Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ― 作:Kataparuto
ということで芦ノ湖GT予選です。
豪主幹でビクトリーズからとある人物が合流します。
MFG第1戦、小田原パイクスピークも終わり、次のレースへ向けて各チームが準備を始めていた。
片桐カナタは足の魔術師と呼ばれる、足回りのチューニングにおいて最高峰レベルのチューナーへ車を持ち込むそうだ。
兄弟弟子である星馬・豪がそのことを知ったのは一本の電話からだった。
曰く、MFGの秘密を解き明かすのにぜひ組ませてほしい、ただし、レースでは容赦なしのガチンコ勝負という当初の話の通りだった。
だからこそ、次のレースに向けたチューニング方向を開示してきたのだ。
豪としてはその話は快諾、お互いのコースやレギュレーションに対する内容の意見交換を重ねることとなる。
その中で開示された86の改造方針。
先にパワーではなくその受け皿となる足回りを完璧に仕上げる、そんな段階的な改造プランに豪としては納得する。
カナタの走りはタイヤのグリップを余すところなく使い切ることでタイムを出す。
そのためには姿勢を維持したまま走れる、粘り強い強力な足回りが必要になる。
それが実現できるのであればこの上ない武器となるだろう。
そして何より、安易に馬力を上げるという選択肢を選ばないことに豪は共感していた。
車の前に自分のテクニックでどうにかしてやろうという気概、これは真に速い走り屋の素質だ。
そうして、ぎりぎりまで絞り出したうえでパワーを入れることで、車の隅々まで知り尽くしたうえで次の段階へ行ける。
果たして、片桐カナタが強力な足回りを手に入れたとき、どれだけ速くなるのか、星馬・豪は、楽しみで仕方ないとともに、わずかな畏怖も感じ取っていた。
眠っている闘争心を呼び起こし、それに応えられるマシンに86が変わろうとしている。
あの天才が今はリミッターで押さえつけられているその走りを解放した時、果たして自分が互角に戦えるのか、それは豪自身にもいまだわからなかった。
「ってことで、よろしく頼むぜ、J」
ライバルが強化してくるなら自分ももちろん強化する必要がある。
そこで豪がRX-8を持ち込んだのは土屋チューニングファクトリー、通称TTFと呼ばれる場所だった。
ここはWGPで名を挙げた土屋研究所を母体として、ミニ四駆ではなく実車のほうでの理論証明を目指す実験機関だ。
その工場内は思っていたよりも静かだった。
実験に使われているのだろう、一見きれいだが様々な改造を検証されたであろう車両が1台、その近くには整備に必要な工具類が整然と並んでおり秩序だった印象だった。
だが、そこに冷たさはなく、逆にやる気の熱があふれかえっており、作業を続けるスタッフたちの表情には曇りなどない。豪はその熱に、自分のRX-8を任せて間違いないと確信した。
そんなやる気に満ちたTTF初代所長はTRFビクトリーズであらゆる局面で安定した走行を見せたEVOを操ったレーサー、Jである。
豪がドライバーとしてコーチであった拓海の弟子であるなら、Jは研究者として土屋博士の弟子の一人だ。
ぶしつけにクルマを持ち込んできた豪にJは笑顔で答え、頷いた。
「うん、任せておいて。MFGでうちの研究結果が通用するかいい腕試しになるよ。それで、豪君、チューニングプランはあるの?」
「あぁ、それなんだけど、この中古のRX-8、走ってるとバタつくんだよ、アライメントもまともだったし、事故もしてないんだけどよ」
話しながらRX-8はTTFのスタッフの手によって作業台へ乗せられていく。
それを横目に歩きながら二人は話をつづけた。
「豪君の走りが悪いってことはないだろうから……高速域で顕著に症状がでる?」
「ああ、コーナーでもストレートでも、速度が上がってくるとだめだな。だから前のレースももう一歩踏み込めなかったんだ」
「わかった、とりあえず全部見てみる、適当に待ってて」
「いや、俺も一緒に見るぜ」
そうして、TTFにあるすべての機材を使いRX-8の検査を進めていく。
その作業は深夜まで及び、点検項目が終わるころには空が白み始めていた。
「ふぅ……何とか洗い出せたね」
「まぁ中古のRX-8ならこれ以上ないって感じだな。エンジン回りは丁寧にメンテナンスしててくれててよかったぜ」
「とりあえず僕の見解なんだけど、バタつきの原因は空力周りと、そのエンジンにあると思う」
