Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ― 作:Kataparuto
果たしてチューナップが終わったRX-8の実力は……!
どうぞお楽しみください
なお、今シリーズは登録なしでの評価感想を可能にしてありますのでお願いします。
片桐カナタの躍進。
ザ・ペニンシュラ真鶴におけるコースレコードの更新。
唯一無二の記録というわけではないがあの非力なトヨタ86での大記録に関して誰もが目を疑うものだった。
「いやー、すごいねカナタ君、一時期は暫定トップにもなったし」
RX-8の運転席に乗り込み準備をする豪の傍らで、烈がタブレットで情報を見ていた。
「ま、86があいつに完全にフィットしたからな、あとの微調整は残るだろうがこれぐらい走れて当然だぜ」
「で、お前はどうなんだ?」
烈からの問いかけに豪は今までに見せたことない真面目な表情のまま前を見据える。
「……兄貴だからいうけどさ。……正直って俺はこいつが怖い」
「……怖い?」
「あぁ、Jが丹精込めて作ってくれたこいつが……、怖いぐらい速いんだ。俺のセンスが追いついていないって思うぐれぇに」
「珍しいなお前がそんな弱気なこと言うなんて」
「走らせてねーからそんなことが言えるんだよ、まるでまだ踏める、まだ突っ込めってクルマからせっつかれるんだよ。足回りやエンジンとかそういう領域とは違う要素で明らかにグリップが抜ける速度と角度でまだ余白があると肌で感じちまうんだ」
「それで?」
「それでって……いや、事故ったらさすがにやべーし……」
「あのなぁ、お前の足りない頭でそこまで考えたってしょうがないだろ。カナタ君があんなタイム出してビビってるんじゃないか」
「なんだと!?」
「お前の走りはいつでも全力全開、マシンと一心同体になって今できる限界をぶつけることだろ、ライバルがめちゃくちゃ速いだろうが、クルマが自分が思ってるより速くなっただろうがそんなの関係ない。今できるお前の全部をRX-8、いやマグナムにぶつけてみろよ、それがお前の走りだろうが」
「いろいろ言いたいこと言ってくれるじゃねーか……!いいぜ、だったら見せてやるよ!!!見てろ馬鹿兄貴!!!」
「おーおー、どうせお前にはカナタ君のタイムなんてぬけっこないけどなー」
「きーーーー!!!!行くぞマグナム!!兄貴の鼻っ面へし折ってやろうぜ!!」
吹きあがり、空へ抜けていくような快音を響かせてRX-8はスタートラインへとつく。
それを見送り烈はため息をついた。
「はー、全くそういう微妙にナイーブなところは大人になっても変わらないんだよなぁあいつ……」
「あはは……、まぁでも今の励まし方は烈君にしかできなかったから助かったよ」
烈の後ろから現れたのはTTFのJだった。
今日は烈と一緒にセコンドブースに入りマシンの仕上がりを確認するためにきている。
「いいんだ、折角J君が仕上げたRX-8の能力が出し切れなかったらもったいないじゃないか」
「そうだね……でも、シェイクダウンの練習走行から明らかに豪君はRX-8に恐怖心を抱いてたから、心配なんだ」
「……そんなに?」
「うん、土屋式空力論の最後のピースをはめるための土台工事は全部終わったからね、ただ、予想以上に性能が良くなっちゃって……。全速度領域でのトラクションへの影響力は正直言って未体験ゾーンだろうね」
「相変わらずすごいねJ君は。でもそうか、なまじセンスで走る豪だから、そのポテンシャルの底知れなさに足がすくんでるなあいつ……」
「この点は正直言って、チューナーショップの奥山さんと、研究色が強いうちのの経験の差だって痛感してる。ドライバーへ寄り添うっていう視点が抜けた。あまり一気に強烈な改造はしないほうがいいってわかったよ」
「まぁ豪相手にそんな繊細なことしても仕方ないと思うけどね、あいつはいつだってぶっつけ本番で何とかしてきた、生粋のセンスの塊だから」
烈とJの会話をよそに、タイムアタックスタート。
『さぁ、とうとう来ました!前回芦ノ湖GTでは3位とついに表彰台に上りました星馬・豪選手!!ミニ四レーサー時代は直線の申し子!このハイスピードエリアがあるこのコースどう攻めるのか見ものです!』
このコース最初で最も難所と呼ばれるのが最初のトンネルとその後の橋である。
理由の一つがまずはトンネルすべての照明が落とされており、二つあるトンネル区間とその間に露天区間がある。
