魔法少女が許されるのは15歳までだと思うのだが   作:神凪響姫

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第十四話 投稿なんて久々なんです

 守護騎士四人が魔法の国へご案内、もとい、魔本の中へ旅立ってすぐ。

 

 病院の屋上に光が生じ、それが消えると、はやての姿がありました。

 

 

「あれ……我……なんで……?」

 

 

 はやてはベッドの柔らかい感触ではなく、コンクリの冷たさに違和感を抱きましたが、先程から意識が朦朧としているせいか、思ったように体が動きません。ついでに頭も働きません。

 

 

「もうひとりの自分、素敵な自分。本当のパパとママはどこにいるの? ああ、綺麗なお花畑が……」

 

 

 かなりヤバい状態になっていました。

 

 真冬のクソ寒い空の下でパジャマ一枚で放り出されればそうなってもおかしくは、いや、おかしいのは元々でした。

 

 

『我が主―――』

 

 

 その時。

 どこかで聞き覚えのある声がしました。

 

 はやては朦朧としつつある意識がゆっくり明確になっていくのが分かりました。倒れ伏していた身を起こし、左右を見渡しますが、何も見当たりません。

 

 幻聴かと思えば、再び声がしました。先ほど同様、優しげな女性の呼ぶ声。しかし姿が見当たらず、はやては少し薄気味悪く思いました。

 

 すると今度は、背後から。

 

 

『我が主』

「なんださっきからうっとおし」

 

 

 言いながら振り向くと、はやてはフリーズしました。

 

 てっきり夢の中にいた白髪の女性がいるのだと思っていたはやてでしたが、予想を裏切る結果が目の前に広がっていました。

 

 

 

 優しげな声で呼びかけていたのは―――なのはだったからです。

 

 

 

「なんでやねん!」

 

 思わず素でつっこんでいました。

 

 なのはらしき人物は優しげな微笑みを浮かべております。さっきのブラックストマックスマイルとは対照的な、聖母のような微笑でした。ちなみに格好も聖母みたいな感じでした。円環の理がどうのとか言い出しそうな露出多めの格好です。全身ピンク色です。似合ってないことこの上ない。

 

 はやては鳥肌を立てながら後ずさりしました。何故か猛烈に嫌な予感を察知したからです。アレは多分本物じゃない、本物だったら嫌すぎる……珍しく心の底から恐怖しつつはやてはバックしますが、背中が柵にぶつかって頭から血の気が引きました。

 

「え、何これ。夢? ていうか悪夢? ちょ、しかもなんで無言で近づいて来る? 手をワキワキさせながらにじり寄って来る? おいやめろ馬鹿早くもこの作品は十八禁ですねってか、いやホントやめて下さい我が悪かったから無言で近づいてくるな頼むからやめて止めて誰かおらんのかーっ!」

 

 はやては本気でシャウトしますが、既に守護騎士は触手地獄、本物のなのはとフェイトはそこからとっとと逃げ出しております。一応はやての視界内に存在しているはずなので見ようと思えば見れる状態なのですが、いかんせん目の前に立ちはだかる幻影なの破壊神様が邪魔で見えません。

 

 ていうか、目を背けたらヤられる。どういう意味かは知りたくない。

 

『我が主……』

 

 なんでか艶っぽい声を出しながら近寄るなのはver.天使。

 

「わ……」

 

 ついには涙目になったはやては、悲痛な叫びを上げました。

 

 

 

「我の傍に近づくなァーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟、と一際強い風が吹き寄せました。

 

 仰け反りながらも持ちこたえた二人が再び屋上を見ると、黒い光が旋風となってはやての周囲を包んでいる光景が飛び込んできました。

 

 なんだかヤバそうな雰囲気がしたフェイトは、バルディッシュを構えます。

 

「なのは、なんだかヤバそうだよ! 止めないと!」

「まぁ待ちたまえ。今から呪文を詠唱するから。『黄昏よりも昏きもの、血の流れよりも――』」

「今までそんなことしなかったじゃん!」

 

 そんな漫才を繰り広げている間に、はやては黒い光に飲み込まれてしまいました。

 

 

 やがて屋上の光が消えていきます。完全に光が消え、先ほどまではやてが横たわっていたそこには、

 

 

「…………」

 

 

 長身の女性が佇んでいました。

 

 白い髪に、赤い目。起伏のある長身を包む黒い装束。左腕に取り付けられた巨大な杭打ち機のような物体が目を引きますが、何より印象的なのは、背中から生える一対の黒い翼です。さながら堕天使のごとく美しく天へ伸びる羽に、なのはは、ほう、と感嘆したように息をつきました。

 

 

(やだアイツ、羽なんか出しちゃって……格好いい!)

