あの日のことを、今でも覚えている。
小さい頃──ランドセルがまだ少し大きくて、肩紐がずり落ちそうで、
午後の光がやけに眩しくて、アスファルトが熱を持っていた。
友だちと別れて、ひとりで帰っている途中だった。
しばらく歩いていると、前から車が近づいてきた。
最初は、ただの車だった。何のことはない、普通の車。
でも、近づくにつれて――変だと気づいた。
まっすぐ走っていない。
微妙にふらついて、左右に揺れている。
運転席の人影が、がくん、と前に倒れた気がした。
「……え?」
声が出たのかどうかも分からない。
足がすくんだ。体が言うことをきかなかった。
次の瞬間、
――ガンッ、という音がした。
金属が歪む音。何かが折れる音。
そして、衝撃。
私にぶつかった車は、そのまま壁に向かって突っ込んで──
私の体は、壁と車の間に挟まれた。
「……ぁ……」
痛いとか、怖いとか、そういう感覚じゃなかった。
息ができない、と思った瞬間にはもう、視界が暗くなっていった。
時間が止まったみたいに、音が消える。
空気がすっと冷える。
世界が遠ざかる。
そして――
「……ん」
──気づくと、私はさっきと同じ場所に立っていた。
同じ、午後の光。同じ、熱のこもったアスファルト。
同じ、ランドセルの重さ。
……だけど、少し違う。
胸が変にざわざわする。呼吸が浅い。
頭が少しぼーっとする。
「……?」
悪夢を見て、目が覚めた――そういう感じ。
寝てないのに。立ったままなのに。
私は"夢"だと思った。
変な想像をしちゃっただけ、暑さで頭がおかしくなっただけ、と。
そう自分に言い聞かせて、また歩き出した。
だけど私は、ただ何となく、ふと立ち止まった。
さっきの自分みたいに、ぼんやりと。
――そのとき。
前から、車の音が近づいてきた。
最初は、普通だった。
でも、すぐに分かった。
同じ車。
ふらついている。左右に揺れている。
運転席の人影が、がくん、と落ちる。
背中の汗が、一気に冷えた。
「……あ」
声が勝手に漏れた。足がすくんだ。
そして、私の前で――
――ガンッ!
車が電柱にぶつかった。
乾いた衝撃音が、空気を震わせた。
金属が潰れる音が遅れて響いた。
でも――
私は、無事だった。
「…………」
車は電柱にめり込み、ボンネットが歪み、前輪が変な角度で止まっている。
運転席の人影は、ぐったりと前に倒れたまま動かない。
足元がぐらついて、思わず一歩下がった。
背中に、遅れて冷たい汗が伝う。
(……あれ?)
クラクションがずっと鳴っている。
(……じゃあ、さっきのは……)
心臓が早鐘のように鳴っている。
周りを見ると、人が集まり始めていた。
誰かが叫んでいる。携帯電話を取り出す人。
車の中を覗き込む大人たち。
――同じだ。
車も、事故のタイミングも。
違うのは、"私がそこにいなかった"こと。
(……やっぱり、おかしい)
けれど私は、
その"おかしさ"に、名前をつける勇気はなかった。
理解してしまったら、何かが決定的に変わってしまう気がしたから。
だから私は──
何も言わず、その場からそっと離れた。
誰にも声をかけられないように。
誰にも気づかれないように。
二回目の"それ"は、小学校高学年の遠足のとき。
山の上にある展望台で、クラス全員が集まっていた。
遠くまで見渡せる景色に、誰かが歓声を上げて、
先生が「走らなーい!」と声を張り上げている。
私はというと、少しだけ周りから外れて、展望台の端に立っていた。
空は高くて、風が気持ちよくて、遠くの町がミニチュアみたいに小さく見える。
そのときだった。
スピーカーから、少し間の抜けた機械音声が流れた。
『――ただいま 正午 を お知らせします』
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が一気に「お昼」に切り替わった。
(あ、お昼ごはんの時間だ)
そう思って、私は何気なく――ほんの気まぐれみたいに、振り向いた。
スピーカーの音がした方を見ようとした、ただそれだけの動き。
そのとき、
ぐらり、と足元がずれた。
「あ――」
声が出る前に体が傾き、反射的に私は柵に手を伸ばした。
ぎしっ。
嫌な音がした。
何かが無理に軋むような、軽くて不安な音。
次の瞬間。
──ばきっ。
という乾いた破裂音。
もたれかかった柵が、壊れた。
体はそのまま前に投げ出される。
視界が、空から、岩肌へと一気にひっくり返る。
(落ちる)
そう思った、次の瞬間――
ごん、と。
頭に、鈍い衝撃が走った。
痛みを感じるより先に、
視界が真っ白に弾けて、音が途切れた──
──次に気づいたとき、私は、さっきの展望台にいた。
展望台の上。同じ風。同じ空。
同じ、ざわざわした遠足の空気。
心臓が、遅れて跳ねた。
(……え?)