それにより交互に明るさが変わることでドライバーの視界が奪われるためだ。
ほとんどのドライバーはこの間の部分でのホワイトアウトにまずは精神を削られる。
その次に明るさに目が慣れたころに再びのトンネル、4DWのトラクション能力ですら高速域からの半ドリフト状態での突入となってしまうのに、今度はブラックアウトする。
そして最後の直線を締める第二トンネルから抜け出した先。
誰が言ったかオー・ルージュ、超高速S字コーナーであるが、その高低差がかなり意地悪な構造であり、最初の右コーナーは余裕があるように見えて横Gが最も大きくなるタイミングで下りへと切り替わる。
そのためスピードに乗ったクルマが下りに入る瞬間にグリップを一瞬失い横Gで吹っ飛ばされるのだ。
しかし、豪はこの区間を果敢に攻める。
まず第1に彼には霧の中でも正しくコース情報が認識できる俯瞰能力があるため、目くらましは一切効果がない。
そのため、誰よりもアクセルを踏みぬいて第一トンネルから第二トンネルへと飛び込んでいく。
ターボ化を施されたRX-8のロータリーエンジンが奏でる轟音がトンネル内に響き渡りさらに加速を続ける。
『速い!!星馬・豪選手、区間タイム最速をただき出してきた!!だが、この先のS字はどう攻略するのか!?』
明らかなオーバースピード。
片桐カナタの予選で見せた速度も、誰もが速いと感じていた。
インからアウトギリギリまでコースを使う走りで収束させる走りにどよめきが上がったほどだ。
だが、豪の速度はそれを明らかに上回っていた。
そして、ブレーキングも遅い。
あわや大事故か!?と全員が息をのんだその瞬間。
右コーナーの頂点、横へ吹き飛んでいくはずの挙動が、ぴたりと止まる。
このコースの構造上不可能なはずのコーナー半ばの位置でRX-8は地面へ吸い付くように姿勢を保ち、横Gをそこで収束させてみせた。
『ぬ、抜けたぁぁぁっぁぁ!?何が起こったのかわかりません!!私もMFGの実況をしていますがどうやったらあの速度であの場所で走ることができるのか!?』
――心臓飛び出るほどこえぇってのに、こいつまだいけるのかよ……!
攻められるとRX-8から信頼された豪はその信頼に応えるために突っ込んだ。
だがその結果は豪自身でもはっきりとわかるほどの余力がある。
もうあと数キロ先、誰も追いつけない速度であのコーナーは攻略できるのだ。
だが、今までの豪が持つ速度感覚とセンスは、あれ以上は事故の可能性があると警告を発し続けている。
――クソ、こいつはまだいけるって言ってんのに……。
今までの常識を覆す領域での走行に豪はこの最序盤で完全に調子を崩してしまった。
この後の走行はかなりひどいもので、持ち前の走行感やセンス、そしてペースを完全に乱してしまった豪は、RX-8からの信頼にまったく答えることができなくなってしまい、順位を落とす。
それでも8位というポジションにつけたのはクルマの素養と豪自身の純粋なドライビングテクニックによるものだろう。
前回3位のドライバーが一気に最終順位が8位という結果にMFGの視聴者たちは騒然となった。
むろんこの結果に驚いたのは視聴者だけではない、少なくとも烈やJも含まれる。
クルマ側にトラブルは一切発生していない。
だからこそこの転落ぶりは予想外で、TTF一堂に重くのしかかった。
タイムアタックが終わり、自宅へと帰った豪はソファーにふんぞり返り大きくため息をついていた。
その視線はどこを見ているのか、完全に魂が抜けている。
――自分の相棒のことがわからなくなったことなんてなかったよなぁ……。
振り返る日々、小学生の時のマグナムセイバーから続く歴代の相棒のミニ四駆たち。
思えばそれらは1台1台、隅々までマシンのことを見ていた。
走らせては直し、調整し、どう走りたいかを見極めていた気がする。
そういう意味では今のRX-8もこういうふうに走りたいという気持ちは拾えている以上、クルマからの信頼はあるのだろう。
ただ、自分自身の恐怖心がその領域への突入を完全に拒んでしまっている。
別に豪自身今までクラッシュをしたことがないわけではない、完全に壊すようなこともあった。
つまり、RX-8の期待に応えられていないのだ。
何が怖いか?信じきれないのだ、その声に従ったところで本当に無事で済むのか、本来無事で済むはずだがミスをして台無しにしてしまうのではないか。
そこまで考えて豪はハッとし、体を起こす
