「リュミエール。リューちゃんって呼んでよねー」
猫のような雰囲気を纏い、人を小馬鹿にしたように笑う少女はギャルピとともに自己紹介を行った。それに続く言葉はなく、おそらく俺の返答を待っていうのだろうと察す。
「………レイ」
「レイっちねー。マジで人形みたいで……なにさシアっち。邪魔しないでくれるー?」
「妹に不審者を近づけるわけにはいかない」
橘重工。
先ほどシアちゃんは彼女を見てそう言っていた。
その名前は俺も知っている。都市外組織の一つだ。
巨大な移動型都市を拠点とする大企業。
多くの企業が集まり組織された『企業連』一角。
その規模は国と呼べるほどだと言う。
ただ彼らとステナグラードはそこまで大きな関わりはなかったはず。精々発掘された遺物を『企業連』を通して買い取ってもらっていた程度。
なぜそんな企業の人間がここに、それもこのタイミングでいるのか。怪しさの塊しかない。
「そもそも、捕虜のくせになんで自由に出歩いてるのよ」
「表向きは、だけどねー。てか調子乗らないでくれる?あくまでアタシはあんた等との取引で捕まってあげてるだけだから。あんた等なんてアタシにかかれば一瞬でケチョンケチョンにできるんだからさぁ」
そう言って彼女は片腕だけに付けた破損した手錠をジャラリと揺らして見せる。
「取引……?」
「そ。ウチらもさー、今までの塔の連中には思うところがあったわけ。全然取引してくれないし、そのくせ金だけは搾り取って。だからあんた等に手を貸そうって話になったわけ。現政府側の支援と偽って武器密輸して~その情報をあんた等にわざと漏らして~あったまいいよねー。まあ、そういう計画だったとはいえ
なるほど。確かにそれなら納得できるな。
だが───
「それ、嘘」
「………へぇ?」
「あなたたちが欲しいのは……戦争そのもの」
「ふーん?なるほどね。それがあんたコードってわけ」
「違う」
「いやさすがに私でも魔法なしでわかるわよ」
「あれぇ?」
それこそ彼女たち企業の目的。
「アタシらはこの戦争が長続きしてほしいわけ。あんた等ができるだけ長く、大規模にやりやってくれればその分ウチらの利益は増える。あんた等は武器を手に入れて、アタシらはお金を手に入れる。Win‐Winよね~」
「……戦争屋め」
「勘違いしないでほしいんですけどー?戦争を始めたのはあんた等。アタシたちは手を貸しただけよ」
死の商人ってやつだな。
かわいい顔してえげつねぇこと言いやがる。とはいえ彼女を攻めることはできない。物資も人員も不足している解放戦線にとって彼女たち橘重工からの支援物資は必要不可欠。
それに、この戦争の火種となってしまった俺に彼女を非難する資格はない。
「と、いうわけでぇ~。あんた等なんか買ってかなぁ~い?」
「はぁ!?捕虜の分際で金取るわけ!?」
「はぁ~!?捕虜が商売しちゃダメっていう法律でもあるんですかぁ!?」
「商人魂……強かすぎる……」
そう喚きながら身に着けていたポシェットから次々と商品と思わしき物を取り出してゆく。次々と吐き出されてゆくそれらはやがて小さな山を作り出すに至るほど。
ポシェットの大きさに対して吐き出された物品の数が見合わない。それに違和感を抱きポシェットをよくよく見てみれば、表面の模様に見えるそれが術式を表す文字列であると気づく。
某四次元ポケットや異世界転生御用達のアイテムボックス。そういった類の魔導具だろう。
「寄ってらっしゃいみてらっしゃい!期間限定リューちゃんの魔導具店だよぉ~」
「橘重工じゃないんだ」
「アタシの自作だし、企業関係ない小遣い稼ぎだからね~」
彼女はずいぶんとがめつい性格のようだ。
「まず初めに紹介するのはパイルバンカ~!」
「いきなりロマン武器きた」
「これね~すごくってねぇ~弊社の
「ほうほう」
「んでねぇ、すごいのはここから。市販の身体強化系統の魔導具を併用すると~」
「うんうん」
「なんと腕の原形が残る程度に反動を抑えられちゃうんだよね~!」
「つまり魔導具なしだと吹っ飛ぶと。却下」
「えぇ~。ん~……じゃあこれは?火炎放射器!」
「欠点は」
「試作品の8割が燃料に引火して吹っ飛んだ」
「ダメじゃん」
「チェンソー!」
「欠点」
「キックバック」
「論外」
だが商品を作る才能はなかったようだ。
