キラキラTCGホビアニ世界にTS転生したはずなのに! 作:いる科
──どうも。ヤミノ・トバリです。
今は一人、新幹線に乗っています。
シートが大きいです。足ぷらぷら。
……何故そうなったかって?
……うーむ、何から話したものか。
そうだ。まず、名前について。
あの契約に【署名】するとき、帳 響也と書こうとして──。
もしかしたらこの体には別の名前があるんじゃないか、という疑念が頭を過ぎった。
スマホのプロフィールを確認したら、ビンゴ。
可愛い顔写真と共に『ヤミノ・トバリ』と書いてあったので、そちらを名乗っていくことにした。
ダークなカッコよさがあって良い名前だ。
私のセンスは中学二年生時点で止まっている。
エターナル・ブリザード……ッ!!
私は「吹き荒れろ、エターナル・ブリザードォッ!!」も。
早口「エターナル・ブリザード……」も。
「エターナル・ブリザードォ! ウオオオオオッ!!」も全部好きだ。
好きすぎて小学生の頃はサッカーをやっていたし、フードを深くかぶって「帰ってきた豪炎寺修也ごっこ」をしていた。
……前世の名前を捨てることに未練があるかといえば、さほどない。
そもそもこの美少女ボディで『響也』は、さすがにミスマッチすぎる。
金魚にゴールデンレトリバーと名付けるようなものだ。
つけていたけど。
さて、それから。
魂札荘〈アザミ〉の平日大会で、私は優勝した。
いえい。ぶいぶい。
リザルトは戸巻とかいう輩の全財産。およそ五百万程度だ。
これでしばらくは寝床にもカード確保にも困らない。
それから、優勝賞品としてレジェンドパック──非売品の特別なパック──まで手に入れた。
そこから最高レアリティ、レジェンドのエースユニットが当たった。
死ぬ五年前くらいに環境にいた、Tier1コントロールデッキの主軸カードだ。
思い入れのあるカードなので、とても嬉しい。
店長は、かなり私を心配している様子だった。
まあ、そりゃあそうだろう。
デッキホルダーすら持っていない──おそらくズブの素人と思われる少女が、突然「後払いで大会に出ます」と言い出したのだ。
マトモな大人なら止めるにきまっている。
だが少なくともあの場においてマトモな大人は彼一人しかいなかったので、少々驚いた。
魂札荘〈アザミ〉が、マトモな店ではなかったからだ。
いくらかカドショを回って、マトモな店では私の提案を受け付けてくれないことを知った私が、日の落ちる直前にようやく見つけた非凡な店。
──それが〈アザミ〉だった。
店長が意外にマトモで誘いに乗ってこないのは計算外だったが、幸いにもあの場には戸巻がいた。
人目のある場所で引けないタイプで、弱い立場を見つけると首を突っ込みたがる人間。
……私の挑発に、乗らない理由がない。
何より、叩きのめして再起不能にしても罪悪感の湧かないクソ野郎なのがいい。
実に運が良かった。
大会に出れてさえしまえば、勝ちは最初から決まっていた。
理由はいくつかある。
まず、この世界のソウル・アークは、前世にあったソウル・アークとは"性格"が異なる。
前世のカードゲームは、人間が作っていた。
カードデザインも、環境も、メタも、全部——誰かの意図が積み重なったものだ。
だから、強さは再現できる。学習できる。
スパイスとしての運要素は勿論あるし、実力だけではどうしようもない試合もあるけれど。
研究と練習をすればするほど安定する、平等な知的競技だ。
たまにどうしようもないクソ環境が生まれるけども、それはそれで叩けば叩くだけyoutubeが伸びるのでヨシ。
……改めて、なんで私公式に呼ばれてたんだろう。
さて、けれどこちらのそれは少し様子が違う。
天性の素質が存在する。
頭脳に天性のアレコレがない、と言いたいわけじゃない。ただそれは一旦棚に上げておいて、だ。
ここでしたいのはカードに出会える機会の話だ。
この世界のカードは、遺跡から発掘された『遺物』を、C.A.R.D.社が解析して——カードとして印刷する。
印刷といっても、コピー機で行うそれではない。
カードは紙ではない謎の物質で出来ていて、遺物の形としての変換を印刷と呼称しているに過ぎない。
誰かが「こういうカードを作ろう」と設計しているわけじゃない。
世界そのものが、勝手にカードを吐き出しているのだ。
そして——人にはアニマがある。
魂の形。資質。引き。適性。
……これがアニマだ。
この世界の人間たちは、それを当前のように口にする。
前世でそんなことを言えば、オカルトだと笑われるだろう。
だが、この世界ではそれが本当に存在するのだ。
……メタ的なことを言えば。
アニメ特有のご都合主義やカードの入手経路を、大人達でも納得できるように──アニメの制作陣がそのような設定にしたのだ。
ほら、麻雀漫画で『咲-Saki-』ってあるじゃん。あれみたいなもんだよ。
そして重要な、カードの入手経路。
パックの中身は開けるまで誰にも分からない。
無論前世において、サーチ行為や1BOX確定で一枚封入されているレアリティなんかはあったけれども、そういった話ではなく。
この世界にはそもそも『拡張パック』というものが存在せず、そもそもパックにカードが入っている訳でもない。
この世界のパックとは、人間のアニマにカードを引き合わせる儀式の触媒だ。
速攻に向いたカードしか出ない人もいれば、バニラカードしか出ない人もいるだろう。
最悪、何のカードも入ってない場合さえある。
そして、私には言語化できない、直感としての確信があった。
相当数のパックを剥けば、私の欲するデッキを構成するに必要なカードが全て揃うだろう……と。
だから私は、パック八つと、空のコピーカード二十枚を要求した。
前世でも、デッキを構成できるだけのパックを剥いてその内容物だけで戦う、特殊なカジュアルレギュレーションがあったが──。
それとは全く異なる話だ。
事実として、私は自身の欲するデッキのうちの一つを手に入れることができた。
《白黒ミッドレンジ》。
序盤のテンポ、トレード──そして中盤のライフ回復と圧倒的な盤面制圧能力が魅力のデッキタイプ。
唯一の弱みはドローソースが少ない事だが、単体で強いカードを多く搭載しているため、ブレイングを極め、与えられた手札で最適解を出し続ければ充分カバー出来る。
最高のデッキだ。
そして、私の《白黒ミッドレンジ》の練度は、ハッキリ言って世界最高レベルだ。
アニマによって多少引きを良くされたところで、苦戦はしない。
ようするに、はじまる前から勝負は終わっていた。
私の優勝は決まっていたのだ。
……ただ。
一つだけ、心底驚いたことがあった。
戸巻が私に要求したもののことだ。
──「大会で負けたら、その身体で払ってもらうってのはどうだ?」
あのとき、戸巻は舌なめずりをして笑っていた。
女として初めて向けられる、剥き出しの欲情。
視線が皮膚を撫でる。
なぞる。
舐める。
胸元の辺りを見られている。
太ももの辺りを見られている。
唇を見られている。
戸巻の想像の中で今、私はどんな仕打ちを受けたのだろう。
きもちわるい。
きもちわるい。
──きもちわるい!!
