「それで、先ほどの言葉はどう言う意図があるのか尋ねても?」
ムウは伊吹の名前を知っていた。それこそ、政治家達や軍上層部が口を揃えて「福本伊吹に手を出したら最後」という言葉が名前の後について回ってくるほど有名であった。
その男が目の前にいてもムウは伊吹を見つめていた。
「日本皇国はオーブと防衛協定を結んでいる事はご存じだと思いますが、この協定の内容にはオーブ国民の保護も含まれています。そもそも、中立国である我が日本皇国とオーブにはナチュラルもコーディネイター関係なく住んでいる国家です。それに、ヘリオポリスもオーブの領土の一つです。なら、コーディネイターの人が住んでいてもおかしくない話ですよね? では、ここにいる皆様に尋ねます。キラ君はコーディネイターだからと言って捕まえて捕虜扱いにするつもりですか?」
伊吹の言葉に誰も口を開こうとしなかった。
漸く口を開いたのはマリューであった。
「………現在、この艦の艦長として命じます。キラ・ヤマト以下民間人である彼らに対して不遇の扱いをした場合、艦内にて簡易軍事裁判を行います。これは命令です」
『判りました』
マリューの言葉に艦内にいた士官全てが敬礼をして返事をする。
「そうなると………ストライクは誰が扱う事になるんですか?」
『あっ………』
ナタルの言葉に全員がそう言えばという顔になる。
「因みにフラガ大尉は………」
「俺はMA乗りだぜ? いきなりMSを操縦なんて出来ないぞ?」
『…………』
ムウの言葉に誰も口を開けなかった。
「かと言ってキラ君に頼むわけにはいかない………どうすれば………」
誰も彼も頭を抱えていた。すると、伊吹が一つの提案を差し出した。
「では、一時的に播磨にて護衛を就けると言うのはどうでしょうか?」
「待ってください‼ 中立国である貴方方の艦が地球軍の艦艇の護衛に就くと言う事は、日本皇国が中立を捨てたと思われてもおかしくない話ですよ。それに………」
「それに?」
「いえ、なんでもありません」
ナタルは言いたい事を言おうとするが、越権行為と感じた為、口を閉ざした。だが、伊吹はナタルを何を言いたいのかが理解していた。
「………軍事事務次官である私の独断でそのようなことを決めて良いのか? と聞きたいのですね?」
「………はい」
伊吹の言葉にナタルは頷く。
「確かに私の独断で決めるのはおかしな話と思われても仕方が無いでしょうが………実は播磨型について、ある特別な処置がなされているんですよ」
「処置……ですか? それは」
マリューはどう言う事なのか見当がつかなかった。
「山城艦長」
「はっ‼ では、私から説明いたします。播磨型宇宙戦艦は日本皇国が最新鋭の技術を持って建造した新造艦です。表向きは新造艦の処女航海並びにMSの訓練となっています」
伊吹に名前を呼ばれた山城が説明をすると、伊吹が続けて口を開く。
「実際はハルバートン提督から、連合製のMSの視察の打診があった為、ヘリオポリスに赴いたとなっています。また、提督から直々に新型MSとその母艦の護衛を本来であれば、遠方から遂行する予定となっていましたが、このような状況となってしまうと、民間人を乗せた艦の護衛を務める他無いですよね?」
伊吹の屁理屈を聞いたマリュー達は口を大きく開けて呆けてしまうのであった。
その頃、ラウ・ル・クルーゼ率いる部隊では、ブリーフィングルームにて一部の隊員が隊長であるクルーゼに対して意見を申し出ていた。
「隊長‼ 残った機体でヘリオポリスへ乗り込み最後の機体を奪取或いは、破壊を行わなければ後々、プラントに多大なる損害を引き起こす可能性があります‼」
「判っているのだがね、イザーク君。だが、既に我が部隊の損耗率は撤退の判断をしなくてはならないレベルなのだ」
「では、奪取した機体を使ってでも‼」
「折角奪取した機体を取り返されたとして、君はその責任を負えるのかね?」
クルーゼの言葉にイザークは苦汁を飲まされた表情をする。イザーク自身も部隊が壊滅レベルにまで陥っている事は理解しているが、後の憂いを晴らす思いで意見を具申したのであった。
「それに、ヘリオポリス宙域に日本皇国と思わしき艦が、我が部隊を壊滅にまで陥らせた状況だ。この事を本国に報告すれば、本国も黙ってはいないと思うがね?」
クルーゼの言葉に全員がハッとする表情をする。
日本皇国と言えば、オーブ同様に中立を掲げている国家であるが、今回の事が露見すれば中立国としての立場を失い、信用度を落とせるとクルーゼは睨んだのである。
「ですが、そう簡単に日本皇国の信用度は堕ちますかね?」
そう言い出したのはクルーゼ隊の中で最年少のニコル・アマルフィであった。
「どう言う事かね、ニコル君?」
「僕も父伝手に聞いた話なので、確証はありませんが日本皇国の軍事事務次官には絶対に手を出してはいけないと聞かされているのであります」
ニコルの言葉を聞き、クルーゼは考え込むが一人の男の名前が浮かび上がった。
「福本伊吹の事かね?」
「………はい」
クルーゼの確認にニコルは頷く。
「確かに私も話だけではあるが噂で聞いた事がある。日本皇国の軍事事務次官には頭の切れる、そして、屁理屈が上手い男がいると言う話を聞いた事がある。だが、本当にそんな男がいるのかね?」
「それについては、正直、断言はできませんが父曰く、絶対に敵に回すと後々に厄介なことになるとだけは聞いています」
ニコルの言葉にクルーゼは頷くのであった。
「ですが、ヘリオポリスにその福本伊吹がいる訳ではないのですから、この際に憂いを晴らすためにも‼」
「………機体に余裕もないこの状況では作戦を遂行するのは不可能と判断して、撤退をする」
「隊長‼」
クルーゼの判断にイザークは噛みつくが、褐色の青年に止められる。
「イザークよせ。隊長の判断だ。従う他ないだろ?」
「くそっ‼」
イザークは吐き捨てるとブリーフィングルームを後にする。
「待てよイザーク‼」
褐色の青年がイザークの後を追う様にブリーフィングルームを後にするのであった。
余談だが、クルーゼがMSの戦闘ログを確認していると、映像には日本皇国の軍服を身に纏った士官が二人とスーツに身を包む男性の姿を見て、クルーゼはイザークの具申を呑まなかった事を心の底から安堵するのであった。
また、評議会に戦闘ログを提出した際、褒める事が滅多に少ないザラ国防委員長がクルーゼの事を褒めたのであった。