Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ―   作:Kataparuto

17 / 20
決戦前夜。
そしてとうとうあの男が……!


Act.17 二つの覚悟

 シーサイドダブルレーンが終わり、数日後。

 来たる最終戦の熱海ゴーストに備えて各々最後の準備をしている。

 それはTTF(ツチヤチューニングファクトリー)も例外ではなかった。

 シーサイドダブルレーンでの躍進、土屋式空力論の体現がなされたそれのおかげで連日取材がひっきりなしだった。

 おかげでJもそうだが土屋博士自身もてんてこ舞いな日々だったが、ようやく一息入れることができた。

 そんなTTFに豪と翼、Jそして烈のいつものメンバーに加えて今日は特別な一人が訪れていた。

 

 「これが豪のRX-8か……いいクルマだな、ちょっと座っていいか?」

 「もちろん!」

 

 そう、訪れていたのはあの藤原拓海だった。

 今は英国に籍を置きRDRSでの指導教官でもある拓海だが、とある事情で一時的に帰国しており、その滞在日程は熱海ゴーストの開催にちょうど重なっていた。

 その比較的余裕のある日取りの中でせっかくなのでTTFまで足を運んでいるのだ。

 

 「……レイアウトはほとんど市販車のままなんだな」

 

 興味深そうにRX-8の中を検分する拓海に豪が答える。

 

 「まぁな、でも多分MFGの本質はそこじゃねーだろ?」

 「そうだな……」

 

 そこでRX-8の見学を切り上げた拓海は豪を連れ立ってTTFのファクトリー内の片隅に用意されている椅子へ腰かけた。

 

 「んで、豪、何か話したそうにしてたがなんかあったか?」

 「んえ!?」

 

 Jが入れてくれたコーヒーに口をつけていた豪が思わずせき込む。

 

 「な、なんだよ藪から棒に」

 「これでも一年間コーチしてたんだ、お前がなんか言いたそうな雰囲気ぐらいわかるさ」

 「ったくかなわねぇな……。といってもほとんど答えが出てるんだけどさ。ようやくF1のシートが決まって、来年からF1なんだ、だからMFGもこれで終わり、だけど、カナタとは次が本当の決着だと思うんだ」

 

 豪の独白に近い話に拓海は黙って耳を傾けている。

 

 「この1年の生活費とレースのカンを鈍らせたくなかったから参戦したってのが本音だしな、だからこそ、次のレース、ほんの少しだけカナタに花を持たせてやりたい気もするんだ、でもさ……」

 「ダメだな、それは違うぞ。カナタが超えるべきは一番速いお前だ、全力で戦った結果なら勝っても負けてもカナタは納得する。なまじ手を抜いたらバレバレだぞ、それこそ悔いになる」

 

 そこで区切った拓海は豪を真っすぐに見つめる。

 

 「問題はその先だ。F1は、今までみたいに勢いだけじゃ立っていられない。速いやつしかいない場所で、それでも前に出る覚悟はあるか?」

 

 拓海言葉は重たいものだった。

 彼自身、単身での渡英からのWRCへの挑戦からの挫折、選手生命の終わりそこからの復帰と長く険しい道のりを歩んできた。

 栄光だけでない人生がこれから豪にも続くことを拓海は伝えていた。

だが、豪は怯まなかった、真っすぐに、いつでも突き進んできた男だ。

 

 「大丈夫さコーチ。世界一にだってなってやるさ。それにきっと……カナタが来るからな」

 「そうか……」

 

 ここでいったん拓海は言葉を切った。

 そしてしみじみと両手で包むように持っていたマグカップの中で揺れる黒い液面を見た。

 

 「そうだな、あいつはF1まで絶対に行くな……」

 

 そうして顔を上げた拓海は自信満々な豪に言う。

 

 「なら待っててやってくれるか?」

 

 その言葉に豪も頷き返し、少年のころと一緒のサムズアップを拓海に向けた。

 

 「もちろんだぜ、あいつは俺の兄弟弟子なんだ、F1でもやりあいたい相手さ」

 「案外チームメイトだったりしてな」

 「それならそれでほぼ負けなしになるだけだな!」

 

 あっけらかんと言い放つ豪に拓海はふと笑みをこぼす。

 そうだ、星馬・豪という男はこういうものだ。

 いつだって全力全開、真っすぐに突き抜ける。

 カナタがこのMFGで、そんな男を越えるべき相手として走れていることを、拓海は改めてよかったと思っていた。

 そして同時に、誰かに教えるということの一つの結実をここに見た気がして、あまり順風満帆ではなかった彼の人生の中で、何か救いのようなものを感じていた。

 

