曇り顔が見たくて死んでみたら、結構大変な事になっちゃったって話 作:せみふぁいなる
表現や文章に違和感があったら是非教えてください。
紫雲颯斗が転生して五年。
どういう訳か、此方の世界でも名前は“紫雲颯斗”となっていた。
こうなってくると、やはりこの転生は神の仕業なのか?と颯斗は考えるが、曇り顔を見たい自身にとってはご褒美となるので、そこまで深くは考えない事にしていた。
彼は転生してからのこの五年間、どうしたら最高の曇り顔が見られるのかひたすらに考え続けていた。
なんだこの化け物。
将来誰かを曇らせる為には、果たしてどうしたら良いのか。今から出来る事とは何か。ひたすらに考えた。
そうして考え続け颯斗が思い付いた事は、『知識を付ける事』である。
なんせ彼が前に生活していた世界とは全てが違うのだ。一体どう言った世界なのか、人を曇らせる為にも颯斗は知る必要があった。
情報を集める為に颯斗が選んだ方法は読書だった。
この世界独自の文字を覚えつつも、この世界の文化や歴史、絵本に綴られる有名な童話等、様々な情報を得られると考えたからだ。
二歳になると同時に、颯斗は早速実践した。
何故颯斗は二歳のタイミングで行動し始めたのか?
それは、二歳頃の方が家をある程度散策出来る事。そして、簡単な勉強をし始めても違和感が無い歳だろう、と颯斗が適当に思い付いた事。
たったこれだけである。
そんな適当な理由から始まり、三年の間様々な本を颯斗は読み続けた。絵本から始め、分からない文字を親から教わり。徐々に難しい文字が混ざった文や、読解力が必要とされる物語が綴られた本へと段階を踏み……。
そうやって読み続け、颯斗は同年代の子達とは比べ物にならない量の知識を得た。
この転生特典のような物でどう曇らせるか、ウキウキと思考を続けながら……だが。
颯斗が得た知識としては、生活する上では全く困らない文字の読み書き・複数の人類種族の存在・魔法の存在・国の名前などなどが挙げられる。
特に魔法の存在は、やはり転生者である颯斗にとっては凄く大きかった。魔法に憧れる現代人は少なくないだろう、颯斗もその内の一人だった。
しかし、この家の環境ではそもそも適性があるのかも分からない為、颯斗は泣く泣く魔法の情報の優先順位を落としている。
そうして月日が経ち、現在の知識を得た颯斗の、五歳の誕生日。
颯斗は、今まで本を読み続けていた事に疑問を感じた親に、気まずそうに問われる事となった。
「誕生日おめでとう、颯斗。そして、その、すまない。五歳の子に聞くような事でも無いと思うんだが……。颯斗、今までずっと本ばかりだが、外で遊ばなくても良いのか?」
「お父さんの言う通りよ、颯斗。別に本がダメって訳じゃ無いんだけど……お母さん達はね、心配なのよ。友達が居なくて寂しいんじゃないか、外で遊ぼうにも一人だから遊べないんじゃないかって」
「俺達から外に出て遊ぶか、と誘おうにも……どうにも熱心に本を読んでる颯斗を見て、『邪魔になるんじゃないか』って気が引けてな……」
父親は罪悪感を感じているのか、少し気まずそうに。母親は心配な心を隠せないのか、不安そうな顔で颯斗に聞いた。
颯斗の親達がそう感じるのは当然と言えるだろう。
颯斗は二歳からなら本を読み続けたって違和感は無いだろうと考えていたが、普通そんな事は無い。
それくらいの子供は、本を読む事はあっても“遊びを一切しない”なんて事は基本無いし、更に五歳の子供では読めないような本も颯斗は読めてしまっているのだ。
しかも、読んで“内容を理解している”。
そうほとんど確信してしまっている要因は、颯斗がたまにしてくる本に関しての質問からである。
明らかに内容を理解していなければ出来ないような問い。
“この神様は本当にいるのか?”という可愛らしい問いから、“この歴史の裏側にいるはずの種族は、今どこで何をしているのか”という五歳児がする訳のない内容の問いまで。
要するに、曇り空の未来に思いを馳せすぎて、颯斗は子供の擬態と言う物を完全に忘れていたという事だ。
それはもう、余りにも子供らしくない言動や行動を見て、親達は気が気じゃないだろう。
純粋な疑問と、我が子を想う親心故の『遊ばなくていいのか?』という心配。
それらが積もり積もった末に限界を超え、こうして誕生日という機会を通して聞いてみようと親は行動を起こした、という訳だ。
不気味がられて捨てられていないというだけで、この親達が如何に優しいかが分かるレベルである。
一方で颯斗は、擬態を忘れていたという割には、意外と冷静に答える事が出来ていた。
