本作は天冥のコンキスタと、クロス要素有になります。
「婚約、ですか?」
兄上。セドリック陛下に呼び出されて、執務室に向かう。
其処で「ローランドに一つ仕事を頼みたい」と、
そう切り出されたのが、私の婚約話だった。
「ローランドはその年で結婚はおろか、
婚約者さえ居ないからな?」
「兄上」
「冗談だ。そう怒るな」
確かに私は未婚で、婚約者も居ない。
それでも私とて王族だ。
いつか国の為に相応しい相手を、
指名されるのだろうと、覚悟はしていた。
だがこの改革で忙しい時期に、婚約とは意外ではある。
それに兄上は「仕事」だと、そう仰っていた。
「それで、御相手はどなたですか?」
「アムレシィの、ルクレツィア・リヴォルタ卿だ」
当然の事ながら、面識は有る。
リヴォルタ卿個人を評価するなら、
まずは容姿。美しさを評価しない者は居ないだろう。
次に主要都市アムレシィを、統治するに相応しい見識と価値観。
隣国と接する難しい土地だが、上手く治めている。
ラキメルのエアハルト卿とは異なり、
民に施しでは無く、機会を与えようとした事も印象深い。
だがどちらにしても、優秀な領主である事に変わりは無い。
「詰り婚約とは名目上の話であり、
アムレシィを、リヴォルタ卿を監視下に置け。と?」
「言ってしまえばそうだ。
知っての通り、アムレシィはネフィール王国に近い。
ミケルティ王国内でありながら、ヴァスタール教の影響も強い」
ネフィール王国の国教たるヴァスタール教は、
戦いを是とする。
生きる事は戦いであり、強きを肯定する教義だ。
生きる事は戦い。それは私も否定しない。
だが戦いは、生き方は其々なのだと私は思っている。
戦闘を生業とする者だけが、戦っているのでは無い。
田畑を耕す者が、商いを行う者が、
子を育てる者が戦っている。皆が其々のやり方で戦っているのだ。
ヴァスタール教は、戦う事自体が評価され易い。
故にネフィール王国とは、競い合い争い合う事も多く、
戦争に発展する事も珍しく無かった。
「そしてこの改革の最中だ。
自由奔放な猫に、鈴を付けたい。頼まれてくれるな?」
「其処まで言われては、断れません」
それにしても、猫か。
鈴は私だとしても、リヴォルタ卿が猫。と言うのは無い。
どう考えても、女豹と言う表現の方が似合う方だ。
だがどうやら迂闊にも、顔に出てしまったらしい。
「そう悪く思ってくれるな。
我とて政略結婚だが、妻も子供も愛している。
結婚してから妻を愛する事など、珍しくも無い」
†
「ナルセス」
「はっ、此処に」
自室に戻る。
アムレシィまでの旅支度は、護衛の者が手配してくれる。
私が用意するのは、別の物になる。
今まで私は、婚約者の一人とて作らなかった。
目立つ事が危険だった。
新たな派閥が生まれる事が危険だった。
本気になれる相手が居なかった。
理由などいくらでも有る。
だが、圧倒的に経験が足りないのも事実。
此処は頼れる臣下の意見を、訊くべきだろう。
「まがりなりにも、婚約者との初めての顔合わせだ。
何かプレゼントを持参しようと思う」
「はい。大変宜しいかと」
「だが突然の婚約で、時間が無い。
手持ちの宝飾品を贈ろうと思う」
いくつか手持ちの宝飾品を並べる。
多忙な領主の仕事でお疲れだろうから、ヒールリングか。
暗殺を警戒して、護身用に即死無効の首飾りはどうか?
或いは、希少性の高いマルウェンの指輪も悪く無い。
「どう思う、ナルセス?」
「………」
珍しいな。
ナルセスが長考に入っている。返事が返ってこない。
ナルセスなら、直ぐに答えてくれるものと思っていたのだが。
「リヴォルタ卿も領主貴族ですから、
既にヒールリングや、
即死無効の首飾りは所有しているかと。
此処はマルウェンの指輪を持参するのが、妥当と思われます」
「そうか、流石はナルセスだ」
だが流石はナルセス。答えは返って来た。
プレゼントはナルセスの意見を採用して、
マルウェンの指輪で良いだろう。
「だがナルセス。
より希少性の高いマルウェンの首輪も有る。
此方はどう思う?」
「………」
再びナルセスが長考に入る。
今日は珍しい日だ。二度も続けて、ナルセスが長考に入るとは。
「今回は初めての贈り物です。
マルウェンの指輪に留めて置くのが、宜しいかと。
それに首輪は、
隷属や拘束などのメッセージだと、取られかねません」
「そうなのか?
