強さはハード帯を想定しています。魔法少女たちの戦力は良くてノーマル、悪ければイージー以下の戦力です。
フランスで活動する魔法少女、ローザ・ミラージュはドーバー海峡をはさんだ先にある島、ブリテン島を見て歯を食いしばった。その目に移るブリテン島はいつもの雰囲気ではなく、頭上に6角形の物体が蓋をするように飛来し、闇へと飲み込まれつつある地獄の姿だった。
アメリカ東海岸全土をの飲み込むように発生した6角形の物体、アースイーターはモスクワにも飛来し、様々な巨大生物と合わせて人類を脅かし始めていた。
それらはプライマーと呼称され、全人類の敵として認識されており、対魔獣連合軍は5年ぶりに本格的な稼働が開始されていた。それはフランスでも同様であったがイギリスは一歩間に合わなかったのだ。
「ローザ。最後の通信でロンドンは既に壊滅している。……クロックワイズも、残念だが助からなかったそうだ」
「……そう、ですか」
連合軍の一人である少尉が残酷な報告をローザにもたらした。イギリスには彼女の親友と呼ぶべき魔法少女がいた。クロックワイズという魔法少女名で通っている彼女は視認した相手の時間を遅くさせる魔法を使用する事が出来た。
それはつまり、攻撃手段を持っていないという事であり、大量に襲い掛かってくる巨大生物の前に軍人よりも身体能力が上とは言えそれだけの魔法少女が生き残るには弱い存在だった。
「イギリス所属の魔法少女220人のうち、生存が確認できているのは80人。死亡が確認されているのは45人だそうだ。やはり最初のロンドン飛来時に市民を守ろうとして多くの犠牲を出したらしい」
「……」
魔法少女になった以上魔獣との戦いで命を落とす覚悟はできていた。実際、異界ゲートを破壊し、魔獣の出現を抑えられるようになるまで魔法少女は多くの犠牲者を出していたのだ。
しかし、異界ゲートが完全に破壊されて以来5年が経過し、残された魔獣との戦いで負傷者はともかく死者が出る事は無くなっていた。それ故に、覚悟しか出来ていなかったとローザ・ミラージュは自分の心境を理解していた。
「アースイーターの浸食範囲は今も増え続けている。……ドーバー海峡を渡ってこちらに来る可能性もある。ローザ、君は後方で市民の避難を手伝ってくれ」
「分かりました」
ローザ・ミラージュの魔法は相手に幻惑を見せ、幻影を生み出すものであり、直接的な戦闘能力を有するわけではない。このような状況では彼女は無力だったのだ。
無論、怪物相手ならば幻惑を見せる事も出来るだろう。しかし、敵が大量におり、一帯にしか効果がない幻惑をしたところで意味があまりなかった。
「エミリー……。ごめんなさい。何も出来なくて、ごめんなさい……」
ローザ・ミラージュはドーバー海峡に背を向けながら亡き友人の本名を言いながら何度も謝罪の言葉を口にするのだった。
ドイツの魔法少女であり、欧州諸国全体でも最強と言われるアイゼンリッターは目の前に広がる地獄の光景に眉をひそめた。ここは北マケドニア共和国の首都であるスコピエだがそれに相応しい姿はない。
上空には巨大な6角形の物体、アースイーターが飛来しており、スコピエを暗い闇に包み込んでいる。
そして、その下部では黄金の船、テレポーションシップがハッチを開けて人間よりも巨大な怪物を大量に投下していた。
「アースイーターがここまで……! 急げ! 市民を避難させるんだ!」
「「「了解!」」」
アイゼンリッターの相棒であり、長年彼女を支えた3人の魔法少女に指示を出した後、改めてアースイーターを見た。通常の武器では届かない遥か上空にいるアースイーターへの攻撃は地上戦力ではほぼ不可能だろう。
更に怪物を投下するテレポーションシップの撃破も困難だった。スコピエの上空には目視できる範囲だけでも10隻以上の船が飛来しており、際限なく怪物を投下している。住民よりも怪物の方が数が多くなるのも時間の問題だろう。
「幸いなのは怪物ならば倒せる事だな」