 

 一方そのころ、カナタもまたチーム片桐のメンバーで緒方自動車に集まっていた。

 

 「RX-8-TTFか……まさか空力であのようなチューニングアプローチがあるとは思わなかったな、こちらが足の魔術師なら、向こうは風の細工師だな……」

 

 レース映像を振り返りながら奥山が低く呟いた。

 その意見にカナタも緒方も納得するしかなかった。

 改めてJが記した土屋式空力論の概要を英語電子版で読み直したカナタだったが、正直なところ専門用語のオンパレードであまり理解はできなかった。

 ただ、風を味方につけるというその発想には重い実感があった。

 

 「スリップストリームのトラップは見事なものです。本来あんなに使いやすいスポットを逃すドライバーなんていません。でもそこにいるかぎり、よほど集中していなければこちらのクルマに起きている変化を掴めない。そのままいつも通りに攻めてしまって、後れを取る。抜けると思っていても何らかの破綻が起きて抜けない。そうして心理的にも追い込まれていく、あれほど恐ろしいものはないでしょう」

 「実際どうだったカナタ」

 

 緒方がカナタに促す。

 それに頷き返してカナタは続けた。

 

 「ボクも気づいていないときは本当に抜けないと感じて、かなり焦りました。ただ、次はもう大丈夫です、トリックがわかれば逆にあの範囲の広いスリップストリームは非常に有効です、他のドライバーはまだ気づいてないでしょう」

 「諸星はどうだ?ずっと後ろだったじゃないか」

 「あくまで推測ですが、いきなり豪さんの後ろに放り出されて、あのエマから後方プッシュをもらってがむしゃらに走ってた以上この微細な変化には気づく暇がなかったと思います」

 「そうか……、奥山さん、何かできることはないんですか?」

 

 緒方がすがるように奥山のほうを見る。

 正直なところここまでの戦いで86のアップデートはほぼ最終段階まで到達している。

 コースに合わせた調整をするというのができることのすべてであった。

 そんな中で奥山はまずはカナタの意見を聞くことにした。

 

 「……まぁ相手のことはわかった、カナタ君、何か意見はあるかい?」

 「そうですね……、馬力はバランスを考えてもこのままで問題ないです。トップスピードも次のコースでは要らないのでギア比、特にファイナルを変えて接近させてください」

 

 妥当な要望、次の熱海ゴーストはほぼ市街地を走るテクニカルだ、トップスピードよりもとにかく加速力だ。

 奥山としてもカナタの意見に納得というところで、カナタがさらに続けた。

 

 「それと……これは余談なんですが、MFGのタイヤには不思議な特性があります、タテとヨコ、それぞれのグリップでヨコ方向が長持ちするように感じました。2速を失っていた真鶴の時にギアを引っ張って負担をかけていた時も予想以上に食いつく時間が長かったと思います、驚異的な耐久力です。なので、ビッグパワーのクルマでストップアンドゴーをしてしまうととても不利になります。MFG専用タイヤはそういうスタイルをドライバーに要求していません」

 

 カナタの考察に緒方も奥山も感心すると同時に確認をした。

 

 「このことに気づいているほかのドライバーはいるかい?」

 「豪さんと、ミスターベッケンバウアー、あとミスターサワタリの3人は理解していると思います、そのような走り方をしているように思えます」

 「なるほどな……わかった、カナタ君の要望は全部盛り込んだうえで今のタイヤ特性の話に合った調整をしよう、空力周りは……生兵法じゃ本家にはかなうまい、基礎理論と現在の調整で行こう。そして、表彰台の真ん中を取りに行くぞ」

 「YES!勝ちたいですミスターオクヤマ」

 

 MFG最終戦、熱海ゴースト。

 星馬・豪と片桐カナタ、どちらにとっても最後のレース。

 そのボルテージは、静かに、しかし確実に燃え上がっていた。

 藤原拓海の弟子同士がついに雌雄を決する、その時が近づいている。

 




ってことで本編では主役を食わないように控えていたあの男が登場です。
いろんな作品で続き物の前回主人公の扱いというのはなかなか難しいものです。
これにおいてMFGはほぼ出さないというスタンスは見事なものだと思います。
しかし、こちとら二次創作、その辺は好きにやって見せるさ!

最終戦どちらが勝つと思いますか?

  • 星馬・豪
  • 片桐カナタ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。