ナルセスは物知りだな」
やはりプレゼントは、マルウェンの指輪で良いようだ。
そうしてプレゼントが決まった処で、ドアがノックされた。
「ローランド兄様。いらっしゃいますか?」
「ヴィオ」
入室を許可すると、
やはり姿を見せたのは、
上の妹のヴィオレットと、護衛を務めるルフィナだった。
「ローランド兄様が、婚約されると聞きました」
「耳が早いな。その通りだ」
「宜しいのですか?」
ヴィオが悲し気に、整った美しい顔を歪める。
優しい子だ。だがそれには及ばない。
「私も王族だ。
国の為に生きる覚悟は出来ている」
「………」
「それに、
心に決めた者が居る訳では無いからね」
そう告げても、ヴィオの顔が晴れる事は無い。
想いを遂げた相手と結ばれたい。
そう思っている自分が、後ろめたいのだろうか。
「セテアが、羨ましい」
「セテアか」
下の妹、セテア。
セテアは城の中で過ごしていた筈だが、
いつの間にかマルクと接点を持って、
実母のセルマと逢瀬を繰り返していた。
実母との再会の機会を用意したマルクに、
セテアは惚れ込んでいる。
「アレは無理に引き剥がしたら、
城を飛び出しそうだ」
†
舗装されてまだ日も浅いだろう石畳を、
装甲馬車と、其の護衛の騎士団が駆ける。
王都サンタリアを発って、アムレシィへ向かう経路。
普段なら最短ルートを選ぶ処だが、
今回はルテール海岸を経由する、北の迂回ルートを選択。
この北の迂回ルートは、
アムレシィが新規開拓した新しいルートだ。
今回は視察を兼ねたルート選択となる。
「何事だ?」
ルテール海岸に近づくと、それに気付く。
私は射手だ。視力には自信が有る。
盗賊らしき身なりの集団が、争っているようだ。
相手はナーゲリザードと、メアイーグの群。
半魚人の亜人である。
争いは盗賊らしき集団の方が優勢で、
亜人達を包囲して、討ち取っているようだ。
亜人側は防戦一方で、此処から逆転の目は薄いだろう。
「如何なさいますか?」
さて、どうするか?
あの盗賊らしき集団は、実は料師か冒険者。と言う線も有る。
この場合、ただ獲物を狩っているだけ。と言う状況になる。
幸い彼等が優勢だ。助けに入る必要は無いだろう。
「あの盗賊団を討つ」
「亜人に手を貸すのですか!?」
「勘違いするな。
盗賊団を討つ。それだけだ」
あの盗賊団。覚えが有る。
指名手配中の者達で、確か滅露団(メガロダン)と言ったか。
人攫いや人身売買を生業とする、性質の悪い輩だ。
「制圧射撃ッ!!」
開戦の狼煙が上がる。
手にした魔弓ゼオから放たれる矢の雨が、滅露団を襲う。
それだけで滅露団は壊走してしまう。
其処へナルセス率いる護衛の騎士団が、
壊走する滅露団に、止めを刺して制圧して行く。
圧勝だった。これは蹂躙であり、戦いと呼べる物では無かった。
「ありがとう。
と言う事で、良い?」
「剣を下せ」
戦いですら無かった蹂躙は終り、残されたのは亜人の群。
防御陣形を敷いていた亜人達が陣を解く。
解かれた陣の中から現れたのは、二人の精霊。
「私はセイレンのレイン。
この子は、ヴュリテュンのヴュリン」
一人は水精の貴人。
美しい人型を保っていて、人語も介している。
一目で上位種だと窺わせられた。
セイレンだと言うのも、嘘偽り無いだろう。
「………」
ならば、もう一人がヴュリテュン。
何と言うか、独特のフォルムだ。
敢て言うなら、タンクと呼ばれる装甲馬車に似ている。
鱗の装甲に覆われた蒼のタンク。
其のタンクの上面に、何故か人型の頭が生えていた。
ユミル部族国の戦乙女の滝に、
レニア・ヌイと言う精霊が棲息していたが、
確かヴュリテュンは、其の中位精霊だった筈だ。
ミケルティ王国の周辺では、
セイレン共々、遭遇する機会の無い種族である。
†
此処からは、用語解説になります。
↓以下参照です。
ヴァスタール教
生きる事は戦いであり、強くあれ~的な教義。
教義の内容は予想以上に真面で、
種族差別などが無いのも、評価ポイントとなる。
しかし強いヤツが正義。強ければ何をしても許される。
と解釈し易く、拡大解釈祭りも開催し易い。
仮にヴァスタール教の信徒と揉め事を起こしたら、
決闘で雌雄を決して、勝った方の主張を通す。
と言うルール(偏見)が有りそう。
マルウェンの指輪
経験値獲得量↑のアクセサリー。
控えメンバー御用達の装備アイテムの一つ。
但し出番は初回のみ。周回に入ると、
魂の狩人からドロップ出来る。しかもノーマル。
レアドロップの首輪を人数分揃える内に、
指輪はカンストしてもおかしく無い。
ナーゲリザードとメアイーグ
ルテール海岸に棲息する半魚人の亜人。
特にメアイーグは、
百千御用達のフールティアスを、レアドロップする善い獲物。
本作では素潜りで、
海底の採掘ポイントを掘って、金属素材をゲット!
独自の金属加工技術で腕輪を製作。と言う設定。
滅露団(メガロダン)
モブ盗賊団。オリキャラ。
数を頼りにした集団戦法(リンチ)なら、
一般的な亜人も狩れる程度の実力。
名前の元ネタは、大古の海の支配者。
セイレン(レイン)
百千には登場しない水精系の精霊。モブのオリキャラ。
百千には登場しないので、事実上天冥のクロスキャラとなる。
セイレンは優秀なヒーラーであり、削り役の狙撃手。
特に超射程水弾は凶悪で、其の最大射程は9を誇る。
この脅威で盛り上がるのが、二章のラストバトル。
登場する魔王の側近(中ボス)を、
アウトレンジから削って封殺可能。爽快です。
ヴュリテュン(ヴュリン)
百千には登場しない氷精、または雪精の類。モブのオリキャラ。
此方も事実上、天冥からのクロスキャラ。
但し上位種のレニア・ヌイは、戦乙女の滝で出現する。
ヴュリテュンを語るなら、独特の外見は外せない。
どう見ても戦車。
精霊なのにキャタピラまで搭載。止めは人型の(女の)頭。
案外チョウチンアンコウ的な、コンセプトなのかもしれない。
しかしこのシュールさが、ヴュリテュンの魅力である。
セイレンは可愛い♪
ヴュリテュンは面白過ぎる☆