしまうのであった。
「遅かったじゃないの、正人」
「勇気さんも遅いですよ」
山城と勇気に抱き着いたシルヴィアとセルベリアは二人の胸に顔を擦り付けていあ。それは猫が主人に匂いを付けている様であった。
「ごめんごめん。仕方はないだろ。このような状況だと」
「そうですよ。僕たちだって遊んでいた訳じゃないんですから」
山城と勇気は苦笑いをしながら言い訳をする。シルヴィアとセルベリアだって二人が無事だと言う事は知っていたが、心配が勝っていたのである。
「相変わらず四人は仲がいいな」
しみじみとした様子で顔を振る伊吹であった。
「さて、そこまでだぞ、四人共。これから多くの事が残っているんだから、播磨に戻るぞ」
「「「「はっ」」」」
伊吹の言葉にシルヴィアとセルベリアを降ろした山城と勇気は敬礼をする。勿論、女性二人も同様にだが。
「俺は勇気の機体に乗り込むな」
「判りましたわ、お義父様」
「おいおい、仕事中だぞ、セルベリア。ここでは福本軍事事務次官って呼びなさいって言ったでしょ?」
「そうでしたっけ?」
セルベリアはテヘペロと言った感じで可愛らしくお道化ていた。
こうして五人は零と零・ジャグラーへと乗り込み、アークエンジェルを後にしたのであった。
「なぁ、あれって日本皇国の播磨って艦の艦長と副長、それに日本皇国の軍事事務次官って言ってなかったか?」
「ああ、俺も聞いてたぞ………それに軍事事務次官の事をお義父様って………そう言えば副長のお名前って福本勇気だったよな」
「ああ………あっ」
ここで整備士たちは気付いたのである。先ほどのMSのパイロットには既に彼氏どころか夫がいたと言う事に………。
「虚しいな、俺たちって」
「言うな………月面基地に着いたらナンパでもするか?」
「整備士だぞ、俺たちって」
「でもよ、パイロットよりかはマシだろ? 戦場の最前線に出て死ぬ訳じゃないんだから」
「………確かに、お前は天才か‼」
こうして嵐は去ったのであった。めでたしめでたし………で良いのか、これ?
一方、その頃クルーゼ隊の旗艦であるナスカ級高速戦闘艦“ヴェザリウス”の士官室では、隊長であるラウ・ル・クルーゼがプラント国防委員長である“パトリック・ザラ”と通信をしていた。
『なに? オーブのヘリオポリス内部で地球軍のMSが開発されていただと?』
「はい。その為、我々はこれを奪取或いは破壊を任務として出撃を行いました」
『それで、ヘリオポリスに被害が起きた事は仕方が無いと、貴様は言っているのか?』
「はい」
パトリックの質問に淡々と返事をするクルーゼ。だが、パトリックにはもう一つの懸念事項があった。
『それで、貴様の部隊は日本皇国と戦闘に入り壊滅的な状況に陥ったと?』
「はい、日本皇国とオーブは防衛協定を結んでいたことは知っておりましたが、まさか、こうも早くにヘリオポリスに来ていたとは考えもしませんでした」
クルーゼはそう言うと「申し訳ありません」とパトリックに頭を下げた。
『貴様が持っている戦闘ログを本国の持ち帰ってこい。話はそれからだ。私は今回の日本皇国の速さに福本伊吹が関わっているのではないかと睨んでいる』
「福本伊吹と言うと、日本皇国の軍事事務次官でしたな。ですが、なぜ?」
『判らん。だが、仮にもしもヘリオポリスに福本伊吹がいたと言う事になれば、日本皇国の速さに頷ける点がある。一刻も早く本国に戦闘ログを持ち帰ってこい。別命あるまでは、それが任務だ。良いな?』
「はっ‼」
パトリックはクルーゼの返事を聞くと、通信を切ってしまう。
「………まさかな」
クルーゼは思い立って自身の機体であるシグーが置いてある格納庫へと向かった。
「すまないが、シグーの戦闘ログを確認したいのだが?」
「クルーゼ隊長、構いませんが、お身体は大丈夫なのですか?」
「ああ、問題はないさ。それで、戦闘ログは?」
クルーゼはシグーの整備をしていた整備士に戦闘ログの確認をすると、整備士が既に纏めていた様でディスクとしてクルーゼに渡された。
「我々は一瞬でしか確認していませんが、地球軍がMSを開発していたとは………」
「現にこうして我々の手に落ちているのだ。これが現実だ。それから、もう一つ、頼みたい事があるのだが」
「なんでも言って下さい。我々にできる事であれば、なんでもします」
整備士の言葉にクルーゼは思わず苦笑いをしてしまう。自分が部下にこうも慕われているとは思ってもいなかったのである。
「日本皇国と戦闘をしたジンの戦闘ログも確認をしたい。それも纏めてくれ」
「判りました」
クルーゼの指示に整備士たちは日本皇国と戦闘を行ったジンに向かい、早速、戦闘ログの纏めの作業に入っていた。
「………杞憂で済めばいいのだがな」
クルーゼは整備士たちの動きを見ながら呟くのであった。
伊吹達を乗せた零と零・ジャグラーは播磨に収容され、伊吹は士官室の方へと向かっていた。山城と勇気は艦橋へと上がり、指揮権は艦長代理である水城から山城へと返還されていた。
「どうだ、このまま播磨に残るか?」
「魅力的な提案ですが、金剛に戻ります」
「残念だ。皆は水城の指揮を褒めていたのに」
山城の提案を振った水城であったが、播磨の艦橋にいる士官たちは水城の指揮を絶賛していたのである。
「だが、まだ油断が出来ない。いつザフトが戻って来るか判らないからな」
「ええ、その通りです。私も先輩の背中に追いつけるように頑張ります」
「頑張れよ、水城大尉」
「はっ‼ 山城大佐‼」
このやり取りをして二人は笑い合い、艦橋には笑い声が響くのであった。
士官室へと戻った伊吹は早速、資源衛星“飛鳥”へと通信をしていた。
「では、やはりウズミ代表はヘリオポリス内部で製造されていたMSやアークエンジェルの事は知らなかったんだな?」
『はい。ウズミ代表はその責任を取って、代表を降りるそうです』
「成程な………それで、オーブからは?」
『今回のヘリオポリスの一件について感謝の言葉が届いています。また、ヘリオポリスの譲渡も仄めかされました』
「なに? それは本当か?」
『はい。裏も取っています』
シルヴィアが言った様にヘリオポリスを手放す事を考えていたオーブであったが、買取ではなく譲渡と言う事に疑問点が残っていた。
『ですが、譲渡の前にオーブ国防軍が内部調査をするようです』
「なんだと?」
なぜ調査委員ではなく、国防軍が単独で調査する必要があるのか伊吹には判らなかった。
「その調査に我々は同行する事は出来そうなのか?」
『残念ながら、外交事務次官が確認をしたようですが、断られました』
「………何か隠したい事でもあるのか?」
伊吹は今回のオーブ国防軍の調査に裏があると睨みある指示を出した。
「諜報部の一部を使って、動向を探るように伝えてくれ」
『判りました』
「何を企んでいるんだ、ロンド・ギナ・サハク………」
伊吹の脳裏にはオーブの五大氏族のサハク家当主であるロンド・ギナ・サハクが高らかに笑っている姿が思い浮かんでいた。