Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ―   作:Kataparuto

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13話、続きです!
盛り上がってきました!


Act.14 ウォッチポイント

 目の前をスピンしかけて車体を立て直そうと真横を向きに滑っていく沢渡のA110S、そのトラブルに片桐カナタと、ミハエル・ベッケンバウアーが巻き込まれて停車する。

 それを横目に抜けていく諸星瀬名は単純に順位が2位へ上がったことに喜ぶどころか戸惑いを感じていた。

 運がいいと言えばそうなのだが、はたと開けた視界には遠く走り去ろうとするRX-8の背中が見える。

 あの沢渡より速いタイムをたたき出した白と青のクルマ。

 そして、それを操るのは、あの藤原拓海にコーチをしてもらった星馬・豪。

 遠く走り去ろうとしているそのクルマから放たれるプレッシャーに思わずアクセルを緩めそうになる。

 だが、背中を追ってきている緑のアストンマーチンがそれを許さなかった、速く行け、やつに追いつけと、こちらも無言のプレッシャーを放ってくる。

 

――ターゲットは片桐カナタだと思ってたが……。

――でも、RX-8、星馬・豪だって群馬プライドを継いでる。

――なら、正統後継者は俺だって証明してやる……!

 

 諸星は自身を奮起させ、前を行くRX-8を追い始めた。

 そのころスピンアウトした沢渡に巻き込まれた二人は、わずかな間隙を縫ってレースへ復帰する。

 こちらもこちらで、ただで終わるつもりはない気配を纏っていた。

 わずかな隙を突き、再び先頭争いへと戻るタイミングを虎視眈々と狙っている。

 

 有料区間を終えセクター2へ突入する。

 ここまでは大きく順位は動かない。

セクター2は抜きどころが少ないからだ。

 直線らしい直線もなくハイアベレージで我慢比べが続く。

 それに逃げるRX-8に仕掛けるにはとにかく距離を詰めるしかない。

 だが、ここで思わぬアシストが諸星にかかる、それは後ろを行く緑のアストンマーチン、そのドライバー、エマ・グリーンが諸星の後ろにピタリと付きわずかな直線や緩いコーナーでその空力的な不利を消すような位置取りを見せていた。

 おかげで諸星のGRスープラは最高速の伸びを取り戻し、じりじりとRX-8との距離を詰めていける。

 つまりだ、エマ・グリーンもあの速さの秘密を見たいのだ、あわよくば諸星とバトルさせて隙を突くつもりなのだろう。

 

――かわいい顔しておっかねぇな……!

――だが、使わせてもらう、きっちり追ってこい!

 

 だが、諸星としてもこのアシストがなければ、あのRX-8へ追いつくなど不可能と感じていた。

 ならば利用できるものは使ってでもまずは追いつく。

 それから考えればいい。

 

『おい諸星!ハイペースすぎないか!?』

「何言ってんだ、前を行くRX-8に追いつくにはこれしかねぇ!」

 

 ジャンプセクション手前、ようやくタイム差が1秒以内というところまでは何とか追いついてきたところでのジャンプ。

 だがここで諸星は自分の目を疑った。

 ジャンプするのはいい、だが諸星が乗るGRスープラはFR、エンジンの重さはごまかせない以上わずかに前に傾いていく。

 だから視線が落ちる。

 FRである以上、ジャンプ中はわずかにノーズが下がる。

 だが……RX-8は違った。

 水平のまま、自分の視線より高い位置を滑るように抜けていく。

 空を飛んでいる。

 その一瞬だけ、諸星には本気でそう見えた。

 わずかな姿勢の差。だがその差が、着地後の安定と次の一手を決定的に分ける。

 RX-8は、結果として他車よりも遠くへ飛んだように見えた。

 見とれていた諸星に、次の瞬間、下から突き上げるような着地の衝撃がシート越しに伝わってくる。

 慌ててスープラの姿勢を正しながら諸星は前をにらむ。

 

――あわてるな、たかがジャンプが得意なだけだ。

――ここからは路面状況は最悪、殴り合いできる距離まで詰めてるんだ。

――泥臭いストリートレーサーの根性見せてやるよ!

 

 しかしセクター3へ入ってからの光景は諸星にとって悪夢そのものとなる。

 路面状況は最悪、どこを走っても車体が跳ねてしまい、まともにアクセルを開けられるタイミングがない、それどころか攻めずにやり過ごすのが精いっぱいである。

 だがこの状況は相手も同じであるため、ここをどういなし、向こうが跳ねてしまい晒してきた隙を突くのかが肝心なのだ。

 だが、諸星は目の前のRX-8の動きが何一つ理解できなかった。

 確かにRX-8も路面のギャップで跳ねる。

 だがその乱れはこちらの半分もかからない時間で収まり、タイヤがすぐにその役割を取り戻し、するするとこの悪い路面状況でも走っていってしまう。

 まるで見えない手が車体を優しく受け止めて地面へ下ろしてくれるように……。

 

――夢でも見てんのか?

 

 嫌悪感、気持ちが悪い。

 目の前で起こる、自分の知る挙動とはまるで噛み合わないその動きに、諸星の思考は完全に混乱していた。

 確かにダウンフォースやサスペンションの調整でこのような動きにすることはできると思う。

 だが、このセクター1からセクター2へと至るまでのRX-8の挙動から読み解くにセクター3に合わせた緩い足回りとは思えない。

 事実、ギャップでの挙動はこちらと大差ない、だがそのあとの収束が異様に速いのだ。

 

――ならダウンフォースか?

