元チート転生者のTS珍道中   作:有機栽培茶

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#21 夜明け

 

「……撤退よ」

 

 

 塔が崩れ落ち、都市は燃え続ける。

 権力の象徴が崩れ落ちる。

 塔主の支配体制もまた、完全に崩壊することとなった。レジスタンスの部隊とそのリーダー。そして塔主自らを道連れに。

 

 難攻不落の城塞都市ステナグラードの旗は、他ならぬ人類自身に手によって焼け落ちることとなるのだった。

 

 

「勝負は私たちの負けよ。すぐに此処から撤退する」

「はぁ!?大将はどーすんだよ!?」

「見たでしょ!?兄貴は死んだの!」

「だ、だけどよ!?まだ生きてるかもしれねぇ!」

「そうだ!助けにいかねぇと!」

「見捨てるってのか!?俺は嫌だね!」

 

「私だって嫌よ!あんなのでも……唯一の肉親だもの」

 

 

 都市は完全に混乱に包まれていた。

 突如都市を襲った第三勢力、橘重工。

 都市内の抗争で疲弊し……そもそもレイル・バーナードという抑止力により長年外界からの干渉を受けなかったステナグラードに抵抗する術はない。

 

 俺たちは蹂躙される街をただ眺めることしかできなかった。

 

 

「でも、アイツが死んだ今。私がみんなのリーダーよ。だから、私はリーダーとしてアンタたちを逃さなきゃ────」

「……ざけんなよ」

 

 

 乾いた破裂音が辺りに響いた。

 

 

「え………?」

 

 

 少女の脇腹に赤が滲みだす。

 ソレは彼女の髪色と同じか、それ以上に色鮮やかで美しかった。

 

 

「ジャスパーさんの言ったとおりだった!」

「なん、で………」

「黙れ裏切り者!テメェが橘重工の奴らを手引きしたんだ!」

「ち、ちが」

「あの人は言っていた!こいつが橘の連中と隠れて話してるのを見たって!こいつだ!全部、全部全部こいつの────」

 

 

 おそらくジャスパーに何か仕込まれていたのだろう。半狂乱となり、仲間であったはずの男は妄言を喚き散らかすだけの狂信者となり果てた。

 

 だが彼の声がそれ以上続くことはなく、そこには雪上に描かれた真っ赤な花弁だけが残された。

 

 

「シア……!」

「大丈夫ですか、レティシア」

「っ……だい、じょうぶよ」

 

 

 染み出した赤は止まる事なく広がり続ける。

 少女はそれを、炎で身を焼き堰き止めた。

 

 

「っ………はぁ、はぁ………!」

「だ、だめ………!動かないで!」

「無理はしないでください。今は身を隠し安静にするべきです。あなたに死なれては困る」

「問題ないわ。それに、休んでる時間なんてないもの」

 

 

 少女は額に脂汗を浮かべながらも、己の使命を果たすため立ち上がる。

 

 自分はレティシア・ランフォード。

 解放戦線指導者、ジャスパー・ランフォードの妹にして塔の真なる支配者ランフォード家の血を引く者。たとえ実の兄が……唯一の肉親が自らを裏切っていたとしても、その使命を放棄するわけにはいかない。

 

 死んでいった仲間たちのために。

 守れなかった偽りにして真なる家族たちのために。

 

 そして、今を生きる妹のために。

 

 

「聞いて」

 

 

 彼女の声はよく響いた。

 

 

「私たちは今から撤退する。向かうは都市の外。果てしない荒野のその先へ」

 

 

 彼女の声を聴き、人々は不安げに互いの顔を見つめあう。

 

 果てしない荒野。

 

 都市を捨て、その身一つで荒野へ足を踏み入れるというのは一般的に死を意味することだ。北方と比べ、南方は壁に遮られ安全ではある。だが体を犯し穢す汚染物質や、人を食らう歪んだいびつな魔獣が闊歩する魔境であることには変わりない。

 

 それ故に人々は都市に残り続け、日の届かぬ地下深くに身を隠し続けたのだ。

 

 

「私たちが生き残るにはそれしか道はない。都市に残っても、生き残れない。荒野を超えて、新しい都市を見つける。私たちの楽園を見つける。それしか、道はない」

 

 

 少女は語る。

 もう死んでほしくないから。

 誰かが死ぬのを見たくなかったから。

 

 