 

 

 違う意味で感嘆している奴がここに。

 

 とりあえずといった具合に、なのははフェイトに目を向けました。なんかよく分からん人出てきたけどどうする? とでも問いたげな目線に、目から無駄に星を散らばせていたフェイトは、女性の方を指差して、

 

 

「なのは! アレ、ボク欲しい!」

 

 

 などと言い出しました。

 

 なのはは身動きを止めました。止めると、一度女性の方を見て、またフェイトの顔を見、その後女性の方を見て、やっぱりフェイトのキラキラした無邪気な顔を見ます。

 

「………………………………………………ああ。そういうことなの」

 

 やっと納得したように頷きました。一体何について悩んでいたんでしょうか。

 

「いや何、随分久しぶりなもので記憶に混乱が生じていたようだ。具体的に言うと約3年ほどの記憶が……」

 

 ハイハイ。

 

 ともあれ、はやてが突然変なお姉さんに変貌してしまいました。一体どんなイリュージョンを用いたのか検討もつかないし興味もないなのはでしたが、ただごとではない空気にやれやれしょうがないなぁみたいな態度で肩を落としました。これぞまさに最近流行りのやれやれ無気力系主人公スタイル。こんなんばっかだったら世紀末ですね。物語で言う中盤の山場的なところに突入したのにちっとも漂わない緊迫感。

 

「まずは様子見だ。私が声をかけてみるから、いつでも動けるよう待機しておきたまえ」

 

 フェイトが頷き、なのはが一歩前へ出た時でした。

 

 女性はスッ……と両手を頭上に掲げます。

 

 何をする気だ、とフェイトが構えました。どんな事態になろうとすぐに対応できるよう、一挙手一投足さえ見逃すまいと注視しました。一方なのははいつでもどこでもディバインバスター発射体勢。多分そのうち背中からも出せるようになるでしょう。

 

 

 女性は無言のまま腕を伸ばした後、口を開き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁー……。あー、よく寝た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あくびをして涙を流しました。

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 なのはとフェイトは無言で目線を交わしました。

 

 

「また、 全 て (怠惰な日常)が終わってしまった。一体、幾度こんな悲しみを繰り返せばいいのか……」

 

 

 あら不思議、元とまったく同じはずなのに、ニュアンスが違うだけでこんなにもガッカリなセリフに。

 

 

 声が届いていたなのはは眉をひそめました。

 

(そういえば、闇の書は危険だとユーノ君は言っていたな。あまり挑発的な行為は避けるべきか……?)

 

 なんということでしょう。ここに来てなのはが常識的な思考をしております。むしろ今までの言動が全部挑発行為に該当するという事実を華麗にスルーしていたクセにちょっと気づいちゃったっぽい空気。

 

 迂闊に触れると自分の住んでる町が壊される、という危機感もあったのでしょうか。自分が派手にぶっ壊すのは問題ないようですが、人が自分の庭を土足で踏み荒らすのは勘弁ならねぇご様子。

 

 なのははゆっくりと、闇の書を刺激しないよう近づいていきます。ちょっとポーズをつけながら空中を浮遊していきます。ジョジョ立ちしながら空中をスライドしていくのはやめていただきたい。

 

「お嬢さん。携帯の番号を教えてください」

 

 その聞き方は小学生としてどうよ。

 

「……携帯は持っていない」

 

 女性が片手をスッ、と上げると、それに伴い黒い本が浮かび上がりました。

 

「それは、あなたの自分史?」

「語るほどの自分史はない。おまえは、足が臭い馬鹿?」

「長い文章を読むのは苦手で」

 

