【お知らせ】憑依転生者南雲ハジメの青春記録。 作:無気力キャルちゃんマン
ブルーアーカイブの世界 第2章第3節
ミレニアム構内を観光気分で歩いているとエンジニア部と書かれた部室を見つけた。
今の俺は人相を誤魔化すアーティファクト*1を着けているから覗いて行っても良いんだが、寄り道しすぎると本来の目的を忘れそうになるからな……。
でも技術者の端くれとして気になる。めっちゃ気になる。
…………行っちゃうか? よし行こう。
雑にノックし、返事を聞く前に扉を開ける。
「お邪魔するわよ~」
「邪魔するなら帰って~」
ネタと偽装目的で適当に放った言葉に、予想外の返事が返ってきて驚く。
声の方を見ると、ベッタリと濃い隈を身に着けた若干焦点のあっていない眼をした生徒が、こちらの様子を窺っていた。
「……大丈夫か?」
連日徹夜3日目みたいな様子に思わず訊ねる。
「大丈夫大丈夫。むしろこっからフィーバーしてくるから」
「……そうか」
手をひらひら振りながら
うん、気持ちはわかると言っておこう。
「それで今日はどんな用件で来たの?」
「ちょっと気になってな。いくつか作品を見せてもらいたいんだが……」
どっかの依頼された奴は難しいかもしれないが、趣味の作品なら見せてもらえるだろう。
そんな気軽に聞いたつもりの問いにエンジニア部の生徒はバツの悪い表情をした。
「なにか都合が悪いのか?」
「あー、いつもなら是非見て行って~って言うところなんだけど、今は猫の手も借りたいくらい忙しくてさ……」
頭を掻きながら苦笑いを浮かべるが、その顔には深い葛藤の色が見える。
徹夜続きの仕事人に無理を言うつもりはないため引き下がろうとしたとき、その生徒は両手をパチンと合わせてそうだ! と呟いた。
「ウタハ―、ちょっとこっちきてー」
そういうと部屋の奥の方に手招きをして、作業していた別の生徒を呼んだ。
ん? ウタハって……?
「お呼びですか部長」
「うん、そう。こちらのお客さんが造ったもの見たいって言うから案内したげて!」
そこに現れたのは記憶より幼い姿をした白石ウタハだった。
ていうかさっきまで話していたコイツ部長だったのか。
「ほう! 私たちの作品が見たいと! いいともいいとも! 私はミレニアムサイエンススクール1年、白石ウタハだ」
「あ、自己紹介してなかったね。わたしは部長ちゃんって呼んでね!」
「南雲ハジメだ」
簡単な自己紹介を終え、白石ウタハに部室を案内される。
…………部長ちゃん? さらっと言ってたけどそれはニックネームだろう? 自己紹介で一度も本名を言わずにニックネームを名乗るのはどうなんだ?*2
やかましくも心地いい騒音の中を縫うように道案内され、簡単な物から複雑な物までエンジニア部が造り出してきた数々の作品を自慢されていく。
以下抜粋。
「全自動耳かき機」
「デカくないか?」*3
「ライオットシールド Bluetooth機能付き」
「ユニークだよな」*4
「直線バンチョー」
「曲がれないんですねわかります」*5
「うん? 何か物足りなさそうだね」
「あー、わかるか?」
「もちろんだとも。これでも人を見る目に自信がある」
まあ、エンジニア部だよなて品々を見せてもらったわけなんだが、なんというかもう少しパンチほしいよな。
たとえばそう、原作で口頭にて語られた――
「宇宙戦艦みたいなのとか造ってないのか……」
口の中で転がしたつもりの言葉が予想外に空間中に響き渡ってしまった。
『…………』
しーん、と部室の中の作業音が消える。それどころか人の呼吸音すら、その数秒は俺の聴覚でも聞き取ることが出来なかった。
マズイこと言ったかなと白石ウタハを見れば、彼女は全身で青天の霹靂といった様相を表し、顔に驚愕の表情を張り付けたまま微動だにしなくなっていた。*6
俺は白石ウタハの正面に立ち、目の前で手を振る。反応がなさそうなので、額に添えた指を引き絞り、気持ち軽めに解き放った。
――っドゴッ!!
