元チート転生者のTS珍道中   作:有機栽培茶

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「……よかった。貴方が生きていてくれて」


 崩れた天井から差し込んだ月明かりが、闇を切り裂き彼女を照らす。

 月光に照らし出された黒髪は美しく輝き、影が掛かりながらも光を失わない黄金の瞳からは俺が生きていたことに対する安堵が見てとれた。

 ───おかしい。


「少しの間そこで待っていてください。すぐに片付けます」


 俺は転生者だ。この世界の主人公のはずなんだ。
 なのに、これじゃあまるで────


「貴方は、必ず私が守りますから」


 ───俺がヒロインみたいじゃないか!?




1章 ステナグラード事変
#1 なんかTSした件


 

 荒野に聳え立つ巨塔や、山と見間違えんほどの巨大な船の残骸。この世界がかつて栄華を極めていた証拠はいくつもある。

 

 しかしそんな偉大な文明が存在したのは過去の話だ。

 

 今は前述したような遺物とかつての大戦によって世界に広がった汚染物質が、かろうじてその栄光を今を生きる人々に伝えるのみ。

 

 古の記憶が失われて久しい現在。

 人々はかろうじて汚染から免れた生存可能圏に身を寄せ合い、そして時には奪い合って生きてゆくしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ───なんて、ゲームだったらそんなナレーションが入る程度にはこの世界はクソだ。

 

 前世と比べて飯は格段にまずいし、空気なんて前世の俺が吸ったら卒倒してそのままお陀仏するレベルで酷い。

 

 

『作戦領域まであと10分です。各自準備してください』

 

 

 文字通りの地獄。

 

 環境もひどければ、勿論そこに住む人間だって碌なものじゃないし、人が悪けりゃそいつらが住む国だってそうだ。

 

 よっぽどの金持ちか特権階級じゃなきゃ、こうやって命を賭け金にしたギャンブルに身を投じるしか明日の朝日を拝む方法はない。

 

 

「相変わらず素っ気ねぇ機械音声だよな。どうせならもっと色気たっぷりのねーちゃんに見送って欲しいもんだぜ。アンタもそう思うだろ?」

 

 

 前世の俺が文字通り死ぬほど憧れてた異世界転生ってやつの先がこんな世界だと知ったら、それこそあれほど切るのを渋っていた天国への片道切符をゴミ箱へたたきつけるほどのショックを受けていたことだろう。

 

 なんたって前世の俺は異世界ってものはもっと自然豊かでファンタジー色が強くて中世レベルの文明を想像していたからな。こんな世紀末なんて想像していなかった。夢も希望もあったもんじゃねぇ。

 

 

「え、あ、私は王子様系の方が好きと言いますか……」

「へぇ、悪くない趣味だ。よろしく」

 

 

 だが、そんな異世界でも悪いことばっかってわけじゃない。

 

 

「え、えと、よろしくお願いします……こ、今作戦で後方支援を担当させていただきます、リュミエ・ステラ……です」

「おう。知っていると思うが俺はレイル・バーナードだ。よろしく頼むぜ、『星降り』の」

「あ、えっ、え!?『龍狩り』の英雄様に認知していただけるなんて光栄です!」

 

 

 金、権力、女。

 こうして羅列してみると随分と下品で俗物的な欲望だが、結局これに勝るものはない。

 

 その全てを手に入れた俺が言うのだから間違いない。

 

 

『───ル。レイル・バーナード。聞こえていますか。そろそろ作戦領域です。女性に鼻を伸ばすのもいい加減にしなさい』

「おいおい、警備隊長殿。誤解だぜそれは。俺がそんな男に見えるか?」

 

 

 力が無ければ何も手に入れられずただ垂れ死ぬだけの地獄みたいな世界でも、力さえあれば一転して天国となる。

 

 なにせ力さえあれば全てが手に入るのだから。

 

 

『はぁ……まあいいでしょう。既に知っているとは思いますが、今作戦の目標は採掘チームが叩き起こしてしまった旧文明の遺物です。既に通信の途絶えた現地警部部隊からの画像データから以前討伐した『ISG-03』と同型であると推測されます」

