プライマーたちと魔法少女系地球侵略   作:鈴木颯手

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第六話「絶望の加速」

「いやぁぁぁぁぁっ!!!」

「たす、助けて……!」

「痛いよぉ……! 死にたくないよぉ……!」

 

 南米最大の領土を誇るブラジルの経済を支える重要な都市であるサンパウロとリオデジャネイロはこの日都市としての機能を失おうとしていた。両都市にも多数のアースイーターが飛来し、それと同時に多数のテレポーションシップが出現。大量の巨大生物を投下し始めたのである。

 魔法少女委員会南米総司令部も置かれたリオデジャネイロには多数の魔法少女がおり、初期防衛は成功するかに思われていた。しかし、突如として海より巨大な生物、スキュラの大軍が襲来した事で防衛戦は瞬く間に崩壊した。

 

「急いで! 民間人には自主避難を! 戦える者は一秒でも敵を食い止めて!」

 

 南米で活動する魔法少女の頂点に立ち、常に後輩たちの模範となるべく心身を鍛えてきた魔法少女リベルタ・ヒューリーはそれらを遺憾なく発揮して陣頭指揮を執りながら自身も自慢の身体強化魔法を用いて近づいてくるスキュラを海岸まで吹き飛ばしていく。

 それに励まされて周囲で戦う連合軍兵士や魔法少女は死力を尽くして攻撃を行っていく。しかし、いくら彼女が魔法少女と言えど連合軍兵士や魔法少女達に対する命令権はないし、余程の事がない限り命令を出すことは出来ないようになっていた。ではなぜ指揮を執るのか? 簡単な話である。既に指揮を執れる人物は存在しない為である。

 リオデジャネイロを守るために集まった兵士と魔法少女に海より襲い掛かって来たスキュラ、その総数は100を超えており、防衛戦は瞬く間に崩壊した。更にスキュラの奇襲攻撃で後方にいた指揮官たちは逃げる事も出来ずに全滅してしまい、混乱していた所を彼女が指示を出していたという訳である。

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」

「っ! くそ!」

 

 しかし、もともと崩壊していた防衛戦を立て直す事など不可能に近かった。リベルタ・ヒューリーの視界の端でまた一人、魔法少女がスキュラの飛びかかりを受けてその身を地面の染みへと変化させていた。

 反対側ではスキュラが吐き出す青色の酸によって魔法少女が悲鳴すら上げる暇なく溶かされていった。そして、そんな魔法少女達の死を飾る為に無惨に殺されていく連合軍兵士達。

 彼女が指揮を執った時点でいた戦力は僅か1時間ほどで半分以下にまで減っていた。このままでは後1時間持つかどうかさえ怪しいだろう。

 

「それにしても! この、敵、は!」

 

 リベルタ・ヒューリーは一気に跳躍すると一番近いスキュラの顔面を殴りつけた。南米最強の拳を受けたスキュラは呆気なく吹き飛ばされるがすぐにむくりと起き上がるとまた戻ってこようと動き始めた。

 そう、スキュラの最大の特徴はそのありえない程の耐久力であり、蟻程度なら一撃で屠れるリベルタ・ヒューリーの一撃を受けてもビクともしていないかのように直ぐに起き上がってくるのだ。スキュラ1体を倒すのに数発は撃ち込まないと死ぬことはない。それが防衛を困難にさせている最大の原因だった。

 リベルタ・ヒューリーでさえそこまでの事をしないといけないというのに連合軍兵士や他の魔法少女では更に時間がかかるだろう。そんな相手が大挙して押し寄せてくる為にまともに倒す事も出来ないで次々と死んで行っていたのだ。

 

「本部! 応答せよ! 本部!」

『—————』

「やっぱりダメか……」

 

 更にリオデジャネイロの南米総司令部とも通信が途絶していた。彼女の位置からでは総司令部がどうなっているのかを知る事は出来ない。しかし、何度も通信を試みているというのに何の返事もないことから既に陥落してるか移転してしまっているかのどちらかの可能性が高かった。

 上に状況判断を仰ぐ事も出来ないリベルタ・ヒューリーだが、目の前で次々と死んでいく兵士や魔法少女達を見て決断した。

 

「全員聞けぇ!!! 我らは撤退する! ブラジリア近郊の南米第222基地に撤退だ! 殿は私が務める! 急いで逃げろ!」

 

 それは苦渋の決断だった。この状況では犬死以外の何物でもないとリオデジャネイロの防衛を放棄する事を決めたのだ。身体強化の魔法で声量も大きくした彼女の声は彼女の元で戦っている全ての人間に届いたことだろう。誰もが驚き一瞬硬直し、やがて悔し気に退却を開始した。

 誰もが理解していたのだ。今の自分達では防衛は困難だと。ただただ死ぬ事しか出来ないと。それを突き付けられるように彼らは急いでリオデジャネイロからの脱出を試み始めたのだ。

