アメリカにおいて第三位の実力を誇るジャッジメント・イーグルは上空より飛来したアースイーターを見て覚悟を決めた。
彼女は生まれ故郷であるサンフランシスコにいたがついにそこにもアースイーターの魔の手が迫ってきていたのだ。アースイーターの飛来に警報が町全体に鳴り響いており、大慌てで人々が逃げ出し始めていた。
「……よし!」
「エリー!」
ジャッジメント・イーグルが覚悟を決めてアースイーターの元に向かおうとした時だった。背後から声をかけられ、後ろを振り向けば彼女の両親がいた。心配そうな、泣きそうな顔をしている二人に彼女は陰りのある笑みを浮かべた。
「……大丈夫だよ。私は死なないから! それに、私がやらないで他に誰がやるのさ」
「ごめんなさい……! 何も出来なくて……、ごめんなさい……!」
「逃げる事しか出来ない俺たちを許してくれ……」
「ママ……パパ……」
悔し気に泣き続ける両親にジャッジメント・イーグルも悲し気な表情を見せた。家族仲が良好であり、魔法少女になる際には後押しもされると同時に死んでほしくはないと心配をかけていた。幸いにも本人が強い資質を持ち、それを十全に扱うだけの実力があった事で魔獣対戦では一切の怪我をすることなくアメリカ最上位の魔法少女にまで駆け上がる事が出来ていた。
しかし、今回ばかりはそうもいかないだろう。今度の敵は魔獣対戦時とは比べ物にならない程に強大な敵なのだから。
「もう、行くね」
ジャッジメント・イーグルは最後に家族三人で抱擁をすると魔法を使ってアースイーターの方へと飛んでいった。涙をこらえる自身の姿を両親に見せないようにするかのように。
「っ! ジャッジメント・イーグルさん! お待ちしておりました!」
「うん。状況は?」
暫く飛んでいると連合軍兵士が集まっている場所に到着し、流していた涙をぬぐうと最上位の魔法少女に相応しい凛々しい表情で状況を聞く。周囲には連合軍兵士以外にも西海岸で活躍する魔法少女が何人か既に来ていた。
「今の所アースイーター以外に敵の姿は確認されていません。アースイーター直下の避難はほぼ完了していますので何時戦闘になっても問題は無い状況です」
「分かった。……だけど、ついにここにまで来たんだね」
「全くですね。東側はほぼ壊滅状態なのに……」
現在、アメリカは苦境に立たされている。プライマーによる奇襲によって東海岸はまともな抵抗も出来ずに壊滅し、その際に多くの犠牲者を出していた。アメリカ大統領をはじめ首脳部はほぼ死亡し、休暇で西海岸を訪れていた下院議長を始めとする生き残りが立て直しを図っている状態だった。
しかし、プライマーはアメリカに恨みでもあるのかと言いたくなるほどに怪物の投下を際限なく行っていた。アメリカ最強の魔法少女であるスター・ストライクを筆頭にリバティ・ブレイカー、第五位のナイト・コメットが必死に抑え込みを図っているのだがほぼ失敗に終わっている。
「敵は市街地に大きな巣を作る蜘蛛を中心に投下を続けており、繁殖も確認されています。恐らくですが近日中には投下された個体よりも繁殖で増えた個体の方が多くなるでしょう」
そうなればアメリカどころか世界は終わりだと兵士は悲し気に話す。当初こそ巨大な蟻のような生物を投下していたがいつしかそれは変わり、巨大な青い蜘蛛を投下するようになっていた。
別の世界に置いてプライマル種と呼ばれているその蜘蛛は最大の特徴であるコクーンを東海岸を埋め尽くす勢いで作りまくっており、その数を急速に増やしている。
北海道などに投下された蜘蛛よりも強靭で糸には電流が走る危険なこの蜘蛛はアースイーターの範囲内で着実に数を増やしつつアメリカを横断するように版図を広げていた。
「実は、核の投下も検討されているそうです」
