Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ―   作:Kataparuto

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お待たせしました、1月から続く多忙状況でなかなかどうして……

ではお楽しみください。

なお、今シリーズはログインなしでの評価、感想可能としております。
どうぞよろしくお願いします。


Act.6 風が変わる前に

 

 芦ノ湖GTから少しして。

 TTF(ツチヤチューニングファクトリー)には星馬豪たちが集まっていた。

 

「改めて、空力の調整だけでの結果なら十分すぎるね、表彰台なんて。おかげさまでこの間出した機関誌の記事が大人気らしくて重版決定だって」

「ほー、よかったじぇねか、俺としてもどう動かしてもすっ飛んでいかねぇっていう安心感はよかったぜ」

 

 作業台でスタッフの手によって調整が続けられるRX-8を眺めながら豪とJが話し合っている。

 それはもちろんRX-8、STAGE2チューニングプランのことだった。

 

「受け皿という意味では一応STAGE1で整えたのだけど、実を言うと最終プランであるSTAGE3はたぶん豪君がびっくりするぐらい速くなるんだ」

「へぇ、おもしろそうじゃん、でもさすがに次には間に合わねぇよな」

「うん、だからSTAGE2は土屋式空力論の要である空気を味方につける、を実現すための予備実装まで完了する予定だよ。ただ、目下次の真鶴は馬力がものをいう高速セクションもあるからターボ化も並行して作業する、最高速度とトルクを強化しこの時点で1位を狙えるレベルには仕上げる予定」

「いよっし、あのスカしたドイツやろうを1位から叩き落せるチャンスだな。ちなみに馬力はどれぐらいを想定してるんだ?」

「まぁ正直400とか500馬力あっても日本の市街地コースで使える範囲なんてせいぜい300ちょっとだろうし、そこをピークにあとはギア比で調整かな、ブーストバイギアもちゃんとやっておくよ。それ以外で、豪君からの要望はある?」

「うんにゃ、俺もそれぐらいだと思ってるから文句はねーぜ、ただ、ロータリーの特性から低回転がどうしても弱いからな、そこがどうにかなんねーか?」

「そうだね……空力特性の調整をもう少し低速でもかかるようにしてみるから、トラクションを気持ちもう少し踏み込んでもついてくるようにはできると思う」

「十分だ、数キロって範囲の話だしな」

「わかった、じゃあ練習走行期間までには間に合わせるから」

「おう、頼んだぜJ。そんじゃ、俺はちょっくら江の島まで足を延ばすから、博士にもよろしく言っておいてくれ」

 

 これで話も終わりと切り上げた豪が席を立つ、するとJが引き留めた。

 

「うん、任せておいて。あぁそうだ、緒方さんにこれ渡しておいて」

「ん?なんだこれ」

 

 そう言って差し出されたのは1冊の本、分厚いそっけない表紙のものだった。

 

「今度出す、土屋式空力論をまとめた本、学会発表は終わってるから出版待ちだけど、いいライバルだからね、こっちの手の内もさらしておかないと」

「フェアプレイってやつかい。ってか実際に走るの俺なんだけど?楽させてくれよ」

「だめだね、豪君は楽するとすぐ調子に乗るから。烈君からも、くぎを刺されてるんだよね。じゃ、よろしく」

「へいへい」

 

 こうしてJから受け取った本を手土産に豪はそのまま江の島へと向かった。

 向かった先は江の島にある緒方自動車。

 そう、片桐カナタのホームである。

 学校終わりの翼も途中で拾っていざ行かん江の島。

 到着すると、カーナンバー86をつけた赤い86GTが緒方自動車の駐車場に停まっていた。

 

「おいっすー、カナタいるかー?」

 

 無遠慮にも緒方自動車の事務所のドアを開ける豪。

 その先には、片桐カナタ、緒方、そして奥山の三人が集まっていた。

 入室に気づいたカナタが立ち上がり声をかける。

 

「あ、豪さん、こんにちは」

「こんにちわー!」

「翼君も、こんにちは、お菓子ありますよ、食べますか?」

「食べる!」

 

 カナタに対して元気よく挨拶を返す翼。

 カナタはそんな翼に気を使ってか自分に出されていたお菓子を翼にも分けてくれた。

 

「おう、カナタすまねぇな。ほい、緒方、Jから渡しといてくれって」

「あ、あぁ、ありがとう。って本?」

「土屋式空力論まとめた本だってよ。まぁフェアプレイ精神ってやつだ。っと、奥山さんも来てたんっすね」

「あぁ、邪魔してるよ。ちょうど86の強化プランについて話してたところさ」

 

 幸い話は一区切りついていたようで、豪側のプランを提示し、カナタ側も教えてもらうことにする。

 

「ってことで、俺のRX-8は馬力を300ちょい、空力特性のさらなる特化のためのベース改造って感じかな、足回りとかには特に手は入れねぇ予定だ」

 

 豪からの説明に奥山は納得したように頷いた。

 

「J君の調整なら問題ないだろう、俺の目線から見てもクルマ全体の仕上がりがとても丁寧だからね。ただ、土屋式空力論か……なかなか興味深いね」

 

 パラパラとページをめくり内容を軽く確認しているのだろう、奥山はJの本から土屋式空力論の文字を見つけたようだった。

 

「まぁその本に細かいこと書いてあるらしいんで、俺にはさっぱりだけど」

「理論もわからないのに乗ってるってのもある意味天才の証明かな?よし、じゃあそっちが教えてくれたならこちらも開示しよう。86ももちろんターボ化がメインだ、足回りは俺の特別仕様での真鶴に合わせた微調整、ここが他にまねできない売りだな」

