EVIL LIVE   作:烏丸英

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復讐者/二人のアモン

 そう叫んだ字雲が大きく跳躍する。

 そのまま空中に制止した奴は、口から何かを俺目掛けて吐きかけてきた。

 

「しっ! はっ!」

 

 飛んできた何かを弾くために腕を振れば、軽い衝撃が手の甲に走る。

 俺に弾かれて地面に着弾したそれが丸めた糸の塊であることに気付くと同時に宙に浮く字雲を見つめれば、奴が張り巡らされた糸の上に立っていることがわかった。

 

『糸……警官を絞殺したのもこれか。あの姿と能力から察するに、あいつは蜘蛛の悪魔と契約したみたいだな』

 

 俺の内側から、あの狼の声が響く。

 なんとも奇妙な感覚に舌打ちを鳴らしながら糸の弾丸を弾く俺へと、字雲は得意気に叫びかけてきた。

 

「どうだ? 手も足も出ないだろう? このまま嬲り殺しにしてやるよ!」

 

 暗い洞窟の中に響く不快な声に再度舌打ちを鳴らす。

 俺が守りの一手しか打てないと勘違いしているであろう奴の言葉に苛立ちを募らせていく中、狼もどきが言った。

 

『撃たれた肩、痛くねえだろ? サービスだ、治してやったよ』

 

「気前がいいじゃねえか。これなら――!」

 

 少し前に字雲に撃たれた左肩から、痛みは消えていた。

 糸の弾丸を捌きながら怪我の調子を確かめていた俺は、問題がないことを確認すると共に反撃に打って出る。

 

 単調な連撃を捌き、リズムを掴みながらタイミングを見計らう。

 一、二、三……と調子に乗っているであろう字雲の攻撃タイミングを見切った俺は、飛んできた弾丸を奴の方へと弾き返してみせた。

 

「なっ? はあっ!?」

 

 炎に包んでやった糸の弾丸が自分へと戻ってきていることに気付いた字雲が間抜けな声を漏らす。

 慌てて回避する字雲であったが、体勢を崩した奴へと急接近した俺は、握り締めた拳を顔面に叩き込んでやった。

 

「オラァッ!!」

 

「ぐべっ、ぶうっ!?」

 

 メキッ、という鈍く不快な感触が拳から伝わってくる。

 俺に殴り飛ばされ、地面に叩きつけられた字雲は地べたを転がった後、急いで起き上がるとこちらへと伸ばした両腕から太い糸を放ってきた。

 

「お前、よくも……っ!! 許さねえ!」

 

 飛んできた糸が、俺の両腕を胴体ごと締め付けて拘束してくる。

 身動きをを封じた字雲は息を荒げながら、怒りと興奮を入り混じらせた声で俺へと言ってきた。

 

「殺してやる……! 殺してやるぞ、亜門怜仁! あの小汚ねえジジイの後を追いやがれ!!」

 

 狂気に満ちた叫びを上げながら、俺の首を締め上げる字雲。

 興奮し過ぎたせいか、鋭い牙が生え揃う口元から涎が垂れている様を目にした俺は、両腕に力を込め、煩わしい糸の拘束を引き千切った。

 

「へ……!? うあ゛っ!? ううっ!? があっ! ぎゃあああっ!」

 

 突然の俺の行動に驚き、動きが止まった字雲の腹にアッパー気味に拳を叩き込む。

 その勢いを殺すように振り下ろす拳を一発、続けて地面に叩きつけるように拳を振るった後、バウンドした字雲の体を思い切り蹴り飛ばす。

 

 完全に予想外の連撃を受けた字雲が悲鳴を上げ、痛みに呻きを漏らす中、奴の頭を掴んだ俺は無理矢理に字雲を立ち上がらせた。

 

「ま、待て、待ってくれ! 俺が悪かった! 謝るから!! た、助け――!!」

 

「……無理だな。【復讐者(リベンジャー)】に命乞いは無駄だってことくらい、お前も知ってるだろ?」

 

「ひっ……!?」

 

 完全に戦意を失った字雲の命乞いを一蹴した俺は、恐怖に引き攣った声を漏らす奴を睨みながら怒りの炎を燃え上がらせていく。

 これは復讐(・・)だ。俺の恩人である鷺宮さんの命を奪ったこの男に、その報いを受けさせる。

 

