EVIL LIVE   作:烏丸英

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えっ!?この悪人面で売り子を!?

「昨日の事件、早速報道されてるぞ。ちっちぇえ記事だけどな」

 

 丸子が起こした誘拐事件に関する記事を読んでいた立花さんがしかめっ面になりながらぼやく。

 皿を洗っていた俺へと振り返った彼は、少し同情した様子で口を開いた。

 

「しかし怜仁、お前も運の悪い奴だな。こう立て続けに魔人が起こした事件に巻き込まれちまうなんてよ」

 

「俺は被害に遭ってないから気にしてませんよ。連れ去られた人たちもブライトが保護してくれたみたいですしね」

 

「まあ、そうだな……被害がほぼ皆無だからこんな扱いなんだろうが、嫌な感じはするよなぁ……」

 

 丸子を倒したことで母親が連れ去られることもなかったし、彼女たちも少し怪我をした程度で済んだ。

 どちらかと言えば俺たちが戦った地下駐車場の被害の方が大きいくらいで、人的被害はほぼ皆無と言っていい。

 

 しかし、そんな状況に何か思うところがあるのか、立花さんは難しい表情を浮かべて不安気な呟きを漏らしている。

 

「……何か思うところがあるんですか?」

 

「いや……あまりにも立て続けだなと思ってな。前に魔人が事件を起こしてから、数日しか経ってない。この街に魔人が出現し始めてから、こんなに短い間隔で事件が起きたことがあったかなと振り返っていたんだ」

 

 かなり鋭い立花さんの考えに対し、俺は驚きを顔に出さないように努めた。

 まだなんとなくの範囲ではあるが、何か妙なことが起き始めていることを彼は感じ取っているようだ。

 

「すまんな。お前に言ってもよくわからないだろうに、つい愚痴っちまった」

 

「気にしないでください。その程度で良ければ、いつでも付き合いますよ」

 

 これから少しずつ、立花さんが感じた違和感が表面化していくことになるだろう。

 丸子に続いて動き出す特別犯罪者がいるかもしれないと、そんなことを考えていた俺の耳に、ドアの開く音が響いた。

 

「マスター、大神さん、こんにちは!」

 

「おお、風花に火蓮か。悪いな、こんな時に」

 

「いいわよ、別に。まあでも、感謝の気持ちがあるならジュースの一杯くらいは奢ってくれるわよね?」

 

 店に入ってきた学校帰りであろう風花と火蓮たちが、普段通りといった感じで席に着く。

 図々しく思える火蓮の要求に苦笑しながらも視線で指示を出してきた立花さんに従った俺は、二人が座るテーブルに飲み物を運んでいった。

 

「二人とも、大丈夫なのか? 昨日、あんな事件に巻き込まれたばかりなのに……」

 

「心配してくださってありがとうございます。でも、私たちは平気ですから」

 

「魔人が事件を起こすなんてこの街じゃ日常茶飯事よ。いちいちショック受けてたらまともに生活なんてできないわ」

 

 ブライトとして活動していることも影響しているのだろうが、風花も火蓮も心が強いみたいだ。

 彼女たちがあまりショックを受けていないことを喜ぶべきなのか、それともこの異様な状況に慣れていることを危惧するべきなのかと少し迷う俺へと、風花が声をかけてくる。

 

「そういえば、大神さんも週末のイベントには参加するんですよね?」

 

「イベント? 何の話だ?」

 

「あんた、マスターから聞いてないの? これよ、これ!」

 

 少し呆れた様子の火蓮が立花さんが読んでいた新聞を取り上げると、地方記事の部分を指差して見せてくる。

 ガス漏れ事件による被害報告や天気予報などの欄に混じって掲載されているその記事の見出しを、俺は声を出して読み上げた。

 

「『西地区東地区合同・ニコニコスマイルバザー』……?」

 

「そうよ。週末にこの街の人たちが集まってバザーをやるの。この店は不参加だけど、近くの洋菓子店に協力する予定になってるわ」

 

「それで、私たちも売り子としてお手伝いすることになってるんです。今日はその打ち合わせですね」

 

「へぇ、そうだったのか……」

 

 魔人による事件が多発しているというのに、イベントを敢行するこの根性。心が強いのは二人だけでなく、この街の住民全員も同じのようだ。

 あるいは、こういった小さな幸せがあるからこそ、魔人が起こす理不尽な悲劇にも立ち向かえるのかもな……と考えた俺は、苦笑を浮かべながら二人に言った。

 

「俺は不参加だろうな。洋菓子なんて作れないし、この顔じゃあお客さんが逃げちまうだろ?」

 

「そうね。確かにその通りかも」

 

 自分で言うのもなんだが、俺は穏やかで人が良い人間みたいな顔はしていない。六十八人殺しの殺人鬼らしい、凶悪な顔つきだ。

 こんな男が売り子をしていたら、折角美少女二人を目当てに集まってくれたお客さんも逃げてしまうだろう。

 立花さんも話をしてこなかったということはそういうことなんだろうし、今回俺は不参加なんだろうなと考えていたのだが、その立花さんが俺の言葉を否定してくる。

 

「な~に言ってんだ。お前も売り子として参加してもらうぞ、怜仁」

 

「ええっ? マジですか? この二人と一緒に、俺が?」

 

「当たり前だ。少なくとも、しばらくはウチの従業員として働いてもらうんだからな。街の人たちに顔を覚えてもらうためにも、しっかり売り子やってみせろ」

 

「……俺の顔って、一回見たら夢に出るレベルで記憶に焼き付きません?」

 

「「ぶっっ!!」」

 

 立花さんの言葉に対する俺のぼやきに、我関せずといった様子でジュースを飲んでいた風花と火蓮が盛大に吹き出した。

 そんなに面白いことを言ったとは思えない俺が、もしかして面白いのは俺の顔か? と不安になりながら二人を見れば、噎せている彼女たちがこちらを見やりながら言う。

 

「ちょっと! 不意打ちで変なこと言わないでよ!」

 

「お、大神さんの顔、そんなに怖い顔じゃないと思いますよ?」

 

「……俺、記憶に焼き付くって言っただけで、怖い顔してるとは言ってねえんだけどなぁ……」

 

「あっ……!」

 

「くっ、くくくっ! あはははははっ!!」

 

 フォローしたつもりの風花だったが、しっかりばっちり失言していた。

 その部分をツッコめば、火蓮が腹を抱えて笑い始める。

 

「ちょっと火蓮ちゃん! 笑い過ぎだって! 大神さんに失礼だよ!」

 

「無理無理! 我慢できないって! あははははははっ!!」

 

「おうおう、なんだかんだで上手くやれてるみたいだな。これなら当日もいい感じに売り子できるだろ!」

 

「上手くやれてるって認識でいいんですかね、これ……?」

 

『う~ん……相棒が笑われてるだけのようにしか見えないぜ……』

 

 ツンツンされるよりかはマシだが、これが上手くいっているかと聞かれると首を傾げてしまう。

 一番感想が似通っているのが悪魔だというのが皮肉だなと思いながらも、俺は心の中でアモンに相棒って言うなとツッコミを入れてから、ため息を吐くのであった。

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