ミステリアスな糸目キャラに憧れたら如何にも怪しすぎる不審者になった 作:あーあ=あ
「全く探偵とあろう者が無闇に個人情報を漏洩するとは感心しませんね」
「お兄さんだし別にいいかなーって」
そういう問題じゃないんだよ。隠すような情報は無いにしても探偵としての品位や対面に差し支える可能性があるでしょうに。
身内のことを教えたぐらいの感覚なんだろう。ただ付き合いは短い方だしカルムくんやハンサムさんに比べて干渉した記憶はない。
……出会いだけならカルムくんやハンサムさんよりも早いんだけどね。ミアレシティでマジックショーをする度にお客として見に来てくれていたよ。
もこおはいなかった。
もこおは知らない人に触れられることを嫌い、また大人が苦手。人が集まるマジックショーに来るかと言われれば答えは分かりきっていた。
勿論ノータッチ。本編クリア後にカルムくんとハンサムさんに出会い物語が始まる。思うところはあったけど関わるつもりは微塵もなかったよ。
お客さんとして見ていたんだけどね。数をこなしていくうちにマチエールちゃんの方から接触してきたんだ。
『あの おねがいが あります』
年齢に反してたどたどしい言葉使いが印象に残っている。…ミアレの人々のマチエールちゃんに対する視線に憐れみと嫌悪が孕んでいたことも。
片付け終わるまで待って貰い話を聞けば家族にマジックショーを見せてあげて欲しい、とのことだった。必死にかき集めたであろうお金を両手に抱えて。
ここまでされて断るつもりはない。
引き受けると何回も頭を下げて案内をしてくれた。仕事の依頼だしお金は頂戴した。
受け取らない選択肢もあっただろうね。
だがそれはマチエールちゃんに失礼だし思いを否定することになる。同情するつもりもない。
苛烈な環境で生きている。知識だけでは分からない実態をこの目で見たからこそ分かる。
彼女は誰よりも強かで逞しかった。
尊敬すら覚えたよ。路地裏の奥の奥へと案内されて辿り着いた場所は建物に囲まれた開けた空間。
寝床と思しき場所には一匹のニャスパーであるもこおがマチエールちゃんを見て嬉しそうに鳴いた。直ぐにでも警戒されるだろうと軽く身構えた……けど。
『ふにゃーにゃふにゃ!』
何故か警戒されなかった。驚きつつももこおは人の心を読むことができることを思い出して……。
『…みすてりあす?…あこがれ?』
マチエールちゃんはもこおを通じて心を読むことができる、と。冷や汗が止まらなかったよね。…予想だけど良い歳した大人がガキみたいなことをしていたから子供判定でも食らったんだろうと思ってる。
即刻マジックショーを開催して直ぐに逃げようと思ったくらいには当時は焦っていたよ。…今じゃ笑い話みたいなものだけど。
それからはカルムくんの方に本格的に介入していったから偶にミアレでマジックショーをするともこおを抱えて建物の影でひっそり見ていたぐらいだろうか。
フレア団の件が終わってカルムくんがチャンピオンになったお祝いにディナーのお誘いをした時にカルムくんのホロキャスターにハンサムさんから連絡がありハンサムイベントに突入したんだよね。
そいやこの世界のフレア団は一味違った。
まさかゼルネアスとイベルタルの両方を捕まえているとは思わなかったよ。
XYだと片方だけだったのにさ。…フラダリさんの本気を垣間見えた瞬間だった。
それもあってゼルネアスはカルムくんに任せて俺はイベルタルと対峙したよ。フレア団に捕まっていようが伝説の名を持つポケモン。
自力で脱出するわ試すように佇み見下ろすわしかも必ず捕まえなきゃいけない。黙って見てもうんともすんとも言わない。
ボールを構えて初めて雄叫びを上げた。本当に強いのなんの。もう伝説はコリゴリだと思いながらも捕まえたっけか。
捕獲後はフラダリさんはカルムくんに任せて俺は残りのフレア団全員を相手してさ。…まぁやり過ぎた。
イベルタルが完膚無きまでにボロ雑巾にしてくれたよ。ちょっと俺もドン引いたしブラッキー達の出番なんてものは無かった。
一方的な殺戮だよもう。
触れるもの全てを傷付けるとかレベルじゃない。奪うものの名に相応しい破壊神。指示は聞いてくれたけど加減はしなかったし恐怖に怯え逃げ惑う者にも容赦がなかった。
追い討ちの指示をしたの俺ですけどね。
最後にはカルムくんがフラダリさんに勝利して爆発してEND。見事な爆発オチだったね。終盤にジガルデの乱入イベが起きたがバトルすることもなかったしなぁ。
ただイベルタルしかりゼルネアスしかりずっと所持しているのもね。カルムくんと相談してさ。カルムくんと本気のバトルをした後に元の場所に帰した。
五年経った今、2体の伝説はどこにいるのか。カロスを見守っている?それとも別の地方に……。バトルの勝敗?カロスの英雄となったチャンピオン様に勝てるわけないだろう?
