私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい   作:大体三恵

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ゴーレムは生まれてしまった!

 那蠍(なこち)は鏡を抜けて、異世界の灯台跡地に降り立った。

 

 元々、ここを異世界での橋頭堡にする予定で、ゴーレムのようなランニングコストがかからない警備を兼ねた留守番が欲しかったところである。

 

「ウェヒヒヒ……。超越者さんからもらったこれ……グッドタイミング」

 

 ダンジョンコアを設置したが、灯台付近に動物はいないため、まだ魔物(仮)化した存在は皆無だ。

 那蠍(なこち)は灯台の外にでて、辺りを探ってみる。

 

 灯台の周囲には、以前は小屋があったのだろう。

 建屋は崩れ落ちて、四角い囲いとなっている。周囲には壁に利用されていた石が散らばっている。

 かつて壁だったであろう四角い石を調べる。

 

「灯台と違って、ただ積んだだけだったのかな?」

 

 同時期に作られたであろうに、灯台は比較的無事で、小屋が崩れた原因を推測する。

 灯台は四角柱というより、四角錐。

 鋭いピラミッド型だ。

 壁と壁が寄りかかり、重力を利用した建造となっている。

 対して、小屋はただ四角く枠状に積んだため、長年の風雨には耐えられなかったようだ。

 

「なんにせよ、材料に最適」

 

 那蠍(なこち)は散らばる石のそれぞれに、超越者がわけてくれたゴーレム用の演算装置を仕込んでいく。

 ゴーレムコアは250ミリリットル缶ような形状で、これが破壊されてしまうとゴーレムは機能を停止してしまう。

 

 コアの設置法は二つ。

 

・ゴーレム内部にコアを埋め込む。

 

 ゴーレムの能力がもっとも発揮される。

 部分的に破壊されても、比較的短時間で周囲の非生物を集めて修復される。

 パワーも反応速度も速い。

 しかし、コアを狙われて破壊されれば、そこで機能がすべて停止する。

 

・近くの施設にコアを隠して設置。

 

 こちらは基本性能が下がる。

 部分的に破壊された場合、修復はされるが数日かかるほどゆっくりだ。

 しかし、完全に破壊されても、隠してあるコアが破壊されないかぎり、時間さえあれば修復される。

 活動範囲もコアの周辺数百メートルで、離れるほど反応速度が下がってしまう。

 

 デメリットは多いが、拠点防御としては十分だ。

 魔法や大砲がない異世界ならば、まず破壊される心配はない。

 

「ふひ……。ここは拠点防衛だから、コアは灯台に隠して…………」

 

 那蠍(なこち)は螺旋階段を登り、灯台最上階へ到着した。

 

 かつてはカンテラがおいてあったのだろう。

 中心には台座があり、光を反射する凹レンズ型の腐食した銅板が残っている。

 台座下にゴーレムコアを設置し、コマンドワードを設定してゴーレムを起動させる。

 

 灯台下で、地響きを伴う音が聞こえてきた。

 大きく開かれた窓から顔を出して下を見ると、散らばっていた石が地面を削りながら集まり始めていた。

 一つの山になると、互いに擦れ合いながら積み上がり、人型の形へとなっていく。

 

「ウェヒヒヒ。思ってたのとちょっと違う」

 

 ゲームのゴーレムらしい逞しい巨人型になるかと思ったが、その形は子供が組立式ブロックおもちゃで作り、厚みこそあれど裏表がわからない平面的な形状のものとなった。

 

『新しいしもべですね』

 

 形状など関係ないのだろう。足高は頼もしく思っているようで、歓迎しているような様子だった。

 

「ウェヒヒヒ。そうだね」

 

 那蠍(なこち)としては物足りないのだが、形の問題なので不満は飲み込んだ。

 形状は前もって組み立てておくなど、改善していく必要があると脳内ToDoリストにメモしておいた。

 

「さて、プログラムは……っと」

 

 なんと設定はスマートフォンのアプリで行うようになっている。

 プログラムでも設定できるのだが、残念なことに那蠍(なこち)の技術は学校の授業で行ったパネル型プログラムが限界である。

 

 アプリで設定をする方が確実だ。

 

「初期設定をあまりいじらず、味方の判別と敵の認定条件……」

 

 那蠍(なこち)本人と、角短を始めとして虫のしもべたちを味方として設定。

 あとでダイタム親子たちも設定する。

 

 それ以外は灯台に近づけないことを前提とした動きを最上位。

 灯台に入ろうとする相手は、実力で排除する。

 

 細かいサブルーチンは、破綻ない程度に組み合わせた。

 

 元々、灯台から遠くに離れられないので、基本で行動範囲は狭く設定されている。

 そのため誘き出されるような場合でも、引っかかることはまずない。

 

「ウェヒヒヒ。攻撃パターンは基本でいいや」

 

 他の異世界のように、スキルや魔法を使ってくる相手はこの世界にはまだいない。

 対応する設定はなくて大丈夫だ。

 

 一通り設定を終え、あとは試運転と行きたいところだが、残念ながら近づいてくる人などだれもいない。

 

『誰かを連れてくる?』

 

「ウェヒヒヒ。それもいいけど、まず面倒。遠い」

 

