Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ― 作:Kataparuto
果たしてどういう決着になるのか、ぜひお楽しみに
いつかこんな深い霧を白い闇と表現する人がいた。
まったくもってその通りだとカナタは思いながら、安全のために減速を始めた13号車を横目に見ながら霧へ突入していく。
そんな状況でも目の前の88号車、RX-8の星馬豪は、まったくもって動揺する様子もない。
片桐カナタは歯噛みした。
さすがに前回の霧の中でもペースダウンしなかった相手とはいえ、路面状況との合わせ技で自分と互角の走りをしてくるとは。
――いや違う……、豪さんのほうがわずかに速い!?
『88号車と……86号車もだ!とんでもないことになっているぅ!!!霧のゾーンへ突入するために減速した13号車NSXの一瞬のスキをついてオーバーテイク!!13号車前園はその二台の異常なハイペースについていけない!!』
『86号車に至ってはあの区間タイムを更新したドリフトも見せています、トリハダが立ちますね、このような伏線があったとは……!』
『爆発的異常事態勃発ぅ!!!2リッターNAのトヨタ86GTが!!その前にいるわずか1.3LロータリーNAであるRX-8が!!霧の中で進撃する!!』
13号車を抜き去ったカナタだったが、次の2号車、フェラーリを見据える。
『ブースよりカナタへ!1秒ジャスト!』
「ラジャー……!」
霧の中で全速力を出すカナタ。
自分の瞬間記憶能力で得た公式から配信されているコースのデモ走行映像と照らし合わせて走るため、コースそのものに心配は少ない。
それに、目の前にいるRX-8がペースを作ってくれているのと挙動を見て動きを予測できることも負担軽減になっていた。
もし単独で走っていたら今のペースより少し落ちていただろう。
しかしこのハイペース、自分は元よりどうして星馬豪はできるのだろうか。
彼自身に自分と似たような瞬間記憶能力があるとは聞いたことがない。
じゃあ、何があれほどのスピードを生み出しているのか。
何の迷いもない走りを……!
瞬間、予想していたタイミングで、霧の中から2号車の真っ赤なフェラーリの姿が視界に飛び込んでくる。
姿を見たカナタは素早くラインを決定して霧の中でかなり速度を落としていた2号車をオーバーテイク。
が、ここでわずかに前のRX-8と差が開く。
秒数にしてコンマ以下、だがその差が出た理由は単純だ。
カナタは視認してからラインを決定した、だが、星馬豪はまるで最初から見えていたかのように、合流する時点でラインが決定していたように見えた。
ほんのわずかなハンドル操作の差で距離が開いたのだ。
――いけない、今はそんなトリックを考えては、速く走れるなら利用するまでです!
しかし謎について考えている暇はない。
視界が真っ白なのには変わりない、その状況で集中力を切らしてしまえば追いつくも何もない。
負担を減らしてくれる88号車がいるならそれを使い、出てから勝負をかけるべきだ。
「……とかなんとか考えてんだろうなぁカナタのやつ」
86をけん引する星馬豪は後方見ずにつぶやく。
「とはいえ、トップグループとのタイム差がつきすぎたな、しゃーね、こっからは一騎打ちだカナタ!」
この先は現れる対戦車両の存在は気にする必要はない。
蹴り飛ばすように豪はアクセルを踏みぬいた。
『テレメトリー問題なし。それにしても、豪君、よくそんなところで飛ばせるね』
「へっ、見えてっからな」
『見えてる?』
「あぁ、昔、マグナムを走らせたときみてーに、真上からコースやらクルマやら全部な。だからこの霧の中でも特に不安はねぇよ」
『まぁ、昔から豪君はいろいろすごかったからね、そういうものかも。それはそれとして、無茶しないでよ、そろそろ霧を抜ける。後続車……2号車とは10秒。86とは1秒』
「OKだ!いくぜぇ!!マグナム!!!」
いつも頼りになる相棒に名付ける名前を改めて宣言し豪はヘッドライトを消した。
――なっ!?
突如目の前を走っていたRX-8のテールランプが消えた。
思ってもなかった動作に思わず空白が生まれる。
そのわずかな空白のうちに弾かれるように加速したRX-8との車間距離が開き、ブレーキランプも見えない距離に離れてしまう。
慌てて、ついていこうとするが、冷静に脳内のイメージを今のRX-8の速度感に調整する。
カナタはあくまで脳内イメージと、自分の走りを照らし合わせているだけだ、ずれがあればそれこそクルマを壊すような出来事につながりかねない。
――やはり何かが違う、似たように霧の中でもこのペースを作れるけど……!
