プライマーたちと魔法少女系地球侵略   作:鈴木颯手

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第三話「蜘蛛」

 地獄の年となった2055年も終わりを迎え、新しい年を迎えた2056年。地球は少しずつ地獄へと向かいつつあった。

 アースイーターの侵食は益々増えており、インドやペルシアにも新たに飛来していた。特にペルシア周辺への飛来は石油事情に大きな影響を与えることとなった。魔法少女が力を持っているとはいえ彼女達とともに戦う連合軍兵士達は未だに従来の兵器に依存している。つまり、戦車や装甲車などは石油などの燃料を必要としているのだ。

 それが滞ることになれば歩兵戦力だけではなく航空戦力は軒並み鉄屑と化してしまうのだ。ただでさえプライマーの戦力は強大なのにこれでは戦いにすらならなくなるだろう。

 

「問題はアースイーターではない。怪物を投下するテレポーションシップだ」

 

 テレポーションシップは強固な黄金の装甲によって守られており、空軍の攻撃や魔法少女の魔法すら効かないために撃墜が出来ないでいた。そのせいで投下される怪物を駆除する以外に被害を抑える方法がなかった。

 

「だがアースイーターが脅威ではない、という事でもない。あちらはあちらでテレポーションシップ以上の転送装置を有しているらしくモスクワでは巨大な怪生物、エルギヌスを投下している」

 

 アースイーターは上空を覆い、地上を闇で包み込むだけのものと思われていた。少なくとも、直接的な攻撃やテレポーションシップのように怪物を転送するわけではなかったからだがそれを覆す出来事がモスクワでは発生していた。

 モスクワ奪還を目指したオペレーション・クリムゾン。異界ゲート破壊時を上回る戦力で挑んだこの作戦はアースイーターから転送された怪生物エルギヌスの出現と酸を吐かない代わりに通常の個体よりも強固で強靭な巨大生物が群れで襲ってきたことで後方部隊を除くすべての投入戦力が全滅する形で失敗に終わっている。

 結果、ロシアは自国の主力級の魔法少女と多数の兵士を失い、モスクワ奪還どころか封じ込めすら失敗に終わっていた。その悲惨さはイギリスやギリシアを軽く上回っているだろう。

 

「とにかく、だ! 先ずはテレポーションシップを破壊する方法を考えないといけない!」

 

 これ以上の巨大生物の投下を防ぐためにもテレポーションシップの撃破は急務となっていた。

 しかし、そんな人類をあざ笑うようにアースイーターが更に飛来した。

 インドシナ半島にグアム、そして北海道であった。未だ被害がないために避難先となっていた東アジアにも飛来したことで人類は安全な場所など存在しないという絶望的な現実を叩きつけられることとなった。

 そして、魔法少女委員会の本部がある日本を死守するべく北海道では絶望的な戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

「次!」

「はい!」

 

 北海道出身の魔法少女、フロストベルはバディを組むフレアハートと共に襲い掛かってくる蜘蛛に似た巨大生物を次々と駆除していた。

 フロストベルが氷系の魔法で周囲の巨大生物を凍らせ、フレアハートが得意な炎属性魔法で焼き尽くす。両極端にいると言ってもいい二人は長年バディを組んで戦ってきた為に見事な連携プレイで次々と蜘蛛を駆除していた。

 

 ここは北海道最北の土地である稚内市。二人は少ない連合軍兵士たちと共にテレポーションシップから投下される巨大生物の駆除に動いていた。

 二人は基本的に北海道を中心に活動しており、アースイーター飛来の報を受けた際に真っ先に飛び出して初期防衛を成功させていた。戦闘開始より早1日が経過しているが被害が稚内市内で抑え込めている事がその証拠と言えた。

 それでも、たった一日で防衛線はずたずたになりつつあった。ともに戦う連合軍兵士は僅か100人しかおらず、1日の戦闘で半数がいなくなっていた。負傷者として後方に送られたわけではない。物言わぬ骸として遥か先の地にて打ち捨てられているのだ。