 端から聞いても何が言いたいのか分からない問答でした。

 

「―――で、貴様は誰だ?」

 

 なのはは今までで一番全うな問いかけをしました。

 

「私は……ヘルメスの鳥」

 

 吸血鬼か貴様。

 

「わが主の願いを叶えるため、ここに参上仕る」

 

 短時間で女性のキャラが凄まじくブレだしているせいか、なのはも理解が追いつかず小首を傾げております。

 

「(あれ、こんな台詞だっけ? ちょ、待って、今台詞思い出すから……ダメだ、おうちで食べたピザの味しか思い出せない。ちゃんと映画見ておけば良かった)」

 

 小声でひどいことを垂れ流しておりますが、小さすぎて地獄耳のなのはさんにも届きませんでした。

 

「はやて君の願いと言ったな? 一体なんのことだ」

「(えっと……あ、そうだ思い出した)我が主の望み……それは現実の否定だ。今あるこの世界が悪い夢であってくれと願い、絶望を抱いた主が残した、たった一つの願いだ。私はそれを叶えるために、主に代わって現れた」

「それは、つまりどういうことだね?」

 

 半ば答えが分かっていつつも、なのはは問いました。

 

 

 

「そう、―――この小説(世界)を終わらせることが目的だ」

 

 

 

 女性は涙を流しながら言いまし……あれ、ちょっとおかしくない? 目的すり変わってない?

 

「いいや。連載開始から何年と経った今でも未だ完結されぬ物語……守護騎士らは追い回され続け、主はぼっち状態で2年以上も放置されている。このままでは中途半端テイストを読者の方々に晒したまま永遠の眠りについてしまう。そうなるくらいなら、いっそ過去(投稿)記憶(痕跡)さえも抹消し、すべてをなかったことにしてしまった方が良いと、主はお考えになったのだ」

 

 チョイチョイ原作風味を醸し出さないでください。メタれば面白いとでも思っているのですか。

 

 一体何言ってるのか分からないけど、世界がとんでもないことになっちゃって大変なんだなー的な雰囲気は理解できたのでしょう。なのはは改めて身構えます。

 

「で。貴様は一体どうしようというんだね?」

「主が今の現実を拒絶し眠りにつかれたならば、私は安寧をもたらすゆりかごとなろう。既にナハトヴァールが動き出している以上、私もいずれは消えゆく運命。ならばせめて、世界が終わるその瞬間まで、安らかに眠っていて欲しいというのは、私の傲慢だろうか」

 

 女性は悲しげに語り、先ほどとは違う涙を流しました。別にあくびを我慢したら出ちゃっただけではありません。

 

 なのはは、女性の話に耳を傾けています。隙あらばバスター、油断してたらバスター、問答無用でバスターを繰り返していたなのはが、棒立ち状態です。女性の話に、考えさせられることがありました。

 

 

 まさかそんな―――そんなガチシリアスな願望を抱えているとは。今まで自分勝手にフィーバーしていたなのはや若返り願望のために次元崩壊起こしかけたプレシアとはえらい違いです。目的のためならば環境破壊なんてなんのそのと大地を焼き尽くしてきたなのは、フェイトが危ない! と目を離した隙にサンダーボルト地獄でフェイトにちょっかいかけていた某執務官をこんがり焼き上げたプレシア・・・・・・今更ですけどこんなのが公務員て間違ってますよね。誰が採用したのでしょうか。

 

 が、今更どうにかできる問題ではありません。全ては自分のために、あとは知らない――過去に囚われない女、なのは。今日も一日、健やかに生きるのでした。誰かどうにかしてくれ。

 

「馬鹿か貴様。そんな身勝手な言い分が通用する世界などあるものか」

 

 今、抗議のメールが大量になのはの元へ送られてきましたが、レイジングハートが片っ端からデリートしました。

 

「ならばどうする? この場で話し合えによる円満解決を図れとでも言うのか?」

「そうだよ! 話し合えば、きっとわかりあえるんだって、僕は知ってるんだから……!」

 