何より致命的だったのはヘッドライトと連動するテールランプを消されたことだった。
今まで目の前にいたペースメーカーの消滅により、その車間距離の把握が困難になったのだ。
ただ、相手もこちらにぶつけてくるようなミスはしないという信頼はある、だが今逃げるのか、それとも維持しているのかの判断が一切つかない。
慌てて緒方に88号車のタイム差を読み上げてもらうが、その秒数は開くときもあれば縮まることもある。
まだ一回しか一緒に走っていないが、こういった心理戦もできるのかと改めてそのテクニックとプロドライバーとしての経験を見せつけてくる。
だが、どういう手でこちらの位置を把握してるにせよ、攻め手を緩めれば一気に突き放される、霧を抜けたときに後れを取っていれば星馬豪に勝つことはできない。
――ここが、ボクたちのバトルゾーンってことですね……!
何度目かのコーナーを目いっぱいの速度で抜けカナタは霧の向こうにいるRX-8をにらみつける
――今日のレースでボクが持っている100%を振り絞るタイミングは……NOW!!
そしてカナタはターゲットをRX-8へ絞る、後方の2号車はもはや最終局面に絡むかどうかだ。
――GO!エイトシックス!!!
走る愛車へ活を入れ、カナタと86は白い闇の中を駆け抜ける。
『真っ白な霧の中から青い一閃が現れる!続けて真っ赤な弾丸!デスエリアをもろともしない2台が離脱していくぅ!』
『今回のレース、この2台常に一緒に走っていましたが、通常、2台以上のマシンが接近している場合、先頭のドライバーが特に疲弊します、それに対して後方のドライバーは前の動きに合わせて動けるため幾分かマシです。その状況で一切疲労感を感じさせないドライビングは驚異的ですね。星馬豪という選手の底知れなさの一端を感じ取れます』
『さぁそんな2台ですが林間区間へ突入していく!テクニカルを得意とするこの2台!相当なバトルが期待できます!』
霧の中を抜け、白がほどけ、木々の影が輪郭を取り戻し、路面の黒が戻ってくる。
何とかペースを上げたおかげで大きく引き離されることはなかったが、この差をひっくり返すには相当無理をしなくてはいけない。
しかし、最後まで戦えるだけのタイヤは残してある、今が攻め時だ。
覚悟を決めたカナタは得意とする林間区間で攻め込んでいく。
まずはブレーキングを遅らせて、アウトからの突っ込み、しかし、予想されていたのかブレーキングタイミングがそろってしまう。
だが、横並びになったことで相手の加速ラインを支配する、おかげで全くの並走状態でコーナーを抜ける。
続いてはカナタがイン側だが、逆に豪がラインを塞いでくる。何とかイン側を維持してコーナーを処理するしかない状況で、豪はカナタよりさらにブレーキを遅らせてかぶせるようにドリフトでコーナーを処理。
高回転を維持しているロータリーから生み出される馬力はわずかだがカナタの86より高い。
コーナーを抜けたときには僅かに豪のほうのノーズが出ている状況だ。
――手ごわいっ……!
手に取るようにこちらの動きに合わせてくる豪。
前回の小田原パイクスピークではタイヤの使い過ぎから豪が負けた、だが、今回はタイヤの状態がカナタより良い。
――もしかして、見えない間に……!
実を言うとカナタの視界から消えた後、豪はタイヤに熱を入れるため派手なドリフトなどを多用していた。
路面のミューが極端に低く、雨により温度が下がりやすいことを逆手に取った動きなのだ。
カナタがそれを豪がこちらのペースを乱すための心理戦だと予想していたが、そうではない、豪はとにかく速く走るためにタイヤマネジメントを行っていたにすぎず、そのタイムのブレをカナタが読み違えたということなのだ。
憧れの存在と、豪のことを尊敬していたからこそ、心理戦という戦いかたもしてくるとカナタが思い込んでいたが、豪の直情的で速さに対する愚直な姿勢というものを知らなかったのだ。
もしこれが兄である烈が相手していれば霧を抜けた後のラストスパートを看過し、逆に距離を詰めていただろう。
――まずい……!
