Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ―   作:Kataparuto

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前回のアンケート結果が拮抗してて感慨深いですね。
自己満足のクロスながら、どちらも期待してくれているというのは、このクロスを始めた甲斐があったと感じられて嬉しいです。

では本編どうぞ


Act.18 開戦、熱海ゴースト

 熱海ゴースト。

 MFG、今シーズン最後を彩る決戦の舞台。

 その決戦の火ぶたが、今まさに切られようとしていた。

 

 『全世界のMFGファンの皆様、お待たせしました!! 最終戦、熱海ゴーストです! 思えば今年のMFGは波乱続き、ルーキーの台頭から上位陣の大混乱、波瀾に次ぐ波乱となった今シーズン、そのすべてに決着をつける最後の1戦!! 誰が勝ってもおかしくない、この超過密バトルを見逃すな!! まもなくレース開始です!!』

 

 前口上から吠えまくる田中に、実況席の熱量はすでに最高潮だった。

 最後まで声がもつのかと心配になるほどの張り切りぶりだが、だからこそこの最終戦にはふさわしいのだろう。

 注目のスターティンググリッド。

 ポールポジションは、まさかの諸星瀬名。

 2番手に星馬・豪、3番手に片桐カナタ、4番手に沢渡光輝。

 そして……、5番手、ミハエル・ベッケンバウアー。

 

 予選で絶対王者がここまで沈む。

 それ自体が異常事態だった。

 だが同時に、この位置に王者がいるという事実そのものが、前を行くドライバーたちは誰一人として油断していない。

 その位置で終わるはずがないとどこか確信があったためだ。

 

 『それでは今日の解説陣を紹介しましょう!! まずはこの方! 鋭い勝負勘と攻めの走りで数々の名勝負を生んだ男、今は実業家としても活躍されている……高橋啓介さんです!!』

 『おう、どうも。最終戦だ、派手なのを期待してるぜ』

 『ありがとうございます!! そして続いては、このレースを語る上で外せない人物! 片桐カナタ、そして星馬・豪、その二人の走りに大きな影響を与えた男……藤原拓海さんです!!』

 『あー……どうも。こういうの、あんまり慣れてなくて……』

 『何しけた面してんだよ。お前の走りを見て育ったような連中が走るんだ、シャキッとしろ』

 『……そうですね。今日はよろしくお願いします』

 『はい!! そして最後はこの方! シーサイドダブルレーンでその真価を見せた土屋式空力論、その中心人物……土屋博嗣さんです!!』

 『どうも。走りの感覚はお二人に任せるとして、僕はクルマが空気をどう使っているか、そのあたりを分かりやすく話せればと思うよ』

 『心強いお言葉です!! この豪華解説陣とともにお届けする最終戦、熱海ゴースト!! スタートまで今しばらくお待ちください! ここでMFG編集部厳選、今シーズンの名場面を振り返ってみましょう!!』

 

 スタート前、パドックにて。

 熱こもる実況とは打って変わってひやりとした緊張感が漂うそこでは、各チームのメカニックが最終点検をし、ドライバーたちはただこの先のレースに集中している。

 そんな中で星馬・豪と片桐カナタは向かい合っていた。

 

 「MFGの謎は解けたか?」

 「えぇ、タイヤですよね」

 

 カナタの返事に豪は満足そうに頷いた。

 

 「上等。とりあえずカナタ、俺は来年にはもうF1だ、MFGには居なくなる、お前はどうなんだ?」

 「ボクもです。 F1……にはまだですが、必ず同じ舞台で戦えるよう努力します。待っていてください」

 「おうさ。まぁ、このレース、俺が勝たせてもらうけどな」

 「いつもそういいますが、もう空力トラップは通用しませんよ?今度はボクが勝ちます」

 「へ、言ってろ」

 

 静かな闘志のぶつかり合い、今までよりもずっと濃密な本気が渦巻く。

 

 「さぁ、やろうぜ」

 「はい……!」

 

