おかげさまで色がつきました。初めての一次創作であります故、これからものほほんと暇潰し程度に読んでくださると幸いです。
「腕は立つようだが人格に難ありか」
「ソフロン・チェレニコフ!!」
「まあいい。教育のやり甲斐があるというものだ」
ハローステナグラード!
俺は英雄レイル・バーナードの成れの果て!
唐突だが助けてくれ!マジで!
「ひ、ひぅ!?」
シアちゃんと第六隊長。
互いの武器がぶつかり合うたびに飛び散る火花と、どうやら魔道具だったらしい奴の
それらが飛び交うあまりに危険すぎる戦場の中。
俺はただ其処らへんにあったゴミ箱の陰に隠れて怯え縮こまることしかできなかった。
「し、死ぬ!死んじゃう………!」
戦況は圧倒的不利!
勿論こっち側が!
ドクズといえど都市の守護を担う組織の隊長格。
ちょっと戦いなれただけのただの女の子が正面から戦って勝てる道理はない。
「と、【止まれ】………!」
「ふん。今更そんな未熟な魔法、私には通じん!」
そして当然の如く私の魔法が通じない!
ざっけんなや。
俺は転生者、この世界の主人公だぞ!?
強くてニューゲームさせろや!?
明らかに難易度調整ミスってんだろ!?
こんな序盤の中ボスにここまで追い詰められなきゃいけないんだ!
……なんて、顔も声も知らない神様とやらにブチギレたい所だがそんなことしたって事態が好転しない事は分かりきっている。
「う、撃たれた!?撃たれた撃たれた!死ぬ!?」
「当たってない!下がってなさい!」
「わ、わかった………!」
奴と正面切ってやりあっても勝ち目がないことくらい、初めからわかりきっていた。だからこそこの俺を囮に使ってまで不意打ちを実行したのだ。
それが通じなかった以上、ヤケクソになって正面から突っ込むなど愚の骨頂。バカのすることだ。
何のための作戦だったって話になっちまうからな。
だがシアの馬鹿野郎。突っ込みやがった。
俺は撤退しよっていったのに!
何が『奴を倒すには今しかない!』だ!
他に幾らでもやりようはあっただろう!
少なくてもこんな愚策よりもいい手はあったはずだ!
とはいえ彼女の暴走を予想できていなかったわけじゃない。
彼女は第六隊長にただならぬ因縁を抱えている様子だった。彼女が血が上ると感情的になって人の話を聞かなくなってしまうような人間だってこともこれまでの仕事で知っていた。
「っらぁ!」
「人を蹴ってはいけませんと習わなかったのか!?」
「ムカつくやつの玉は蹴り上げろって習ったわよ!」
「野生児め………!」
そしてそんな彼女の性質を知っていながら無策でいるほど俺は馬鹿じゃない。故に挽回のための切り札は用意してある。
確実に勝てる保証もないくせに俺と彼女の命を危険にさらすやべー切り札を。
うん、わかってる。
こんなの切り札じゃねぇ、ギャンブルだ。
自分を含む二人の命を賭けるくせに勝てる確率は大体五、六割程度。パチンカスでもこんな酷い切り札は使わねぇ。
だが仕方がねぇんだ。
この作戦は未だ全容がつかめていない俺の魔法を使用したモノ。しかも事前に彼女に伝えた場合使用できなくなる可能性があるときた。その都合上練習もできねぇクソ仕様。
「……ふん、ドブネズミにしては悪くない」
「随分と余裕ね………!」
「だがいささか物足りないな」
「はぁ!?」
こんなモノ使うくらいなら、奴がシアちゃんに釘付けになっている今のうちに逃げ出してしまいたいのだがそうもいかない。
彼女を死なせるわけにはいかないのだ。
少なくとも俺との仕事中は。
情が沸いただとかそういう話ではない。
俺が生き残るためだ。
俺が生きるための居場所と食料を失わないためだ。
彼女はこれでも解放戦線の幹部。
バカでもガキでも幹部は幹部。
それも、解放戦線の一般モブらしき小汚いおっさんに聞いたところ組織全体で可愛がられているマスコット的な枠ときた。
つまり、見殺しにしたら俺が連中に殺されかねないってわけだ。少なくとも今までみたいにご飯分けてもらったり住むところ提供してもらったりはできなくなるだろう。
そうなったら自動的に飢え死にor凍死コース。
つまり俺は彼女を生かしたうえで生き残らなきゃいけないわけだ。
………ムリゲーでは?