「まぁ、でしょうね。正直ここまでされて未だ使われていない方が可笑しいくらいだけどね」
魔獣対戦が勃発してからというもの核は撤廃されるようになっていた。魔獣はどういう訳か核のような高エネルギーを憎むのか率先して破壊する傾向にあった。そのために原子力を始めとする各発電所に軍事施設、核ミサイルの発射基地などが優先して狙われたのだ。
魔獣対戦で活躍し、最後の異界ゲートの破壊が始まる前に亡くなった浄化の魔法少女がいなければ今頃アメリカは核汚染によって誰も住めない土地となってしまっていただろう。
それでも核兵器の有用性は人類相手ならばあるという事でアメリカは未だ数発の核弾頭を保有していたのだ。
「浄化の魔法を使用できる魔法少女はいないですからね」
「似た魔法を使える人ならいるけどあれだけの範囲となるとねぇ……」
浄化の魔法少女の魔法はすさまじいとしか言いようがなく、重度の核汚染された土地を僅か数時間で完全に浄化できる程の力を持っていた。
それに似た魔法少女ならそれなりの数がいるものの、土地の汚染を浄化できる物はいなかったのだ。
「という事は東海岸は核攻撃と同時に反撃するの?」
「そうでしょうね。そのためにも西海岸は守らないといけません」
「挟み撃ちだけは避けないといけないからね」
直情的な性格のジャッジメント・イーグルだがアメリカを代表する魔法少女の一人として大量の知識を身に着けていた。故にこの程度ならば彼女も理解が出来た。
そして、この場所の防衛がどれだけ重要かも。ジャッジメント・イーグルは改めて覚悟を決めた時だった。
「っ! あれは……!」
突如としてアースイーターの一つが変化したのだ。アースイーターの下部は6錐の突起物のようにとがっているのだがそこが開いたのだ。開いた先にあるのはテレポーションシップと似た赤い光を放つ何かの装置だったがそれを見てピンとこない物等この場には存在しなかった。
「敵が転送されてくる! 総員警戒しろ!」
連合軍兵士の隊長らしき人物がそう声を上げるのとほぼ同時だった。赤い光が突如として巨大な怪生物が出現。彼らの目の前に降り立ったのである。
「ロシアに出たというエルギヌスか!?」
「いや、違う、こいつは……!」
兵士がそう叫ぶと同時に、その怪生物、アーケルスはその巨体を丸めて兵士たちに向かってきたのである。
「よ、避け……!」
しかし、それに対応できる兵士はいなかった。あまりにも距離が近すぎた事で集められた兵士の大半がその回転の餌食となり、赤いシミと化したのである。運良く助かったのは射線上に居なかった兵士と魔法少女達だけであった。
「ッ! くそ!」
ジャッジメント・イーグルは飛び上がるとアーケルスに向けて雷魔法を放つ。空気の抵抗を受けて不規則に曲がりくねながらアーケウスに着弾するが体表を少し傷つけただけでダメージを与えたようには見えなかった。
「っ! 硬いのか……!」
「ならば私が!」
ジャッジメント・イーグルの攻撃が効かない中で一人の魔法少女が切りかかった。大剣を装備したその魔法少女は巨大な生物にも果敢に突進するがその大剣が当たる事はなかった。
「……え?」
突如としてアーケルスはその魔法少女の視界から消えたのだ。渾身の一撃を叩きつける気でいた魔法少女は空ぶった事でその場に前のめりに倒れこんでしまったがすぐに彼女を巨大な影が覆いつくした。
「危ない!」
は消えていなかった。ただただ飛び上がったのである。その巨体からは想像もできない程の跳躍を見せるとは手足を広げ、ボディプレスするように地面に落下した。
「……あ」
倒れこんだ魔法少女がそれを回避することは出来なかった。彼女は呆然と短く言葉を発した後、落下してきたアーケウスの下敷きとなり、ミンチとなって死亡した。