頭がぐらぐらする。
夢? さっきのは、想像?
いや、違う。
柵の嫌な感触。落ちる感覚。頭を打った感触。
あれは――はっきりあった。
私は、いつからか習慣として身につけている腕時計を、無意識に見た。
デジタル表示が、はっきりと目に入る。
【11:57】
「……」
「三分……前……?」
思わず、声に出た。
私は無意識に、柵を見た。
さっきまで、私の体重を受け止めて、折れて、
そのまま私ごと崖下へ落ちていった――あの柵。
今は何事もなかったみたいに、元の形でそこに立っている。
(……戻ってる……?)
胸の鼓動が早くなる。
私はそっと柵に近づいた。
今度はさっきみたいに焦ってじゃなく、確かめるために。
私はほんの少しだけ力を込めた。
体重をかけるほどじゃなく、もたれかかるよりも弱いくらい。
――ぎしっ。
やっぱり、あの音。
嫌な予感が確信に変わる。
「……っ」
──ばきっ。
柵の支柱が折れ、金属と木片が音を立てて崖下へ落ちていく。
私は反射的に一歩引いた。
崖の向こうで、欠けた柵の残骸が岩肌に当たってがらがらと音を立てる。
「……え?」
誰かの声がした。
「うわ、柵壊れた!」
「危ないな~、あそこ……」
私はそこに立ったまま、心臓の音だけがやけに大きく聞こえていた。
担任の先生が青い顔で駆け寄ってくる。
「波彪さん! 大丈夫だった!?」
肩を掴まれて、前後を確認される。
「怪我は!?誰も落ちてない!?」
「……だ、大丈夫、です……」
先生はほっとしたように息を吐いてから、
すぐに向こうに向かって叫ぶ。
「すみません、管理の方ですか?
展望台の柵が壊れました! 今すぐ来てください!」
そのやり取りを聞きながら、私は崖の下を見下ろしていた。
すると──
『――ただいま 正午 を お知らせします』
私がさっき聞いたのと全く同じ声色の、間の抜けた機械音声が流れる。
背中にぞわっと寒気が走る。
(……全部、"戻ってる")
夢じゃない。偶然でもない。
私は──落ちて、"死んで"、"戻った"んだ。
その日は、
私の魔法が、【死に戻り】だと、理解してしまった日だった。
そして──
三回目──"最後"に死に戻ったのは、おそらく、中学生のころ。
夕方の帰り道、住宅街の一角が異様な騒ぎになっていた。
黒い煙。鼻をつく焦げた匂い。
――火事だ。
人だかりの向こう、二階の窓から子どもの声が聞こえた。
「たすけてぇ!!」
掠れて、喉を引き裂くような声。
(……!)
考える前に──
まず、足が動いていた。
私は周囲の制止を振り切って、燃え上がる家の中へ飛び込んだ。
中は想像以上だった。
煙が低く溜まり、視界はほとんどない。
息を吸うたび、喉の奥が焼ける。
(二階──!)