「だから………お願い。ついてきて。私を、信じ、て………」

 

 

 そこまでだった。

 彼女はふらりと身を揺らし、気を失う。

 だがその身が積もり、重なった雪に跡を残すことはなかった。

 

 

「……俺は、ついていく」

「グラヅェフ………」

「コウィンが言ったことが事実かどうかは知らねぇが、だったらどうするってんだ。ここでシアちゃんを殺して死人に泣きつくか?あいつの死体を探し出して助けてくださいって祈りでも捧げるのか」

「だ、だが」

「策略だとか血筋だとか、俺はどうでもいい。生き残るため、それだけのためについてきたんだ。これからだってそれは変わらねぇ。だから俺はついていく。バカな俺が生き残れるように道を示してくれる奴についていく。都市の外だろうがどこにだってな」

 

 

 死体は道を示してくれねぇだろ。

 彼はそう笑い、気を失ったレティシアを抱き上げた。

 

 

「お、俺も………俺もついていく」

「俺も丁度都市の外を見たくなったところだしな」

「シアちゃん一人でそんな危ないとこ行かせるわけにはいかないものねぇ」

 

 

 次々とシアの周りに人が集まってゆく。

 彼女はずいぶんと人望があったらしい。その場にいたほぼすべての人が彼女についていく選択をした。

 

 羨ましい。

 正直、そう思った。

 自分を信じ、ついてきてくれる。

 そして共に戦ってくれる。

 

 そんな対等な関係は、俺には必要なかったから。

 皆俺を求めるだけで、助けてくれることなんてなかった。

 

 だってすべて俺だけで解決できてしまったから。

 俺と俺以外の存在には、超えることのできない壁が存在していたんだ。

 

 唯一の親友との間にだって、それは存在した。

 だから、どうあがいたって俺は一人だった。

 

 でも、今は………

 

 

「レイ」

「………アルマ」

「今は、私がいます」

 

「………何様?」

「ひどい!?」

「私たちも、いこう」

 

 

 人々は走り出す。

 燃え盛り崩れ落ちる己が故郷を横目に都市の外を目指して。

 

 すべてを失ったとしても、生きてさえいれば次がある。そう信じ人々は目じりに涙を浮かべながらも走り続けた。

 

 だが、そう上手く事が進むはずがない。

 爆撃に巻き込まれ、戦闘ヘリにハチの巣にされ、暴徒と化した人々に殴り殺され。

 

 

「逃がさん……逃がさんぞドブネズミ共………!」

 

 

 ついに警備部隊の残党に囲まれた俺たちは都市の外の光景を拝む前に全滅の危機に瀕していた。

 

 すでに10を超える仲間が犠牲となった。

 生き残った者だって、互いに支え合って何とか立っているような状態だ。

 

 

「貴様らだ。貴様らのせいで、全てが台無しだ!」

 

 

 煤と返り血に塗れた第二隊長は激昂する。

 

 絶体絶命のピンチだ。

 何度目だろう、俺はTSして以来ずっと命の危機にさらされ続けてきた。ほんとうに散々な毎日だった。生きるのに必死で、食べる飯だってゲロまずで、睡眠だってあんなぼろっちぃ布団じゃまともにとれるはずがない。以前までの酒池肉林な毎日とは比べるまでもなく悲惨。

 

 それでいて、比べるまでもなく楽しかった。

 

 

「戦おう」

「嬢ちゃんは逃げていいんだぜ?」

「シアは、おいていけない。それに……逃がしてくれそうにない」

「それもそうだな」

「………グラヅェフも、逃げていい」

「はっ!『隊長』が逃げるわけにゃいかねぇだろ」

「ふふ……節穴隊長」

「そりゃおめぇ!埃被ったラブドールが動き出すなんてだれも思わねぇだろ!?」

「そもそもラブドールじゃないんですけど」

「旧文明の遺物、動いても、不思議じゃない」

「だがまさかラブドールがなぁ………」

「先に貴方から死にますか?」

 

 

 楽しかったんだ。

 何もかもが足りないのに俺の心は満ち足りていた。

 

 満足だ。

 だがここで終わる気はさらさらない。

 

 みんなで生き残るんだ。

 シアとアルマと、此処にいるみんなで都市を出るんだ。

 

 だから、戦うんだ。

 

 

