男女比1:20の世界で、元社畜の俺が『高嶺の花』扱いされるまで   作:おぷらてぃー

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遅れましたが本作品はAIを使用し、AIとレスバしながら書いています


第19話:誰がための愛の巣

リムジンの中に鳴り響く電子音は、熱を帯びきっていた空気を、一瞬で凍りつかせた。

 一真は、その音の発信源であるスマートフォンを見下ろし、救いなのか、それともさらなる深淵への招待状なのか分からない感情のまま、画面を凝視する。

 

「……早苗さんからだ」

 

 その名を口にした瞬間、アカリと愛華の動きが、ぴたりと止まった。

 彼女たちにとって早苗という存在は、「一真と同じ屋根の下で暮らす」という事実だけで、すでに法的な保護者という枠を越えている。

 生活を共有し、帰る場所を握っている――それは、どんな肩書きよりも強固な障壁だった。

 

「……一真さん。スピーカーに、してくださらない?」

 

 アカリの声は静かだったが、拒否を想定していない響きを帯びている。

 愛華もまた、一真の制服の袖を握ったまま、息を潜めて画面を見つめていた。

 

 一真は短く息を吐き、観念したように通話ボタンを押す。

 スピーカーに切り替えた瞬間、車内に柔らかな声が広がった。

 

『――一真君? お疲れ様。今日は、随分と帰りが遅いのね』

 

 早苗の声は穏やかで、慈愛に満ちている。

 だが、その背後から聞こえる「トントントン」という包丁の音が、やけに規則正しく、妙に鋭く耳に残った。

 

「……悪い、早苗さん。ちょっと、送ってもらってて」

 

『送ってもらってる? あら、どなたに?』

 

 一真が言葉を探すより早く、アカリが身を乗り出す。

 

「お久しぶりですわ、早苗さん。星野アカリです。……一真さんの安全と疲労を考慮して、私の車で責任を持ってお送りしておりますの」

 

 一真を挟み込むように、電話へと向けられたその声。

 丁寧で礼儀正しいが、その実態は「現在の主導権はこちらにあります」という、極めて分かりやすい宣言だった。

 

『……まあ、アカリさん。一真君がいつもお世話になっているようで』

 

 一拍。

 早苗の声は変わらない。だが、その奥行きが、わずかに深くなる。

 

『でも、一真君の“本当の”疲れを癒せるのは……やはり、住み慣れた我が家の空気だと思うのだけれど?』

 

 その一言で、車内の空気が重く沈む。

 一真は、右からアカリの圧を、左から愛華の緊張を感じながら、耳元にまとわりつく早苗の「重力」を意識していた。

 

「わ、私……氷室愛華も、一緒にいます!」

 

 愛華が、思い切ったように声を上げる。

 

「一真君、今日は……私の作ったお弁当も、食べてくれたんです!」

 

 震える声。

 それでも、彼女にとっては精一杯の前進だった。

 自分もまた、一真の日常に触れているのだという、必死な主張。

 

 しばしの沈黙。

 包丁の音が、ぴたりと止まる。

 

『……そう。愛華さんも一緒なのね』

 

 早苗の声が、ほんのわずかに低くなる。

 

『ふふ。一真君。貴方は本当に、どこへ行っても放っておかれないのね』

 

 そして、柔らかな提案が続いた。

 

『アカリさん、愛華さん。そこまで大切に思ってくださるなら……今夜は、お二人とも一真君と一緒に、うちで夕食はいかがかしら?

 ちょうど、お肉をたくさん仕入れたところなんですの』

 

 その場にいる全員が、この誘いが単なる「歓迎」ではないことを理解した。

 それは、早苗が自らの領域――「家」という絶対的な場所に外部の存在を招き入れ、見極めるための逆撃だった。

 

「……望むところですわ」

 

 アカリは一瞬も迷わず、微笑んで答える。

 

「……私も、行きます」

 

 愛華もまた、覚悟を決めたように頷いた。

 

 一真は、座り心地のいいはずのリムジンのシートが、なぜか不安定に感じられるのを覚えた。

 

「……早苗さん。本当に、いいのか?」

 

『ええ、もちろんよ。一真君』

 

 少しだけ、楽しげな間。

 

『……貴方を巡るお話の続き、お姉さんにも、じっくり聞かせてほしいもの。

 楽しみにして待っているわね』

 

 通話が切れる。

 

 リムジンは、佐藤家という名の新たな戦場へ向けて、静かに――しかし確実に速度を上げていった。

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