「こっちだ!捕まえろ!」
「げぇ!?まっず!閉店ガラガラ!レイっちまたね!」
「………嵐みたいな子だったわね」
「………うん」
彼女を追ってきたのだろう、解放戦線の人たちの姿を見た瞬間素早く屋台をかたして彼女は逃げていった。
「碌な商品が、なかった」
「そうね………」
「でもセンスはいい………」
「そう!?」
「武器はロマン……ロマンあるもの、武器として正しき姿……」
「そんなことないと思うけど!?」
本当に素晴らしかった。
多分私がTSする前なら即買いしてた。
「あの女は気に食わあいけど……そんなにほしかったのなら私が今度会ったとき買ってこよっか?」
「いい。私が使ったら、死ぬ」
「たぶん誰が使っても死ぬわよ」
いやそれを言うのならシアちゃんのラ〇トセーバーもだし……。
「でも、武器は必要………」
「そうね、貴方銃へたっぴだし」
「そ、それは……筋力の問題………」
「前みたいに私の体使われても困るし」
「う゛………」
それはほんとごめんって………。
「てことで!探しに行きましょうか!」
「探すって……闇市?」
「あそこはダメよ。ぼったくられるし……そもそもこんな状況なんだからまともなものは売ってないわ」
「じゃあ、どこに?」
「それはもちろん───」
「"奈落"よ!」
胸を張る彼女がいるのは地上より2000メートル以上の地下深く。階層にして地下七層。
奈落。
それは都市地上層に空いた巨大な大穴。
空が見えぬはずの地下に月明かりが差し込む所以。
地上よりいくつもの層を穿つ大穴は何処までも続いており、その底を見た者はいない。
深部に行くほど大気中の汚染物質濃度が上昇するためにガスマスクは必須だ。それでいて荒野にみられるような物よりはるかに狂暴な魔物や、未だ稼働し続ける旧文明の遺物が闊歩する危険地帯でもある。
そんな死神が頬擦りできるほどすぐそばで今か今かと待ち構えているような死地に俺たちは何をしに来たのか。
「さあ!発掘するわよ!」
俺の武器となり得る旧文明の遺物を発掘しに来たのである。
「命懸けすぎる………!」
「しょうがないじゃない。闇市は案の定まともなの売ってなかったし、橘重工の連中が持ち込んだ奴も貴方が使えるようなものなかったんだから」
「くっ………!」
そうなのだ。
あの後橘重工の持ち込んだ物資をあさってみたり、一応闇市に寄って見たりしたのだが俺の使えるようなものはなかった。精々魔法で切れ味が上がっている小さなナイフくらい。
銃を撃てば肩が外れかけるし、剣はそもそも重すぎて持てないし、魔導具は単純なもの以外難しすぎて使えない。
すべてこの体のせいだ。
せめて俺の魔法である【傀儡】の魔法と相性のものが無いか探したが小さな模型程度しか見つからなかった。模型の名は1/144スケール装甲貨物列車ジェレズニャーク。かっこよかったのでシアちゃんに買ってもらったが魔法で動かして遊ぶか、飾るくらいしか使い道はない。
そんなわけで私たちはシアちゃんの魔導具"紅蓮"を発掘した場所でもあるという奈落、その地下第七層相当の深度に来ていた。
「点呼!」
「1!」
「2」
「さん」
「………………4」
メンバーは4人。
「俺はグラヅェフ。今回の案内人だ。よろしく頼むぜ!」
「レティシアよ」
「……レイ、です」
「…………」
第七層奈落周辺地域の案内人である気のいいおっさん、グラヅェフ。
そしていつもの俺ら二人組に、俺以上の無言を貫く男……男か?ワンチャン脱いだら女かもしれないなって感じの人が一人。
「えっと、この人は誰なの?」
「ああ、こいつは気にしなくていい。今回の護衛みたいなもんだ。腕前は信用していい。何せあの第三隊長を倒したのはこいつだって話だからな」
「………!?ジェルシオンを………?」
第三隊長ジュリアス・ジェルシオン。
あいつはかなりのやり手だったと記憶しているが、死んでいたのか。まさか奴を殺せるだけの人間が解放戦線側にまだいたなんて。
確か俺らの第六隊長暗殺任務以外にも大きな仕事が成功したとか聞いていたがそのことだったか……もしかしてリューちゃんが言ってた変態ってあいつのこと?
どちらにせよ警戒するべきだな。
───だが、まずは。
「さぁ!お宝探しの時間だ!」
うおおおお!!!!
