妖精時空伝
フィオーレ王国。
かつては人口1700万人が暮らす永久中立国として有名でした。魔術と共に人々が行き交い、魔術と寄り添って人々が生きてきたのです。
今までもこれからもそれは続くはずでした・・・
それは[妖精の尻尾]に所属する私も、皆さんも同じだったでしょう。かつてはフィオーレ王国1の実力を誇り、その一方で評議院の頭痛の種として扱われていましたが、実質数々の闇ギルドを壊滅に追い込み、世界を救ったりしたという記述がある[妖精の尻尾]も1200年たった今では衰退していく魔術のいや、魔導士達の拠り所として、また数少ない魔導士ギルドとして多くの依頼を今日もこなしているのですから。
―年々減っていく魔導士は実は現在では忌み嫌われています。魔術を扱うだけで街を追放されることや、酷い扱いを受けることなど日常茶飯事です。しかし、そんな中でもこのフィオーレ王国は、この大陸は違いました。いまだに魔導師の雇用をしてくれ、何より我々魔導士にとって働きやすい<ギルド>が存在するのもこの大陸だけなのですからね。だから、魔術を扱えるものは皆幸せを求めてこの地を訪れるのでしょう。
ここでは魔術を扱えても仕事が入り、しかも魔導士を人としてちゃんと扱ってくれるのです。
外からやって来た魔導士はそうした扱いを受けたことの無い者ばかりで初めはいつも恐怖や警戒をしているものですが、慣れてくるとだんだん笑顔が増えてくるのが今まで訪れた者の反応です。街の方とも普通に仲良くするようになりますし、毎日が見違えたように皆さん清々しい表情を浮かべるようになります。
かくいう私もその一人で今までまともな扱いを受けてこなかったのですが。
そんな"いつもの日常"が突然何の前触れもなく終わりを、終焉を迎えました。
空をどす黒い障気が覆い、水という水は障気を浴びて濁り泡をたたせ、風は周りの木々を枯らせるほどの魔力を運び始めました。
いつもなら賑わうはずの通りは恐怖に震える人々の悲鳴や怒号が飛び交い逃げようともがく人々は押し合いながら倒れる者は容赦なく踏みつけ、親とはぐれた子供には救いの手を差しのべず、互いに自分の身の保身を求めて少しでも安全そうな街へ逃げようとし始める様子が高台から見えました。今までの彼らの優しさを、彼らの暖かさを知っていた私としては悲しさだけが満ちていました。それは皆さんも同じことでしょう。
ふと気配を感じて振り向くと親友のマリサ・ハートフィリアが私のすぐ横に立っていました。
彼女は私が気付いたのを知ると私に話しかけてきました。
「・・・なあ。ロストは知ってるんだろう?あの現象の正体を。ここの皆には話してくれるのぜ?」
それを聞いて私はギルドの皆さんが一人を除いて全員いるのに今更気付きました。これは困りましたね。この現象の正体・・・ですか。
「・・・知ってはいますよ。ですが〃喚び出された〃以上もう打つ手はありません。」
そう言った私の言葉にレイム・フルバスターが反論しました。
「打つ手がないなら作ればいいでしょ!何諦めてるの!私達は今までもそうやって来たじゃない!今回だって上手くいくに決まってるわよ!!」
「・・・あれを見ても同じこと言えるのかしら。」
そう言ってレイム・フルバスターの前向きな言葉を止めたのは吸血鬼のレミリア・スカーレットでした。そして、彼女の指す方は遥か遠くの空、恐らくこの大陸の東北端か、或いは別の大陸の近くでしょう。そこには底の見えない暗闇が・・・いえ混沌が口を開けていました。
そして、そこから出てきたのは言葉にできないほどのおぞましさを撒き散らす巨大な触手がゆっくりと這い出てきていました。
視たものの正気を根こそぎ奪うようなあれは名を呼ぶのも憚られるアレは・・・。
「・・・皆さん。アレは見てはダメです!!アレは・・・。」
そう言った私の声が皆さんには届いたようで各々がアレを視界に入れないようにアレのいない方を向きました。そんな中、私達の前に現れた巨大な裂け目に全員が吸い込まれた時、私はほんの僅かに安堵しました。ギルドにたった一人だけ居なかった存在が漸く戻ってきたのですから。
[妖精の尻尾]のギルドマスターにして魔導を極めた賢者ユカリ・ヤクモその人が戻ったのですから。
しかし、彼女の表情にはいつもの余裕はなく、この状況がどれ程不味い状況なのかが皆さんにも伝わりました。
