「結局、あの魔人には逃げられちゃったわね……」
「あんたたちがモタモタしないでさっさと倒すか、私たちに任せれば良かったのよ」
「そっちこそ、苦戦してたのによくそんなことが言えるわね? 私たちが手を貸してあげなきゃ、民間人に被害が出てたっていうのに」
「ふ、二人とも、喧嘩は止めようよ! とりあえず、魔人は撃退できたんだからさ!」
戦いは終わった。また赤い魔人は逃がしてしまったが、被害者らしい被害者も出なかったから良しとしよう……と言いたいところだが、それは水希たちのおかげだ。
魔人との戦いに熱くなり過ぎたせいで周囲が見えていなかったことも、逃げ遅れた人たちのことを考えずに攻撃を繰り出した部分も反省すべきだろう。
だけど、自分の失敗を水希に尻拭いしてもらったという事実は、私の心を大きく凹ませている。
「……忘れてないわよね、昔、私が言ったこと。あなたの――」
「わかってるわよ! いちいち面倒くさいこと言わないで!」
もう耳にタコができるくらいに聞かされた忠告を途中で跳ねのけた私へと、水希が不満気な視線を向けてくる。
その視線を無視し、顔を逸らした私は、風花が何かを探すように周囲を見回していることに気付いた。
「風花? どうかしたの?」
「あ、うん……大神さん、どこにいるんだろうなって……」
「はぁ? なんであいつのことを探してるわけ?」
風花はあの素性のわからない謎の男を必要以上に心配している。
私の自慢の親友が優しいことは知っているが、あの男への態度はそういった性格だけでなく他の何かも関係しているようにしか見えない。
出会ってまだ一週間かそこらの男をどうしてそこまで気にかけるのか? という思いを込めながら風花を見つめれば、彼女はこう答えを返してきた。
「大神さん、魔人に殺されかけた子供を助けてたんだよ。あの後、上手く避難できたか心配で……」
「………」
どうやらあの男はまた人助けをしたらしい。商店街での誘拐事件の時も思ったが、悪人ではないのかもしれない。
だが、風花を誑かすようなら放ってはおけないと、不安そうにしている親友の横顔を一瞥した後で、私は水希たちへと向き直った。
「あんたたち、あの男を見てないの? 遅れて来たんだから、避難してる最中の人たちの顔も見てたでしょ?」
「急いでたから逃げてる人たちの顔なんていちいち見てない。だから、わからない」
「私もちょっとわからないわね。ごめんなさい」
水希も土筆さんも大神のことは見ていないようだ。
あの男、どこに消えたんだと考え始めた私の脳内に、ちょっとした疑念が湧く。
(あいつ、魔人が出てくるとどっかに消えるのよね……裏で何かやってんじゃないの?)
商店街の時も無謀にも魔人を追ってどこかに消え、事件が解決した後で姿を現した。
今回もそう。魔人が出てきて暴れている間は姿を消しているし、誰からも目撃されていない。
戦闘に巻き込まれないように避難していた、と言われればそれまでなのだが、どうにも引っ掛かるものがある。
私があいつを警戒しているからそう思ってしまうのだろうか? そんな気もするし、そうじゃない気もする。
(なんか気に喰わないわね。あいつも、あいつを意識してる私自身のことも……)
必要以上にあの男を気にかけているのは私も一緒じゃないかと、それを自覚した私の胸に苦い感情が広がった。
……多分、そうだ。さっき風花がどうしてあの男のことを必要以上に気にかけているのかわからないと思ったが、実際はそうじゃない。
向けている感情は真逆だとしても、私と風花が大神怜仁という人間を意識しているのは、きっと……と、私がそう考えた時だった。
「ちょっと、君たち! そこの二人、クッキーとか売ってた子たちだよね!?」
「えっ? あ、はい。そうですけど……?」
突然、私と風花に男性が声をかけてきた。
見ず知らずの男性からいきなり話しかけられた私たちが驚く中、彼はもう一つ確認の質問を投げかけてくる。
「君たちと一緒に接客してた彼……ほら、顔が怖い男の子がいただろう? 彼、知り合い?」
「大神さんのことですか? そうですけど、それが何か?」
やっぱりあいつの顔は世間一般で怖い顔だと認識されているんだなと、ちょっと面白さを感じた私は心の中で小さく笑ったのだが……そんな私の様子に反して、声をかけてきた男性は気の毒そうな表情を浮かべると、驚くべきことを言ってきた。
「あの、その彼なんだけどさ……さっき、警察に連れて行かれてたよ」