過大評価すると接戦だったと言っておこう。
「お兄さん?聞いてる?」
思い出を振り返っていたら眼前にマチエールちゃんの顔。息がかかるくらいには近かった。
「どうしました?」
「夜遅いけどどうするの?」
窓から外を見る。外は暗く小さいが戦闘音が聞こえた。もうZAロワイヤルの時間なのか。…騒音問題に発展しないのが不思議だ。
実は水面下で起きている可能性はありそうだけど。俺なら出て行っているし。
ぼちぼち帰りますか。
立ち上がりシルクハットを被る。
「これで失礼します」
「あ…う、うん!明日も待ってるからね!」
「ミアレを出るので当分は会えないですよ」
カロス中を見て回る予定。
だから数週間はミアレに帰ることはない。
「……え…?」
「にゃ…?」
口元に手を当て動きを止めるマチエールちゃん。もこおは耳をピクリと動かしこっちを見ている。
そんなに驚くことかな。
目的があってミアレに来たわけではないからね。見終えたら一度ミアレに戻って別の地方に向かうわけだし。
「そう、なんだ…」
「ふにゃ…」
悲しそうに目を伏せる。
……そうだ。
「これお土産です。お二人で食べてください」
すっかり忘れてた。懐から取り出したお土産をテーブルの上へ置く。お辞儀をして出入口に向かう。
「……って……!」
帰りにご飯は食べた方が良いかな。
夜遅いし開いてる場所があればいい…ん?
「…待って!」
マチエールちゃんに引き止められる。
どうしたんだ?振り返ることができない。背中に張り付いているんですが?
「マチエールさん?」
「………………」
返事がない…もこお?
もこおが目を光らせると頭の中に何かが入り込んでいく感覚を覚える。
これは……なるほどね。
そりゃハンサムさんやクセロシキさん、カルムくんがカロスから去った後ももこおと二人でハンサムハウスをきりもりしてきたんだ。
環境が変われど二人だけに戻ってしまった。この五年で交流は増えているだろうけどね。
本来なら俺の役目ってわけでもないんだけど……仕方ないか。
「どうやら勘違いをしていたみたいです」
「…え」
「まだミアレでやることがあったことを忘れていました。それと思った以上に疲れが溜まっていたみたいですね。マチエールさん」
「…あ、はい」
「仮眠を取りたいのでソファをお借りしてもよろしいですか?」
「ぁ…うん!」
マチエールちゃんを引き剥がしソファに腰を下ろす。すぐ隣にもこおを抱えたマチエールちゃんが座る。
「……ありがとう」
小さく呟くマチエールちゃん。
「なんのことでしょうか」
気付かないふりをして瞳を閉じた。
☆
ランク戦を終えてランクがXに上がった翌日。タウニーと一緒にハンサムハウスに向かった。
AZさんに聞いたらマジシャンはホテルZに帰ってこなかったらしくてフラエッテがちょっと心配していたけどマジシャンだしなぁ。
「あれ?返事がない。マチエールさん留守なのかな?マチエールさん!」
ノックをして声をかけるタウニー。
マチエールさん探偵業が忙しそうだし留守にしてるのかもしれない。
急ぎってわけでもないし時間を置いてからでも……。
「あ、鍵空いてる。マチエールさん!入りますよー!」
タウニー?それは不法侵入っていうんだけどわかるよね?タウニー!!ズカズカと入っていくタウニーの後に続いて中に入る。
うん、わたしも大概だった。
後で誠心誠意謝ろう。マチエールさんだし土下座も付けたら許してくれるかな。
「タウニー?」
入って直ぐに立ち止まるタウニー。顔を見ると固まっているというか…マジシャンがマチエールさんの頬をひっぱった時に似てる感じ。
タウニーが見る視線の先を辿る。
……?????
わたしも固まってしまった。…ソファに座り動かないマジシャンと…そのマジシャンの膝の上に頭を置きもこおを抱きかかえて眠るマチエールさんがいたから。
ど、どういうこと…?
「マチエールさんとマジシャンってそういう関係なの?距離感が近いとは思ってたけど」
ブツブツと考え込むタウニー。…恋人とかというよりは兄妹みたいな感じ。あれだけ無防備に眠っているから相当信頼しきってるみたいな……。
マジシャンは寝てても糸目だから違いが分からない。実は起きていたりするんじゃ……。
「不法侵入はいただけませんね」
「わっ!?」
起きてたー!
「仮眠の筈がかなり眠っていたようです」
ついさっき起きたんだ。
…びっくりした。心臓がバクバクいってる。
「あのマチエールさんとの関係は」
タウニー?そこ突っ込むの?
「貴方が思っている様な関係は持ち合わせていません。マチエールさんともこおさんが眠っておられますのでお静かにお願いしますね」
「はい!」
元気良く返事をするタウニー。
「…口を閉じて貰えると助かります」
うん、それには同意したいと思ったわたしだった。マチエールさんが起きるまで声のボリュームを下げてマジシャンと軽い雑談した。
マチエールさんが起きたのはお昼過ぎだった。