私は、こんな男に欲情されるために存在しているわけじゃない。
──ぞわりと。
背中から冷たいものが這い上がったあの感覚が……今でも、忘れられない。
ポーカーフェイスにつとめたため誰にも気づかれなかっただろうが、あの瞬間、私は心底ビビっていたのだ。
いや、だって。
子供向けアニメだぞ!?
ゲームで言うならCERO:Aなんだぞ!?
何考えてんだよ!!
倫理観をママのお腹の中にでも置いてきたのか!?
PTAに叱られちまえ!!
勿論、魂札荘〈アザミ〉がそれなりにヤバい店だということは覚悟の上で入った。
けれど、それはここまでの意味ではなかった。
……私は、遅れて気づいた。
ここは確かにアニメの中の世界ではあるけれど、
子供向けフィルターなんて都合の良いものは存在しない。
私が見てきたアニメとしてのシナリオの外側には、きっと——語られなかった裏事情が山ほどある。
──キラキラアニメは、キラキラなだけじゃなかった。
私が人生を賭けて愛したカードゲームを。
悪いことに使うやつがいる。
そしてそれは想像よりもずっと現実的で。
ずっと生々しくて。
ずっと最悪だ。
──そう考えたとき。
自分が転生した意味が、なんとなく分かった気がした。
私はこのカードゲームの腕で、キラキラを守るために生まれ直したのだろう。
使命だとか運命だとか、スピリチュアルな神の意志だったりを真っ直ぐに信じる訳じゃない。
ただ──。
生まれ直したからには、目的となる一本の筋を通したい。
前世──ソウル・アークを強くなることに、全てを捧げたのと同じように。
さて、さしあたってどうするか。
できた目的に対して──手段は? 対象は?
一つ一つ、思考を重ねる。
スマホで日時を確認したところ、アニメのシナリオが始まるまで、まだ何年かの時間がある。
だから現状、派手に動くことによる原作改変の心配はあまりしなくて良いと言える。
次に、戸巻のあの顔──店長のあの動揺。初めてのことではないはずだ。
実際に少年少女を売ったことがあるからこそ、あんなことが言える。あんな反応になる。
……売るって、どこに?
その疑問を解消すべく、客が引いた後、私はカウンターで店長に問いかけた。
「店長さん。……詳しいんですよね? こういうことに」
店長は苦虫を噛み潰したような顔をした後、長い溜息をついた。
「……昔の話だ。俺も、あっち側の人間だった」
「あっち側?」
「──北九州だ……あそこは無法地帯だ。黒帝会……。裏社会のデカい連中の寄り合いだ。お偉いさんとも繋がってるって話で、警察も手が出せねェ」
「……なるほど」
黒帝会。アニメには登場しなかった名前だ。
けれど、店長の声音に含まれる微かな怯えが、それが本物の脅威であることを物語っている。
「そこで開催されてんのが『ダルネスシリーズ』だ。中央の華やかなプロリーグとは違う。暴力、イカサマ、薬物……なんでもアリの闇デュエルだ」
「そんなものに、皆何故出場を?」
「出るだけでギャラが発生するってんで、行き場のねぇデュエリストの墓場になってやがるんだ。……嬢ちゃん、いいか。テメェは強えが、あそこはデュエルの腕だけで生き残れる場所じゃねェ。関わるな」
薊はカウンターに肘をつき、祈るように両手を組んだ。
過去の罪滅ぼしか、それとも単なるお節介か。
彼は真剣な声音で、私に警告を発した。
「そうですか。……忠告、感謝します」
感謝するだけで、聞くとは言っていない。
すまんね店長、私のやるべきことは決まったんだ。
デッキホルダーを一つと、パックを必要分買う。
そして私は店を出て、北九州行きのチケットを買った。
そんな経緯があって今──私は、アニメのシナリオが繰り広げられる東京から離れ。
新幹線に乗って、北九州へと向かっているのだ。
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