「うわ、レイ!?」
お宝さがし!
これほどまでに子供心をくすぐるイベントはない!
お前中身は大人だろうだって!?いいんだよ!男はみんなガキなんだ!
さあ!俺だけの武器を!相棒を見つけるぞ!
「隊長………!これは………!?」
「元気がいいな!お!これは………!!」
「なに………!?」
「不発弾だな!」
「ひぇ!?」
「た、隊長………!これ、これ!」
「むむむ!これは!?」
「………!」
「ただのガラクタだな!」
「こ、これ………!」
「爆弾だな!触ると周囲一帯が火の海だぞ!」
「うへぁ!?」
「た、隊長人が………!」
「ラブドールだな!旧文明のオーパーツだ!高く売れるぞ!」
「ひょわわ!?」
………
……
…
「………」
まともな物がねぇ………!
「仕方がないわよ。このあたりの良さげなものは第六層が開拓された時点で回収されつくしてるわ」
「だったら、なんで連れてきた………!」
「た、たまにいいのでるから………」
くっそ、大半がガラクタ!出てきたとしても危険物!唯一出たレア物は……その、なんか、俺の外見年齢的にアレな奴!
本当にまともなものがねぇ!
ラブドール操って戦えってか!?
もっとこう、まともなのをくれ。
ヒト型じゃなくたっていい!
ドローン的な奴でいいから!
てかヒト型だと情報量多くて難しいから単純なドローンがいい!それだったら複数使えるかもしれない!そうなれば俺は無敵だ!複数のドローンを自在に操る美少女………なかなか素晴らしい!
だがそれにはドローンを………それも複数機集めなければならない。ガラクタしか出てこないこのゴミの山から。
あー………もう自分から歩いてきてくれないかな。俺の理想的なドローンちゃん………。
「ん………?なにか、音が………」
「これは………」
そうそう、あんな感じの………
「鳥型警備ドローンだ!総員物陰に───」
「あれだ………!」
理想的なものが自分から飛んできやがった!
あれこそが!俺の求めていたお宝!!!
「シア、シア!アレ、撃ち落とせる……!?できるだけ、壊さずに………!」
「む、無理だって!?無茶言わないでよ!?」
「お願い………!」
「う、うぅ……壊しちゃっても文句言わな───」
「任せろ」
「え!?」
「うぇ!?」
その時だった。
あたふたと慌てるシアちゃんの真後ろからブオンッという空気を切る音とともに何かが打ち出されたのは。それは見えないながらまっすぐ飛んで行き、こちらにむって飛行していた鳥型警備ドローンに直撃。それを衝撃で撃ち落とした。
「飛ぶ斬撃………!」
フィクションのロマン技の一つ。
斬撃というより剣で思いっきり空気を押し出して衝撃はを伝える技。もちろんTS前の俺もできたが、他人がそれをやって見せたのは初めてだった。
振り返れば、その技を放った人物はすぐに見つかった。無言を貫き通していた例の不審者くんちゃんだ。
「気をつけろ!まだ来るぞ!」
感心している暇はないようで、すぐに鳥型警備ドローンの第二陣がやってきた。
だがそれはもはや脅威ではなく………
「お願い………!」
「了解した」
不審者くんちゃんの二振り目の斬撃で壊滅した。
それらすべてに目立った損傷はなく、落下時にできた傷以外は無傷と言える状態。
「隊長………あれって、巣とか、ある………?」
「お、おう。確かあっち側に警備ドローンの自動製造工場が……」
「ありがとう………!」
「え、おい、待て!?」
俺はそのままその不審者くんちゃんを連れて走る。
もちろん落下したドローンをすべて回収しながら。
「協力、してくれるよね………?報酬は、だす」
「わかった」
「よし………!」
狩りの時間が、お宝探しのボーナスステージが今始まった!
「………むっすー」
「あ、あまり拗ねるなよお嬢様」
「拗ねてない!お姉ちゃんとしての役目を出会ったばっかの不審者に奪われたことなんて気にしてない!」
「お、おう」
【橘重工】
都市外の大企業。企業連の一角。
移動型の都市を一つ拠点として保有する。
旧文明の遺物を解析し、その情報を元に様々な魔導具を作成し販売している。ライターから陸上戦艦までその規模は多岐にわたる。
ステナグラードの異変をいち早く察知し、金のにおいを嗅ぎつけてやってきたとのこと。塔と解放戦線、双方に武器を始めとした物資を供与している。