そう言いながらJは上がってきた検査結果や数字データに目を走らせる。
「特にレース環境でのエンジン使用に対して冷却系が貧弱なんだ、だからレース後半は熱の蓄積からECUがオーバーヒートを抑制しようとして、エンジンパワーを発揮しきれてなかった。この微妙な状況が最終的な回転数のばらつきを生んでしまって、豪君が言うバタついたっていう印象につながったんだよ」
そういいながらJが指でなぞったグラフデータには彼が言うように一定であるはずの回転数にわずかな揺らぎが示されていた。
それは故障などではなくJが言う通りの状況で生み出された現時点でのRX-8の限界の証明であった。
「いわれてみると確かに、そんな感じだったな」
そういう豪に対してJも微細レベルで感知するのは困難なそのばらつきを、体感として察知して、無理せずゴールする方向へ走らせ方を変えた豪の手腕に内心驚いている。
ただ、それはあえて顔に出さず、さらさらと手元の見積書へ必要事項を書き出していくJ。
さっと目を通し直し、豪へとそれを渡す。
「まずは冷却系、ラジエータの大容量化とオイルクーラーの効率化、ECUもいじっておきたいかな。空力関係も冷却系への空気誘導もあるから一緒にセットアップするけど、これはあくまで土台作り、今後MFGを最後まで戦うにあたってパワーを求めることになると思うけどそれを受け止める受け皿をここで整える。足回りは前オーナーのおかげでブレーキもスポーツ仕様でいったんこのままで大丈夫」
Jからの提案に豪は内心さすがと褒める。
安易にエンジンスペックでカバーする前にクルマそのものが、高速走行へ耐えられるように整えるというのだ。
この辺りはモーターパワーで差がつきにくかったWGPのころの経験が生きているのだろう。
「J、ここで土台作りなんて言うなら今後もやる気ある感じだな?」
「もちろん。MFGはチューナーショップの名前を上げるにもいい舞台なんだ。それに、また豪君と一緒にレースに参加できるっていうならそれだけで楽しいよ」
「うれしいこと言ってくれるじゃねーか。じゃあ、最後まで頼むぜ、J!」
がっしりと握手を交わした豪とJ。
この二人の協力でかつてのビクトリーズが再び表舞台へと羽ばたこうとしていた。
そうして各々が時間を過ごしていく中、MFG第二戦の予選が始まる。
いくつかのタイムが上がり本戦の順位が作られていく中で、カナタ、そして豪のタイムアタックの日が来た。
「先行はカナタからか。ひっひっひ、お前の走りで芦ノ湖の走り方勉強させてもらうぜ?」
「豪さん……ちょっと大人げないです」
「レースなんて後追い有利なんだよ、俺より先にゴールした以上、必要経費ってやつだよ」
「わかりました、せいぜい抜かれないように走ります」
「おら、そろそろ出番だ、やってこい!」
背中をたたいてカナタをタイムアタックへ送り出した豪は、黙ってカナタのアタックを見届けることにした、豪はここから何台か後ろのスタートで、確実にカナタがゴールした後にアタックすることになっている。
運営的にまた同時に注目フラグを立てられたらたまったもんじゃないということだろう。
ただ、日を分けなかったのはライバル同士での戦いを一刻も早く視聴者に届けたいという思惑も見える。
「ま、運営の都合は知ったこっちゃないけど、せいぜい実況の喉を枯らせてやろうじゃねぇか」
豪の予想通り、カナタの走りは一段と速くなっていた。
ステアリングの切れ味は鋭くなり、ブレーキングポイントはより深くなり、前回の走りとはまるで違っていた。
曰く馬力はいじってないらしいが、その足回りが完璧にカナタにフィットしている。
たぶん、彼が操りたい走りがすべて可能な車になっているのだろう。
この芦ノ湖GTにあるデスエリア、万年火山灰が取り除かれることなく常に降り積もるエリアでその真価が発揮される。
トラクションコントロールを切った状態で、滑る路面に対して自分から滑らせて制御下においてしまうという離れ業。
藤原コーチから学んだ、豪の兄である烈がWGPで得意としていた走り方で、予想できない滑りを起こす前に自分の制御で滑らせてそれをタイムにつなげる。
当然のように注目フラグが立つが、ラリーストじみたドリフトで峠を駆け抜けていくその様子にほとんどのドライバーがどよめきを上げていた。
なぜあれが速いというのか、まともに速度を出せていないように見えるあの走りがどうして?
