ミステリアスな糸目キャラに憧れたら如何にも怪しすぎる不審者になった 作:あーあ=あ
1日ぶりにホテルZへ帰った翌日。嘘も方便だが何もしないわけにはいかなく気休めの散歩をしつつ一休みしようとベンチに腰を下ろしたら背後から女性の困った声が聞こえた。
振り返れば婦人は足元を見下ろしており視線の先にはぐったりとし動かないポケモン。
「どうなさいました?」
「この子…元気がないみたいなの」
婦人のポケモンではないんだ。
…エサは食べてくれないしポケセンに連れて行っても原因不明、ね。
…理解はできるけどそのポケモンがフォッコなのは予想外というかなんというか。
キツネポケモンのフォッコ。カロス地方ではケロマツ、ハリマロンと並びパートナーポケモンといわれている初心者向けのポケモン。
カロス組の一人が所持していたね。
野生がいてもおかしくないけど珍しいかな。
ベンチから立ち上がり女性とフォッコの元に。フォッコは体を丸めて微動だにしない。
怪我をしているようには見えないね。
「失礼しますね」
しゃがみフォッコに触れる。
抵抗はない。人馴れしているのか抵抗できないくらいの重症なのか。…多分後者。
うーん異常は見つからないが体温が少し低いくらいか。排熱機関の耳にも軽く触れてみるがビクッとさせるだけ。排熱不良も見られない。不良なら熱が貯まるから症状と一致しないか。
…そういえばフォッコって小枝をおやつ代わりに食べる習性があったね。好物で酷いと中毒になる可能性もあるんだとか。
この辺りに小枝は……ないか。
ちょいと失礼しますよ、と…!
近場に生えた木から枝を折ってフォッコの前に置く。鼻をピクピクさせのそのそと動き小枝を頬張るフォッコ。
「……こぬ」
ボリボリと齧っているから小枝が欲しかったんだろう。
ただ元気になったとは言い難い。
小枝は小枝でもお気に召さなかったみたいだね。
「小枝を食べるの?…大丈夫そうかしら?」
「ポケモンセンターに行き異常が見当たらなかったのでしたら問題はないでしょう。体温が少し低いことを除けば体は健康です」
低いといっても誤差の範囲。違和感を感じる程度。
「体温が低い…全然気づかなかったわ。詳しいのね」
「いえ……ほのおタイプのポケモンを扱う機会がありましたので多少の知識があるだけですよ」
だけどこれが限界。といってもこのフォッコを置いてサヨナラはできない。
……仕方ない。餅には餅屋。
ほのおタイプにはほのおタイプのエキスパート。
「フォッコをお預かりしてもよろしいですか?」
「もちろんよ。貴方はなら安心して任せられるわ。フォッコのことよろしくね」
「はい。ありがとうございます」
フォッコを抱きかかえてその場から離れる。
「スマホロトム。連絡をしてください」
「ロトロトー!」
出るといいんだけどねえ。時差的にあっちは夕方だろうから怪しいかもしれない。
呼び出し中の画面を見つつ大通りに出る。画面が切り替わり──
「こんっ♪」
一面ロコンの笑顔。
……やらかしたかもしれない。
画面越しから見えたであろうフォッコを見て虚無が付与された笑顔のロコンが再度こっちを見てくる。
『どうしたんだロコン。スマホロトムを見つめ……おお!?うおおーす!元気にしていたか!』
ロコンの笑顔(当社比)からサングラスをかけた髭が似合うスキンヘッドの男性に変わる。
「ええ、おかげさまで。
…相変わらず元気だなぁ。現役から退いているが熱い男は健在。一週間前にはまだカントーに居たわけだし久しぶりというわけでもない…か。
それよりも画面端のロコンの様子が…大丈夫──
『どうしたロコン!そんな顔をし…あちぃ!?』
じゃなさそうだね。
★
今日も今日とて依頼を消化する。
思った以上にマチエールさんが貯めている依頼が多過ぎるよ!
今回は緊急性が高そうなのから消化していかないと!…数ある依頼の中で一つだけ気掛かりな依頼があった。
元気がないポケモン。昨日依頼があったみたいで…その時はアスレチックに心身共にやられてちゃってZAロワイヤルすら参加できずに床に伏してたから。
今も全身筋肉痛で疲労感がヤバいけど放っておけない。依頼主であるブランさんがいるローズ2番地までやってきた…けど。
ベンチに座っている女性がブランさんかな?
