兎と刃と遥かな空へ   作:ダーインスレイヴ

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 砂地を走る。直後に、つい先ほどまで遮蔽にしていた家屋の残骸が、まるでレゴブロックのように弾けて瓦礫へと変えられた。

 戦闘が始まって十数分。アダートは未だ五体満足で生存していた。

 

「……どうするか」

 

 空中で迫りくる弾丸を切り払い、着地の硬直をスライディングで誤魔化しまた駆ける。

 アダートは、状況の打破を狙うべく思考を回していた。

 

(攻撃力、防御力、機動力。何れも相手が上。オマケに――――)

 

 思考しながら突然頭上に差した陰に反応し、アダートは近くの路地へと飛び込む。

 間髪入れずに、彼が先程まで走っていた通りが銃撃によって粉々に粉砕された。

 足を止めずに、アダートは再び駆ける。その後を、褐色の影が追っていた。

 

(敵は、空。生半可な攻撃では落とせない上に、通じない)

 

 突き出た屋根や窓枠を遮蔽にしながら、アダートは路地を駆ける。

 下手に飛び出せば、蜂の巣。仮に接近できても、相手はISを纏っているのだ。生半可な攻撃は防がれる上に、それは致命的な隙へと繋がりかねない。

 

(最低でもRPGが要るな。となれば――――)

 

 一瞬だけ周囲に視線を走らせてアダートは路地を曲がった。

 

 一方、アダートを追うIS操縦者はそのヘルメットの下で目を細めていた。

 

(凄まじい運動能力。本当に、人間?)

 

 その感想には、一定の畏怖が浮かんでいた。

 意味も無く、アダートを追っている訳ではない。単純に、この戦場で最も厄介な相手が彼であると判断したからこそ追っているのだ。

 

(心肺機能、体力、脚力。どれをとっても本職の軍人よりも上。オマケに、勘が良いのかこちらの銃撃を躱す上にこのコース取り……)

 

 入り組んだ路地を、まるで先が分かるかのように駆け抜ける少年兵。

 ISならば、周囲の家屋ごと薙ぎ払う事も出来るだろう。しかし、出来るからといってソレが選択肢に入るかと問われれば否だった。

 何故なら、ISに搭載された兵装には限りがあるのだから。

 量子拡張領域という、大雑把に言えば収納スペースが存在するとはいえそこにもやはり限界がある。個人で持ち運べる量として見るならばコンテナでも運んでいるようなものかもしれないが。

 そもそも、彼女の仕事は敵対者の掃討。それはこの町に居座る傭兵団()()()()()()

 

 両者の思惑が交差する中、アダートは目的地へと向けてひた走る。

 そこはこの戦場でも取り分け弾丸、砲弾が飛び交う危険地帯。

 

「やはり、銃火器ですか」

 

 IS操縦者は、ヘルメットの中でそう呟いた。

 特筆すべき体力も身体能力も当たらなければ効果はない。そして、ただの人間が中遠距離を攻撃しようと思ったならば武器は必須。

 彼女の読み通り、アダートは突然の乱入に目を見開く正規軍の一角へと飛び込んでいた。

 蹴り倒すのは、ロケットランチャーを持つ兵隊。

 昏倒した兵士からロケットランチャーを奪い取り、狙いも荒くぶっ放す。

 一発だけではない。一歩進めば人が倒れ、その都度白煙を引きつれた弾頭がISへと向かって放たれていく。

 

「っ……!」

 

 IS操縦者は、選択を強いられる。

 確かに、ISは圧倒的な防御力を有する。しかしそれは、あくまでもエネルギーが残存している場合に限られるのだ。

 無防備に受け続ければシールドエネルギーという、IS周囲に張り巡らせたバリアーを維持するためのエネルギーが消耗していく。それも、割と洒落にならないスピードで。

 故に、IS操縦者には常に取捨選択を求められた。

 迎撃するのか、回避するのか、或いは敢えて受けた上で反撃をするのか。

 

(一発は兎も角、複数発はダメ。幸い狙いが甘い。なら――――)

 

 機体が動き、しゃがみ込むように斜め下へ。

 放たれた弾頭は、その狙いの粗さも相まってかIS全体を見て上部に当たろうかという軌道だった。

 後ろへと下がれば躱す事も容易いだろうが、ここは戦場。何の備えも無く下がれば別の攻撃が容赦なく襲い来るだろう。

 故に、前へ。勢いをつける事も加味してブースターも吹かした。

 だが、

 

「!センサーに、なっ!?」

 

 瞬間警告を報せたセンターと同時に、背後に衝撃。

 ISに搭載された操縦者の近くを補佐するハイパーセンサー。その範囲は視野外である後方なども含まれており、全周といって差し支えない。

 しかし、どれ程優れたセンサーであったとしても、把握し行動に移すのは操縦者という人間である。

 如何にセンサーが反応しても、操縦者自身の意識の外から襲われれば反応できない。

 ハイパーセンサーで後方を確認した操縦者は目を剥いた。

 サーベルの柄を右手の逆手で握り、左手で柄頭を抑えながらその切っ先をISの背に突き立てる少年の姿があったからだ。

 高周波ブレードはその鋭い切れ味をもって、ISのバリアへと牙を突き立てた。結果として、シールドエネルギーはロケットランチャーの弾頭を受けるよりもさらに深刻な速度で削られていく。

