Ghost & Dash― 最速を継ぐ者 ―   作:Kataparuto

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真鶴編決着……!!
果たして結果は……!!



Act.9 風過ぎて

 抜けるときに抜く。

 そんなものレーサーとして当たり前のものだ。

 だが、その判断基準はそれぞれであり、クルマの性能、ドライバーの腕など、様々な理由で異なる。

 そうだとして、自分より引き出しが多いやつに出会ったとき、何故?で終わらせてはいけない。

 あいつがいけたら俺もいける、あいつができるなら俺だってできる。

 闘争心を燃やせ、ガソリンに混ぜ込んで、過給しろ。

 最終ラップへ突入しようとする最中、片桐カナタはもうはるか先の先頭集団に追いつこうとしている。

 トンネルが迫る。

 RX-8がハンドル越しに要求する、踏め、と。

 理性が拒否する、踏んだら死ぬ、と。

 大切な人たちの姿が脳裏に浮かぶ。

 その中に居る、かつての自分が言う。

 

――かっとべ!!

 

 アクセルを蹴とばすように踏み抜く。

 最初のトンネル。

 ヘッドライトを消す。

 目の前にいる黄色のボディのクルマのドライバーがオレを見失う。

 思考の空白を突き、出口付近で抜き去る。

 1号車がミッドナイトトンネルに突入する。

 次のオー・ルージュが迫ってくる。

 1号車のテールランプが、真っ暗闇のトンネルにポツンと浮かぶ。

 減速した1号車が恐ろしい勢いで目の前に迫る。

 横に避けて、レイトブレーキ。

 こちらより先に減速していた1号車を横目にパス。

 

 『おい!!豪!!』

 『豪君!!それは危険すぎる!!』

 

 無線から兄貴とJの悲鳴に近い制止する声が聞こえてくる。

 無視。

 RX-8がいけると答える。

 トンネルを抜ける、ハンドリング、横G。

 コーナー中ほどで接地感が抜ける、壁際へクルマが吹き飛ばされる。

 戻れ、戻れ、戻れ!

 祈りに近い感情に応えるように頭の上から下へ押し付ける力が働く。

 上方向へ抜けていた慣性が反転し一瞬で下へ押し付けられる。

 RX-8がまだ踏めと教えてくれる。

 わずかに残る横Gを感じながらアクセルを再度踏み抜いた。

 その瞬間、RX-8が再び応える。

 そして……。

 

 星馬・豪との完全なシンクロが、成立した。

 

 『……!!!!!』

 

 実況の田中は声を出せない、解説の秋山も、いや、この配信を見ていたほぼすべての人がこのコーナーのクリアした理由を何一つ理解できなかった。

 ここに、オー・ルージュでの突破トップスピードが更新されたという事実が残るのみだ。

 一拍おいて、ようやく秋山がポツリとつぶやく。

 

 『外から見て恐怖を覚える走りなんて、いつぶりでしょうか……』

 

 その声は憔悴しきっている、目の前で起きたことを何とか理解しようとしているようだが、それが徒労に終わってしまったのだろう。

 だからこそ次の言葉は重たいものだった。

 

 『……いいですか、視聴者の皆さん、あれはマネしないでください。 星馬・豪とRX-8というあの組み合わせだからできる奇跡です。 藤原拓海イズムとも違う何かです。 今後MFGに参加されるドライバーの皆さん、あの走りは忘れてください、あれは……』

 

 そこまで行って秋山の言葉は続かなかった。

 自殺行為などという過激な言葉が続きそうになったからだ。

 ちょっとでも路面に何かあればグリップがすっぽ抜け外側の外壁へクラッシュし、そのまま横Gのおかげで海へ真っ逆さま。

 片桐カナタの走りはまだあそこで収束するという確信をもたらす何かがあった。

 だが星馬・豪の走りは、あのクルマでどうしてあの速度で、あの地点で収束するかが理解できない。

 できの悪いAI生成動画を見せられたかのような、理解不能な恐怖心が、今の走りを見た視聴者の中に爪痕を残していた。

 そんな中、180度ターンを曲がるころ、ようやく烈とJが息を吐いた。

 

 「はぁ……、J君、RX-8であの速度と状況でオー・ルージュを抜けるのは、スペック的にありえるのかな?」

 「今のRX-8の空力制御というより特性が、土屋式空力論に基づいてボディ全体を翼に見立てているから、理屈としてはあり得る」

 

 烈からの質問にJがテレメトリーをチェックし、紙の上で計算式を走らせながら答える。

 

 「ただ、あのグリップ力を発揮するには速度がいるんだ。もし恐怖心が勝って、速度を緩めてしまえば吹き飛んでただろうね。STAGE3に向けて先行装備したVG(ヴォルテックスジェネレーター)で空気の流れを整えて、ダウンフォース自体は強くなってるんだけど、あのオー・ルージュをあの速度で突破するなら、あそこまで行かないと逆に効果が薄い。だからこそ、理屈としては通るんだけど……実現するには通常では危険と思う領域を踏み抜かないといけない……」

