曇り顔が見たくて死んでみたら、結構大変な事になっちゃったって話   作:せみふぁいなる

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“死”とは、惨く、儚く、悲しく、そして何よりも美しいモノ

 

 ──薄暗く、どこか不気味な気配を常に漂わせる森で、一人の少女が男を背負い、何かから逃げるように拠点へと急ぎ帰っていた。

 男は血だらけで、意識を失っている。そして少女もまた、傷だらけの体となっていた。

 

 

「イヤ! 死なないで、お願い! 貴方が居なくなったら、誰が私達(問題児)を纏めるのよっ! 絶対に死なせないんだからッ!」

 

 

 少女はその長い銀髪を揺らし、ついに仲間達が居る拠点へと辿り着く。

 

 そうして辿り着いた少女は急ぎ足を途切らせる事は無く、男を背負ったまま拠点内部の“医療室”へと向かう。

 

 医療室へと着いた少女は、やっとその急ぎ足を落ち着かせたかと思うと、すぐさま男を清潔な布団へと寝かせ、その背負っていた男の患部……右脚へと、すぐさま回復の魔法を掛けた。

 少女の足は落ち着いたが、まだ心は落ち着いていない。顔に焦りと不安を浮かべ、必死に魔法を行使する。

 

 

 少しして、慌ただしくバタバタと帰還し、かと思えば医療室へと一直線で向かった少女を不審がった仲間の内の一人が、医療室へと入る。

 そして部屋に入った途端に、“先輩”の惨状を目にし、嫌でも認識する事になる。

 

 

「……え……? なんで、なんで血溜まりの中で“紫雲先輩”が倒れて……? 昨日まで──いえ、今朝まであんな笑顔だったじゃないですか……? ソレがなんで……なんで、“()()()()()”んですっ……?」

 

 

 まずその男には、右脚が無かった。何かに食いちぎられたように、右の太ももから先が無かった。

 

 

「“梨花(リンカ)後輩”っ! 現実逃避は後ッ! 今は回復を手伝って!」

「あ……え……? ──ッは、はい……!」

 

 

 危うく何も行動出来ずに、そのまま床に崩れっぱなしになりそうだった所を“先輩”に拾い上げてもらう“梨花”。

 

 慌てて回復を行うが……梨花は、その最中で薄らと理解していた。恐らく、()()()()()()()と。

 梨花自慢の黒髪と、過去に“先輩”が可愛いと褒めてくれたサイドテールは、負の思いに引っ張られているのか、どこかくすんで見える。

 

 

「お願い生きて、こんな所でお別れなんて絶対ダメ! まだやれてない事いっぱいなんだから!」

「ですが、“日沢(ヒザワ)”先輩ッ……! こんな、こんな事言いたくは無いですが……この怪我じゃ、もう治りなんて……!」

「──私は、諦めない! ()()()()()()っ!!」

 

 

 涙を流しながらそう言う、“日沢先輩”と呼ばれた銀髪の少女。

 何故、こんなにも絶望に満ちた悲壮的な雰囲気なのか。片脚欠損だけならば、出血さえなんとか止めれば、“死”は免れるはず。

 ……しかし、現実とはなんとも非情なものである。

 

 ──男の怪我は片脚欠損だけでは無い。

 

 次に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 何か細長く、鋭利なモノに貫かれたように見えるソレは、体の向こう側まで見えてしまう程綺麗に貫通している。

 男の意地なのか、即死は免れようとしたのか……急所だけは外されている。が、もう命は助からないだろう事だけは誰だって理解出来る惨状。

 その位傷が深かった。

 

 

「まだ、何も返せてないの……! 絶対に、生きて貰うのよ……」

「ひ、日沢先輩……」

 

 

 涙を流しながらも諦めない“日沢先輩”に感化されたのか、梨花もまだ助かるかもしれないと、希望を捨てずに“先輩”を助けると覚悟を決める。

 

 

「……分かりました。私、他の子達も急いで呼んできますっ! 日沢先輩、その間絶対に、絶対に死なせないで下さいっ!」

「梨花後輩……ええ、分かってるわ。早く行ってきて、お願い!」

 

 

 梨花は足りない人手を補う為、仲間を呼びに行く。

 残された日沢先輩と呼ばれた少女は、男をどうにか救う為に出来ることをする。

 

 回復を掛けながら急ぎ包帯を探し脚や腹等の目立った患部へと巻き付け、なんとかこれ以上の出血を抑えようと試みる。

 続いて日沢は回復ポーションを棚から取り出すと、一切躊躇する事なくそれを“ぶっかけた”。

 

 すると重症部分はなんの変化も無いものの、小さな傷は回復魔法で治りかけていた所への追い打ちが効いたのか、完治したと言っても差し支えないレベルで綺麗さっぱりと治っていく。

 

 しかし、大きい傷の箇所は少し塞がっただけで、血は出続けている。先程までの大出血とまでは行かないが、いずれ出血多量で死に至るだろう。

 火の魔法で焼こうにも、こうにも傷が大きいと布団に燃え移るリスクがついて回る。そんなに魔法を乱用できるほど、もう魔力も無い。

 

 男の死は刻一刻と迫っている。

 

 次はどうすればいい?何をしたら?と、日沢が考えている内に、回復魔法が効き目を表したのか、男が薄らと目を開ける。

 

 

「──!!! 目を覚ました?! 聞こえてるかしら! 聞こえてるなら何でもいいからリアクションをして!」

 