過酷なハザードゾーンでタイヤを仕上げてラストスパートをかける豪に対して、ゴールを見据えたバトルのためにタイヤを残していたカナタ。
そのゴール地点までの余力が、ここで明確な差として牙をむく。
コーナー1つとっても、タイヤを最高の状態で使い切ってくる豪に対して、カナタはわずかに状態が劣る。
現状の最高のタイムを出す同じ使い方をしても豪のほうが速い。
バトルをさせてくれない以上、残していた余力が無駄になっていく。
すでにトップグループはチェッカーを受けている、12号車が1位、4号車が2位という結果だ。
そして最終コーナーへもつれ込む。
――ここしかない……!
懸命に踏み抜いたアクセルから86へ加速を要求。
お互いノーブレーキで突っ込んでいく最終コーナー、RX-8は丁寧にアウトからインへ入っていく冷静なコーナリングにカナタはラインをクロスし、残していたタイヤの余力を使って横Gを手早く収束させ加速へ切り替える。
わずかに速く加速開始できたカナタだが……。
RX-8はここからが強かった、カナタが気づいてない空力以外のチューニングポイント、エンジンパワーを現状で安定して最後まで絞り出せる調整。
踏み抜かれたアクセルに応えるロータリーエンジンは一切の無駄なくエンジンパワーをタイヤへ伝えきる。
並びかけた86、それを横目にRX-8は最後の最後、回転数の限界から最後の一伸びを見せる。
『チェッカーが降られたぁぁぁぁっぁ!!!3位はRX-8、星馬豪!!!4位は86の片桐カナタだぁぁぁぁぁぁ!!!!』
――届かなかった……!
セレモニーも終わりパドックにカナタたちは集まっていた。
「宣言通りだったろカナター」
「悔しいですが……本当に一度も抜けませんでした。流石です」
握手を交わす豪とカナタ、その光景を忸怩たる思いで見ているのは緒方だった。
その横へ並ぶのはJだった。
「えっと、緒方さんでしたっけ?カナタ君の86のオーナーで……」
「え……あ、あぁ、そうだけど……」
「僕はJ、ニックネームみたいなものだけど気軽にJで、あのハチロクいい仕上がりですね。足回りだけのカスタマイズだけでここまで戦えるとは勉強になります」
さわやかな笑顔を向けるJに緒方は若干たじろぐが差し出された手を握った。
「えぇっと……実はいうと俺が仕上げたわけじゃないんだ、ゼロ・スパイラルの奥山さんが……」
そう言いながら、奥山の姿を探すと、86の確認をしていた奥山が顔を上げて合流する。
「そうだ、うちのショップで仕上げてるんだ」
「ゼロ・スパイラル……足の魔術師ですね、お会いできて光栄です」
「こちらこそ、TTFといえば直近の業界紙の君の記事読ませてもらったよ、ミニ四駆から続く空力研究、土屋式空力論、興味深いね今度話を聞きたいものだ」
「ありがとうございます、ただ、今回はその片鱗をお見せできたと思いますが、どうですか?」
「あぁ、うちの足とは違うアプローチで速くなるってのをよく見せてもらった、いいライバルになれそうだね」
「恐れ多いですが、次を楽しみにしててください」
「こちらもね、総合オートショップとしての意地を見せるさ」
ドライバーだけでなく、クルマを手掛ける者同士の応酬、間に挟まれる緒方は完全に萎縮してしまっていた。
こうして芦ノ湖GTは幕を閉じる。
ただ、どちらのドライバー、そしてメカニック担当、そしてこのレースを見ていた全員がこう思っていた。
この二人が馬力という適切な戦闘力を手に入れたとき、果たしてどれだけ戦えてしまうのか。
ベッケンバウアーという大きな牙城を崩す時が来るのか。
期待を胸に、第三回、ザ・ペニンシュラ真鶴へと向かう
ってことで、豪が3位、カナタが4位となりました。
豪が圧倒的に見えますが、単純にミニ四駆時代での荒唐無稽な悪条件でのレース経験がそんじょそこらのドライバーより多いので、環境適応力が今回のレースにおいて十分に発揮された結果としています。
俯瞰能力に関しては説明としてそうなるだけで、車幅感覚みたいなものが今のコース、そして走っているクルマも検知できるような感じです。
若干ファンタジーですがお許しください。
では、次回はちょうどいまアニメをしているザ・ペニンシュラ真鶴です、豪がここに加わることでどう変わっていくのか、お楽しみに!
今回のレース結果に納得できましたか?
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