「僕、本を見てる時間が本当に楽しいから、大丈夫だよ! それに皆、僕を見て不気味そうに遠くに行っちゃうから……」
事実ではある。
嘘をつく時には事実を混ぜろとはよく言ったものだが、それにしたってこの場で咄嗟に考えたにしてはスムーズな回答だった。
実際に颯斗が他の家の子供と接点を持とうとした際、他の家の親と子、その両方に気味悪がられてしまっているのだ。
本を見ている時間が楽しいのも本当である。
その時間は、本の情報を頭にインプットしながらも、この知識でどう曇らせるか、という事で頭がいっぱいなのだから。
そんな、それでもやっぱり五歳が言ったとは思えないような言葉を耳にして、親達は何かを決意したように見合って頷く。
そして、二人は颯斗に向き直した。
「颯斗、“不気味そうに遠くに行っちゃう”んだな……?」
「え? う、うん」
「……“嫌悪感を抱いているような顔で”、か?」
「……そう、かな?」
颯斗は、何故親がそんな事を聞いてくるのか分からなかった。
不気味そうにしているのは五歳児らしからぬ言動や行動が元であり、その全てが颯斗のせいなのだ。
親二人は、むしろ積極的に悪い子じゃない、とても良い子なんだとアピールしていたような記憶がある。
それなのに、どうしてそんな“覚悟が決まった顔”を此方に向けるのか。
それが分からなかった。
颯斗の返答の後に暫く手で顔を覆って天井を見上げていた父親は、慎重に言葉を連ね始める。
「……颯斗。お前がとても、とっても賢い子と俺達は今まで思っていた……いや、“思おうとしていた”んだが……」
「……うん」
「……颯斗、恐らくお前は、『転生者』だろう……?」
颯斗の心臓が跳ね上がる。
それと同時に冷や汗が身体中から吹き出す。
一体何故バレた?いくら五歳児っぽく無かったとは言え、そこまでスグバレるものか?と、頭をフル回転させ思案する。
そんな様子の颯斗を見て、親達はワタワタと手を振り、誤解を解こうとする。
「あぁ違う違う、違うぞ颯斗! 決してお前をどうこうしようっていう気は無いんだ!」
「そうよ颯斗、落ち着いて? 私達の雰囲気とか言い方とかでそう感じさせちゃったのよね、ごめんなさいね!」
「……違う?」
「ああそうだ、違うんだよ……。とにかく、話の続きをさせてはくれないか? 颯斗」
「……聞くよ」
落ち着く為にゆっくりと深呼吸をし、気を確かに持とうとする颯斗。
暫くして落ち着いた様子の颯斗に、親達は続きを話し始めた。
「すまなかった、颯斗。親として、あんな勘違いを起こさせるのは良くないことだった。……それで、話の続きなんだが。今までは子供の教育には良くないからと、意図的に隠していた本があるんだが……」
「……その隠していた本達にはね、『貴方はきっと転生者なんだろう』って察せるような知識が入ってるのよ」
なるべく優しい声色を意識しているのか、先程よりも室内の雰囲気が柔らかい物に変わっていた。
しかし颯斗は、雰囲気が変わっていた事には目もくれず真っ先に親の言った言葉に齧り付いた。
「……ソレを察せるような知識ってなに? お母さん」
「お母さん呼びは変わらなさそうで嬉しいわよ、颯斗。……あまり、小さい子に言うような事じゃないんだけどね。前世の記憶もちゃんと持ってそうな颯斗になら言えるって、そう信じる事にするわ……」
少し悲しそうに、親達は目を閉じる。それと同時に、自身の胸へと手を当て、颯斗が今まで知り得なかった情報を口にした。
「────いい? 颯斗。貴方は……いいえ、“私達”転生者はね?」
「──……この世界では『問題児』と蔑まれ、世界中から差別される……そんな、その程度でしか無い存在なんだ」
「「今まで隠していて、ごめんなさい」」
親達は頭を下げる。
本来、転生者同士の子供は確実に転生者になる、という訳では無い。
それはそうだ、そもそも転生者、という種族では無いのだから。
しかし、自分達の子供には健全に育って欲しかった。それ故に、“
だが、どんな確率なのか、自分達の子供は転生者となった。なってしまった。
それでも、複雑な親心の元本を隠すことを止めず、今日まで辛い思いをさせてしまったと、親達はそう思い颯斗に謝罪し、こうして頭を下げた。
それを受けた、当の颯斗本人はと言うと────
(曇らせに使えそうな要素じゃないか! 素晴らしいぞこれは!)
──────心の底から歓喜していた。
自分で書いてて思うんですよ、何だこの化け物はって。
でも書いちゃう。
仕事が始まってしまった方々、無理だけはせずに頑張ってください。
ささやかながら応援しております。