 

 必死の処置が実を結び、男の意識が戻ったであろう事に歓喜する少女。

 しかし彼女はそれでも油断する事はなく、それでも懸命に回復を続け、次に何をするべきかを思案する。

 

 男の意識はしっかりと戻っているようで、そんな彼女の言葉を聞いて片手を少し動かす。

 

 

「良かった、意識が戻るくらいまでは回復したのね! 本当、心配したのよっ! 待ってて、今梨花後輩も人を呼んでくれてるの。絶対に助けるから────」

 

 

 少女がそこまで言ったところで、男はその緩慢な動きしか出来ない手で少女の口を塞いだ。

 続いて、男は諦めたような顔で口を開く。

 

 

「────もう、良いんです」

 

 

 いつもの元気な声とは全く違う、血で喉がやられているのか、純粋に体力がもう無いのか。凄く掠れた声で、男はそう言った。

 

 

「もう、良い……って……どういう事よ……?」

「“陽奈さん”も、もう分かってるんじゃ……? 俺がもう、助からない事なんて──」

「そんな事ない!! 絶対助かるから! 助けるから!」

 

 

 “陽奈さん”とも呼ばれたその銀髪の少女……“日沢陽奈”は、必死な声で言う。

 その「助ける」「助かる」と言う言葉は、男が言うようにもう心の奥底で気付いている事実を隠すために、自分に言い聞かせているように聞こえた。

 それでも、男は容赦なく次の言葉を伝える事にした。

 

 

「自分の体の事ですから、分かるんです。それに、傷跡からも分かるはずです。“内臓も殆どやられている事”くらい」

「それでもっ……それでも、皆さえいれば……」

「──『普通の傷は治せても、致命傷レベルは聖女でも無い限り治せない』……皆の回復魔法の才は、そんなに高レベルでしたっけ?」

 

 

 男が陽奈にそう問うと、陽奈は言い返せずに閉口してしまう。

 

 陽奈も、本当は分かっているのだ。

 仲間達の回復魔法を全部合わせたって、聖女様のレベルまで届きはしないと。

 

 男は悔しげに口を閉じる陽奈を見て、苦笑いする。

 

 そして、そうこうしている間にも時間は進み、男の体は弱っていく。

 

 

「……ガハッ! ッゲホッ……!」

「大丈夫?!」

「……大丈夫くは無いですね」

 

 

 喉に血が詰まったのか、男は咳をして吐血をする。

 真っ白で清潔だったハズのベッドは、最早男の血で赤く染まりきっていた。

 

 

「……聖女様本人も頼れないでしょう。俺達は“問題児(被差別者)”。聖女様の耳に入る前に、教会に着いた時点で門前払いを食らって終わりです」

 

「──だから、もう、良いんですよ」

 

 

 男はそう言うと、未だに死なせまいと回復魔法を掛け続ける陽奈の手に、ゆっくりと自分の手を重ねる。

 

 

「──俺が居なくなっても、皆ならスグに立ち直って、いつも通りの騒がしい日常に戻れるはずです」

「…い、いや……戻れないわよ……貴方が居ないと、私達なんて……」

「そう自分を卑下しないで。……何時も仕切ってくれていた陽奈さんに、そして皆に……俺からの最期のお願いです」

 

 

 男は残っている力を振り絞り、精一杯の笑顔を作る。

 そしてその笑顔は、お願いは──陽奈にとっての“呪い”となって、記憶に残り続ける事になる。

 

 

「やる事が終わったら、自由に、楽しく……問題児()らしく、世界に負けないで生きてください」

 

「──それだけ、です。それじゃあ、どうやら時間っぽいので……。陽奈さん、最後まで見捨てないでいてくれて、ありがとうございました。……お元気で」

 

 

 男はそう言って笑顔のまま、緩やかに遥か遠い場所へと旅立った。

 ……絶望と悲しみと不安と、ありとあらゆる負の感情をごちゃまぜにした表情の陽奈を置いて。

 

 

「いや、いやよ……ヤダ……置いていかないで……」

 

 

 男の体へと縋る陽奈。

 しかし、もう希望なんてものは無い。

 

 日常に戻る事も……もう、出来ない。

 

 “終わり”。

 

 命を落とすと言うのは、そういう事なのだ。

 

 

「日沢先輩ッ! 皆を呼んでき、まし……た……ひ、日沢先輩? どうしたんですか? 日沢先輩っ? ……まさかとは思いますが……う、嘘、ですよね?」

 

 

 ────死とは、なんとも惨く、

 

 

「ひなち、緊急事態って聞いて駆けつけたよ! 一体何がどうなって……って、どうして“はやち”がそんな血塗れで倒れてんの……?」

 

 

 ────儚く、

 

 

「血塗れ?! ど、どういう事です……?! と、通してください! 僕もせめて何が起こったのか把握した……い……」

 

 

 ────悲しく、

 

 

「──ックソ! まさか手遅れじゃねぇよな!? 俺に出来る事はあるか!?」

 

「あは、あははは……出来る事は無いと思うよ……? …ごめん、梨花後輩。っぐすっ……死なせちゃったぁ……あはははは…………」

 

 

 

 ────そして、美しいモノなのか。

 

 

 男の笑顔、その本当の理由を知る者は……まだ居ない。

 

 





追記:セリフ文の修正・地の文を追加しました。ご指摘を下さった方、ありがとうございます。

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