 「ったく……昔から最後の最後に無茶をするんだからあいつは……。J君、申し訳ないけど次のSTAGE3の実装は急いでくれるかい? あんなサイクロンマグナムみたいに速度を出さないとダメなんてのは、さすがにリスクが高すぎる」

 「うん、幸い次はサマーバケーションだからね、一気にやっておくよ」

 

 セコンドブースのやり取りをよそに豪は先頭集団をとらえるべくひた走っていた。

 オー・ルージュを文字通りの異次元の速度で突破したため、タイム差は縮み、86号車はもう目の前だ。

 しかしこの先は片桐カナタが区間レコードを持つ半島区間、入り組んだテクニカルゾーンではさすがにカナタに軍配が上がる。

 だが、前半の市街地ではまだ先頭に追い付くことはない、ならばカナタの走りをトレースして攻め時まで集中力を温存したほうがましだろう。

 カナタの復活から来る超ハイペースの状況にさすがの豪も疲労を感じ始めている。

 半島区間には大きな中央分離帯があるセパレートエリアという場所が3か所あるが、ここでカナタは先頭から離脱していた2号車をパス、豪もそれに倣い別のセパレートエリアでパス。

 とうとう、カナタ3位、豪が4位というポジションまで戻ってきていた。

 海抜ゼロメートルエリア、海がすぐそばに迫る大きな左コーナーでカナタが目の前の17号車、沢渡光輝に仕掛ける。

 イン側の側溝の段差へタイヤを引っ掛け、通常ではクリア不能な速度でコーナーをイン側から攻略していく。

 豪自身、ハチロクセイバーでの披露だったが、藤原拓海自身が繰り出すその技を目の前で見たことあるので86の後に続いた。

 

ツイン溝落とし。

 

 『は、86号車と88号車がああああ!!』

 

 その光景に実況が吠える。

 

 『なんと、あのベッケンバウアーとやりあう沢渡光輝がルーキーたちの後塵を浴びているぅ!するすると、まるで魔法のようにあっけなく……!今日は物理法則が何かおかしいのですか!?秋山さん!』

 『落ち着いてください田中さん。先ほどの星馬・豪のオー・ルージュに比べたら簡単なトリックです、溝ですよ』

 『はぁ?』

 『アスファルトと路肩の境目にある段差を使うんです。なるほど、片桐カナタと、星馬・豪だからこその光景ですね、あれは藤原拓海の十八番なんですよ。 ただ、1台でも衝撃的なのですが2台並んでとなると、現実のこととは思えませんね……』

 

バックミラー越しに見える沢渡の動揺が見える。

 こんなバカげたことで2台に抜かされるなんてどう頑張っても冷静でいられるわけがない。

 動揺を取り戻すまでに、トップを責め立てると豪は決めた。

 

――ここが、最後の勝負だ、カナタ!!

 

 2車線の狭いバトルゾーンでやろうと思えばバトルできる領域で、溝落としまで使うところから、カナタのグリップ力は失われつつあるのかもしれない。

 つまり戦闘力が下がってきている。

 だが、豪のRX-8は土屋式空力論により、グリップが底上げされているためカナタよりわずかに余裕がある。

 プレッシャーを与えるべく、コーナーでノーズをねじ込み並ぶ。

 並走状態でのバトル、右へ、左へ、コーナーが続く中完全な並走状態で走り抜ける。

 クルマをぶつけるようなへまはしない、完全なシンクロ、意地と意地のぶつかり合い。

 だが、完全な並走状態は最適なラインをお互いに使えないため、スピードが落ちる。

 この隙にとベッケンバウアーが離れていく。

 

――ここだ!!

 

 最後の広めの右、カナタがイン側だが、タイヤに余力のある豪がわずかに前へ出て頭を抑え込む。

 テクニカルが得意なカナタ相手に豪が前へ出る。

 この状況にブースの烈とJも息をのんだ。

 

 『壮絶な並走格闘戦を制したのは星馬・豪選手!!!』

 『いやはや……、両者全く譲らない本気の殴り合いが見れてうれしいですね。こういうストリートレースらしい泥臭い殴り合いが私は好きです、ただ、少し気になるのが……いや、気のせいでしょう。ただ、バトルの代償は大きいですね、ベッケンバウアーとの距離が離れています、予想されるタイヤの状況ではもはや追いつけないでしょう』

 

――ベッケンバウアーなんぞ知ったこっちゃない

 

 もはや先に行ってしまいタイヤにも余裕のあるベッケンバウアーを追うことはしない。

 いまだ、真後ろにつけ虎視眈々とこちらを狙っている片桐カナタを抑えきることに豪は集中する。

 カナタからの攻勢を何とか防ぎながら最後の第二180度ターンをクリア、最終加速。

 フルスロットルでゴールまでラストバトルとなる主屋コーナーへ突っ込んでいく二台。

 右の広いコーナーへ突入、フルスロットルからのフルブレーキング。

 だがインを締めていた豪に対してカナタがアウトからレイトブレーキングでかぶせてくる。

 

――んなっ!?