 フェイトが珍しく正論で闇の書を説得しようとしています。これまで見られなかったことですね。今まで一直線だったフェイトの成長と言えるでしょう。今までアホの子だったフェイトも、いつまでも脳みそ三グラムではないのです。そう、今こうして説得しようとしているのは、なのはとの出会いを経て、闇の書と互角な話術をする頭を得たという証拠で―――

 

「話し合いか」

「そうだよ!」

「成程。―――ではまず私から言わせてもらうが、ナハトヴァールが目を覚ました今、暴走状態を抑えることなど無理だ。管制人格たる私でもコントロールを得るのは困難を極める。仮にナハトを解除できたとしても、再生能力を持つ暴走体を貴様らが消滅させることなどできるのか? 第一投降した我々を貴様らが迎え入れるとは思い難いな。犯罪行為を重ねた守護騎士達とその主を管理局は断罪するだろう。次元犯罪者の烙印さえも視野に入れねばならないが、さて貴様らはどう責任をとってくれる? 自己責任と言えば聞こえはいいが、それは体の良い逃げ口上ではないのか? 我々の境遇に同情しただけならば関わらないでもらいたい。そもそもお前たちが我が騎士たちのささやかな幸せを妨げたせいと言うこともできるが、その辺りはどう考えている?」

 

「?????????????????」

 

 変わってねー。

 

「……つまりだね。要約すると、彼女たちのしてきたことを無かったことにできるのかと、そういうことだ」

 

 と、なのはが助け舟を出しますが、

 

「え? そんなの無理じゃん」

 

 一言で切り捨てました。

 

「フェイト、もうちょっとオブラートにくるんで言うべきだと思うが」

「えー! だって、謝りもしないで許されるわけないじゃないか!」

「だ、そうだぞ?」

「……すいません」

「うん! 分かった! ボクは許す! 許すよ!」

 

 なんの解決にもなってねぇー。

 

「……とまぁ、この子はそう言っているが、私の意見は少々違うぞ」

「ほう」

 

 闇の書は初めてなのはに興味深げな目を向けました。

 

「フェイトは無理だと言ったし、確かに他の連中では貴様らを処罰するほかなく、救いの道はないと言うが―――」

「?」

「私ならできる」

 

 まったくちっとも、これっぽっちも信ぴょう性のない発言をぶちかましました。

 

 ビュオォオオオ……、と寒い風がタイミング良く吹き寄せました。

 

「お前たちに恨みはない。だが、お前たちさえいなければ、主や守護騎士たちは最後まで幸せなまま終わりを迎えることができた。そう思うと、堪えようのない怒りに似た感情があふれ出てしまいそうだ」

 

 とうとう話しても無駄だと判じた闇の書が会話を絶ち、魔力を収束させていきます。最初からそうすりゃ良かったんじゃなかろうかという突っ込みもなくはないのですが、残念ながらこの人台詞を忘れていたのでそれは難しい話でしょう。

 

「くっ……! 力ずくで止めるしかないのかっ!?」

 

 やはり戦うしかないのでしょう。フェイトは悔しげに顔を歪め、それでもなお武器を構えました。どんな事情があるか彼女はちっとも理解できませんでしたが、それでも譲れないものがあるのだということだけはハッキリ理解できました。だからこそ戦い、気持ちをぶつけてこそ分かり合えるのだと、フェイトは理屈ではなく身体で感じ取っていたのです。さぁここに来て再びフェイトの主人公オーラが膨れ上がっております。

 

「くっ! 力づくで止めるしかないようだね!?」

 

 一方、嬉々として魔力をギュンギュン循環させながらデストロイモードに入る主人公(だよね?)。

 

 心情に差はあれど身構えていた二人でしたが、そこでようやく異変に気づきました。女性の纏っていた魔力の質が高まっていっていることに。周囲を漂っていた空気がピリピリと肌に突き刺すようなこの感じ、プレシアのおっちょこちょいで発生したくしゃみサンダーの100倍くらいやばそうな雰囲気。砕けた言い方をすると、べらぼうにハイとなってぶっちゃけあかん領域に。

 

「あ、あれ? ひょっとしてこれまずいんじゃ……なのは!」

 