「っ! よくも仲間を!」
「攻撃しろ! こいつは危険だ! なんとしてでもここで食い止めるんだ!」
魔法少女と生き残った兵士たちが必死に攻撃を開始する。巨大生物が何故投下されないのか。この場の誰もがその答えを相手にしていた。投下されない? それもそうだろう。目の前の怪物がいれば十分すぎるからだ。
それだけこのアーケルスは危険且つ強大で厄介な相手だった。魔法少女達の攻撃をまるで何も効いていないと言わんばかりに俊敏に動いており、そのたびに兵士が踏みつぶされていく。アーケルスがただただ歩くだけでその周囲は破壊されていき、被害を多く出していく。それは魔法少女も同じだがそれらに対してはアーケルスは腕を振るったり先ほどの回転やボディプレスで次々と屠っていく。最早この場に置いてこのアーケルスを倒す手段は残されていなかった。
アメリカ西海岸にアースイーターが飛来して半日後、ジャッジメント・イーグルは呆然としながら生まれ故郷を眺めていた。そこにあるのは美しい故郷ではなく、破壊の限りをつくされた廃墟の街だった。家も、スーパーもレジャー施設も何もかもが破壊され、半日前までの日常は残されていなかった。
「……ごめん、なさい」
ジャッジメント・イーグルは涙を流して誰に言うともなく謝罪の言葉を口にした。叫び声をあげる事はない。下半身を踏みつぶされた彼女ではそれをするだけの体力が残されていなかったからだ。
アーケルスの姿はここにはない。あるのはアースイーターによって次々と呑まれていく故郷と遅れて到来したテレポーションシップだけであった。
次々と兵士と魔法少女を葬ったアーケルスにジャッジメント・イーグルは最後まで抵抗するも一瞬の隙を突かれて地面に叩き落された所を踏みつぶされた。戦闘能力どころか生命力さえ失ったジャッジメント・イーグルにアーケルスは興味を無くしたようで海岸線沿いに北上を開始したのだ。今頃アーケルスによって海岸線は致命的な損害を受けているだろう。最早アメリカに安全な場所など残されていないのだ。
「パパ、ママ……。約束、守れそうにないや……」
薄れゆく意識の中でジャッジメント・イーグルは最後に会った両親との思い出を振り替える。魔法少女になる事で死ぬかもしれないとずっと不安させてしまったがそれがついに本当の事になってしまったとジャッジメント・イーグルは虚空に向けて手を伸ばすと直ぐに力尽きたように地面に落とした。
「……」
ジャッジメント・イーグル、本名エレノア・キングは走馬灯を見ながら命を賭しても守りたかった故郷の中で最後の時を迎えるのだった。
アメリカが反抗作戦を開始する前に西海岸に飛来したアースイーターとアーケルスによってアメリカは抵抗する力を完全に喪失した。東からはプライマル種が、西からはアーケルスが迫った事でアメリカ合衆国は全土からの国民脱出を決定。カナダを通じて諸外国に亡命を決定した。
北上したアーケルスはサンフランシスコの避難民を襲撃し、その大半を殺して更なる北上を続けていた。そして、アメリカ第四位の魔法少女であるミス・オラクルが守るアメリカ合衆国の首脳陣が集まるシアトルを襲撃。ミス・オラクルに首脳陣を皆殺しにしてしまったのである。
そして数日後にはデトロイトにアースイーターが飛来。アメリカは工業力も喪失し始めており、超大国としての姿は完全になくなりつつあった。
更にその戦いの最中にスター・ストライク、リバティ・ブレイカーも1000を超えるプライマル種から市民を逃がしている最中に無数の糸と電流、酸によって死亡した。
5人の最上位魔法少女のうち4人をわずかな期間で失ったアメリカはそのまま後退を続け、防衛すらままならなくなっていくのだった。
アメリカ全土の陥落も近かった。