EVIL LIVE   作:烏丸英

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【高所中毒症】初田兆次

「あいつ、【高所中毒症(クライマーズ・ハイ)】初田兆次か!?」

 

 ご丁寧に自己紹介をしてくれたアフロの男……初田兆次の大胆な行動に、俺は驚愕するしかなかった。

 しかし、わざわざ人が集まっている場で人を殺すような男だ。特別犯罪者たちの例に漏れず、イかれてるということなのだろう。

 

『また相棒と同じ異世界出身の奴か。あいつは何者なんだ?』

 

「初田兆次、驚異のクライマーを自称する殺人鬼……その被害者の大半が子供で、高所から突き落とされて殺害されてる」

 

 事件の内容を思い返すだけで、胸糞が悪い気分になる。

 初田兆次はボルダリングという競技で将来を有望視された男だった。

 恵まれた体格と才能によって日本を背負って立つクライマーになると思われていた初田だが、彼は突然、ボルダリングを止めてしまう。

 

 その理由を問われた初田は、「あんな小さな壁を登るだけじゃ満足できなくなった」と答えたようだ。

 文字通り、より高みを目指した初田はフリークライマーとして数々の山岳や時に街中のビルなどにアタックし、次々とそれを登頂していった。

 

 そんなふうにスリリングな挑戦を次々と成功させる初田の活躍に注目した人々は、熱狂すると共に一つの疑問を抱く。

 いったい何が初田を突き動かしているのか? どうして彼は成功を約束されたであろう競技者としての道を捨て、危険と隣り合わせのフリークライミングの道に進んだのだろうか?

 

 ただ純粋に自分の限界に挑戦したくなったのだろうと言う者がいた。ボルダリングという競技に飽きたのだろうと言う者もいた。天才の考えることは我々凡人には理解できないと思考を放棄する者もいた。

 そんなふうに数々の憶測が流れる中、それらの話を吹き飛ばす衝撃的なニュースが飛び込んでくる。

 

 その初田が、殺人の容疑で逮捕されたというのだ。

 

 各地で行方不明になっていた子供たちが遺体となって崖下や建物の近くで発見されるという事件が相次ぎ、その捜査に乗り出した警察によって、初田がその容疑者として浮かび上がった。

 子供たちの遺体に残っていた痕跡から確固たる証拠を掴まれた初田は、警察の尋問に対してすんなりと容疑を認めたという。

 

 ボルダリングの競技者としても、フリークライミングに挑むインフルエンサーとしても成功できたであろう彼が、どうしてそんな凶行に走ったのか?

 その理由は、先に述べた初田がクライミングに挑む動機と深く関係している。

 

 初田は何故、高みを目指すのか? 誰の手も届かない危険な高所に挑むのか?

 その理由は簡単だ。彼はクライミングが好きなわけでも、自分の限界に挑戦したいわけでもなかった。

 

 初田は、高い場所から他者を見下ろすことを何よりも好んでいたのである。

 

 誰よりも高い場所から、自分より下の存在を見下ろすことが大好きだった。そんな歪んだ優越感を満足させるために、彼は高みを目指し続けた。

 その歪みは徐々に大きくなり、やがて高みから落ちていく人間の絶望の表情を見たいという欲望に変わり……初田はその欲望を満たすために、子供を含む名もの命を奪った。

 

 初田にとって、高所は麻薬と同じだ。それだけでは満足できない。より高みに向かい、より強い優越感を味わいたくなってしまう。

 そんなおぞましい欲望に憑りつかれた初田は、いつしか【高所中毒症(クライマーズ・ハイ)】と呼ばれるようになり……殺人の罪で特別犯罪者の仲間入りを果たした。

 

 人を見下し、優越感に浸るための行為……先述の初田が高みを目指す理由があまりにも邪悪であることを悟った人々は、その狂気に恐れ戦いたという。

 その初田がこの世界でも自らの邪悪な欲望を満たすために動き出したことに、俺は焦りを抱きながら舌を鳴らす。

 

(マズいぞ、ここには風花と火蓮が――!)

 

 この騒ぎを聞きつけたらブライトである風花と火蓮はすぐに駆け付けるだろう。

 しかし、二人に初田を倒させるわけにはいかない。そうなれば、あいつらは人殺しの重荷を背負うことになってしまう。

 

 手を汚すのは俺だけでいいと、そう思う俺であったが、その瞬間に強い風が吹き、人々の前に風花が変身したブライトウインドが舞い降りた。

 

「司るは自由の風! ブライトウインド! この騒ぎを起こしたのはあなたですね!?」

 

「う~ん、そうさ! ご名答! 会えて嬉しいよ、魔法少女ちゃん! ただ、僕を見下すことは許せない! 誰よりも高みに立ち、全てを見下ろす! それは僕だけの権利なんだ!!」

 

「そう、その通りだ。兆次、お前より高みに立とうとする奴は全員消してしまえ。この俺の力を使えば、お前は誰よりも高みに至れる!」

 

『この声……バズーか!? ってことは、あの男の力は――!!』

 

 初田と契約している悪魔の正体を看破したであろうアモンが呻く中、初田は両腕を広げると、大袈裟な動きを見せながら魔人へと変貌してみせた。

 

「契約……しっこ~~~うっ!!」

 

「っっ……!?」

 

 巻き起こった風に俺やブライトウインドたちが顔を伏せる。

 その衝撃が治まった後、人々の視線に立っていたのは……全身が緑色の、バッタを思わせる容姿をした魔人だった。

 

「かかってきなさい、風の魔法少女ちゃ~ん! そのかわいいお顔、ぐっちゃぐちゃに踏み潰してあげよう!」

 

「みんな、下がってっ! きゃあっ!?」

 

 ウインドが人々に退避を促す中、それを隙と見た初田が跳躍からの飛び蹴りを繰り出す。

 バッタのような見た目に違わぬ驚異的な跳躍力を見せる初田の三次元殺法に防戦一方になっている妹の姿を見た俺は、逃げる人々に紛れて近くのテントの裏に身を隠した。

 

『やるぞ、相棒! 妹ちゃんを助けるんだ!』

 

「言われなくてもそのつもりだ。待ってろよ、風花……!」

 

 周囲に人がいないことを確認した俺は、静かに息を吐いて精神を集中させる。

 危機に瀕している妹を救うという想いを滾らせた俺は、目を開くと共に口を開いた。

 

「契約、執行!」

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