 そしてお互いがそれぞれの愛車、RX-8、トヨタ86を見やりこぶしを突き合わせた。

 

 『一度ゲートを通り過ぎて神フィフティーン、エースドライバーたちの隊列はUターンしてスターティングゲートへ向かいます。 エンジェルスが整列するその前を、ポールポジションの諸星瀬名がゆっくりと通過していく。 その後ろ、2番グリッドの88号車星馬・豪、86号車片桐カナタと続いていきます……。 さぁ、最後尾がゲートを抜ける……!! シグナルチェンジ!! レーススタート!!』

 

 熱海に響き渡るエキゾーストノートの大合唱、どう猛な野獣の群れが野に放たれる。

 

 『さぁこれといったトラブルもなくスターティンググリッドそのままにレースは進んでいきます!! 』

 

 田中が吠えるが解説役は意外なほど冷静だった。

 

 『まぁ、まだ序盤だからな、タイヤもブレーキも温まってない以上攻めるやつはそうそういないさ』

 『最初はヒルクライムだから、上位陣はしばらく動かないんじゃないかな……ただ、中盤は結構動きそうな気配がするような……?』

 

 啓介の言葉につながるように拓海も上位陣の冷静さを見ていた。

 だが、中盤以降に限っては少しでも前に行きたいという心理が出る、そのため小競り合いが続いている。

 

 『さぁ、先頭集団が最も標高の高い地点を抜けていく!それぞれのクルマとドライバーの属性が明確に表れるところが熱海ゴーストの見どころでもあります!! ダウンヒルを得意とするドライバー、特に片桐カナタや星馬・豪選手あたりが頭角を表してくるかもしれません!!』

 『とはいえここで焦って前に出るとそれはそれで後方からのプレッシャーでドライビングを乱される可能性がある以上……プレッシャーは与えつつの様子見、が一番だろうよ』

 

 啓介が言うようにまだレースは1周目、スプリントをかけるにせよ最後のためのタイヤを温存する必要がある以上、不必要なバトルは避ける方が賢明だった。

 

 『そういえば、素人質問で恐縮なんだが、この熱海ゴーストのコースは別名熱海オフロードとも呼ばれてるらしいんだけどこれは何でだい?』

 『あぁ。土屋のおっさんは知らなかったか。ここは路面状況がとにかく悪いんだ、オフロードコース並みにクルマが跳ねまわって大暴れするもんでね、そう呼ばれてる』

 

 土屋博士の質問に啓介が答えた。

 そう、この熱海ゴーストの路面状況は相当悪い、ゆえにドライバーは強い緊張を強いられ集中力を維持することが難しいコースでもある。

 だが、足の魔術師が仕上げた片桐カナタの86、そして、風の細工師が仕上げたRX-8-TTFの両者にとっては何らディスアドバンテージにならない。

 しかしそれをもってしてもなお、それぞれのドライバーがけん制しあい、複雑に絡み合っているこの状況では突出するための力にはなりえない。

 たった一度、誰かが引き金を引いた瞬間のその先、限界領域でその力は発揮されるだろう。

 その引き金を引いたのは……。

 

 『あぁっと!ここで4号車沢渡が86号車片桐カナタに仕掛けるぅ!!』

 『よく見てるな……、86号車の嫌なところを、きっちりついてきやがった』

 『嫌なところ、と言いますと?』

 『86のパワートレインだよ。こういうテンポが空く連続コーナーだと、3速の吹け切りと4速に上げる判断がかみ合わねぇ瞬間がある。沢渡はそこを狙ったんだよ』

 

 86号車の前に出る4号車を見送りカナタはその腕前を素直に称賛する。

 

――見事ですミスターサワタリ、エイトシックスの弱点を見逃さない……しかし、その先の風の聖域は一筋縄ではいきません。

 

 86号車をパスした4号車は、同じようなパワートレイン設定になっているRX-8-TTFを続けざまに攻略するために仕掛けていく。

 だが……。

 

 『あぁっと!?続けて仕掛けた4号車が明らかなオーバースピード!!アウト側に膨らんでしまった!!』

 