だが、一部の上位陣、そして豪自身、あの場面ではあれが速いと確信している。
そしてカナタの芦ノ湖GTでの予選の結果は、最終的に予選10位となる走りだった。
たかが10位、だが、その結果は正直言えばありえない順位である。
なぜなら86は一切馬力に手を入れていない、第1戦から変わらないMFGという舞台では相当に非力なマシンなのだから。
片桐カナタに足回りという、骨子を入れただけでこれだけ早くなる、その事実を豪は突き付けられた。しかし、その走りを見た豪は非常に高ぶっていた。
あの86でこの順位にいるならば、自分もできなければいけない。
幸いコースの攻略法はカナタが見せてくれた、後は自分自身のカンに従えば結果は出るだろう。
「よし、行ってくるぜJ!」
「テレメトリーはこっちで見ておくよ、違和感があったら教えて」
「了解!」
今日のセコンドブースはJが入る、烈は仕事、翼は学校のためだ。
こうして豪のタイムアタックが始まった。
ただ、このタイムアタック、カナタより速く走るという題目を立てているものの、豪自身としてJが手掛けたRX-8がどれだけ自分に応えてくれるのか試したくて仕方なかった。
カナタの86と一緒で馬力は変えていない、せいぜいエンジンのパワーを使い切れるようにし、空力を整え安定性を手に入れただけだ。
だが、それだけでどれほど変わるのか……。
『さぁ、片桐カナタに続き、この男!!星馬・豪がここ芦ノ湖GTへ挑む!!車は変わらずRX-8!小田原パイクスピークでの片桐カナタとのデッドヒートが記憶に新しい彼ですが、今回のコースではどうなのか!』
緩やかな登りが続く芦ノ湖GTの序盤、だからこそ豪は一切アクセルを緩めず突っ込んでいく。
「はっはぁ!!!踏み込んでもビクともしねぇ!」
甲高いロータリーの音、そこから生み出されるパワーは何一つ揺らぎなくクルマを加速させ、走りに一切の迷いを生まない状態に豪は歓喜を上げる。
第1チェックポイントは暫定12位とでる、だが、それを意に介さず豪は自分の走りをRX-8へぶつけていく。
今のお前ならこれだけ走れるだろうという絶対的な信頼、Jが仕上げたRX-8にもはや不安要素はない。
物足りない部分はあるがそれはこれからだ、今はただ、Jのチューニング、土屋博士が培ってきた空力という力学の証明をここで見せつけるのだ。
『さぁ注目のデスエリア攻略!片桐カナタはラリーストのような華麗なドリフトで駆け抜けていったエリアだが果たして星馬・豪はどうクリアしていくのか!』
「行くぜ、マグナム!!」
突入するRX-8のタイヤから急激に摩擦が消滅していく感触。
その兆候をとらえるや否や、豪はドリフトを選択した。
一度でもラインを外してしまえば修正は効かないだろう。
だが、そこに恐怖はあるが、迷いはなかった、自分のやりたいことを今のRX-8なら応えてくれると信じていたから。
そして繰り出したドリフトは、片桐カナタのほとんどカウンターを必要としない藤原拓海譲りのゼロカウンタードリフトではなく、彼がミニ四駆時代にやっていたパワフルなドリフト、大げさな動きでコーナーを攻略していく。
しかしそのパワフルさは先ほどのカナタと違い速い脱出速度の速さを生み出している。
つまり、このレースでカナタよりもう少しタイヤを使うという選択を豪はしたのだ。
別段本戦でタイヤの状態を引き継ぐわけではないし、カナタもこのタイムアタックで十分にタイヤを使っている。
だが、豪がここで攻め込んでいるのは、片桐カナタはこのセクターでの走りに今回は全力を入れているということを見抜いているからだ。
他のセクターも彼の持てる全力ではあるが、さらに踏み込んだ領域には突っ込んでいない。
基本はテクニカルな今回のコース、全域でタイヤが苛め抜かれる、だからこそ使いどころだ。
大排気量の他のクルマたちはほとんどその馬力を使い切ることはない。
そして、大排気量だからこそピーキーなアクセル特性から今回のデスエリアではスリップを恐れて必ずタイムを落とすドライバーが出てくる。
ならばそこを全力で突っ切ることで大きなアドバンテージを作れると豪は判断していた。
ただ、デスエリアでタイヤを使うということはほかのセクターでは消耗を最小限に抑える繊細な走りが必要になる。
こうして星馬・豪の最終順位はカナタを上回り10位、カナタを11位へと繰り下げるという結果に終わる。
カナタがプッシュしていたエリアを上回るペースで駆け抜けたことが要因であった。
だが、これは同時に、星馬・豪というドライバーのタイヤマネジメントが超一流の領域にある証明でもあった。
そうして本戦出場を決めた豪とカナタだったが、豪はただ一人予感していた。
この本戦、何か荒れることが起こる、絶対に楽しいことになると……。
ということでJが登場、リターンレーサーズではアイドルになってましたが、WGPを藤原拓海と駆け抜け、松本という優秀なメカニックが近くにいる環境になったので実車側に縁ができたということでTTF初代所長という肩書にしてみました。
Jらしくていいかなと思ってます。
ではまた次回、芦ノ湖GT本戦で!
TTF並びにJの起用はよかったですか?
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OK
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ダメ