「インパクトに欠けると言うのだ。確かに外見は良いが……それまでだ。現時点での貴様の価値は低い。たとえこの私が直々に教育したとしても、な。平凡なのだよ、貴様は」
そして頭の痛いことに注意事項はもう一つある。
それは彼女自身の切り札を今切らせてはならないということだ。
くそ雑魚TSロリっ娘の俺にだってあるのだから、彼女だって切り札の一枚や二枚持っている。
彼女の切り札、それは彼女の保有する魔導具。
鉄をも溶かし得る高温の炎を剣の形に形成する。
ソレに断ち切れぬモノは無く、強力無比にして最強。少なくとも彼女自身はそう思っているらしい。
それなりにいろんな魔導具を見てきた俺からしたらおもちゃ同然なんだが……。
だが大いなる力(笑)には代償が生じるものらしい。それは高い魔力負荷による魔力汚染の加速、そして使用時に生じる熱が使用者をも燃やし尽くすこと。
彼女の魔力耐性や体力などからして、もって3分。
それ以上は解放戦線の抱える回復魔法の使い手では治せないケガを負うどころか命を落としかねない。
「………そう、だったら見せてあげる。私の本気を」
しかもこれまでの戦闘を見た様子、彼女が切り札を切ったところで第六隊長に勝てるとは思えない。
剣をちょっと炙っただけであの実力差をひっくり返せるわけがない。3分間適当にあしらわれて燃え尽きるのがオチだ。
つまり、いま彼女が切り札を使うことはそのまま敗北に直結するということ。故に彼女が焦ってそれを使用する前に他の方法を───………は?今なんつった?
「悉くを燃やし尽くせ、“紅蓮”!!」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
やりやがった!!!あのバカ!!
使いやがった!!
「……なるほど。派手ではあるな」
シアちゃんが握る刀から焔が溢れ出る。
彼女の切り札、魔導具『紅蓮』。
切られたものは死ぬ。
掠ったやつも死ぬ。
近くにいるやつは熱中症で死ぬ。
そして使ったやつも3分後には焼けて死ぬ。
「だが所詮は虚仮脅しだろう?」
「ならば自らの身体で確かめてみろ!」
そうだよコケ脅しだよ!
見た目が派手なだけ!当たらなければどうということはないの典型!技量からして負けているのにパワーだけ上げても意味はないんだよ!素早さをあげろ素早さを!
はい、3分タイマースタート。
ここから3分以内に彼女を勝利へと導くか、アツくなって人の話聞かない状態の彼女を説得して魔導具の使用をやめさせましょう。
くそゲーがよぉ!!!無理だわ!!!
本当になんで勝手に使いやがった!
明らか使う場面じゃなかっただろ!
使っても勝てる実力差じゃねぇだろ!
自分の能力把握しろ!
何焦ってんだよ!
あ、俺が切り札あるって伝えてないからか。
ん〜〜圧倒的コミュニケーション不足!!!!!!
くそが!!!
「あわ………あわわ……」
最悪はこのまま適当にいなされて彼女が燃え尽きること。次に最悪なのは体が欠損するレベルの負傷を負った状態で制圧されること。
だからぶっちゃけ彼女の体が無事であれば負けてもらって構わない。
むしろ負けろ。
自滅して焦げカスになるよりはましだ。
お前がどうなろうがどうでも良いが、お前の体だけは必要なんだ。
少しでも私の役に立て。
「ドブネズミが使う杜撰なコードなど、たかが知れて───熱!?アッツ!?」
「燃え尽きろ!!!」
良い感じに致命的な傷を負うことなく第六隊長のスタンバトンで気を失う程度に負けてくれれば──……………あれ?存外行けそう……?
いやいや、そのまま勝っちゃ俺の切り札使う場面が……いや別に切らないに越したことはねぇな?
「き、貴様ァ!よくもこの私を炙って──熱い熱い熱い!?」
「私達の怒り!身をもって味わえ!!」
行けるか!?
行けるのか!?
ちょっと剣燃やしただけで行けるのか!?
くそ!行けるならいけ!やっちまえ!もっと熱くなれよ!そのまま燃やし尽くせ!!
やっちゃえレティシア・ランフォード!!!
