私こそ大悪役《ラスボス》にふさわしい   作:大体三恵

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【注意】2026/02/06(金)
「15話 魔女はドロップしてしまった!」と「那蠍(なこち)は陥落してしまった!」の間に、16話としてこの話が入るはずでしたが、書き溜め投稿時に間違えて飛ばしてしまいました。

この話が「16話」となります。


ゴーレムは乗り物になってしまった!

「ウェヒヒヒ。まさかおじいちゃんから教わった技が役に立つなんて」

 

 祖父からも、いまでは役に立たない古流の技と言われていたが、なんと異世界では役に立ってしまった。

 むろん、肉体強化と反射神経強化のおかげもある。

 

「ウェヒヒヒ。まさに芸は身を助ける」

 

 那蠍(なこち)はオタ芸のペンライトを使う振り付けで、(ともえ)与願(よが)施無畏(せむい)(そう)の太刀の型が使えると思って練習していただけだった。

 

 しかし、思った以上にその型は那蠍(なこち)の性格と体型に合致していた。

 異世界の小弓はそれほど質は良くない。

 矢速は現代のアーチェリーなどから比べたらかなり遅かったのも幸いした。

 

 なお、推しのアイドルの前で披露したことはなく、もっぱらモニター前で孤独に披露されていた。

 

 那蠍(なこち)の祖父もまさか孫に教えた古流剣術の型が、オタ芸のペンライト振り付けとなり、しかも異世界で存分に振るわれるとは思わなかっただろう。

 

「あ、大変」

 

 那蠍(なこち)の胸の谷間には、矢が刺さったままである。

 

 胸に挟まった矢を取り出すと、矢の先には強化繊維プラスチック(FRP)製の筒が刺さっていた。

 これは羽斑が、胸の谷間に潜んでいる時の筒で、それが那蠍(なこち)の命を救った。

 

 決して、豊満な胸で挟んで防いだわけではない。

 

「ウェヒヒヒ。防御魔法とか作りたいな。羽斑(まだら)、大丈夫?」

 

『びっくりした……』

 

 羽斑は小さな身体を、ぷるぷると震わせながら那蠍(なこち)の胸の谷間から出てきた。 

 比較的冷静で、かつ無機的な性格の羽斑でも、自分の居場所が矢で貫かれて驚いたようだ。

 

「ウェヒヒヒ。渡したナイフ、なかなかの出費。本当に罰金だ、これ」

 

 那蠍(なこち)は生活に困っていないし、中学生のわりにお金は大分余裕がある。

 しかし、遺産のほとんどは親戚の成年後見人が行っているため、大きな引き出しや買い物は問題視され───。

 

「ないか。なるべくなら、関わりたくないって人だし。わ、私もだけど。ウェヒヒヒ」

 

 社会的に成功しているが……いや、成功しているからこそ、那蠍(なこち)を疎ましく思いつつも世間体を気にしている人だ。

 多少の散財ならば、見て見ぬふりをするだろう。

 那蠍(なこち)はそう判断した。

 

 気を取り直し、那蠍(なこち)はナイフの購入先にメールを送る。

 一本、罰金代わりに渡してしまったため、追加購入の申し込みだ。

 文言は、無難に「とてもいいナイフだったので、友人にもプレゼントします。どうか追加で購入させてください」という内容を丁寧に記したものだ。

 会話は苦手でも、手紙やメールの文面はとてもよく書ける。

 

 テンプレを利用できるから。

 たまにAIをつかって、書いてもらうこともある。

 

 外付け会話補助AIとかあればいいのに、などと夢想する那蠍(なこち)

 

「ウェヒヒヒ。あの森は、森をダンジョンにした中では一番出来が良かったのに……」

 

 那蠍(なこち)の本来の目的は、もっとも成功したフィールドダンジョンの調査であった。

 しかし、残念ながらその途中、森を所有する領主の私兵と遭遇してしまった。

 

 普段、深い森の中心部に侵入することはないのだろうが、さすがに異変に気が付いて領主が派遣したのだろう。

 なお森の名前は多数あって絞れないため、ラドヴィライティス公爵所有の森と呼称するほかない。

 

「大局では予定通り。……だけど、私が介入しにくい」

 

 魔物化した動物たちと、その危険性を認識した国。

 魔物は深い森から出て行かないし、普段は問題ないはずだ。

 しかしリスクを無視して領主や国が本腰になると、一気に駆逐されるかもしれない。

 

「ダンジョンコアがある限り、まだ魔物が発生するからいいけど、一歩進んで一歩下がるの繰り返し……。きっと国も疲弊する……」

 

 討伐側に大きなリターンがあればよいが、そうでないと兵が損耗するだけである。

 かといって、大きなリターンがあっては、ちょくちょく討伐されることになってしまう。

 

「手を出させないようにするか、それとも……」

 

 まだ魔法が普及していない現状では、魔物の死骸を魔法や魔法の道具の素材にするなどできない。

 

「う~~~~ん、どうしようか。ひとまず情報。周囲の確認をしてみよう」

 

 那蠍(なこち)は鏡を操作しながら、ラドヴィライティス所有の森とその周辺を探る。

 森は東京二三区を軽く超える面積を誇り、ラドヴィライティスの六割を占める。

 ラドヴィライティスという領主が住まう町は、それほど発展していない。

 しかし、ラドヴィライティスの居住区は、ほぼ大田区一つが収まるほどの面積だ。

 

 つまり、ラドヴィライティスの家と城と庭とそれらを支える施設は、領地の一割を占める。

 というか、大田区って東京二三区の一割弱もあるんだ、羽田空港のせいか? と那蠍(なこち)は驚いた。

 

「ウェヒヒヒ。さすが大陸。規模がでかい」

 

 短期的には、移動手段の確保。長期的にはインフラの供与などを、視野に入れた方がいいだろうと脳内ToDoリストにメモした。

 

 一応、那蠍(なこち)は自宅を経由すれば、異世界の大部分に移動できるが、それはざっくりとした位置である。

 さきほどの森でも、数所へ出現できるだけだ。

 東京二三区の五か所だけ、と言えばその間の移動距離の長さが理解できるだろう。

 

「ウェヒヒヒ。まさか異世界に自転車を持ち込むわけにも……」

 

 異世界をママチャリで移動する自分の姿を想像し、「ないな」と那蠍(なこち)は候補から削除した。

 

「……ゴーレムを移動用に?」

 

 昨今のファンタジーで、どんな形でもゴーレムとして稼働させられるほど、超越者から貰ったゴーレムコアと演算装置は万能ではない。

 人型から逸脱していくにつれ、パワーも挙動の精密さも欠けていく。

 

 しかし、候補としてはありだ。

 

 搭乗ロボットのようにはできないが、肩や頭に乗るなど可能だろう。

 

「まずは試作してみよう」

 

 夕食前に済ませてしまおうと、那蠍(なこち)は異世界への鏡を潜った。

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