「すみません。ブランさんですか?依頼できたのですが…」
「あら?もしかしてマチエールさんのところの?…ごめんなさいね。少し前まで元気がないフォッコがいたのだけど優しそうなお兄さんに任せちゃったのよ」
「や、優しそうなお兄さん」
因みに特徴とかお聞きしても大丈夫ですか?
うんうん黒いスーツにシルクハット被った目の細い…あぁマジシャンだぁ。…や、優しそう?なのかな。
…優しいとは思う。裏に何があるかは別として……。
「依頼を取り下げるのを忘れちゃってごめんなさいね。ここまで来てくれたわけだしお礼させてちょうだい」
「え?ああ、いや…そんなわたしは何も」
「いいのよ。もしそのお兄さんに会ったらよろしくね」
ブランさんは報酬を一方的に渡すと去っていった。…えぇ…これは……うん、マジシャンに渡した方が良い。
そうとなればマジシャンを探そう。
少し前らしいからまだ近くにいるはず。
先ずは大通りに出て聞き込みをしよう。
黒スーツのシルクハットなんてマジシャン以外にいないだろうから直ぐに見つかる…と思う。
「こぬ♪」
「おかげで助かりました。まさか元気の小枝なるものがあるとは知らなかったです」
いたー……。
シルクハットの上にフォッコが乗っている。とても元気でゴロゴロしていて無防備。…落ちないのかな。
マジシャンは誰かと通話をしているみたいでわたしに気付いていない。…邪魔しちゃいけないから待ってよう。
近くのベンチに座り聞き耳を立てて様子を伺う。
「元気になったのは良いことです。しかしフォッコの今後に困っていまして…野生に帰してもいいのですが…手持ちに?お断りします」
「こぬ!?」
あ、手持ちにはしないんだ。
速攻でお断りされたフォッコがえ!?みたいな顔をしているよ。
てっきりそのまま手持ちになる流れとか思っていたのかな。…うわぁ…悲しそうな顔。
「手持ちは間に合っています。だからフォッコをお願いしたいのですが。問題ないでしょう?ほのおタイプのエキスパートならば」
ほのおタイプのエキスパート…?
「…はい?無理…?何故ですか?問題は見当たらないと思い……はい?もう一度言ってもらっても?」
…凄い焦ってる。
フォッコも不安げに見下ろしていた。
「……ジムリーダーが引退?…まだ2年も経っていないですよ?」
ジムリーダー?…結構凄いこと聞いちゃってる?通行人もジムリーダーに反応してマジシャンを見ているし…。
「……わかりました。ええ…理解はしました納得はしていませんが。話を変えましょう。ジュペッタ達は…特に問題もなく元気に過ごしているのですね。それが聞けただけでも…はぁ……」
大きくため息を吐き額に手を付ける。
「明日にでも連絡をしようとしていたんですか。偶然私が連絡したから……ええ、ジムトレーナーが代理をしているのですね。……フォッコは見ていた婦人に説明して預けようと思います」
…婦人…はブランさんのことだよね。
もういないと思うよ。…フォッコもマジシャンに懐いているみたいだし難しいと…。
「他にもまだ?……そういうことですか。本題はそっちですね。薄々気付いてはいましたが…入れ替える手持ちが。それにほのおタイプは専門外…わかりましたわかりましたからそんな顔をしないでください。つけ髭とか言われても困ります。全く…預かるだけですよ?…ミアレシティのポケモンセンター:ベールに転送してください。泊まっているホテルの帰りに寄ることができますので…はい…はい。後任が見つかるといいですね。あ、私はなりませんのであしからず。…では失礼します」
通話が終わったのか人目もはばからず座り込むマジシャン。…とても疲れた顔をしていた。……マジシャンもそんな顔するんだね。
「こんぬ?」
「取り敢えず貴方を預けないといけませんね」
「!…キャンキャン!」
「拒否されても困ります。私は貴方を手持ちに加えるつもりは…おや…セイカさん?」
声をかける前に見つかった。
あー…えーと…そのー……。
「…大丈夫ですか?」
そう声をかけるしかなかった。
マジシャンはゆっくり立ち上がる。
「お見苦しい姿をお見せしました。…少々頭痛の種が増えてしまいまして…」
少々どころじゃないと思います。
ジムリーダーが引退したとか…大事かと。
「…聞いていたみたいですね。あれだけ堂々と話していたら嫌でも耳に入ってしまうでしょう」
「……あ、はい」
「そんな顔をしないでください。セイカさんには話してもいいでしょう。私の出身地であるシオンタウンにはポケモンジムがあるんです」
ポケモンジムはポケモントレーナー達が実力を試す為のポケモンバトル施設。
各地方に8つのジムがあり全て集めるとポケモンリーグに挑むことができる。
カロスにもジムとリーグは存在するしミアレにも5年前にはジムがあったとタウニーがいっていた。…プリズムタワーがジムだったって。今は封鎖されていて入れない。
「…特殊でしてね」
「特殊?」
「元はグレンタウンという島町にジムがあったんです。…ただグレンタウンは火山島で…かなり前に噴火してしまい町諸共溶岩に飲み込まれてしまったんです」
「噴火…!?」
え?あ…ということは今はもう──
「ポケモンセンターだけ難を逃れて今も営業はしています。需要はありますからね」
ポケモンセンターは無事だったんだ。しかも営業してるんだ…!