「その命を持って己が罪を償うが良い!!」
「ま、まて。やめ───」
燃え盛る断罪の剣は第六隊長ソフロン・チェレニコフを捉え、その身体を頭頂から股下まで一息で切り裂いた。
左右に切り分けられた彼の体は燃え盛り───
──そして、霧のように掻き消えた。
「残念」
「かっ……ぁ!?」
そのように見えていたのだろう。
俺目線でのシアちゃんは何もない虚空を決め台詞を吐きながら切り裂き、そしてまるで夢から覚めたかのような驚愕の表情を浮かべ呆然と立ち尽くしていた。
当然そんな明確な隙を見逃すほど奴は甘くない。スタンバトンの電撃は光り輝きながらも彼女を貫き、その体の自由を奪う。
何ともあっけなく、不自然に感じる幕引きであった。
「悪くはなかったが当たらなければどうということはない」
彼女は地に臥し、勝者たる第六隊長は傷一つ無く佇んでいた。勝敗は明確だ。
「しかし貴様のコード、見覚えがあるな」
「………!」
「ああ、思い出したぞ。”レティシアお姉ちゃん”か」
彼は這いつくばる彼女を見下し嘲笑う。
「ソフ、ロン……チェレニコフ……!!」
「全く、あのドブネズミ共はとんだ不良品だったぞ?最期までお姉ちゃんお姉ちゃんと泣き喚いて………教育がなっていないんじゃないか?」
「おま、えぇぇぇぇぇぇ!!!!」
決着はついた。
「だが安心しろ。同じ失敗はせん。貴様は立派な奴隷になれるように、この私が直々に教育を施してやるのだからな」
───少なくとも奴はそう考えたのだろう。
その背中は隙だらけであった
「悪趣味、だね」
「っ!?貴様、いつの間に!?」
それを黙って見逃す程俺は甘くない。
彼がシアに釘付けになっていた間に懐へ潜り込んだ俺はシアちゃんのものか第六隊長のものか、落ちていた拳銃を拾い上げ、その引き金を躊躇いなく引く。これだけ近ければいくら貧弱で狙いの定まらない俺でも問題はない。
狙いは勿論、第六隊長───では、ない。
「なんだ!?水蒸気!?」
奴を撃ったとしても、ヘッドショットを決めなければ反撃を喰らうだけ。故に銃弾が穿ったのは彼の直上に存在するガス管。
そこから噴き出た高温の水蒸気は彼の視界を奪い大きな隙を生み出した。
「不意打ちとは……なんと言う卑劣!」
「じゃ、さよなら………!」
「貴様逃げる気か!?」
よくやったソフロン・チェレニコフ!
お前がうまいことシアちゃんを鎮圧してくれたおかげで挽回できる!
賭けではあった。
シアちゃんが暴走することも想定していた。
魔導具を使うことも最悪の事態として想定していた。
それ故にシアちゃんに
だが手にすることのできる位置に拳銃が落ちていたのも、見覚えのある種類のガス管があったのも、ソレが本当に予想した通り水蒸気を運ぶためのもので、しかも今も稼働している物だったのも。
全部が全部偶然。
最悪を想定し、それを挽回するための大まかな道筋は考えていながらも細部はすべてぶっつけ本番の賭け塗れ。旨い事ピースが合わさり、俺の思い描く最悪からの最善の挽回方法を辿ることができただけ。
だが、勝った。
賭けに勝ったのだ。
「っあ………!おっも………!」
「う……ぐっ………」
第六隊長は相手の感覚を狂わす『幻覚』の固有魔法を保持している。これは俺がTS以前より把握していた情報だ。
初見殺しにはもってこいの魔法。
しかし種が割れて仕舞えば対処も容易。故に伝えなかった。伝えて仕舞えば魔法は通じなくなり、決め手を失った第六隊長はシアちゃんが燃え尽きるまで逃げに徹する可能性があったからだ。
あとこの情報、隊長格の個人情報ってことで秘匿されてる奴だから『何でお前そんなの知ってるわけ?さてはスパイか?』って疑われるのを避けたかったって理由もある。
よくよく考えたら悪手も良いところで最悪戦犯になりかねないところだったが……ま、まあその結果良い方向に働いてくれたのだから文句を言われる筋合いはない!
「ふ、ふふ………」
「……れ、レイちゃん……?」
シアちゃんは何とか回収できた。
まだ意識はあるが問題ない。
武器も落としてしまったが問題ない。魔導具は剣ではなく彼女の首にかかっているネックレスのほうだ。そして魔導具はそこら辺のパイプでもなんでも柄として使えるものがあれば起動可能。武器はある。
条件はそろった。
切り札を切る条件は。
ソフロン・チェレニコフを正面から打ち倒すための条件はそろったのだ。
【魔法】
正式名称をコード。
『フラメル粒子』と呼ばれる大気中の汚染物質を使用し奇跡を起こす旧文明の技術。術式を専用の塗料や道具を用いて道具や壁面などに刻み込み、そこに人が『フラメル粒子』を取り込むことで生み出されるエネルギーを流し込むことで発動させる方法が一般的に知れ渡っている。
しかし稀にそう言った術式や道具を使用せずとも魔法が使える者も存在する。彼らの使用する魔法は再現が難しく『祝福』や『固有魔法』と呼称し特別視されている。
また基本的に魔法は術式にエネルギーを通すことで発動すると考えられているが、固有魔法の使用者の体にはそういったものは見られない。それ故に『魂に術式が刻まれているのだ』などと突拍子もない説を唱える学者も存在する。
しかし実際に、魔力汚染によって後天的に身体的特徴が大きく変化した者でも使用する固有魔法は変化前と同様のものであったり、同様の身体変化で固有魔法を発現するものがいなかったりと、その説を支える実験結果は多く存在し魂とまではいかずとも『肉体に由来するものではないのではないか』という考えは多くの学者が支持している。