風のあとに   作:卵フラペチーノ

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書いていたらシービーが想定以上に重く?なってしまった...


走らない日々

【ミスターシービー】

 

風は、特に理由もなく吹いていた

だから、私も理由もなく歩いていた

 

どこへ行くとか、何をするとか、決めていない

決めないほうが、性に合う

足が先で、考えは後だ

 

それなのに

 

ふっと、足が止まった

 

自分でも不思議で、少しだけ笑う

止まる理由なんて、探せばいくらでも作れる

風向きとか、音とか、空の色とか

 

——でも今回は、どれも違う

 

前を見ても、後ろを見ても、

いつもと同じ景色しかない

 

なのに、何かが足りない気がした

 

「……あ」

 

声に出したのは、それだけだ

続きを言うほど、私は親切じゃない

 

最近、あいつの話を聞かない

聞かないというより、

話題に上がらない

 

それって、けっこう珍しいことだ。

 

派手にいなくなるなら、分かりやすい

引退します、って宣言して、

拍手があって、区切りがつく

 

でも、そうじゃない。

 

いつの間にか、

走る予定表から名前が消えて、

気づいた人だけが、気づいている

 

——らしいな

 

私は、そういうのが嫌いじゃない

 

止まったまま空を見る

特別な形の雲はない

だから、長居する理由もない

 

歩き出そうとした、その瞬間

 

「ああ、そうか」

 

今度は、ちゃんと分かった

 

あいつは、走らないことを選んだんだ

 

走れないわけじゃない

止められたわけでもない

自分で、ピリオドを打った

 

それなら、いい

 

それなら、私が何か言う必要はない

言葉にしたら、たぶん、面白くなくなる

そう思わないと、歩き続けられない気がしたから

 

少し後ろで、視線を感じた

振り返らなくても、誰だか分かる

 

ルドルフは、そういうところがある

気づくけど、触れない

触れないけど、忘れない

 

私は、

 

――――――――――

【シンボリルドルフ】

(生徒会室)

 

生徒会室の窓から、校内が見える

彼女は、立ち止まっていた

 

ほんの一瞬だ。

足が止まっただけで、姿勢は崩れていない。

迷っているようにも、困っているようにも見えない

 

それでも――

止まった、という事実だけは確かだった

 

理由を考えるのは簡単だ

だが、考えないと決めるのも、同じくらい簡単だった

 

彼女は、振り返らない

こちらを見ない

それでいて、視線には気づいている

 

ああ、と思う

気づくが、応えない

それは、彼女なりの選択だ

 

何かすべきか、思考が浮かびかける

だが、その必要性を見出すより早く、切り捨てた

 

――今ではない

 

私は窓から目を離し、書類に視線を落とす

彼女が歩き出すかどうかは、見届けない

 

止まる瞬間も、歩き出す瞬間も、

彼女のものだからだ

 

生徒会室は、変わらず静かだった

 

――――――――――

【ミスターシービー】

 

私は、手を振らなかった

ーーいや、振る気力がなかっただけなのかもしれない

向こうも、別になにもしてこない

 

自分にはそれで十分だったから

足を動かす

足りない何かを抱えながら、

また、歩く

 

走らない日が増えても、

歩く道はいくらでもある

 

——それに

 

誰かが走り切ったあとに残る風は、

案外、悪くない

 

そう、思い込んだ

 

私はその風に背中を押されて、

何事もなかったように、そう演じて、角を曲がった

演じるのだけは、上手だから

 

立ち止まったことは、

たぶん、誰にも気づかれていない

 

それでいい

 

止まるのは、あまり得意じゃないと、思うから

 

やっぱり今日は、

アタシらしく振る舞う気には、なれなかった

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