「イッタイィィぃぃ頭がァァアアああああッ!!」
ビッタンビッタン床をのたうち回る様子を見て、俺は満足気に頷いた。*7
なおその光景を見せられて部員たちはドン引きしている。向こうでもよくあったことなので気にならなくなったことだ。
「それより宇宙戦艦って言った?」
「それより……? ああ、造ってないのか?」
部長ちゃんとやらが仕事をほっぽり出してこちらに近付いてくる。
「ないよ、ないない。でも面白いアイディアだね!」
花丸笑顔といった感じの部長ちゃんのところへ他の部員がやってきた。
「部長! これはやるしかないでしょう!」
どうやら室内の部員たちも同様の面持ちのようで気勢を上げている。
「じゃあやっちゃおうか!」
鶴の一声で歓声が上がるエンジニア部だが、当のエンジニア部員白石ウタハと客人の俺は放置されていた。
こうなった技術者は時間を置くしかないことを身をもって知っているので、今日のエンジニア部観光はこれにて終了するか。
呻いている白石ウタハに「また今度来る」と言伝を残し、俺は静かにエンジニア部を後にしたのだった。
ブルーアーカイブの世界 第2章第4節
またしてもミレニアム構内を適当に散策しながら歩いていると、セミナーと表記された部屋を見つけてしまった。
まだ観光したりないんだが、見つけた以上は仕方あるまい。
ミレニアム観光を切り上げて、目的の人物を探すことにする。
これまた雑にノックして、応答する前に扉を全開にする。
「お邪魔するわよ~」
セミナールームにいたのは、困惑した様子のおそらくセミナーの生徒が一人。
「な、何か御用でしょうか?」
どこか気の弱そうな生徒は、おずおずと不躾な来客*8に用件を問うた。
「大した用*9じゃないんだが……調月リオがどこにいるか知っているか?」
普通に答えたつもりなのに何故かセミナーの生徒は強く震え出した。
「し、知りません! 明星さんのところじゃないんですかっ!」
まるで自棄になったように吐き捨てる生徒。
俺は認識阻害アーティファクトが外れたと思って顔の辺りをおもむろに弄る。*10
めっちゃしっかりと着けていた。……なんで?
「そ、そうか。そっち行ってみる」
認識阻害を貫通した? だけどコイツには連邦生徒会長みたいな超越者の雰囲気を感じないぞ?
なんだかよくわからないが、必要もないのに生徒を怯えさせるつもりはないため、早々に退散する。
「まさかアビスゲートみたいなバグ? この世界にもいるのか?」
退室した扉の前で思わず零す。
世界の中にはステータスプレートや観測器などでは表示されない特殊な能力を持つ存在がいる。存在しているのは確定ではないが、まさかこの世界にもいるとは。*11
まあ、居ようが居まいが俺が行動を変えるわけないし関係ないんだが。
とりあえず明星ヒマリのところに行って、居なければ導越の羅針盤を使うか。
あまり長いことブラックマーケットを空けるわけにはいかないしな。
本編に入れるかわからない一口メモ。
南雲ハジメ
転生したときに本人も気付かぬ間に付与されたいわば転生チートがある。概念としては「主人公体質」。人、物、トラブルに極端に遭遇する、ある意味負の能力。もしかしたら南雲ハジメに憑依した転生者には、隠された意図があったのかもしれない――が、この小説で明かされることはないだろう。そこは本筋ではないので。裏設定としてお楽しみください。
白石ウタハ
1年生の頃の白石ウタハ。キヴォトス人の成長速度からいって2年前の時点だと相当小さいと予想。もはや幼いレベルで身長も低いんじゃないかな。とりあえず全体のボリュームを2ランク落として髪をちょっと短くすればイメージ通りなんじゃない? 知らんけど。
彼女に見舞ったデコピンは何気に〝衝撃変換〟されている。どれだけ体表が優れていようと内側に浸透する衝撃波付きデコピンなのだった。
部長ちゃん
原作時にはいない人。意味はないけどキャラ立ちのために部長ちゃんに。地味にセリフ多かった。
一般セミナー生徒
認識阻害は貫通してない。ナチュラル小動物なのでそもそも知らない人が強い口調で話しかけてきたのでビビってただけ。早くどっか行ってほしくて自棄になっていた。ていうか誰か来ても応答しなければ帰るだろうと思っていたのに、ノックから即入室されたため隠れる時間もなかった人。