アースイーターやテレポーションシップと違い投下される怪物はそこまで強くはない。魔法少女たちの攻撃どころか連合軍兵士達でも駆除する事が出来る程度には脆い存在だった。だが、その数が異常であり、バルカン南部にいた連合軍兵士や魔法少女はその暴力的な数の前に地に伏していたのだ。
「だが、これ以上は好きにさせん!」
アイゼンリッターの実力は魔法少女百人分をはるかに超えている。テレポーションシップの撃破は無理だとしても怪物は一匹残らず殲滅すると覚悟を決めると怪物の街となりつつあるスコピエへと向かって疾走するのだった。
ロシアを代表する魔法少女であるスノークラウンは意識を失いそうになるたびに腹部を筆頭する体全体から感じる激痛によって覚醒するを繰り返していた。
彼女がいるのはモスクワから少し離れた平地であり、使用する魔法によって大量の氷が生成されていた。もうすぐ夏場を迎えるとは思えない程に寒くなった周囲だがそれを気にする事が出来る物は彼女自身も含めて残されえていなかった。
「ご、の……!」
スノークラウンは残された力を振り絞って目の前の怪物、
「ぜぇ、ゼェ……! ギッ!?」
荒く呼吸をしていると再び体が持ち上げられる感覚と激痛が襲い掛かってくる。先程とは別の、巨大生物が彼女を掴み上げたのである。そして、そうして視界が高くなったことで見えた景色に彼女は絶望した。
煙を上げて大破した戦車や戦闘車両、同じように牙に掴まれてぐったりとされるがままとなっている連合軍の兵士達。未だ戦いを続けている兵士はおらず、全員が物言わぬ屍となり果てていたのだ。
「どうじて……! どうじでなのよ……!」
彼女は涙すら凍る寒さの中で薄れゆく意識の最後まで声にならない悲鳴を上げ続けた。
モスクワに飛来したアースイーターの脅威を排除するべくロシア最強の魔法少女であるスノークラウンは多数の連合軍兵士と魔法少女と共に奪還作戦、オペレーション・クリムゾンに参加していた。
その規模はロシアが出せる最大級の戦力であり、異界ゲートを破壊する為に導入された戦力に匹敵していた。更にそれから武器は更新され、魔法少女の練度も高くなっている事から質の面では凌駕していると言える戦力だった。
これならば必ず奪還できるとそう思っていたが……。
彼女たちを最初に出迎えたのは無人となったモスクワとその郊外すら蓋をするアースイーター、20を超えるテレポーションシップに巨大生物すら霞んでみる程の更に巨大な怪生物だった。
後に【エルギヌス】と呼ばれるようになるそれの攻撃により参戦した連合軍兵士や魔法少女は瞬く間に壊滅し、赤い蟻を中心とする巨大生物の餌食となっていったのだ。
運良く後方にいた兵士達を除き投入戦力はほぼ全滅したと言ってよく、作戦開始から5時間後にスノークラウンも硬く巨人な怪生物の前についに力尽きる結果となっていたのだ。
この赤い蟻のような生物は普通の蟻のような酸を出すことはない。しかしその強靭な牙で得物を掴み、死ぬまで噛み続けるのだ。それによって多くの兵士が命を落とし、胴体がちぎれ落ちるまで牙に噛みつかれているのだ。
魔法少女として高い戦闘能力と防御力を持つスノークラウンでさえその牙の前に胴体はちぎれる寸前にまで追い詰められている。皮膚は削り消え肉が露出し骨が飛び出し、内臓がちぎれ飛んでいる。
鉄臭いにおいも今では感じない。自身が生み出した冷気による低体温症と死ぬ寸前の肉体が合わさった結果彼女の五感は既に残されていないのだ。
「あ……」
そして、最後の時がやってきた。耐え切れなくなった彼女の胴体が二つに分断されて地面に落ちたのである。仰向けに倒れこんだ彼女は痛みすら感じる事が出来なくなり、アースイーターによって地球が覆われつつある様子を目にしながら一筋の涙を流した。
「ごめん、なさい……」
それが彼女の最後の言葉となった。5年前に行われた最後に残されたシベリアの異界ゲート破壊作戦に従事し、世界を救った英雄の一人となってからもロシアの守護者として頑張り続けた彼女の最後は、冷気にと巨大生物に覆われた大地に無造作に、悲惨な肉体と化した状態で誰にも最後の言葉も届けられず、死に際さえみられる事のないあまりにも救われない最後となったのだった。