 

 『いったぁぁぁぁぁ!!片桐カナタが星馬・豪の前へ出る!!外からかぶせる!!』

 『なるほど、先ほどの違和感はこれだったか……』

 『秋山さん、それはどういう?』

 『いえ、先ほど星馬・豪選手が前へ出たとき、あっさりというか、あからさますぎたように感じていたんですが片桐選手はこっちで仕掛けるつもりだったんです。だからあえてあそこを前へ出させてタイヤを使わせたんでしょう』

 『並ん……いや!!片桐カナタが前へ出る!!』

 『おや……並走するだけの余力はあるように思えるのですが……?』

 

 豪を抜き去ったカナタが前へ出る、だが豪はそのまま素早く後方へ付ける。

 わずかなスリップストリームで速度を持ち直し、空力特性に優れる豪のRX-8が今度はカナタの左側へ並び立とうと加速してくる。

 

 『鋭い!!88号車が差し込んできた!!』

 『スタートの時に見せたあの鋭い加速が思い出されます……本来ロータリーの特性であれほど機敏な再加速は困難なのですが……』

 

 あとはゴールまでの高速セクション、意地の張り合いによるバトル。

 

――俺の勝ちだカナタ!!

 

 だが、豪は確信していた、左側につけなおした理由がある。

 それは、ゴールラインへ至る道、最後の最後に並走不能の1車線道路に入る構造になっている。

 左が山側、右が分岐側、回避余地の問題で左側優先になる。

 すでにノーズは並んでいる、こうなればカナタが後方へ下がるしかない。

 

 迫る分岐点。

 

 まだ下がらない。

 

 回避余地ぎりぎりの状況。

 

 まだ、下がらない。

 

 

 

――こいつ!?

 

 

 

 その時豪は右側から強い風を受けたように感じる。

 実際には吹いていない。

 それは、カナタの気迫だ。

 その気迫に気圧された豪は無意識に山側へ車体を寄せてしまう。

 空いた隙間は1台分。

 そこへカナタが86をねじ込んできた。

 最後のゴールラインまでは右カーブ。

 そう、イン側にカナタが飛び込んだ形となる。

 つまりは……!

 

 『ちぇ、チェッカーーーーーー!!!!!』

 『前代未聞ですねこれは……』

 

 運営サイドが並走で走行することをそもそも不可能としてセッティングしているコース。

 ゆえに、ルール的に明記されていないそこに飛び込んでいった2台のマシン。

 その後、裁定が大いに荒れ、最終的な順位発表は全員がゴールしてからなんと30分以上かかるものだった。

 しかし、MFG運営委員会はこう発表した。

 

 先ほどのレースで発生した当該走行事案につきましては、現行規定の範囲内で行われたものであり、公道レースとしてのMFGが掲げるファイティングスピリットを体現する競技内容であったと認識しております。

 

 そして順位が確定する。

 

 片桐カナタ、2位。

 星馬・豪、3位。

 

 ついに、片桐カナタが表彰台へと、登ったのである。

 

 

 

 表彰台にて。

 

 「はー……。燃え尽きた」

 

 準備を待つ間豪が空を見上げる。

 

 「イエス、僕もです……これだけの充実感はカートのころ初優勝した時以来です」

 

 豪に応えるようにカナタも空を見上げた。

 お互いに満足げな表情で悔いはないように思える。

 1位を逃したのは悔しいが、さすがに絶対的に不可能な状況というものはある。

 その中でやれることをすべてやり切った結果で2位と3位なのだ。

 

 「お互い1位でもねーのにな」

 「ははは……」

 

 二人の間には満足感のみが存在していた。

 

 

 

 




ザ・ペニンシュラ真鶴編終了……!!!!

長い……ギミックが少ないコースなのでガチンコバトル過ぎて大変でした……。

正直ここでの片桐カナタの負傷については1位を取りかねないポテンシャルをナーフするためのストーリー都合という意味が強いと改めて感じましたが
ただ、アニメ版での丁寧なフォローもあり、まぁファンタジーやオカルトの領域だけど最後に父親と会話のような二人三脚ができたのであればカナタはよかったんじゃないかと思いました。
だからこそ豪側が一切容赦なく追い込んでいくというのが礼儀であると思っています。

余談ですが
この後、肘の件は豪に伝えられて西園寺家にお見舞いの品が届いたとか届かなかったとか。

では、お読みいただきありがとうございました。また次回お待ちください!

順位については納得できますか?

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