 スリップストリームを利用しての再加速からのオーバーテイク。

 ブレーキング勝負に持ち込んでからのアタックだったが沢渡が不可解な減速不足でオーバースピード、慌てて調整するがそのミスを見逃さなかったカナタがイン側へと滑り込んできた。

 たった1つのコーナーを終えたところで再び状況が元に戻る。

 

 『あんなところでミスするドライバーじゃねぇと思うんだが……、藤原、どう思う?』

 『俺もそう思います、少なくともこのレースの予選3位にいるようなドライバーがあんなイージーミスはちょっと考えられないですね……』

 『それについてだが、僕からいいかな?』

 

 歴戦の二人が首をかしげる中、土屋博士が手を上げる。

 

 『少し推論も入るけど、あれはRX-8-TTFの真後ろだから起きたミスだと思う』

 『どういうことですか!?』

 『RX-8-TTFの後方は、普通のクルマの後ろとは違うんだ。後続車は思った以上にダウンフォースを失う。普段通りの感覚でブレーキングすると、制動が足りなくなって……。まぁ詳しい話はJ君の本の5章あたりを読んでくれればいいかな』

 『だからか。 前回のレースで片桐カナタがあんな大げさなアタックで最後追い上げたのは、その影響から逃れるためだったか……』

 『それを踏まえて見ると、このレースでは影響を受けながらも翻弄されていない片桐カナタ君は、このトラップにすでに気づいているということだね。むしろ、自分に有利な形で使っているようにも見える。すごいドライバーだよ』

 

 解説席が感心するその間にも、星馬・豪は前を行く諸星瀬名の攻略にかかっていた。

 諸星のブロッキングは見事だった。イン側を必要なだけ締め、アウト側にも意識を残し、隙すら残さない。

 だが、締っているはずのイン側を、豪のRX-8がなぜかすり抜けていく。

 そしてその後ろを、86までもが当然のように続いた。

 

――どこを走ってるんだ!?

 

 一台分の余地すらないはずのラインを抜けていく二台。

 その光景に諸星は一瞬動揺し、カナタまでも見送る形になった。

 

 『ぬ、抜いたぁぁぁぁ!?』

 『溝跨ぎか……懐かしいな。 栃木の時にやったっけ』

 

 田中が絶叫し、拓海はどこか感慨深げに頷く。

 視線で促されるまま、拓海が続けた。

 

 『あれは荷重移動の技です。 左コーナーでこう、グッとアクセルを入れて、右後ろにしっかり荷重を乗せる。 そうすると左前が浮いて、ああいうラインが使える。……ただ、加速を続けていないと危ない。 カナタは豪が抜けることまで読んで仕掛けてますね』

 『カナタ君は藤原君譲りの純粋なドライビングテクニックだろうね。 ただ、豪君は少し違う。 たぶん左側のVGJ出力をあえて落として、左右の荷重差を作っている。 ドライバーの技術と、マシン側の制御。 その両方から同じ現象に辿り着いているのは実に興味深いよ』

 

 そこへ啓介が口を挟む。

 

 『ま、あんまり解説しすぎても野暮だけどな。 良いバトルだったよ。 ああいうところで出るのは経験の差だ。 諸星はまだ浅い。少しの想定外で体が止まる。 けど豪とカナタは違う。 ああいう曲芸まがいでも、平然とやれるだけの場数があるんだろうぜ』

 

 僅か一瞬で決まった優劣。

 だが、最終戦熱海ゴーストは、それだけで逃げ切れるほど甘いコースではない。

 本当の勝負は、まだこれからだった。

 




まだまだ続く!
ただ、お知らせですが、次回以降、引っ越しなどの環境変化が重なりますので、どうしてもパソコンに向き合う時間が減ります。
できるだけ早くお届けしたいと思いますが
少し気長にお待ちいただければと思います。
間違いなくシーズン5よりは先に投稿したいと思いますので……
ではどうぞよろしくお願いします
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