 途中で出会う民間人に目もくれる事はない。助ける事は難しいと見捨てる判断をして僅かな生き残りは逃げていく。

 そんな彼らの背中をリベルタ・ヒューリーは守った。襲い掛かってくるスキュラを次々と吹き飛ばし、蟻たちには死をお見舞いしていく。倒す必要は無くなった以上対きゅぐああろうと吹き飛ばす事で時間を稼ぐことを選んだのだ。

 

「……ここは私の生まれ故郷! それを捨てる覚悟をさせたんだ。少しは憂さ晴らしをさせろ!」

 

 そこから彼女は1時間に渡り殿を見事勤め上げたうえで脱出に成功した。腕を常に振るっていたせいで両腕が血だらけになっているがそれ以外で外傷はなかった。しかし、彼女は無事に逃げ出せたがリオデジャネイロは半数の市民がスキュラや巨大生物によって殺されており、サンパウロに至っては防衛戦力の全滅という最悪の事態にまでなっていた。

 更にこの日を境に南米には次々とアースイーターが飛来し、各地で絶望的な戦いが展開される事となった。南米はスキュラが集中的に投入されているのか沿岸部ではスキュラによって次々と輸送船が撃沈されるようになり、南米は少しずつ孤立していくのだった。

 

 

 

 

 

「南アフリカでもアースイーターの飛来を確認しました。……半日のうちに周辺地域は敵の手に落ちたとの事です」

「そうか……」

 

 魔法少女委員会総本部地下会議室。そこでは魔法少女達を支える大人たちが今後の動きについて会議を行っていた。しかし、その雰囲気は暗く、絶望感が漂っていた。それも仕方ないだろう。人類はアースイーターどころかテレポーションシップ相手にさえ有効打を打つことが出来ず、その版図を縮小させているのだから。

 

「アメリカは既に半壊状態にあり、まともな防衛は出来ていないそうです。ロシアに関しては中央機関が消滅し、各地域ごとの防衛を余儀なくされているようです。イギリスは完全に放棄。フランス北部は防衛に成功していますがそれも時間の問題でしょう」

「バルカン半島も現状は防衛が出来ていません。イタリア半島南部にまでアースイーターが飛来した事でそちらに防衛戦力を割かざるを得ない状況になったのが拍車をかけていますね」

「ペルシアも同様です。同国の魔法少女25名のうち、生存が確認できているのは2人しかおりません。死亡確認がされているのは18名。連合軍兵士も6割が死亡しています」

「ペルシアと言えば西アジア最大の魔法少女数ではなかったか? 中東の防衛は可能なのか?」

「パキスタンの魔法少女が増援に向かってくれています。インドが何とかならない限り防衛は可能だと思います」

「となると問題はバルカン半島か……ドイツやポーランドの魔法少女が多数派遣されているが拡大を止める事は出来ないのか?」

「残念ながら。あそこはモスクワのアースイーターも近いのでそちらにも派遣しています。これ以上は無理でしょう」

「……」

 

 日々もたらされる情報に勝報があるのは無いに等しい。常にどこにアースイーターが額した。どこが陥落した。どこの国が大きな損害を受けた。そんなものばかりであった。

 

「日本からも魔法少女を派遣していますが太平洋は最早スキュラの縄張りと化しており、渡航は困難になりつつあります。空路もアースイーターの出現で混乱しており難しい状況です」

 

 日本は最多の魔法少女数を誇り、その数は4000人にまで及ぶ。プライマー襲来前の世界の魔法少女の総数が1万である事を考えれば日本がどれだけ影響力を持っているかが分かるだろう。

 日本ではこの魔法少女達によって北海道の防衛に成功しており、アースイーターが飛来したにも関わらずに、日本が健在である最大の要因となっていた。

 

「とにかく、魔法少女が少ない場所に派遣し、少しでも被害を最小限に……」

「会議中に失礼します!」

 

 その時だった。突如として会議室の扉が開かれ、慌てた様子の男が入って来たのは。その男は顔面を蒼白にさせながら絶望的な報告をもたらした。

 

「朝鮮半島に多数のアースイーターが飛来! 僅かな期間で全土を覆いつくすとともに一部が九州北部に到達! 今もなお拡大しています! 更に! て、テレポーションシップの大軍がここ東京に向かってきています! 総数は500! 後1時間ほどで到着します!」

 

 それはまさに人類の勝敗を決定づける最大の戦いの幕開けを知らせるものであった。

 





【挿絵表示】

各国の魔法少女の数です。凡そ且つ一部は記載していないだけで描いていない国にいないわけではないです。本当にいない国もありますが。〇に数字が書いてあるのは周辺諸国合わせた総数と考えてください
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