「ロストに色々聞きたいことはあるけどここも時間がないわ。精々5分持つかどうか・・・。だから、貴方達を今から過去に転送するわ。どこかでこの現象を起こすきっかけがあった筈よ。それを止めて。貴方たちは皆の最後の希望。・・・こんなことを皆に押し付けてごめんなさいね。」
そういうと、ギルドの半数以上を1度に過去の世界へ転送しました。残ったのは[妖精の尻尾]の精鋭達と私だけでした。
「マスターはどうするつもりですか?」
覚悟を決めたような顔をしているユカリ・ヤクモに私はあえて聞きました。するとやはり彼女は言いました。
「・・・ここに残ります。」
それでも忠告をしようとする私は愚者なのでしょうか。
「アレは人がどうにか出来る代物ではありません。いくら賢者の貴女でもアレに向かうのは―」
無謀です。私がそういう前に彼女は話しました。
「わかっているわ。見るだけで根底を破壊される存在。禁書の中の禁書。この世界に存在するものじゃないのでしょう?〃貴方とアノ本は〃。」
最後の台詞は残った皆さんに聞こえないように言う彼女の優しさはいつもの彼女そのものでした。胸を突かれたような感覚を味わいながらも私は言いました。
「・・・知っていたのですか。」
「それが何?貴方は<ギルド>の仲間で家族でしょ?それだけ知ってれば十分よ。」
ニッコリ笑う彼女を見るとやはり無意味だとわかっていても止めたくなります。しかし実際にはそんなことはせず彼女の言葉を聞きました。
「マリサ、レイム、レミリア、サクヤ、ヨウム、モコ、ケイネ、ニトリ、チルノ、アヤ、ロスト・・・頼んだわよ。」
その言葉が彼女との最後の会話でした。
声をかけようとした途端下へ落下していく感覚を感じ、下を向くと夥しい目の間に僅かな隙間が開いているのに気付きました。
叫ぶまもなく地面が見え、激突しました。
「うぐっ!」
「キャッ!」
私のすぐ横から可愛らしい声が聞こえました。
誰かに見られたのかとすぐに戦闘体制に入れる構えをとりながら見ると・・・。
「・・・なんなのぜ?私の顔に何かついてるのかロスト。」
マリサ・ハートフィリアの姿がありました。
「・・・あの今可愛らしい叫び声はマリサ・ハートフィリアの声で間違い・・・ありませ・・・んか?」
それを耳にした彼女は徐々に険しい顔になっていき、最後の方は私もおそるおそる聞くかたちになりました。どうやら触れるべき話ではなかったようですね。顔を赤くしながら俯いているため彼女の表情は確認できませんが恐らく機嫌の悪い表情をしているのではないでしょうか。
「・・・き」
「き?木ですか?ああ木は生い茂っていますね。」
「・・・気にするな。」
「ああ、気ですか。そういえばここは魔力がかなり満ち溢れていますね。もうここは我々のいた時代ではないのでしょうね。・・・マリサ・ハートフィリア?どうしたのですか?気の抜けたような顔をして。」
気とはてっきり魔力の事を指しているものだと思い話をしていましたがどうやら勘違いだったのでしょうね。ですが他に何の事だったのでしょう?私にはよくわかりませんね。
「い、いやいや何でもないのぜ!へ、へぇーそれにしても、ま、魔力が満ちてるのぜ。こ、これなら私の持っている黄道12門の鍵も開けるかもだぜ?な、ロスト。」
明らかに何かを隠すような物言いは誤解を生みやすいでしょうし、ここは教えるべきでしょうか。
「・・・どうしました?無理な話題の変更は明らかに何か隠したいと言うのがわかってしまいますが。それと今変更した話に答えると開けます。」
そういうと、彼女はこの話について深く言及されたくないらしく私の前に行くとさっさと向かおうと空元気というのでしょうか、作り物の元気を出しながら歩きだしました。
「なな、なんでもないのぜ?それより[妖精の尻尾]探そうなのぜ!!あー楽しみだぜ!ご先祖に会えるかもしれないんだからなー。」
無理をしながらでも笑う彼女を見ていると私も自然と笑みを浮かべているのですから不思議です。
しかし・・・ひとまずはこの胸の激痛は彼女には黙っていられそうですね。
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過去の世界に訪れた白黒少女の魔導士と深い闇に身を堕とした青年は互いの心中を隠しながらも歩き始める。未来の世界を救うために、いやあの頃のような笑いあえる日常を取り戻すために。
妖精の歩みを止めることは誰にも出来ない。