「『ISG-03』っつーとドレイクだろ?あんな雑魚に全滅ってマジかよ。笑えるぜ」

「……当該機体は発掘品にしては状態が良いらしく、出来る限り損壊を出さず鹵獲せよとの事です。また、作戦エリアは未だ未調査な箇所が多く、被害は最小限に、かつ迅速な依頼の遂行を上はお望みです」

「グダグダと注文が多いこった。同情するぜ。上が無理難題しかださねぇ無能で、部下も化け物の餌程度にしかならん雑魚なんてさ。しかもそのせいで俺らみたいな逸れの傭兵(ノーマッド)に頭下げないといけないなんて。俺だったらストレスで禿げちまう」

 

 

 男も女も権力者も、皆が揃いも揃って俺に首を垂れる。

 首を差し出す。全てが俺の思い通りに動くのだ。

 

 これを天国と言わずしてなんと呼ぶのか。

 

 

『……無駄口を叩く余裕があるのなら、仕事ぶりで示してもらいましょうか。魔術師(コード・トーカー)もつけて差し上げたのですから、報酬分以上に働いてもらわねば困ります』

 

 

 ブツリと、通話越しの男の血管が切れるような音と共に通信は途切れた。

 

 

「……あ、あの……今、大型のドレイクって、言ってませんでした……?」

「ん?ああ。言ってたな」

「む、無理無理無理無理!?無理です!!軍隊が対応するレベルですよ!?」

「君の街ではそうだったのか?」

「どの都市でもですよぉ!?アレ一機で都市一つ滅んだ記録もあるんですよ!?ああ……!嵌められたんだ……!囮にされるんだ!」

「あー、違う違う。あのビビりで保身的な警備隊長殿はそんなリスキーなことしねぇよ。わざわざお前っつー保険をつけたのがその証拠だな」

「へ……?ど、どういう……」

 

 

 あいも変わらず無機質で愛想のない機械音声が作戦領域への到達を知らせ、俺たちを運んでいた車体がガタンという衝撃と共に止まる。

 

 ガスマスク越しにみる雄大な山脈は、何処もかしこも灰に塗れ、風情のかけらも無い。前世では当たり前すぎてありがたみなんて感じもしなかった青空は、年単位で見れていない。

 

 本当にクソみたいな世界だ。

 

 

「嬢ちゃんはそこで待ってな。すぐ終わる」

「え、まっ!?」

 

 

 それでいて、最高に自由な世界だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハローステナグラード!

 

 俺の名前はレイル・バーナード。

 所謂『転生者』というやつだ。

 

 この日記を盗み見ている諸君は別に俺の自己紹介なんて微塵も興味ないだろうが……まあこれも礼儀だ。しないわけにもいくまいよ。

 

 と言っても、前世の俺など立ち絵も貰えないモブもいいところ。

 

 美男子でも美少女でも無ければ、悲惨な家庭環境に置かれていたわけでもない。天才でも秀才でも無ければ、極端に頭が悪かったというわけでもない。運動能力こそ悪かったものの、ほぼ全てにおいて平均的で平凡すぎる人間であった。

 

 が、別にそんなことはどうでもいい。俺だって前世のパッとしない自分などダラダラと話したくはない。

 

 

 なにせ重要なのは“今”なのだから。

 

 

 異世界転生といえば『チート』。神が与えし奇跡……!当然、この俺も数ある物語の主人公同様にその贈り物を受け取っているのだから。

 

 さぁ……見てくれ……今の俺を……!

 この完璧に引き締まった肉体を!

 

 太すぎもせず細すぎもせず……!

 まさに芸術作品であると断言できるほどの肉体美。

 そして髪色こそ前世と同じだがその艶、質感は段違い……!

 そして顔!顔面!もーまじイケメン!イケメンの定義は人それぞれだろうが、少なくとも街中でこの顔を見たら「うほっ♡」と呟いてしまうレベルでいい男。男の俺が自分自身に惚れてしまいそうになるレベルのイケメンだ。

 

 まさに神の作りたもうた芸術作品。

 

 古代の人々は男の胸像など作って何が楽しいのかと思っていたが、この体になってようやく理解できた。これこそが芸術なのだと。

 

 しかもそれだけじゃない!