手探りで壁を頼りに進み、階段を駆け上がろうとしたその瞬間――
――ドンッ。
鈍い破壊音が響いた。
振り返る間もなく、
すぐ横の壁が、内側から押し潰されるように崩れ落ちた。
砕けた木材と瓦礫が、一気に視界を塞ぐ。
「――っ!」
避ける暇もなかった。
衝撃が横から叩きつけられる。
胸を打たれ、息が詰まる。
次の瞬間、全身を包む、灼けつくような熱。炎。煙。
(……動けない……)
そう思ったところで、私の意識は、真っ白に途切れた。
「……っ!!」
次の瞬間、私は家から少し離れた場所に立っていた。
同じ煙。同じ騒ぎ。
同じ子どもの叫び声。
(……三分……戻った……)
時間の感覚で知る。
心臓が、耳鳴りみたいに鳴る。
(二階に行く前に……)
私は、崩れてくるであろう壁を警戒しながら進んだ。
――ドンッ。
壁が崩れ、鈍い破壊音が響いた。
砕けた木材と瓦礫が、床に散らばる。
私はすぐさま二階へ向かう。
でも――
咳が止まらない。煙が肺に刺さる。目が焼けるように痛む。
(……だめ、だ……)
視界が暗くなっていく。
逃げなきゃ、と思ったときには、足が動かなかった。
(……これ、死ぬ……)
階段を登り切ったところで、呼吸が、途切れた。
「……っ!!」
また、戻った。
今度は死に至るまでの時間が長かったのだろう、
子どもの声が、さっきよりも近い。
(……時間がない……)
感覚で分かった。
このままだと、また同じ場所で詰む。
助けるには――
全く別の
私は、家を見上げた。
二階右奥。外壁に、非常用の小さなバルコニー。
(あそこだ──!)
近くにあった自転車置き場。
壁を蹴って、必死に登る。
そして、決死の思いでバルコニーに飛び移った。
子どもは、窓のそばで泣いていた。
「大丈夫、来た!」
抱き上げた瞬間、天井がきしんだ。
(……崩れる)
考える暇はない。
ここまでに来る時点で、
私はもう、頭の中に、飛び降りる場所を決めていた。
二階右奥。外壁沿い。
庭に伸びた、剪定されていない低木。
私は来た窓から、そのまま外へ――
飛んだ。
次の瞬間――
ばさっ。
茂みが私たちを受け止めた。
枝が折れ、葉が裂け、衝撃が一気に分散される。
そして─
――ドンッ!!
背後で家の一部が崩れ落ちた。
でも、今回は巻き込まれなかった。
私はすぐに、子どもの様子を確認した。
震えている。泣いている。
でも、呼吸はある。
──生きてる。
外で待っていた大人たちが、一斉に声を上げる。
「助かった!!」
「早く、救急車を!」
子どもを引き渡した瞬間、私はすぐには動けなかった。
足に力が入らなかった。
立とうとしても、膝が笑って動かない。
手が、止まらずに震えていた。
熱でも、寒さでもない。
怖さと、安堵と、遅れてきた現実感が、全部まとめて押し寄せてきた。
──思えば。
自分の魔法を【死に戻り】だと理解してから、
私はどこかで、自分の命の扱いを変えてしまったのかもしれない。
本来なら、怖がるべき場面で、逃げるべき場面で。
心のどこかに、「死んでも、また戻れる」という前提が
当たり前のように居座るようになった。
それは、勇気なんかじゃない。
覚悟でも、善意でもない。
ただ、自分の命に、値段を付けなくなっていただけだ。
そしてそれが──
私にかかった『呪い』だったのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「私の魔法は──【死に戻り】」
「死ぬと、死ぬ
言葉にした瞬間、ホールの空気が、目に見えて固まった。
「……三分、前……?」
「死ぬと、って……」
私は、ゆっくりと頷いた。
「信用しろ、とは言わない」
「だけど……」
そして一度、息を吸う。
「何か危険なものが見つかったときとか、
行かなきゃいけない場所が、明らかに危ないとき」
「そのときは、私を呼んでほしい」
「……え?」
「ちょ、ちょっと待って……」
構わず、続ける。
「私が確認する」
「私が先に行く」
「私の魔法は、たぶん、そういう使い方でしか証明できないから……」
沈黙が漂う。
さっきまでのとは質の違う、重たい沈黙。
「…………」
誰もが言葉を選びあぐねている、重たい間。
その空気を――
「……あほくさ」
ばっさりと、切り捨てたのはリンリだった。
「即死魔法だの、時間停止だの……
もう十分、やりたい放題の魔法出揃ってるでしょ」
「今さら"死に戻り"? が来たくらいで、驚かないわ」
「──だから、そういう自己犠牲ありきの魔法の証明だのなんだのも、いらんいらん」
リンリは肩をすくめて言う。
続けてアテナが小さく息を吐き、苦笑まじりに口を開いた。
「リンリの言う通り、そういうやり方は止そう。
ここまで規格外の魔法が並ぶと、逆に信ぴょう性が増してくるのも事実だしね」
「……僕自身、感覚がだいぶ麻痺してきてるだけかもしれないけど」
そう締めくくり、アテナは自嘲気味に笑った。
続いて、ハイジが口を開く。
「あの~、危険かどうかは、あたしの魔法でだいたいは事前に分かるから……
マキがわざわざ行かんでも良くね」
「ただでさえ空気な魔法なのに、これ以上お株奪うのやめて……」
彼女なりのフォローなのだろうか、ぼそっとした最後の一言に苦笑がもれる。
「あら……私はちょ~っとだけ、ね?