 そもそも、現状で負傷していない兵士など誰もいない。敵の攻撃はそれだけ苛烈で厄介だったのだ。蜘蛛型の巨大生物は蟻型の巨大生物とは違い酸を吐かない代わりに糸を吐き出す。しかし、その糸には酸性の粘液が付着しており、触れた兵士たちの服や皮膚を簡単に溶かしてしまうのだ。

 魔獣には酸を吐くような物がいなかったために耐酸性の服ではない事が仇となっていた。故に、痛みに耐えきれずに力尽きた者から死んで行っているのだ。

 

「これで、最後!」

「うりゃぁぁぁっ!!!」

 

 しかし、それでも二人の魔法少女の活躍でここの巨大生物の戦果は僅か50人を殺すだけにとどまっていた。範囲攻撃が可能な二人が魔力を温存せずに攻撃を続けた事が防衛成功の大きな要因となっていた。

 

「っ! 黄金船が近づいてくる!」

「ならば! これでもくらえ!」

 

 そして、何よりも大きいのがテレポーションシップのハッチ部分を凍結で覆う事が出来るという事だった。これにより敵の投下を一時的に無力化する事に成功していた。蜘蛛型の巨大生物の酸性は有りに比べれば弱いために氷を解かすにはそれなりの時間がかかっていた。これにより投下される敵の数を一時的に減らす事に成功していたのである。

 

「敵の数は落ち着いてきたけど、このままじゃジリ貧ね……」

「応援ももう少しかかるみたいだし今は私達だけでもがんばろう!」

 

 アースイーターが何時、何処に飛来してもいいように各地に魔法少女や連合軍兵士が配備されていたがその中で北海道は積雪の為に配備が遅れていたのが仇となったがそれでもこれ以上は敵に荒らされるようなことはさせないと奮闘していた。

 

「既に魔法少女委員会は報告を聞いているはずよ。だとすればワープ・ネピュラが動いているはずだわ」

「確かにるりちゃんなら直ぐに応援に来てくれるね!」

 

 ワープ・ネピュラはその名の通り空間転移を得意としている魔法少女である。その転移は物資や人員を最大1トン分転移させる事が可能という破格の魔法であった。しかし、その代わりに距離とクールタイムが致命的であった。

 一度の転移で移動できる距離は東京から名古屋程度であり、転移後は2時間のクールタイムを必要としていた。そのため、場合によっては交通機関を用いた方が速い場合もあるがそれでもそういった事が出来ない場合には強力な魔法である事に変わりはない。

 防衛開始から1日。それでもまだ到着しない事からも準備に時間がかかっているのか、それとも使えない事情があるのかは分からないが早く来てくれないと防衛戦が持たない事に変わりはなかった。

 

「フロストベルさん! 連合軍司令部より報告が! 現在魔法少女15人を転移させているそうです! うち3人は四天王との事! 到着まで2時間です!」

「っ! 分かりました! それまで何とかしてここを守り抜きます!」

 

 そして、ついに援軍の報告を受ける事となった。そしてその報告は彼女たちにとってk某以外の何物でもなかったのだ。

 

「四天王!? 勝ち確定じゃないですか!」

「ええ。そうね。だから後少しの辛抱よ」

「了解です!」

 

 四天王の言葉にフレアハートは目に見えて喜びを表に出した。

 四天王とは日本における魔法少女の頂点に位置する者達の事である。筆頭にして世界でも頂点に位置するアークルミナ。神主の家系で自らも巫女として活躍するルナミススピア。風魔法を操り対象者を切り裂くグリーンエッジ。そして異界の精霊と契約し、その力を用いる事が出来るスピリット・リンカー。

 一部例外はあれど通常の魔法少女10人分にも匹敵する力を単体で持った最強の魔法少女達である。彼女たちの存在は名前を聞くだけで、姿を目にするだけで現場の兵士や魔法少女の士気を大幅に上げる事が出来た。

 そんな魔法少女が3人も含んだ15人の援軍がまもなくやってくる。その報告に奮い立たない者等存在しなかった。

 