 心に滾る憤怒は燃え盛る獄炎へと化し、俺の体から移ったそれが字雲の体を焼き尽くしていく。

 痛みと絶望に染まった悲鳴を上げる字雲を解放した俺は、紅蓮の炎を纏った蹴りを奴の首元に叩き込んでやった。

 

「ごえっ!? が、ふっ……!?」

 

 派手な爆発も断末魔の悲鳴もない。ただ静かに、喉を潰された字雲が膝から崩れ落ちていく。

 俺へと手を伸ばし、もがくように空を切った腕をだらりと脱力させた奴は、声にならない声で必死に言葉を紡ごうとしていた。

 

「そのまま死ね。惨めで無様な命乞いの言葉だけ残してな」

 

「お、おお、お゛お゛お゛お゛お゛……っ!!」

 

 懺悔も、後悔も、怨念も、字雲には言葉として残す権利なんてない。

 奴の最期の言葉は、俺に対する命乞いの言葉だと……奴のプライドをへし折り、惨めさを噛み締めさせるための言葉を投げかければ、字雲は屈辱と悔しさをにじませた声で呻いた後、動かなくなった。

 

 燃え続ける字雲の遺体から視線を外した俺は、戦いに巻き込まないように安置しておいた鷺宮さんの亡骸を抱き上げる。

 

「あなたをここに置き去りにはしない……行きましょう、鷺宮さん」

 

 この言葉が届いていないことはわかっている。これはただの俺の自己満足だ。

 それでも、伝えるべき言葉を鷺宮さんへと投げかけながら、俺は狼もどきが開けた門を通り、彼と共にこの空間から脱出を果たすのであった。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

「その男の亡骸が燃え尽きるまで見守るつもりか?」

 

「ああ。誰か一人くらい、最期まで看取ってやるべきだろ」

 

 狼もどきが開いた門は、どこかの林の奥に繋がっていた。

 異様な雰囲気があった魔界の空気とは違う、元居た世界とよく似ているが微妙に違う程度の雰囲気を感じ取りながら、俺は燃える炎を見つめる。

 

 ここが異世界であることは狼の話を聞いて理解した。元の世界に戻るにせよ、このままこの世界で生きるにせよ、鷺宮さんの遺体を持ち運ぶわけにはいかない。

 どこかに隠しておいても、そのうち腐ってしまうだろう。ならば、せめて綺麗なうちに弔ってあげたいと思った。

 

(鷺宮さん……あなたに救われた命、無駄にはしません。俺は、精一杯生きてみます)

 

 この世界で真っ当に生きてくれ……鷺宮さんは最期にそう俺に言い残した。

 確かにこの世界でなら、元居た世界での罪は関係ない。前科はリセットされ、生きようと思えば真っ当な生き方ができるだろう。

 

 だが、もう俺はこの世界でも人を殺してしまった。

 鷺宮さんの願いを裏切ってしまったことを申し訳なく思いながら、俺は共に炎を見つめる狼へと言う。

 

「なあ、悪魔は強力な魔人を生み出すために俺たちをこの世界に呼び出したんだよな? だったら、これから先、字雲みたいな奴がこの世界で悪魔の力を得て、暴れ始めるってわけか」

 

「だろうな。それで、お前はどうする?」

 

「決まってんだろ。元の世界に戻る方法を探す。それと、この世界で悪事(ワルさ)かまそうとした奴を見つけたら……そいつを殺す」

 

 ただでさえ凶悪な犯罪者の集まりだというのに、そこに悪魔の力が加わってしまったらとんでもない悪人が誕生してしまう。

 俺たちは異物だ。この世界にあってはならない存在である俺たちは、一刻も早く元の世界に戻らなければならない。

 

 その方法を探しながら、字雲のように誰かを傷付ける奴が出てきたら……俺がそいつを殺してでも止める。

 既に汚れた手だ、今さら真っ当に生きる道を進もうだなんて思わない。異世界の人間であり、人殺しであり、悪魔と契約した俺にしかできないことをする……勝手な考えだが、これが鷺宮さんの想いに応えられる正しい選択だと思えた。

 

「……そういや、まだお前の名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」

 

「あ? 俺の名前か? そうか、まだ自己紹介してなかったか」

 

 そこまで考えたところで、俺は恩人(?)である赤い狼へとそう問いかけた。

 狼はニィッと笑った後、弾んだ声で俺に自分の名前を告げる。

 

「俺はアモンっていうんだ。これからよろしくな、相棒」




コンテストに参加しようと思ってフィードバックを頂けたらなと思い投稿しています。
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