「………私も、戦うわよ」

「シア!?」

「嬢ちゃん!?だめだ、安静にしてろ!」

「私はリーダーよ。肝心なところで寝てるわけにはいかないわよ!」

 

 

 焔が灯る。

 燃え盛る都市の中、塔とレジスタンス。

 その最後の決戦が行われようとしていた。

 

 

「………っ!?」

 

 

 そこに、異物が混ざる。

 

 

「なに、これ………!?」

 

 

 鳥肌が立つ。

 俺は、否。俺の体はそれを本能的に拒絶していた。

 

 

「おい、どうし────あれは?」

「お前、生きていたのか!」

「おーい≪傭兵≫!こっちだ!」

 

 

 真っ黒な装束に身を包んだ男か女かもわからないそのモノは、俺達が対峙する場所へとゆっくり歩みを進める。仲間がソレの名前を呼ぶも、俺には聞こえない。聞こえているのに、理解ができない。

 

 ソレは俺も知っている姿だった。

 第三隊長を打ち倒し、共に奈落で宝探しをした仲間。

 

 だが違う。

 あれは、違う。

 

 

「レジスタンスの仲間か!?わらわらと鼠のように次々と………!殺せ!すべて!敵は全て抹殺せよ!」

 

 

 あれは────

 

 

「伏せて………!」

 

 

 瞬間、全てが両断された。

 放たれた銃弾も、警備部隊も怒りに満ちた第二隊長も、レジスタンスの………俺の仲間たちも。

 

 

「あ……」

 

 

 あたり一面に血の雨が降りしきる。

 俺とアルマ、そして瀕死のシア以外のすべてが死んだ。

 

 

「あ、あああ……」

 

 

 これまでの楽しかった日々を過ごした仲間たちはもういない。

 共に戦い、肩を並べた戦友も死んでしまった。

 

 一瞬でも夢に見た、都市の外でみんなで生きていくという夢物語は打ち砕かれた。

 

 

「あああああああああああ!」

 

 

 絶望だ。

 絶望しかない。

 

 希望も仲間もすべて失った。

 俺も、シアもアルマも殺される。

 

 

 俺は頭を抱え、うずくまり………声が響く。

 弱ったところに、魔女は漬け込むものだ。

 

 

────救いが必要ですか?

 

 

「っ、あ」

 

 

 そうだ。

 俺には救いが必要だ。

 脳内に響くその声がたとえ魔女のモノであろうと。

 

 対価として、俺のすべてが奪われることになるとも。

 

 

「た、たす………」

 

 

 声に縋ろうと手を伸ばす。

 俺はもうこれ以上仲間を、友達を失いたくなかったから。

 

 

「だめよ」

 

 

 だがその言葉が続くことはなかった。

 

 

「それは、だめよ」

 

 

 レティシアは俺の手をつかみ、首を振る。

 

 

「で、でも」

「私はリーダーよ。リーダーは、部下を守るものなの。部下を犠牲にしてまで掴み取る勝利に意味はないわ」

 

 

 彼女は剣を構え、ソレに立ち向かう。

 

 

「あとは任せたわよ。今度はちゃんと警備し(守り)なさいよね」

「………貴様に言われずとも」

 

 

 そしてアルマは彼女とは逆方向に走り出す。

 あまりに軽すぎる、役立たずの私を抱きしめて。

 

 

「ダメ!まって!」

「………」

【離せ!】【離して!】【離して、よ………!】

「ダメです」

 

 

 焔は一際輝き、そして消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜が明ける。

 

 

「………アルマ」

「はい」

 

 

 荒野を駆ける車両は一両のみ。

 銀の雪原の中、それは眩く光り輝く。

 

 

「アルマは、おいてかないで」

「はい」

「ずっとそばにいて」

「はい」

「………抱きしめて」

「……はい」

 

 

 その日は珍しく雲一つない晴天で、山脈より顔を出す太陽は涙が出るほど美しかった。

 

 

 

 

 

 

第一章【ステナグラード事変】 終




第一章はこれにて終了です。
コメントや評価、閲覧にお気に入りなど大変励みになりました。

おまけを数話投稿後、第二章を準備するため少し間隔を開けさせていただきます。またその間一章を読みやすくするため少々書き直すかもしれませんが、話の内容はそこまで変更しない予定なので気にしないでください。


【挿絵表示】

Twitterで絵も描いてるのでよかったら見ていってください。

では、また更新が再開された際はよろしくお願いします。
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