 さすがのフェイトもたじろぎました。なのはの全力全壊に比べたらカワイイものでしょうけれど、少なくとも人に向けてぶっぱ放せばどうなるかなど容易に想像できる規模にまで膨れ上がっています。

 

 焦るフェイトは助けを求めるようなのはにすがります。

 

「待ちたまえ。今から回避判定とるから。あっ、しまったサイコロを忘れてしまった」

「TRPG!?」

 

 とかなんだか言ってるうちに、女性は準備を完了させました。ひときわ大きく空間が脈動したかと思うと、女性の周辺から黒い魔力弾が生じ、フェイトとなのは目掛けて勢いよく飛び出してきました。

 

 

 

 

 

 

 これは避けられない――フェイトは瞬時にそう判断すると、緩やかな光景を見つつ隣に意識を向けました。この軌道だとなのはにも激突することでしょう。二人もろとも、という目算でしょう。フェイトは高速で動けばかろうじて回避が間に合います、しかしなのはは難しいでしょう。いくら彼女でも無防備なところに受ければひとたまりもありません。思考は一瞬、フェイトは迷うことなくなのはを突き飛ばさんと身体を動かします。かつてプレシアの誤射……もとい、落雷から救った時の様に。あれ救ってもらったっけ? まぁそんな気がするからいいや。待っててねなのは今助けるよ! 

 

 フェイトは横へとジャンプしました。

 

 

 

 

 

 直撃する――なのははスローになる視界の中でそう判断を下しました。必死に唱えようとした対抗呪文が完成する前に攻撃だなんてコヤツ空気が読めないな。変身中に攻撃をする空気読めないヤツと同じではないか。まぁこの借りは後で何倍にもして返せば問題ないねフフフ。なんてことを考えておりましたが、しかしこの軌道だとフェイトも巻き添えを喰らってしまいます。なのはなら直撃したところで防御がギリギリ間に合いそうですが、見た目的にも物理的にも防御力の薄いフェイトは一発で撃沈しかねません。別に胸囲的な意味で薄いとか思ってはおりませんが、仕方ない後でプレシアに怒られるのもイヤだし助けてあげようかなどと結論付けます。

 

 なのはは横へとジャンプしました。

 

 

 

 

 

 

 その結果、二人は頭から思いっきり激突しました。

 

 

「「はっぷにング!??!?」」

 

 

 ごーん☆と少し早い除夜の鐘さながらのヘヴィな音が木霊しました。頭上で星を回す二人。なのはは大きくよろめくと、かろうじて保った意識を掴んで堪えました。が、フェイトは体勢を整える前に飛来する黒い魔弾が直撃しました。

 

 するとなんということでしょう、黒い魔弾は大きく膨れ上がると、フェイトの五体をずるずると吸収していきます。ターミネーター2のラストみたいな感じです。あいるびーばっく。

 

 しまった、となのはが後悔してない顔でちょっと後悔している間に、やがてフェイトを包んでいた魔弾は虚空へ吸い込まれるように消えていきました。さながらダイ○ン掃除機に吸い込まれるゴミのように。比喩表現って使うと頭良さそうに見えるかと思ったらそんなことないんですね。

 

 なのはは女性の方へ振り向きます。フェイトは消えた、というより吸い込まれてどこかへと飛ばされたように見えました。今までさんざん魔法で器物を抹消してきた人の感覚は伊達ではありません。たぶんどっかにほっぽり出されているんじゃなかろうか。適当に結論付け、仕方ない後で迎えに行ってやろうと肩を落とします。

 

 ともあれ、まずはこの女性をなんとかせねばなりません。正体がよく分からない以上迂闊な行動はできませんが、一刻も早くはやてを救出してフェイトを探し出さないとプレシア女史が何をしでかすか分からないので、なのはは無理やりモチベーションを上げます。世界の危機よりも、娘の安否でひとつで安易に文明衰退レベルの事態を引き起こすBBAの方が恐ろしいというジレンマ。

 

 さぁオープン戦だ――なのはがウッキウキな気分になれないまま顔を上げると、目の前に黒いものがいっぱい。

 

「おや」

 

