キラキラTCGホビアニ世界にTS転生したはずなのに!   作:いる科

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第六話「デモンズ・ゲート」

 メイのターンは、まだ終わっていない。

 メイは口角を吊り上げると──手札からカードを抜き取る。

 

 さっきまでの不機嫌な態度はどこへやら。

 喉の奥から漏れ出るのは、堪えきれない愉悦の笑いだ。

 その情緒の振れ幅の大きさが、彼女の異常性を際立たせていた。

 

「コード《冥火の奔流》! 互いのライフに2点ダメージを与える!!」

 

 どす黒い炎が奔流となってフィールドを舐め尽くし、二人のライフカウンターが同時に削られる。

 

「ククッ……ターンエンドだ」

 

 トバリのターン。

 

「ライフに総攻撃します」

 

 淡々としたトバリの声。

 メイのライフはこれで残り六。

 危険域だが──このターン中の決着は見込めない、絶妙な数値だ。

 

 もしメイが勝利を急いで盤面を粗末に扱っていたなら、このターンでトバリに押し切られていたかもしれない。

 ライフを削りつつも、決定打を与えないギリギリのラインで見切るバランス感覚。

 

 ──それでもリリーは、どうかこのターン中に決着をつけてくれ、と願わずにはいられなかった。

 

「続けて、コード《天使の息吹》をプレイします。手札から一枚捨てて、三点を回復。……ターンエンド」

 

 願いは裏切られ、トバリの手札から一枚のカードが墓地へ送られた。

 ライフが十九点まで回復する。

 

(え、それ、だけ……?)

 

 リリーは、心の中で嘆息した。

 ダメだ。それではダメだ。

 次のターンを渡してしまったら──。

 

「──アタシのターン、ドロー……ククッ……」

 

 メイが嗤う。

 その声には、隠しきれない歓喜が滲んでいた。

 

「クハッ」

 

 メイの表情。あの笑み。客席まで届いてくる熱気──アニマの圧。

 デュエリストでなくとも、誰でも分かる。

 

 ──切り札が、来る。

 

「それで勝ったと思ってんならご愁傷様だクソガキ!! 虐殺ショーのはじまりだぜ!!」

 

 メイが高らかに宣言し、その手札からカードが一枚ずつプレイされていく。

 

「フィールドカード《冥府の鍵》ッ!!」

 

 ──ああ。ついに。

 ついに、来てしまった。

 

「……はて、お嬢さん」

 

 リリーの緊張を知らぬ老人が、もたもたと首を傾げる。

 

「《冥府の鍵》──コスト①、色条件・黒③、とありますな。コストより色条件の数字が多い場合は、どうなるのですかな?」

 

「あ、えっと……」

 

 説明している場合ではない。けれど、無視するわけにもいかない。

 リリーは早口でまくしたてる。

 

「……色条件の方が高い場合は……ソウルに黒が三枚以上ある状態で、黒ソウルを一つ使うことが条件になります。黒が足りていれば、コストは一つで済みます」

 

「なるほど。なかなか特殊なカードのようですな」

 

 のんきな感想。

 だがリリーには、そんな余裕はない。

 両手を握って──目を瞑る。

 

 どうか、これ以上は。

 そんな祈りは、メイの咆哮によって容易く裏切られた。

 

「──二枚目ェ!!」

 

 二枚目の《冥府の鍵》がフィールドに置かれる。

 

「三枚だァッ!!」

 

 三枚目。

 リリーの目の前が真っ暗になった。

 

(一枚だけでも、まずいのに……っ!!)