「グレードジャパンカップの時と同じじゃねーか」
かつてWGPへ挑む前のグレードジャパンカップ、コースアウトしたら一発終了というコースアウト常連だった豪にとっては致命的なルールが敷かれていた環境で、完全に臆してしまいローラーなどを装着しすぎてマグナムの良さを完全に失ってしまった。
あの時もらしくないと、烈から叱責され大逆転を決めた思い出がある。
今の自分もそれだ。
しかし、動く金の規模、命を懸けるような実際のレース状況とはいえ、挑戦するという心を忘れてしまっている。
「んでもなぁ……」
だからと言ってコースアウト上等で走るわけにはいかない、少なくとも自分も今は独り身ではない、大事な息子がいるのだ。
ミニ四駆と実車は違う、人の命がかかってくる以上、無茶はできない。
自分だけでなくほかのドライバーも巻き込む可能性もあるのだ。
豪は再びソファーに身を沈め天井を眺める。
答えは出ない。
そして、そのまま本戦当日を迎えた。
RX-8へ乗り込む豪をJと烈、そして翼が心配そうにのぞき込んでいた。
「豪君、ごめん」
Jが謝る。
何のことかと豪が口に出しかけたが、多分クルマのことなのだと思い当たり、鼻で笑いこぶしを突き出した。
「最高のクルマだぜ、RX-8は。任せとけ、ぜってぇこいつの思いに、Jの仕事に応えて見せるさ」
「……ありがとう」
Jとグータッチを交わしたあと、烈が今度は話しかけてくる。
「いいか、豪。お前の強みはとにかくあきらめないことだ。どのレースも全部諦めないから結果がついてきた。今回も最後まで自分と、そしてクルマを信じろ」
「へっ、兄貴からまともに応援されるとケツがかゆくなるぜ……。でもありがとな、ぜってぇ表彰台に戻って見せるさ」
烈ともグータッチを交わした豪はハンドルへ手を戻し、スタート隊列へと加わっていく。
「とーちゃん!!がんばって!!」
その背中に翼からの応援が届き、窓からサムズアップを突き出しそしてコースを見据えた。
予選突破したクルマたちが次々とスタートゲートをくぐっていく。
ライバルの片桐カナタははるか向こう、予選三位のポジション。
せめて前か後ろには居たかったと思いながら自分もスタートゲートをくぐる。
そして、後方、最後の1台がくぐったところでレーススタート。
――この加速は伊達じゃねぇんだよ!
目の前のドローンのシグナルがグリーンに変わった瞬間、豪はアクセルを踏みぬいた。
低速域でも十分なダウンフォースからのグリップ供給により、パワーロスがほとんどない完璧なスタート。
だが、前がわずかにつんのめる。
この感覚に豪には覚えがあった、スタート時において誰かがスタートを失敗したとき、車線変更に伴う流動性の低下だ。
ただ、そこはプロ同士、一旦回避が終わってしまえばベースが戻るためほんのわずかな減速でしかない。
だが、誰がそんなミスをやったのか。
ダブルトンネルを抜けオー・ルージュ、そして有料道路区画から下道へ入る180度ターン。
と、ここでまたもや全体の走りがガクリと引っ掛かる感触。
いい加減誰がこんな初歩的なトラブルとミスをやらかしているのかと思ったが、目の前、わずか二台先、5位のポジションにヴィクトリーレッドの86の姿が見える。
明らかな失速、今までのポイントが低速からの加速時に発生しているところを見ると、低いギアの位置での何らかのトラブルを抱えてしまった。
それは偶然ではない、似たような状況で同じ結果になっているのがその証明だ。
豪は原因が何であれカナタを気の毒に思いつつ、レースに思考を戻す。
先ほどから後ろからせっついてくる黄色いスープラ、今回のコースから初出場で9位の885号車の相手をしなければならなかったからだ。
だが、この状況でもまだ、豪とRX-8のかみ合わせは治らない。
ザ・ペニンシュラ真鶴は、序盤から混迷を極めていた。
まさかの結果でお送りしました。
納得いかない方もいるかとは思いますが、それが年齢ってものです。
もう彼は未来に目を輝かせてどんな無茶もできる小学生ではなくなってしまったのです。
では、また次回は真鶴の本戦となります、どうぞよろしく!
豪の不調はストーリーとして期待外れでしたか?
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ハイ
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イイエ