「洞窟をジム代わりにしていた時期もありました」
ど、洞窟を…!?それはそれで凄い…。
「ただポケモンリーグもずっと洞窟をポケモンジムしておくのは不味いと思ったんでしょう。当時のジムリーダーも頑張っていたと思いますけど。…そこで白羽の矢が立ったのがシオンタウンです。マサラタウンを除いて唯一ポケモンジムの無い町でしたから」
…マサラタウン。世界に知らない人はいないと言わせるほど有名な博士。オーキド博士が住んでいる町。
カントー最強と言われるポケモントレーナーが生まれた町でありオーキド博士の孫もジムリーダーをしている。
「結果シオンタウンにポケモンジムが建てられたのですが正確にはグレンジムのジムリーダーが借りているという形式になっていますので場所はシオンタウンなのにジムの名前はグレンジムなんですよ」
「そうなんですね」
「こんぬ」
面白い話だった。カントー…行ったことないから気になる。フォッコも興味深そうに聞いていた。
「そのグレンジムのジムリーダーが突然の引退を…全く」
見てられないくらいにげっそりしてる。
……そうだ忘れてた。
「これ…ブランさんからです」
受け取った報酬をマジシャンに渡す。
「ブランさん?…ああ、フォッコを見ていた婦人からですか。でしたらセイカさんが受け取ってください。私には不要ですから」
「あ」
返されちゃった。
でも依頼を完了したのはマジシャンで…こう、ズルしたみたいで……うん、貰っておこう。
「フォッコを預けなくてはなりませんしお礼は受け取れません」
「……」
本当に預けるつもりなんだ。
フォッコはぷくーと頬を膨らませている。ならわたしが…と言いたいけどチャオブーとタイプが被っちゃうから…ごめんね。
「…話をしたら幾分か心が落ち着きました。ありがとうございますセイカさん」
「あ、いえ…ただ聞いていただけなので」
うん、ただ聞いていただけ。なにもしてないよ。
「聞いてくださることがありがたいのです。そうですね…セイカさんがカントー地方に来るご予定ができましたら是非私に案内をさせて頂きたいです」
「え?い、いいんですか?」
それは…ちょっと嬉しいかもしれない。
「もちろんです。セイカさんは観光客ですし他の地方にも赴くことがあるでしょう。他にもジョウト、ホウエン、シンオウでしたら案内することはできますよ」
「…はい。その時はよろしくお願いします」
「こちらこそ。では…私はこれで…ッ!」
マジシャンが体勢を崩す。前のめりに倒れ…慌てて受け止めた。…原因はフォッコだった。
マジシャンのシルクハット…頭を踏み台にし飛び出した。…モンスターボールを咥えて。
それも空のモンスターボール。…でもどうやってマジシャンからモンスターボールを…。
ひゅぃ!?
首筋に生暖かい息が当たり背筋がゾクリとする。
「助かりました」
眼前にはマジシャンの顔。
忘れてた…!ち、ちち……近くない!?
いや!受け止めたから当たり前だけど…!