 小首をかしげ、ふと周囲を見渡して見ました。さっきフェイトをどこかへと消し飛ばした黒いモノが空中にいくつも浮かんでいます。それは弾丸というよりむしろ槍に近い形状でした。なのはがぼけーっとしている間にせっせと蓄えていたのでしょう。なのはを取り囲むように黒い槍が何百何千と浮かんでいて、切っ先をなのはへと向けています。

 

 しばし目線をぐりぐり動かしていたなのはでしたが、やがて視線をまっすぐにして、一言。

 

「…………うん、これは無理だね。ははは困ったな」

 

 はぁーもうやんなっちゃうねとばかりに首を振った瞬間、黒い槍が殺到しました。

 

 

 

 

 

 その寸前、

 

「ああ……面倒くさい。早くこたつで寝たい」

 

 女性がボソッと何かを呟きましたが、それは誰にも届きませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

   A’s編 第14話   決戦なんて速攻なんです

 

 

 

 

 暗い。

 

 目を覚ますなりフェイトはそう思いました。

 

 横たわっていた五体をゆっくりと引き起こすと、見慣れない光景が目に飛び込んできました。薄暗いためよく見えませんが、半透明の水槽のようなものがいくつも並んでおります。ひとつは壊れてガラスが散らばっています。

 

「何ここ? 概念空間かな?」

 

 なんでそんな難しい言葉知ってんだ。

 

 しかし並んでいる機材はどこか見覚えがあります。どことなく漂う懐かしい雰囲気を感じながら、とりあえずフェイトは付近を散策しようと部屋から出ました。幸い扉はなかったので廊下へと出られました。

 

 廊下は左右へまっすぐ伸びているようでした。暗い道は青白い蛍光灯のようなライトで照らされているだけなので視界が悪く、フェイトは何度か壁へ頭を激突させながら進んでいきます。フォトンランサーぶっぱなしながら進めば辺りが明るくなるんじゃないかな、とかトチ狂ったことを一瞬考えました。それってどっかの誰かと同じ道を着実に歩んでる思考回路ですよね。これはいけない。

 

「誰もいないのかなぁ……」

 

 延々と歩き続けること2分。既に散策気分などはるか彼方へと吹き飛び段々飽きが生じ、果ては薄暗い空間のせいもあって寂しさが湧いてきました。ここでなのはサンが颯爽と登場したら尻尾を振り振り構ってワンコみたいに飛びつくこと請け合いでしたが、生憎と我らが主人公(?)は別空間でひゃっほうしてるため来れません。

 

 徐々に不安になってきて足取りも重くなり、フェイトが涙目になりそうになりました。

 

 その時でした。

 

「―――ッ! ―――、――――?」

「……っ? ……………!」

 

 誰かの声が聞こえてきました。二人分の、怒鳴るようなものと、泣く寸前の悲痛なものが、わずかにフェイトの耳へと届きました。

 

 これ幸いとばかりに顔を明るくしたフェイトは、スキップしそうな軽やかな足取りで走り出します。なのはSANだったら残像ができそうな勢いで走り出していたでしょうね……って、さっきから比較対象が全部アレじゃないですか。ちょっと頭が毒されてるようですね。あっ、今気がつきましたけど、フェイトって言動が子供っぽいだけで実は割と普通なんですよね。だからついつい頭おかC系人類がグイグイ真ん中に寄って来ちゃって影が薄れちゃうのはこのためなんでしょうか。大丈夫、続編があったらもっと出番来るさ!

 

 そんなどうでもいい考察など知らないフェイトは、やがて大きな空間へと飛び出しました。声はここから聞こえていたようです。

 

 そこはとても見慣れた場所でした。

 

(あれ、ここってお母さんがよくいた場所じゃ……)

 

 そう。かつてプレシアが妄執に囚われ、アルハザードを目指していた頃。なのはやクロノたちが乗り込み、母と対峙したあの場所です。満身創痍で辿りついたクロノ立会いの下、母親と一対一で語り合った、フェイトにとっても忘れ難い思い出の場所でした。まぁ実際の構図は頭から剣生やした血まみれの変態にガン見されながらステゴロで殴り合わんとするコスプレイヤーとその娘というなんとも言い難い状況でしたが。

 

 しかし、あの場所は既に二度と立ち入れない場所と化しているはずです。何故こんなところに来たのかなと思う間もなく、フェイトは声の主を見つけました。

 

(お母さん、と……あれ、アリシア?)