 

 同じカードは、四枚までしかデッキに入れられない。

 この圧倒的な引きの良さ──。

 

 如月 メイのアニマは、デュエルの神に愛されているに違いない。

 TierB優勝という称号すら生ぬるい。TierAの大会に出たとしても、彼女は当然のように勝つだろう。

 

「……はて。何も効果がないようですが?」

 

 老人の疑問はもっともだ。

 《冥府の鍵》には、場に出たときに発動する効果も、常時発動する効果も存在しない。

 ただ、一つの不吉なテキスト──《エピタフ》を除いて。

 

 リリーは震える唇を噛んだ。

 

「……いいえ。来ます」

 

「十なる骸の咆哮よ──黒より黒く、契りを成せ。──冥府の門よ、開けェッ!!」

 

 ──それは、終わりの合図だ。

 

「《デモンズ・ゲート》ッ!!」

 

 コードの詠唱と共に、フィールドが紫黒の瘴気に包まれる。

 墓地から這い出した十体の亡霊たちが、苦悶の表情で絡み合い、積み重なり──やがて一つの巨大な"門"へと姿を変えていく。

 耳を塞ぎたくなるような断末魔の合唱が、会場を震わせた。

 

 《デモンズ・ゲート》。

 その効果は──互いのフィールドの全てのカードを破壊するというもの。

 そしてその発動条件は、キーワード効果《エピタフ》を十回発動させること。

 メイはその厳しい条件を、一つ前のターンに満たしていた。

 

 トバリの盤面が消し飛ぶ。

 積み上げてきた全てが、塵となる。

 

 だが、絶望の本番はここからだ。

 メイのフィールドにあった三枚の《冥府の鍵》。

 破壊されたそのカードたちの《エピタフ》が──同時に発動する。

 

「《冥府の鍵》!! 《エピタフ》発動ッ!! このカードが破壊されたとき──」

 

 黒い雷光の柱が、三本立つ。

 空間が歪み、深淵の底から、それが這い出てくる。

 

「──神を呼び出すッ!!」

 

 巨大な影が三体、フィールドを覆い尽くす。

 漆黒の鎧、王冠のような角、そして死そのものを纏った大鎌。

 神話の冥界を統べる王たちが、現世へと降り立った。

 

「《冥王神・ハデス》降臨──!! 見ろッ!! 神のカードだッ!!」

 

 メイが両手を広げ、恍惚とした表情で叫ぶ。

 

「ATK6!! VIT8!! 《クイック》!! 《ドレイン》ッ!! 神、神、神ィッ!! 三体のハデスでライフにダイレクトアタックッ!!」

 

 神の拳が、あどけない少女へと振り下ろされる。

 一度、二度、三度。

 

「……っ」

 

「三連打ァッ!!」

 

 トバリのライフが、十九から一へと、一気に削られる。

 

「十八点のダメージッ!! しかもドレインで、アタシのライフは十八点回復ッ!!」

 

 メイのライフが、一気に二十まで回復する。

 対してトバリのライフは、たったの一。

 風前の灯火だ。

 

「あぁ……っ!!」

 

 絶望的な数字が、リリーの視界を埋め尽くす。

 恐れていたことが、現実になってしまった。

 

「分かるか!? お前が積み重ねてきたモン全てはなァ~~ッ!! たった今、無駄になったんだよッ!!」

 

 メイの哄笑が──会場に響き渡る。

 客席からも、如月 メイの圧倒的な暴力を讃えるコールが沸き起こる。

 

「知ってるかァ!? 無所属はよォ、負けたら地下行きなんだぜェ~~ッ!?」

 

 地下。

 人身売買。薬物実験。強制労働。

 負けた無所属デュエリストを待つのは、人の尊厳などない地獄だ。

 

「今の気分を聞かせろよ、クソガキィ!!」

 

 メイの嘲笑。

 勝者の傲慢。

 敗者を踏みにじる快楽。

 

 ──そんなメイに。

 トバリは、表情一つ変えずに答えた。

 

「……気分、ですか?」

 

 その声は、圧倒的な絶望を前にして未だ──波一つ立たない水面のように凪いでいた。

 

 メイがターンを終了する。

 トバリのターンが始まる。

 

 リリーは、ただ呆然とうつむくことしかできなかった。

 

(終わった……)

 

 神のユニット。

 破壊耐性を持つ、三体の《冥王神・ハデス》。

 それを処理する手段など、存在しない。

 