 羽斑が、冷酷な提案をしてきた。

 しかし、那蠍(なこち)はそれを受け入れない。

 倫理的な問題もあるのだが、実際、ここまで人を連れてくるというのは現実的ではない。

 

 近くの街まで10キロメートルは離れている。

 現在は航路でないから、船が通りかかることもない。

 仮に船が来たとしても、三方が断崖絶壁。

 近くの浜辺に小舟で降り立ってもらって、ここまで連れてくるとうのも手間がかかりすぎる。

 

「まあ、おいおい。追随形のゴーレムを作ったら、やってみる」

 

 戦闘の試験運転は後に持ち越した。

 

 + + + + + + + + +

 

 ゴーレムの設置を終えた那蠍(なこち)は、いったん自宅へと戻った。

 

 軽く昼食を終えて、夏休みの宿題に取り掛かる。

 

 異世界の灯台で宿題をすれば、あちらの12時間がこちらの1時間なので高効率だが、気分的に勉強しにくい。

 隙間風のある石造りの部屋で、ろくなテーブルも椅子もないのだ。

 おちつかない。

 

 自宅でじっくり宿題を消化したほうがいい。

 那蠍(なこち)は喫茶店や図書館で、勉強などできないタイプだ。

 異世界の慣れない環境で、宿題ができるわけがない。

 

 というか、普通の人が何もない灯台で、落ち着いて勉強できる人はそれほどいないと思う。

 

 宿題を片付けて、休憩していたところでスマートフォンが通知音を立てた。

 確認してみると、宅配ボックスに荷物が届いたようである。

 

 那蠍(なこち)は素肌にTシャツと短パンだけ身に着け、届いた荷物を取りにいく。

 

 ドアを開けてると、宅配員がまだ隣の部屋の宅配ボックスへ荷物を入れている途中だった。

 那蠍(なこち)と目が合う。

 宅配員の視線が、那蠍(なこち)の無防備な胸元に向かうが無碍なるかな。

 

「あ、ども……」

 

 視線から逃げるように、いったん、那蠍(なこち)は玄関ドアを閉めた。

 

「ウェヒヒヒ……。びっくりした」

 

 ドアスコープから外の確認をして、宅配員が去ってから改めて荷物を取りに出た。

 那蠍(なこち)の部屋は角部屋、置くスペースに融通が利くため宅配ボックスが大き目だ。

 

 しかし、今回入っていた荷物は小さい。

 2リットルのペットボトルが入るくらいの大きさだ。

 

 荷物を回収して、玄関を戸締り。

 

 リビングへ移動してから、まず邪魔な服を脱いでから箱の開封に取り掛かる。

 クッションとなっていた詰め物はムカデがゴミ箱に捨て、箱も3体掛かりで器用に解体し折りたたんでしまう。

 

 配達された箱の内容物は、鈍い光を放つ見事な二挺の大型ナイフ。

 

 刀身は工業製品で量産品だが、鞘と柄などは専門のカスタムメイド業者を施している。

 ハンドル材は異世界の仕様で違和感のないように、滑り止め模様(ジグドボーン)入り牛骨だ。

 

「ウェヒヒヒ……。異世界なんて関係なかったら、まずこんなの買わない」

 

 ナイフを持って笑う裸の少女。怖い。

 

 那蠍(なこち)がナイフを購入した理由は、単純に異世界での作業用である。

 いくら那蠍(なこち)が異常な能力を持っていようと、ナイフの代わりができる能力はない。

 腕ほどの太さがあるムカデを使役し、藪を打ち払うことはできるが、異世界人が目撃したら大問題である。

 

 異世界専用であり、こちらの外で携帯することはないから、銃刀法違反など面倒ごとになることもない。

 銃刀法違反にならない小型ナイフも購入したが、こちらも異世界専用だ。

 

 一緒に購入した腰ベルトに鞘を装着し、異世界でのフィールドワーク用服に着替える。

 

 目立たない色と風合いのフード付きポンチョに、動きやすい袖無しのシャツ、裾の広いトレッキング用のショートパンツだ。

 シャツは胸元が大きく開いている。これは性的なアピール目的ではなく、羽斑が出入りしやすいようにである。

 背中側もざっくり腰まで開いており、ここはムカデの出入り口となっている。

 ゆったりしたシャツのボックスカットの裾を出し、ショートパンツの裾が広いのも、ムカデたちがそこから出入りするためだ。

 

 そこにリュックを背負い、帽子をかぶって那蠍(なこち)は完全装備となる。

 

「ウェヒヒヒ……。結構、重い……」

 

 肉体を強化されている那蠍(なこち)だが、負荷を全く感じないわけではない。

 人並に重さを感じ取れる。

 

「とりあえず、装備がそろったから、異世界の森へ出発、ウェヒヒヒ」

 

 那蠍(なこち)は装備が整うまで先送りしていた深い森へと、鏡を潜った。

 ……そして、すぐに戻ってきた。

 

「靴、忘れた……」

 

 那蠍(なこち)は玄関へと向かい、登山用の靴をシューズボックスから取り出す。

 ちなみに、靴を忘れて鏡をくぐったのは、これで五回目である。

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