 

 なんとこの筋肉!実用性にも長けている!

 

 生半可な刃物じゃ薄皮一枚傷つけることなんてできないし、銃弾で撃たれたって痣一つできやしない。

 病気だってこの世界に生まれ落ちてこれまで一度もかかったことないし、気化したものを少し吸っただけで即死する言われているような猛毒だって一気飲みし放題な毒耐性だってついている。

 

 万が一があるかもしれないからとガスマスクを被せられていたが、天国への最短ルートこと、この世界の汚染され尽くした大気で深呼吸をしても問題なし。

 

 それに身体能力だって常人の何十倍もある。壁だって駆け上がれるし、ビルの上から落ちても平気。拳で鉄筋をぶち破ることだってできるのだ。

 

 

 まさにチート!!

 

 

 ややこしかったり複雑だったりする特殊能力とかではなく、ただただ肉体が強い。

 初めから完璧な肉体。

 シンプルイズベスト。

 やはり人間、信じるべきは己の体である。

 

 才能がないのか、はたまた別の理由なのか。

 この世界の人々が当たり前に扱うことの出来る魔法こそ使えないが……俺はこの世に生まれ落ちたその瞬間から絶対的強者として完成していたのだ。

 

 

「あんのおっぱいちゃんがよぉ………この俺様が誘ってんだぜ?なのにぃ……妹たちがぁって、早く帰らないとってぇ……あからさまな断り文句じゃねぇか!なめてんのかぁ!?魔術師(コード・トーカー)だからってお高く留まりやがって!ちくしょー!」

 

 

 故に俺はこの身体一つで成り上がることにした。

 スラムのガキから、都市の王者へ。

 

 俺のことを奴隷として売ろうとしたスラムのジジイを始め、二つ名持ち(ネームド)魔法使い(コード・トーカー)や名高い傭兵(ノーマッド)集団、金なんかで俺を飼えると勘違いしたバカに、権力で俺に首輪をつけれると思い上がった愚か者。

 

 俺の邪魔をする奴は悉くその頭部と胴体を泣き別れさせてきた。

 

 気づいた時には皆が皆首を垂れて俺を崇め、求め、祭り上げた。

 

 

「くそがよぉ………ひっく………はぁ……」

 

 

 俺を神の御使として崇めるやべー宗教ができたり、何故かできてたファンクラブが俺の事を敵視していたマフィアの一つ潰したり、知らん間に俺をトップに据えた組織が都市の統治機関である『塔』と並んで二大勢力だなんて呼ばれるに至るレベルでな。

 

 そんな感じで、なんとまあ主人公にふさわしき典型的な俺TUEEEE無双物語を辿ってきたわけだ。

 

 わけ、なんだがなぁ。

 

 なんつーかなぁ……

 

 

「違うんだよなぁ……」

 

 

 陽が落ちきって尚、喧騒の鳴り止まぬ大通り。

 そこから遠く外れた薄暗い路地裏を、俺は1人寂しく酒をお供にブラついていた。

 

 計画性などなく乱雑に組み上げられた都市の構造上、自然と発生してしまった人工の大迷宮。事故だの乱闘だので頻繁に書き換えられる都市の地図さえ頭に入れておけば、こうして1人黄昏たい時にはもってこいの場所だ。

 

 

「俺の想像していた異世界転生とは、違うんだよなぁ……」

 

 

 期待はずれ……ってわけじゃないと思うんだ。

 

 異世界転生。

 あの日夢見たチートで無双異世界生活。

 確かに魔法とかそういうのと比べればパッとしないモノの、立派なチートで俺TUEEEしたわけだ。

 

 金も権力も女も手にした。

 最高だ。

 最高のはずなんだ。

 

 だというのに………ずっと追い続けてきた夢が現実になった時の空虚感というか、努力して追い求めた先に掴んだ理想よりも、それを追い求め、夢見ていたあの頃の方が刺激的で楽しかったというか。

 

 

「なんかなぁ……」

 

 

 胸にぽっかりと穴が空いてしまったかのように、俺はどこか物足りなさを感じずにはいられなかった。

 