危険そうな場所とか、怪しい扉とか……
そういうの、マキちゃんにお願いしようかな~、なんて思ったんだけど♪」
と、あえて空気を読まない調子でライトが口を挟む。
「まぁこない言うてはりますけども、
ライトちゃんも本気で言うてるわけやないんでね!」
すかさずナツミが冗談めかす。
そして──
今まで少し後ろで様子を見ていたシロが、珍しく一歩前に出た。
いつものふわっとした笑顔はなく、眉をきゅっと寄せている。
「……ダメだよ、マキちゃん」
その声色からは、いつもの軽さが消えていた。
「危険なところに行ったり、"とりあえず行って確認する"
とか……そういうの、禁止だからね!」
思ったよりも強い声で、噛みしめるような言い方だった。
「……地下に行くとき、先に歩いて行ってくれたのも、そういうことだったんだね」
「……」
シロは一瞬だけ視線を落とし、それからもう一度、まっすぐ私を見る。
「"何かあったら自分が先に"って思ってたでしょ」
「戻れるから大丈夫、って」
指先が、ぎゅっと握りしめられる。
「でもね、それ……全然大丈夫じゃないから」
「三分戻れるからって、
危険そのものに飛び込んでいい理由にはならないよ」
「戻った瞬間から、もう逃げ場がない状況だったら……」
シロは目を伏せる。
「……だから、マキちゃんには、軽々しくそういうことをしてほしくない」
(……シロ……)
「……分かった?」
顔を上げたシロは、
もうさっきまでの張り詰めた表情じゃない。
「分かったら、返事!」
ふと気づくと、シロは、いつもの調子の柔らかい顔に戻っていた。
「……分かった」
そう答えた瞬間、自分が"納得した"というより、
"折れた"のだと分かった。
「うん、いい子」
シロはそれで満足そうに頷いた。
「……じゃあ」
ぱん、と手を叩いたのはアテナだった。
「これで、全員の発表は終わりだね」
「長かったけど……正直、かなり有意義だったと思うよ」
場を見渡すと、みんなそれぞれ、疲れた顔をしながらも、
どこか頭の中で情報を整理しているようだった。
私も、みんなの魔法を改めて整理することにした。
【変身】影津アテナ
【凍結】鈴月ミサ
【天候操作】空丸マリー
【寿命可視化】一ノ目ハイジ
【魔法無効化】蜜葉イリス
【身体強化】紺剛ダイヤ
【物質強化】天刻ヤヒメ
【重力操作】地獄谷ポム
【封印】贄熊ライト
【念殺】灰村ノクス
【時間停止】田中ナツミ
【???】殯リンリ
【無し】鵲シロ
【死に戻り】波彪マキ
(……まとめてみると、やっぱり異常だな……)
単体で見ても十分に強力な魔法なのに、それがこれだけ揃っている。
カンチョーが言っていた、
『魔女因子が大きく検出された』という言葉も、
今なら少しだけ実感できる。
――だけど。
その中で、少し──
ほんの少し、引っかかる存在があった。
シロ。
シロだけが、魔法を持っていない。
彼女自身が、"無い"と、はっきり断言するほどに。
それなのに――
魔女因子は、私たちと同じように検出され、
こうしてここに連れてこられている。
(……)
魔法が無いのに、因子だけが大きい。
それは、普通に考えれば、矛盾している。
将来、とてつもない魔法が発現する――
そういう可能性も、考えられる。
(……でも)
(…………)
私は、その先を考えるのをやめた。
理由は、はっきりしている。
疑い始めたら、きりがないからだ。
シロは、シロだ。
今だって、私のことを止めてくれた。
危ないことをするな、と、真正面から叱ってくれた。
それを、"何かあるかもしれない"なんて理由だけで、
疑うのは――違う気がした。
そう自分に言い聞かせて、私はシロの方を見る。
いつも通りの、柔らかい笑顔。
いつも通りの、少し間の抜けた雰囲気。
(……大丈夫)
私はそう思うことにした。
「──あ、そうだ」
私はふと思い出したように声を上げた。
「みんな、"
そう言って、手のひらを差し出す。
……いや、正確には、手のひらの上に"乗せている"もの。
そこには、銀色の
私には、もう一つ――