「セイカさんにはお世話になりっぱなしですね」
…いっ!?…息が当たる……!
「うっかりしていました。フォッコはまだ野生ポケモン。油断した私の落ち度です」
どうしたら良いか分からないわたしから離れてフォッコを見つめるマジシャン。
落ち着け…落ち着け……幾ら男性に免疫が無いにしてもこれは酷いから…!……でも、マジシャンってよく見たら顔は良いし匂いも落ち着く……落ち着け…!
見た目が怪しい言動も怪しい何を考えているか分からない!…良し!……大丈夫!
★
あーもう滅茶苦茶だよ。
昨日はミアレの危機で今日はグレンジムの危機とか聞きたくないって…。
しかもジムリーダーが引退って…早過ぎる。…分かるよ?ジムリーダーは大変だし場所によっちゃ町の代表になったり治安の向上に務めたりと…。
責任の重さもあるしなぁ。
なにより色々と縛られることが1番だろうね。
最近はジムリーダーを副業として兼務している人は珍しくないし昔と比べ緩くはなった方。
カロスに行ったタイミングで引退したのは……トレーニングに付き合っていたから負い目があったのかも。別に止めはしないし相談してくれれば良かったのにさ。…怪しい奴に相談なんてするわけないか…はは……。
…カントーに帰るの止めようかな。このまま…イッシュかガラルに行くのもありな気がしてきた。
いっそほとぼりが冷めるまでカロスに留まるのもありだよ。そうしよう。その方がいい。
それにフォッコもフォッコで……どうなってるの?助けただけでここまで懐くとは思わないじゃん。…流石にチョロくないですかね?
しかもモンスターボール奪われたし。…初めはどうやって盗んだのかと思ったよ。
「器用なことをしますね」
フォッコの特性が隠れ特性なら可能だ。攻撃時に相手の持っている道具を奪うことができる。
頭を踏みつけた行動が攻撃判定になったんだろう。…数ある道具の中でモンスターボールをひっぱってくる運も持っていると。
……
マジシャンなのに食らう側になるなんて皮肉が効いてるよ。
あーははは…どうしようもないよこれ。
……怪我をさせるわけにはいかないよね。
「完敗です」
「こぬ?」
咥えたモンスターボールを置いてこちらを見る。……隙を見て奪い返す、は…うん、やめとこう。男に二言は無いよ。
「不本意ながらも私には貴方を見る責任がありますから。…期待はしないでください」
モンスターボールを手に取りフォッコに向ける。…俺とモンスターボールを交互に見て戸惑いを見せるフォッコ。
「捕まる意思はないみたいですね」
「こぬっ!」
慌てた様子でモンスターボールを叩いたフォッコが吸い込まれていく。数回揺れを起こし最後にはカチリと音が鳴り動きを止めた。
……ホテルZに帰ろ。
帰る前にポケモンセンター:ベールに寄らなきゃいけないんだった。…スゥー……預かるだけ。それ以上でもそれ以下でもない……。
セイカさんは…なんかブツブツいっている。
「セイカさん」
「んぃ!?…あ、マジシャン…フォッコは」
「こちらです」
モンスターボールを見せる。
瞬時に理解したのか苦笑いをしていた。
「ホテルZに帰りますがセイカさんは」
「あ、わたしも帰ります」
「でしたら……すみません。ポケモンセンター:ベールに寄ってもよろしいでしょうか?」
素で忘れてた。そうだよセイカさんの素性も聞き忘れてるじゃん。チャンスだったのに…ダメだこれ頭が回らない。
「はい、みんなを回復したいので」
セイカさんと共にポケモンセンター:ベールに寄りシオンタウンから転送されたポケモンを受け取ってホテルZに帰った。
…AZさんとフラエッテさんに心配された。
それほど酷い顔をしていたらしい。客室に戻り鏡を見たら…これは酷い。
モンスターボール越しから見ていたであろうブラッキーやマスカーニャ達も飛び出し…心配そうしていたよ。
大丈夫だよ。寝れば治るからさ…明日になって考えよう。
シルクハットを置いてスーツ姿でベッドに転がり泥のように眠りについた。
ゲーム上では前日のクエーサー社やこのやり取りは裏側だし知らぬ間にこいつ手持ちにフォッコ入れてるみたいな感じになるんでしょう。DLCでカントー行きたいですね