(やっぱり……ただの、勘違いだったのかもしれない……)

 

 何かをやってくれそうな予感。

 根拠のない期待。

 それは所詮、弱者がすがりついた、リリーの願望に過ぎなかったのだ。

 

 あの銀髪の少女も、結局は──。

 

「これは、驚いた。あの子は……本当に強いですな」

 

 老人の声が、耳に入る。

 リリーは力なく頷いた。

 

「……はい。如月メイは、TierBで二度も優勝している生粋の実力者ですから……」

 

「いえ」

 

 老人が、ゆっくりと首を振る。

 

「ヤミノ・トバリ……でしたかな。彼女の方ですよ」

 

「え……?」

 

 リリーは、思わず老人の顔を見た。

 老人は穏やかな表情で、じっとフィールドを見つめている。

 

「今のターンで、並のプレイヤーであれば負けていたでしょう」

 

 ──何を、言っているのだろう。

 リリーの思考が、追いつかない。

 トバリは今、首の皮一枚で生き残っているに過ぎないのに。

 

 だが老人は、確信を持った声で続ける。

 

「先ほど彼女が使った《天使の息吹》──あれがなければ、ライフが足りなかった。あのカードのおかげで、彼女はまだ生きているのでしょう?」

 

 その言葉に。

 リリーの脳裏に、電流が走った。

 

 《天使の息吹》。

 攻め手を緩めてまで、ライフを3点回復したあのカード。

 

 確かにもし、あの回復がなかったのなら。

 十六点のライフから十八点を削られれば──ライフはゼロを下回る。

 つまり、今のターンで負けていた。

 

「あの時点で……読んでいた……?」

 

 メイが形成を逆転し、十八点もの特大ダメージを叩き出すことさえも。

 あの銀髪の少女は──一体、どこまで未来を見据えていた?

 

「はて、どこまで彼女は見ているのやら」

 

 問いかけるような老人の言葉が、ざわめきの中に溶けていく。

 その答えを示すかのように──静寂な声がフィールドから響いた。

 

「……気分は、悪くないですよ」

 

 トバリの手が、山札からカードを引き抜く。

 その動作には、死線を前にした焦りも、恐怖もない。

 ただ、日常の延長線にあるかのような──自然な所作。

 

 その異様さに、メイの表情がひきつった。

 

「……は?」

 

「勝負に命を賭けるのは……楽しいですから」

 

 何を言っているのか、分からない。

 リリーだけではない。メイにも、観客たちにも、誰にも。

 

 ライフはわずか一のみ。

 相手の場には破壊不能の神が三体。

 自分の場には、何もない。

 

 この状況で──楽しい?

 

「狂ってんのかテメェ……ッ!!」

 

 メイの絶叫がこだまする。

 

「お前は今から負けるんだぞッ!! 地下に落ちたらそう簡単にゃ出てこられねえ!! 地獄に落ちるってのに、何涼しい顔してやがるッ!!」

 

「狂気の沙汰ほど、面白いとは思いませんか?」

 

 トバリは、初めて表情を動かし──薄く微笑んだ。

 

「それに、勝つのは私ですから」

 

 会場が静まり返る。

 何を言っているのか、誰にも分からなかった。

 だが──トバリの瞳には、揺るがない光が宿っていた。

 根拠のない自信ではない。確固たる計算の光が。

 

「手札から、ユニット《絆の紡ぎ手・クルト》をプレイ」

 

 光の粒子が集束し、白いローブの少年が姿を現す。

 ステータスは──ATK0、VIT3。

 戦う力を持たない、非力なシステムユニット。

 

「何をするかと思えば──あっはっはッ!! ATK0だとォ!?」

 

 メイは涙さえ浮かべて、その弱小ユニットを指差した。

 

「警戒して損したぜ!! そんな弱小ユニットに何ができるッ!!」

 

 腹を抱えて笑うメイに、トバリは処刑宣告のように──静かに告げた。

 

 いわく。

 ──「あなたに勝てる」と。

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