 

「暗い顔ですね。お悩み事でしょうか、英雄様」

 

 

 その時だった。

 このような夜道には似合わない鈴の鳴るような美しい声が俺の右耳を擽ったのは。

 

 

「あ゛ぁん?」

 

 

 こんな場所で声をかけてくるのは碌な奴じゃない。俺は警戒しながらも視線をそちらに向け──息を飲んだ。

 

 何せそこにいたのは、この俺の顔面偏差値に匹敵しうるレベルの超絶美少女だったのだから。

 

 絹にように美しい、ほのかに紅の混じった銀髪にきめ細やかな雪色の睫毛。日の落ち切った路地裏であるにも関わらず紅く光り輝く柘榴石のような瞳。それを目立たせる白磁のように真っ白できめ細やかな、触れれば崩れてしまいそうなほど繊細な肌。

 

 この俺が霞んで見えてしまうほどに美しい。

 

 しかし野生味にあふれた俺とは違い、彼女の美しさは同時に背筋が凍る様な恐ろしさを感じさせるものだった。

 

 

「……すこしな」

 

 

 俺の命を狙った殺し屋か、まだ懲りないどっかのバカが女で俺を懐柔しようとよこしたハニートラップか。なんにせよこの少女が、俺にとって良くないものであるということは容易く判断できた。

 

 おっぱいが少々物足りないとは言え、こんな俺の性癖ど真ん中なかわい子ちゃんがこんな怪しげな場所に突然現れるなんてあり得ないのだから。

 

 何らかの幻覚や罠を疑うのは当然だ。

 実際そう言った魔法は聞いたことがあるしな。

 

 だが俺は、彼女の声を聞いてしまった。

 美しく、それでいて熱を感じさせない恐ろしい声を。

 

 

「でも、たった今解決したところだ」

 

 

 気配を感じ取った時点で首を刎ねるべきだった。

 否、今すぐにでも殺すべきだ。

 そんなこと、酒に入った頭でもしっかりと理解していた。

 

 だがな、だけどな。俺は、刺激を求めていたんだ。

 非日常を求めていたんだ。

 

 噛み終わったガムのような人生に、彩を与えてくれるのならと。

 

 エンディングまで走り終わったゲームにDLCや続編を与えてくれるならと、彼女を求めてしまったのだ。

 

 

「それは、喜ばしいことですね」

「ああ、全部君のおかげだ」

 

 

 異世界という非日常はいつのまにか日常と化し、人を殺すという異常も当たり前になってしまった。前世じゃゲームの中でしか見たことのないような化け物に立ち向かうことだってそうだ。

 

 俺の生活から非日常はいつの間にか姿を消していた。

 刺激が、俺を置いてどこかに行ってしまった。

 

 

「だからどうかなお嬢さん?俺と今夜一晩」

「ええ、私でよろしければ」

 

 

 俺はこの自分の背丈の半分もいかない美しい少女が、俺の求めるもの(刺激)を持っていると確信していた。

 

 そんな根拠のない曖昧な希望と自身の力への過剰な過信が、驕りと慢心を生み、そのような決定的に間違った選択を俺に選ばせてしまったのだ。

 

 

「私が、貴方を救って差し上げましょう」

 

 

 彼女の手が動くと同時に俺は踏み込み、その綺麗な顔を傷つけないよう腹部に一突き。

 その後、痛みに悶え苦しむ彼女の手足を切り飛ばし念入りに無力化を行い、傷口を縛り上げて血を止める。

 

 あとはいつも通り、俺の家に持ち帰って楽しむだけだ。

 

 俺は己の手から滴る血液をぬぐい取り、期待外れであったとため息をこぼす。非日常などなかったのだと落胆しながら。

 

 飽きるほど行ったいつものルーティン。

 日常の一部。

 

 

「……あ゛ぁ?」

 

 

 そのはずだ。そうなるはずだったんだ。

 

 

 踏み込もうとした足は動かず、彼女の腹部を狙った拳は空を切り、それどころか視界は横にずれる。

 