 しかし、それでも、プライマーの前にはそんな希望の報告も無意味に思える程に苛烈だった。その報告から僅か10分後に再びプライマーの猛攻が再開されたのである。大量の蜘蛛型の巨大生物が再び出現し、フロストベル達を飲み込まんと大量の糸を吐き出してきた。フロストベルが氷の防壁を作り、フレアハートが間を分かつように炎の壁を作り上げなければ1時間も持たずに全滅していただろう。

 

「ぐああぁぁぁっ!!!」

「っ! ごめんなさい……!」

 

 最後の生き残りの兵士が糸に飲み込まれ、悲鳴を上げながら生命活動を停止した。ジュゥ、という溶ける音がフロストベルの耳にこびりつく。そのことに彼女は悔しさで謝罪の言葉を口にするが攻撃の手を緩める事はしなかった。今、ここで攻撃を止めればここまでの戦いは全て無意味になってしまうから。

 

「うぅ……!」

「フレアハート! しっかりして!」

 

 魔力が尽きかけた状態でフレアハートが糸に当たってしまい、皮膚を焼かれる痛みに硬直してしまう。そのまま糸が大量に巻き付く前に氷の防壁を展開したフロストベルは急いで駆け付けるが幸いにも怪我はそこまでひどくはなかった。

 

「ごめん……! そろそろ限界かも……!」

「あと少しよ! 諦めないで!」

 

 そういうフロストベルだが彼女も限界が近い。咄嗟にはなったというのもあるが今展開した氷の防壁は平時に比べて強度は無いに等しく、蜘蛛が糸を放てばあっという間に溶かされてしまう程に脆弱だった。

 フロストベルは防壁が突破される前にフレアハートを担いで後方に駆けだした。不承不承ではあるがこのままでは防衛も出来ないと後退を決定したのだ。

 

「あっ!」

「雪乃ちゃん!?」

 

 しかし、その決断は一歩遅かった。氷を突破した糸の一本が彼女の脚に絡みつき、皮膚を溶かし始めたのである。通常ならば肉体は魔力で覆われており、この程度の酸なら効かないが今の彼女は魔力がつきかけている状態だ。弱めの糸の酸でも彼女の防御を突破するのは容易だった。

 そして、足をやられたことでフロストベルは大きく転倒した。足を見れば赤黒く皮膚が溶け出しており、最早まともに歩く事は困難になっているように見えた。実際、力を入れようとしても激痛で難しくなっていた。

 

「雪乃ちゃん!」

「逃げなさい、フレアハート。貴方だけでも……!」

「でも……!」

 

 思わず本名で読んでしまう程に慌てたフレアハートにフロストベルは自らを見捨てるように言うが簡単に割り切れる程二人の中は浅いわけでも、彼女が薄情なわけでもなかった。長年バディを組んできた相手をフレアハートは見捨てられなかったのだ。

 結果、二人は完全に逃げ時を失ってしまった。氷を突破した蜘蛛型の巨大生物が飛び跳ねるようにして向かってくる。あの巨体で建物すら悠々と超えてくる跳躍力を見せてくる敵に彼女たちが自分たちの最後を悟った時だった。

 

「待たせたわね」

 

 目の前に迫っていた蜘蛛型の巨大生物の肉体が後方から放たれた光線によって貫かれた。それも1体だけではなく何体もの巨大生物を巻き込んだその攻撃は一瞬にして彼女たちの窮地をなかったものにしてしまったのだ。

 そして、それを放った人物が誰なのか、理解できない二人ではない。慌てて後方を見ればそこには思ってい通りの人物がいた。

 

「四天王筆頭、アークルミナ。今から参戦するわ」

 

 四天王筆頭にして日本最強の魔法少女、アークルミナを含む15人の魔法少女が勢ぞろいしていたのだ。

 

「さぁ、ここから反撃開始よ」

 

 アークルミナのその言葉と共に、魔法少女たちは反撃を開始するのだった。

 

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