 

 アダートにとって、ロケットランチャーの攻撃は陽動以外の何物でもなかった。

 彼にとって最悪の状況は、冷静にロケット弾頭を攻撃によって処理される事。ISの防御力をごり押して周りからの流れ弾などを一切意に介さない判断をされた場合だった。

 そもそも、アダートは近接職だ。銃なども人並み以上に使えるが個人が扱える火器程度でISをどうこうするなど不可能。

 唯一の勝ち筋は、高周波ブレードしかない。しかし、その唯一の勝ち筋を行使するには物理的な距離が道を阻んでいた。

 そこで、先のロケットランチャーの乱射に繋がる。

 当たらなくてもいい。唯一の注文はIS全体の上部を狙う事。

 躱すには、下がるか降りるしかない。受けたとしても視界が塞がれエネルギーを削れる。

 

 そして、賭けに勝ったアダートは近くの家屋を登攀して下がったISの背へと向けて跳んだ。

 

「くっ……!離れろ……!」

 

 機体を揺すり、振り払いにかかるが千載一遇のチャンスをアダートは逃す気は無い。

 サーベルを突き立てたまま、左手で近くに浮かぶ加速推進翼を掴んで体を固定。

 吹かされるバーニアによって掴んだ手が焦げ始め、嫌なたんぱく質の焼けるニオイを漂わせ始めているが当人は顔色一つも変える事は無い。

 出鱈目な空中機動を描く、褐色のIS。その強度を盾に近くの家屋や建造物へと突っ込んでいく。

 舞い上がる砂埃と、瓦礫の破片。

 

「うっ……ッ、コレで…………!?」

 

 幾つかの建物を瓦礫に変えた後、最後に突っ込んだ商店の瓦礫の中でISは転がっていた。

 出鱈目に動き、何度も何度もぶつかったにも関わらずその装甲には傷の一つも無い。

 しかし、状況は悪かった。

 ぶつかり回り、ブースターを吹かし、更に背後から突き立てられ続けた高周波ブレードによってエネルギーが大きく削がれてしまったのだから。

 だが、それだけの消耗で済んだ、とも言えた。少なくとも、あのまま背中に張り付かれていればエネルギーを更に大きく削られ、絶対防御の発動すらあり得たのだから。

 その安堵の一瞬の緩み。そこが大きな隙だ。

 

 突如、目の前に影が差したかと思えば大鉈を右手に高々と掲げた少年の姿が現れたのだから。

 

 反応できず、その脳天目掛けて振るわれる一撃。

 シールドエネルギーはいまだ健在。搭乗者へと直撃する事はない、がその一撃もまた高周波ブレードだ。ガギリ、とエネルギーが減った。

 防がれた大鉈。それを、アダートは素早く引き戻すと、再びこれを振り下ろす。

 先の一撃よりも速く、鋭く、重く。様々な角度から出鱈目に、矢鱈目鱈に叩きつける。

 

「ッ……!」

 

 恐怖を操縦者は感じた。

 当然だろう、一方的に大鉈を叩きつけてくる少年は血塗れなのだから。

 右手に握った大鉈しか使わないのは、左手が最早使い物にならないからだ。

 掌はISのブースターを掴んでいた為にじっくりウェルダンの焼き加減。前腕上腕の骨は砕け、指に至っては炭化したせいでザラザラとした炭の質感となっている。オマケに彼方此方の建物に突っ込んだせいか頭からは血を流し、いたるところが破れた衣服の隙間からは出血してない場所を探すのが難しい。

 これに加えて、骨もかなりの数が折れている。最早、こうして生きている事が奇跡と呼べるほどに満身創痍の様相。

 それでありながら、アダートは止まらない。狂ったように大鉈を叩きつけ、しかしその表情は歯を食いしばるでもない無表情。瞬きの一切も無い。

 

 そして、

 

「あっ……」

 

 終わりは何とも呆気ない。

 シールドエネルギーが削り切られ、同時に役目を終えたと言わんばかりに大鉈の刃が砕け散る。

 間髪入れず、アダートは地面に突き立てていたサーベルを手に取ると思い切りその切っ先をIS操縦者の胸部へと目掛けて突き立てた。

 硬質な音。絶対防御の発動だ。備えられていた予備のエネルギーバッテリーが起動した。

 だが、所詮は予備。長くはもたない。

 

「……」

 

 押しが足りない。そう判断したアダートは動かない左腕を無理矢理に持ち上げると、絶対防御に突き立てられたサーベルの柄頭に向けて杭を打ち込むようにして叩きつけた。

 ぐしゃり、と肉の潰れる音が響き同時にバッテリーが死んだ。

 鋭い切っ先はISスーツへと突き立ち、皮、肉、骨、臓器を穿つ。

 

 そして――――

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