自分でもよく分からない、おかしな力があった。
力、と呼ぶほど大層なものなのかは分からない。
ただ、"それ"が出来るようになったのは、たぶん最初に死に戻ったとき。
交通事故で、初めて死んだ、あの日からだ。
私は、
引き金は引けない。安全装置があるのかどうかも分からない。
オートマらしい形をしているのに、撃てない、使えない。
そして、拳銃にはただ、
『10』という数字だけが刻まれている。
友だちに見せても、誰にも見えなかった。触れなかった。
その辺の木に向かって撃とうとしても、
やっぱり引き金は引けず、結局弾丸すら出ない。
そのうち私は、
「拳銃を出せる」という事実そのものを忘れていた。
そんな程度のもの。
手品にもならない、意味不明な代物。
「……これって、手のひら?」
「何や、手相見てほしいん?」
「マキちゃん、生命線とか気にするの?」
「……死に戻りする人の生命線って、どうなん?」
誰にも、見えていない。
「……ごめん、なんでもない」
私は、手を引っ込めた。
やっぱり、誰にも見えていないみたいだ。
魔女因子が強い子なら、何か感じ取るかも、なんて思ったけど――
そんなことも、なかった。
というか、この拳銃……久しぶりに出したな。
何年ぶりだろう。
改めて拳銃を見る。
相変わらず、数字は『10』のままだ。
「じゃあ、これで発表会は終わります!
みんな来てくれてありがとう! お疲れさま!」
アテナの声が、ホールに明るく響いた。
「やっと終わった……やっべ時間切れるバイバイ!」
そう言い残して、ハイジが慌ただしくホールを後にする。
「無事に終わって何よりです……ほっとしましたぁ……」
「っていうか、念のためハイジに全員寿命視てもらえば良かったね」
「あ~確かに! リンリちゃん頭いい~!」
イリスが胸に手を当て、安堵したように息を吐き、
リンリがズバりと率直な感想を述べる。
そして、シロが「お~」と言いたげな、感心した表情でリンリを見ていた。
「あたい、まだ朝ごはん食べてないんだよね~」
「朝食、6時から9時までだよ」
ミサの容赦ない一言が、ヤヒメの胸に突き刺さる。
「……え……」
「ざんね~ん、ヤヒメちゃん、寝坊するからだよ~」
マリーは楽しそうに、いたずらっぽく笑った。
それぞれ勝手なことを言いながら、
みんなは次々とホールを後にしていく。
「……ところで、一番は誰のものですの?
わたくし、ものすごく自信があるのですが!」
ダイヤは自信満々と言った風に髪をなびかせる。
「いや、後半がすごすぎて一番はどうかな……
私の重力操作も、結構自信あったんだけどね」
少し苦笑しながら、ポムが肩をすくめる。
「順位なんて決めだしたらキリがないから止めておきましょう。
それに、"一番"なんて状況次第で変わるものよ♪」
そこに、ライトが、くすっと笑って口を挟む。
「いや、ノクスちゃんの後やなかったらウチかて!
ウチかて……!」
「……別に、競っていたつもりはないわ」
ぐぬぬ、と言いたげに、ナツミがこぶしをぎゅっと握り締める。
それを意に介さず、ノクスは淡々と返す。
(……私も、行くか)
発表会が終わって、
人の気配が少しずつホールから抜けていく。
私は、みんなの後ろをついていくように、
ホールを出て、通路へ足を向けた。
「……ふぅ」
気持ちが、ほんの少しだけ軽くなっていた。
緊張が解けたせいか、それとも――
自分の中の、死に戻りについての事を、吐き出した反動なのか。
(…………でも)
(ほんとに……結局、何なんだろ、
ふと、手の中の拳銃を見る。
誰にも見えず、誰も触れられず、
何の役にも立たない――はずのもの。
拳銃に刻まれた数字は、相変わらず『10』のまま。
発表会が終わった解放感。
深い意味なんて、なかった。
それは、ただの出来心だった。
悪ふざけ、みたいなもの。
私は、何の意味もないはずの、その拳銃を、
自分のこめかみに当てる。
そして──
ただ、何となく
何も考えずに
軽い気持ちのまま
引き金を引いた。
――ばん。
と、
音がした。
そして──
私の世界は終わった。