 

 フェイトは目を剥きました。背中を向けているため顔は見えませんが、自分を生んでくれた母親の背中を見違えることはありません。その母親の前で座り込んでいる金髪の姿も、遠目に見ても自分とそっくりであることから、姉のアリシアなのだと見当をつけました。

 

 そうなると、何故こんなところにいるのでしょう。プレシアもアリシアも、今は次元管理局の管理下に置かれているはずです(アリシアは主に頭がアレな問題で外出できておりません)。その辺でプラプラできているフェイトは一体全体どんな理屈でフリーダムな生活を送っていられるのか本人はサッパリ分かっておりません。コスプレイヤーの母と年齢詐称艦長の力は偉大。

 

 とても見覚えのある二人なのですが、ちょっと様子がおかしいことにようやくフェイトは気づきます。母から漂う張り詰めた空気はかつて感じたことのないものでした。アリシアの眉根を伏せた悲しげな顔と相まって、さすがのフェイトも敏感に察知しました。

 

(怒られてるの、かな?)

 

 割と常識的な解答ですが、ここで聞き耳を立てるのもどうかと思い、フェイトは思い切って声をかけることにしました。

 

「何してるの?」

 

 プレシアの後ろから声をかけました。すると、プレシアらしき女性と、フェイトと瓜二つな少女が振り向きました。

 

 あらためてよく見ると、フェイトの知る二人と酷似していましたが、少しばかり異なりました。プレシアはかつてなのは達と出会ったばかりの頃と同じ、年齢を考えるとちょっとキツいんじゃないかっていうかなり露出が激しいアレな格好でした。フェイトとそっくりな少女は恐らくアリシアなのでしょうが、かつての頭イっちゃってる様子は鳴りを潜め、眉根を下げてしおらしく座り込む姿は、どこからどう見ても普通の少女のようです。

 

(お母さんってば、最近控えていたのにまたあんなカッコしてる。アリシア……だよね? いつもと様子違うみたいだけど)

 

 事態が把握できず、フェイトは疑問符を浮かべます。その仕草が琴線をいたく刺激したのでしょう、呆けていた二人はみるみるうちに、表情を驚愕へと変えていきます。

 

 とりわけプレシアの驚き様はすさまじく、わなわなと全身を震わせて狼狽えております。

 

「あ、アリシア……なの?」

「? 何言ってるのお母さん。ボクは―――」

 

 と、そこでかしこいフェイトちゃんは気づきました。

 

(ははぁ。ひょっとしてお母さんってば、ボクとアリシアを間違えちゃってるんだな? 見た目だけならボクとそっくりしだしね、寝ぼけてるのかな)

 

 前半は当たってるんですが最後は間違っています。

 

 フェイトが今世紀最大級のトンチンカンな聡明さを発揮すると、プレシアにバレない程度に笑みを浮かべます。まるでイラズラを思いついた子供のようでした。

 

「ひどいなぁお母さん。ボ……わたしのこと、忘れちゃったの?」

 

 やや儚げに微笑みました。結構無理のある感じでした。

 

 ちょっとした子供のいたずらのつもりでした。本人的には後でネタばらしして母親を困らせてやろうくらいの気持ちであり、内心ほくそえんでおりました。

 

 ところが裏でニヤニヤしているフェイトとは対照的に、プレシアは肩を震わせております。口が開いても言葉が出ず、震える手が虚空をさまよっています。あれなんかマズったかな? フェイトが若干ズレたことを思って首を傾けました。そのしぐさが決定打になったのでしょう、プレシアの中で何かが決壊しました。

 

「あ、アリシア……アリシアッ!」

 

 たまらず駆け出し、フェイトを両手で強く抱きしめました。

 

 さながら久方ぶりの再会、親子感動のご対面と言わんばかりの光景を、フェイトと似た少女は唖然とした様子で見つめていました。

 

 

 

 

 

「・・・あれぇー?」

 

 ようやく自分の置かれている環境がおかしいことに気がついたフェイトでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




未完。

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