「なるほど、んじゃ高速セクションから登りやらこれまでの弱点はほぼ克服してくるわけだ……。かー、手ごわくなりそうだ」

「まぁ、いつまでも弱点を残しておく理由もないからね」

「ま、ライバルとしてはこれ以上ねぇや、次は表彰台の一番上を狙ってんだろカナタ」

 

 話を振られたカナタは翼が見せてくれていたミニ四駆から目を上げ豪を見る。

 そのまま力強くうなづいた。

 

「はい、次は豪さんより前へ行きます」

 

 宣戦布告、これに対して豪は心の中で笑う。

 第1回ではほとんど覇気のなかった青年が、今やバリバリに闘争心を向けてくる。

 正直豪としても、ミハエルや沢渡といった前回の上位者は目ではない。

 クルマの状態が整えば互角以上にやりあえると自負している。だが、このカナタだけは別格だ。

 たとえすべてが万全でも互角の条件ならどっちが速いかは実際にレースにならなければわからない。

 それにマシンのチューニング方向も全く別で、徹底した足回りセッティングでカナタのドライビングセンスをすべて受け止める86と、なじみ深い風を意識し、状況を味方につけて豪のために速く走るRX-8、どちらも方向性は違えどクルマとドライバーの両方が高い次元で信頼しあっていなければ走らないクルマだろう。

 そう言った部分での決着もまた楽しみなのだ。

 

「ま、そこはレースで決着つけようや。あ、そうだ緒方、この辺でミニ四駆サーキットおいてるとこねーか?」

「そうだなー、……江の島の堤防沿いにシーサイドサーキットが今月から開いてた筈だ。海風がいい感じに難易度上げるから地元の小学生レーサーたちにはかなり人気だぞ」

「いいじゃねーか。翼、いっちょ道場破りしてみっか!」

「よーし!がんばるぞ!あ、そうだ!カナタ兄ちゃんも一緒に行こうよ!兄ちゃんもミニ四駆レーサーだったんだろ!」

「確かにそうでしたが……」

 

 すっかりカナタになついて兄ちゃんとまで言う翼に誘われたカナタは緒方たちのほうを見る。

 大事な会議の途中という意識もあるのだろう、困った表情のカナタを見て緒方は笑顔を向ける。

 

「心配すんな、あとは俺と奥山さんで話できるし、たまにはミニ四駆でも触って楽しんで来いよ」

 

 こうしてカナタも一緒にミニ四駆を走らせに豪の自家用車に乗せてもらい江の島の堤防沿いへ向かうことになったが、途中、カナタが走らせるミニ四駆がないことに気が付く。

 一行は途中で玩具屋へ寄ってカナタのミニ四駆を買うことになった。

 

「うわぁ……今のミニ四駆はこんな感じなんですね」

 

 19歳ともなれば、ほとんど入る用事のない玩具屋に足を踏み入れたカナタは、棚いっぱいに並ぶミニ四駆に目を輝かせる。

 最新モデルはもちろんのこと、歴代WGP出場者のレプリカモデルまで置いてある。

 特に人気なのは最新型と、やはり第1回TRFビクトリーズモデルだそう。

 ただ、当然見た目だけであり、特殊機構などは当然搭載されていないとのこと。

 

「久々のイギリス代表復活だ、俺が出してやるから好きなの選べよ。あと、この後の江の島サーキットは通常型ルールみたいだからGPキットは買わなくていいぞ」

 

 パーツコーナーへダッシュする翼に小遣いを渡し、マグナムセイバーレプリカの箱を手に取りながら豪がカナタに目を合わせずにそう言った。

 

「そんな悪いですよ、僕だってバイトもしてますし……これぐらいのお金は……」

 

 そう慌てて言い返すカナタに豪は何言ってんだこいつというようなあきれた表情で返す。

 

「良いんだよ、俺が年上だぞ?子供みたいなもんだ。それに、翼と仲良くしてくれてるしそのお礼でもあるんだ」

「……ありがとうございます、ただグレードアップパーツは自分で買いますからね」

 

 ぶっきらぼうに言う豪の言葉にカナタは少し感動してしまったが、ほんの少しだけ言い返すことに成功した。

 こうしてミニ四駆を購入したカナタはそのまま店で翼に工具を借りて作成。

 久々に触るミニ四駆だったが、かつて国代表に選ばれたころの杵柄は健在で、ブレークインなど必要な処置や構築はあっという間に終わった。

 組み立て作業を通じてカナタは改めて思った。

 自分のレーサーとしての原点はカートもそうだが、ミニ四駆にもあるのだと。

 組み立て作業を通じて車の構造を理解する、どうすれば速くなるかを思考する。

 自分のテクニックが使用できない領域をどう扱うか。

 メカニック的な視点にも立つことで、より全体として速くなるということだ。

 だからこそ、目の前で翼とあーだーこーだー言いながらこの後走らせるマシンを作る豪も実車レースに出てから一気に頭角を現したのだ。

 ドライバーがクルマを信じる、理解することで、人馬一体の強さを生み出すのだろう。

 こうして各々のマシンを作り上げた一行は江の島シーサイドサーキットで大暴れすることになる。

 時のMFGトップレーサー二人がミニ四駆を持ち込んでの道場荒らし、案の定ネットニュースとなり、次の真鶴に向けてMFG運営としてはうれしい悲鳴となった。

 

 




ということでちょっとした日常回と説明回となりました。
次回真鶴予選となります
ただ、執筆時間の確保が困難な為前回ほどの高ペースが出ないと思いますので、その点ご迷惑おかけします。

小話ですがこの時カナタが買ったミニ四駆はアバンテMk.IIIです
最新型ではない……それはそう……。

会話中心で退屈でしたか?

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