 そして、ゴトリ。

 まるで壁が横に動いて、頬に体当たりしてきたかのような衝撃が俺を襲った。

 

 状況を理解することができないまま俺はあたりを見回し………それを目にする。

 

 頬を濡らす赤く緩い水溜りと、そこに立ち尽くす腹から上がなくなった見覚えのある下半身。そんな異様な光景を見てなお、慈愛に満ち溢れた笑みを浮かべる少女。

 

 突如現れた異様な光景に「ああ、なるほど」と。

 俺はようやく理解した。

 

 

「あら、もう寝てしまうのですか?」

 

 

 死だ。

 

 穴の空いたバケツから水が零れ落ちてゆくように、俺の命が失われていく。

 俺の人生が。俺の未来が。なにもかも。

 

 自分という存在が失われていくのがはっきりとわかる。

 かつて前世で死んだ時とは異なり、じわじわと己が体から命が抜け落ちてゆく様を特等席で見せつけられているのだ。

 

 確かに、俺は刺激が欲しかった。

 刺激がないならば死んでいるも同然であると考えたこともあった。

 

 灰色の人生。

 生きる目的すら見失い、ただただ目の前の欲求を満たすだけの意味のない人生を送るくらいなら、と少しでも考えていたことは否定しない。

 

 だが。

 

 だが!

 

 いくらなんでもこれは唐突すぎる!

 それでいてやり過ぎだろう!!

 

 テメェは「あーだるぃ……死にたい」つってるやつが居たら「任せとき!」つって刺し殺すのか!?「あー鬱。学校燃えねぇかな」って言ってるやつが居たら「ガッテン承知の介!」つって放火すんのか!?

 

 しないだろ!?

 

 

「っ………」

 

 

 灰色だった人生が、徐々に色を取り戻していく。

 死ぬ間際だというのに。

 

 否、違う。

 

 初めから世界は鮮やかだったんだ。

 俺が見ようとしていなかっただけ。

 

 噛み終わったガムなどではない。

 この世界はまだ未知に溢れている。

 まだ俺がすべきことは残っている。

 俺ができることはまだ残っている。

 

 だって、そうじゃないか。

 

 俺はまだ何もなし得ていない。

 何も残せていない。

 

 俺はもっとなにか、できたはずなんだ。

 

 俺は。

 

 こんな力をもらって、だというのにただ暴れ遊び、勝手に飽きて……。

 

 

 これで、終わり?

 

 

 こんなところで?

 こんな、薄汚れ光も刺さない路地裏で?

 

 

 ふざけるな。

 

 いやだいやだいやだ!

 

 俺は!まだ!もっと生きて────

 

 

「おやすみなさい。いい夢を」

 

 

 暗幕に覆われるように暗くなりゆく視界の中、天使は最後まで笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、俺は二度目の生を終えたはずだったんだ。

 その、はずだったのに。

 

 

「なに、これ……!?」

 

 

 水溜りに映る圧倒的黒髪美少女の姿。

 しかし着ている服は血が滲み汚れているが、間違いなく俺が死ぬ前に来ていたジャケットそのもの。実際俺の腹があったあたりから下の布が、鋭い刃物で切り取られた様に無くなっていた。

 

 そしてその少女は俺が行う動作をそのまま、コンマ1秒のずれもなく真似してみせる。

 

 生きていたことへの安堵。

 性別が変わっていることへの驚き。

 ジャケットで覆われた下半身の無防備さへの不安。

 

 そのどれよりも先に、理解し難い現実が無常にも俺の思考を飲み込む。

 

 情報の濁流。俺の脳内CPUは大量のエラーを吐き出してその機能を停止した。




【レイル・バーナード】
『都市』において絶対的な王者として君臨していた傭兵(ノーマッド)
十二年前都市を襲撃した巨龍『ノーリ』を単独撃破し、『龍狩りの英雄』として名を馳せる。
この都市で唯一、現統治機関である『塔』の支配を受けない個人であり、彼の庇護下にある下層市民からは憧れを超え崇拝の対象とされている。
しかし知名度と共に黒い噂というものは集まるもので、ゴシップ紙は常に彼の名で溢れていた。

『ようやく見つけました』
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