 

 諸星はそう考えるが彼の知る限り、あのような効きを発揮するような仕組みは思い当たらなかった。

 そうしてセクター3を終え、全6周のあるシーサイドダブルレーンの2週目へと突入するころには1秒未満まで追いついていたタイム差が再び広がってしまっていた。

 つまり、エマのアシストがあってようやく豪に触れられる。

ならば、諸星が前に出るにはセクター3で攻め切って次週へ望みを繋ぐしかない。

 

 

 そんな諸星の走りを配信で見ていた高橋啓介は苦言を呈した。

 

 「ダメだな、タイヤの使い方がなっちゃねぇ、こんなんじゃ最後まで持たない。予想外のハイペースってのを加味しても後ろの金髪のねーちゃんのがよっぽどうまい。同じペースでタイヤの使い方が全然違う」

 

 だが、そこまで口に出したうえで、この問題についてはすでに誰かが諸星に無線なりで伝えているだろうと啓介は結論付けた。

 だが、言葉で伝わるようなものではない、現に目の前で自分より速いやつがハイペースで逃げを決めているのだ、必死に追いついていくしかない。

 

 「まぁ諸星は運がいいな、こんな貴重な体験めったにない。参戦2戦目にしてこれだけ高度なやり取りをやらされてるんだ、あえて自力で考えるように突き放す。星馬・豪と金髪のねーちゃんにはしっかり諸星を追い詰めてもらおうじゃねーの」

 

 そうして苦戦する諸星のさらに後方では、片桐カナタとベッケンバウアーの両名にもとんでもないことが起こっていた。

 コース復帰後ベッケンバウアーは前に行くカナタの後方へ付け、アシストする行動をあえて見せていく。

 そうするとすぐさまこちらの意図を察したのかカナタはブロックモーションをやめて前への追撃を開始する。

 

――伝わったか、驚くべき理解の速さだ。

――これはウィンウィンの紳士協定だ、お手並み拝見。

――前だけを見ろ、カタギリ!

 

 追撃を開始した86号車に対してベッケンバウアーは後方につきスリップストリームを効率よく発生させ、お互いが加速するポジションを絶妙にキープする。

 目の前を行く片桐カナタは些細なミスなどすることがないというある種の信頼から来る行動だが、そのおかげでセクター1からセクター2までに、3号車大石、13号車前園と次々と攻略していく。

 そしてセクター2から3へ続くジャンプスポットを前に前年チャンピオン1号車石上が立ちふさがる。

 だが、正直言えばベッケンバウアーにとってはすでに何度も下している相手だ。

 自分一人なら攻略する方法などたやすく思い付く、だが、片桐カナタはどうクリアするのか。

 そんな興味に対し、片桐カナタはまさかのジャンプスポットで仕掛ける。

 石上に続いて突入したその瞬間、86の姿勢は僅かに軸がずれている。

 一見するとミスかと思わされるそれだったが、着地した瞬間からの動きにベッケンバウアーは納得した。

 着地後の右コーナーでアウト側から1号車へと襲い掛かる86号車、その高速ドリフトをもってコーナー出口では完全に頭を押さえていた。

 空中ですでに次のコーナーのための姿勢を作り、着地後崩していた姿勢の反動を使っての高速ドリフト。

 

――スマートではないぜ、ボクのスタイルではない

 

 だが、やってのけたうえでの結果だ、文句を言わずベッケンバウアーはアシストを続ける。

 そうこうしているうちにレースは二週目へと突入する。

 二週目へ入ったところで目の前には6号車柳田が立ちふさがる。

 スリップストリームを生かして距離を詰め、カナタが柳田に並び立つ。

 だが、柳田もコーナリングの魔術師と呼ばれている男だ、並走状態から一歩も譲らない。

 ベッケンバウアーも6号車のドライビングテクニックのうまさにおいては認めるところもあり、スリップストリームを生かしている片桐を抑え込んでいることは素直に称賛した。

 だがセクター1にはハザードゾーンがある。

 そう、ハイドロトラップだ。

 並んで突っ込んだ後86号車と6号車のリアがわずかに流れる。

 そしてハザードを抜けた瞬間のグリップ回復の速度が片桐カナタ側が上回る、車体を揺らしてしまった6号車の柳田に比べて回復が素早かったカナタが半歩前へ出た、こうなってしまえば頭を押さえられた以上柳田にできることはもうない。

 だが、後方を走るベッケンバウアーは今のリアが流れたことに関しては双方が接触を避けたフェアプレーによる産物だと見抜いていた。

 それがなければいまだに6号車は並んでいたかもしれない。

 

――MFGというカテゴリーは不思議だ。

――これに染まるとフェアプレー精神というものが喚起される。

――ボク自身はそんな甘っちょろい騎士道精神では走っていない。

――だが、目の前であれだけのパフォーマンスをされてしまうとこっちも負けずにやり返したくなるんだ。

――レーシングドライバーとしての自己顕示欲のプライドか……。

 

 二週目のジャンピングスポットが迫る中、9号車の相場がカナタの得意とするコーナーの攻め方を徹底的に潰しにかかってきていた。

 

――いいだろうカタギリ、こちらの走りを見せてやろう。前を譲れ!

 

だがそんな中カナタは自分の後方を走るベッケンバウアーからポジションを入れ替えろという要求を感じ取っていた。

 前を行く相場には悪いがここでチェンジすることでブロックをかわすことができるだろう。

 

 そして、トレインの役割が入れ替わる。

 

 

 




まだまだ続く!待て次回!

このレースの優勝者は誰になりそうですか?

  • カナタ
  • ベッケンバウアー
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