なんかPVの伸びも良いしお気に入りもちまちまと増えてくれているので、かなり前倒しの更新です。僕からのクリスマスプレゼントということにさせてください。
じゃあ、最後までよろしくお願いします。
「襲って来ないんじゃなかったっけ────!」
熱源反応。機械の駆動音。花々が散るほどの暴風と共に、私の頭上を熱線が掠めるのを感じた。
咄嗟に身を屈めて、構え直す朱鳶さんを見上げる。冷や汗を頰に垂らしながら、横目に視線を返された。
「はい、そのはずです。少し前、私は先輩と一緒にホロウで助けられたことすらあるのに────」
「であれば。今回のイレギュラーはリンの存在か・・・・・・」
「並行世界に繋がるあの孔・・・・・・?」
パエトーンと共に現れたエーテリアスの数は、ざっと見えるだけでも数十体。凄まじい足音とエンジン音と共に、その大群が迫って来ているのが見える。
対してこっちは三人。しかも私は、戦闘できないお荷物と来た。
撤退の二文字が脳裏を過ぎる。目的の物を目の前にして、私は────、
「いえ、帰りません。突破しますよ、リン」
「そうですね。貴女をあの孔まで連れて行くくらいであれば、なんとかなるでしょう」
そんな私の思考を見透かしたように。武器を構え直した二人は各々呟き、朱鳶さんは再び私を肩に担ぎ上げる。
「────ッ、」
・・・・・・ありがたい。心の底からそう思う。
けれど無茶を強いてしまうのは明白だった。だから止めたい気持ちと感謝がせめぎ合って、私の中で永遠に喧嘩してる。
視界が揺れる。朱鳶さんを先頭に、前へ、前へ。後衛から『トリガー』が進行に邪魔なエーテリアスを撃ち抜き、撃ち漏らしを朱鳶さんが散弾銃と蹴りで排除して。スクラップを越えて、前へ、前へ────。
着実に数は減っていく。それでも、砂の山からひと粒ひと粒拾い上げているようなモノだ。キリがない。
「もうやめよう二人とも! 無茶だって! 一旦退いて、他の人たちも連れて────」
「いえ、退きません」
「朱鳶さんが頑固なのは知ってるけどさ、」
「退きませんよ! だって、貴女を待っている人が居るんでしょう?!」
私の言葉が、朱鳶さんの叫びによって食い気味に遮られる。銃声に負けないくらいの、力強い声に。
「良いですか、リンさん。私は治安官です。今私の目の前に居る限り貴女は護るべき対象なんです!」
「で、でも私は────」
「自分は並行世界から来た、ですか? 関係ありません。今目の前に居る貴女が、少しでも早く安心できる場所に着く。少しでも早く、貴女を待つ人が安心できるようにする。それが治安官の仕事です────!!」
言葉が出ない。代わりに喉元に迫り上がったのは嗚咽だった。
「不安で泣きそうだった。孤独で泣きそうだった────この世界に自分の居場所がない。私にはわからない気持ちですが、貴女の絶望に寄り添うことはできる。こうして道を作ることはできる。だから大人しく、私の厚意を受け取ってください」
背中から朱鳶さんの手が離れていく。離れた片手は彼女の腰元へと滑り、
「────大きいの行きます。しっかり捕まっていてください」
巨大口径のサプレッサーが、銃身に連結される音を聞いた。
「サプレッサーK22ッ・・・・・・全弾、発射────ッ!」
内臓が揺れるほどの轟音。目の前を白く染めるほどの火花。辺りに漂うエーテル粒子。
朱鳶さんの肩から、半ば投げられるような形で滑り落ちる。
────道は、開けた。
目の前には向こう側へと続く孔。足を
朱鳶さんが、『トリガー』が作った僅かな隙。
それはすぐに、押し寄せる機械系エーテリアスの波に飲まれ、無数の影が私を取り囲むことで埋められてしまう。
「っ、っ・・・・・・!!」
あと数歩。あと数歩なのに。
私の世界は、目の前にあるのに。
手を伸ばしても僅かに触れない。もどかしさに叫び声をあげたい気持ちでいっぱいだった。
アームが擡げる音がする。
振り下ろされる気配がある。
堪らなくなって。目を瞑って。思わず、大きな口を開け────、
「お兄ちゃん!!!!」
瞬間。辺りの全てが止まったかのような錯覚を覚える程の、静寂。
振り下ろされたはずのアームは私の頭上で停止して。バクバクと喧しく鳴る、私の心臓の音だけが聞こえる。
そんな静寂を払うように、
「────リン、リン!?」
孔の向こうから。ずっと、聞きたかった声が聞こえた。
「リン、無事かい? 怪我は────」
「おっ、おに……お兄ちゃ、」
まともに舌が回らない。視線を上げれば、孔の向こうにお兄ちゃんの姿がハッキリと見える。声が聞こえる。動揺した表情で、私に上着を取られたせいで、やけに寒そうな格好で────私を見つめるお兄ちゃんが。
「その姿は、だとか・・・・・・酷い顔色だとか、問い詰めたいことは沢山あるけれど。まずは早く、帰っておいで。ほら」
孔の向こうから手が伸びてくる。ソレは穴を通り抜けて、私の前に飛び出した。
私も手を伸ばせば、きっと届く。
・・・・・・その手を握れば、きっと元の世界に戻れるのだろう。
再び静寂が訪れる。肩越しに振り返れば、エーテリアスたちに組み敷かれながらも。私に『行け』と視線を送る二人がいた。
戻れる。戻れるんだ。
・・・・・・だけど、本当に。
────本当に、それで良いの?
私が居るべき場所はここじゃない。
私の友人は、私と今まで過ごして来た人たちは。この人達のようであって、この人達じゃない。
私の意識が向こうに戻れば、こっちの私がどうなるかはわからない。
正常に動けるプロキシが居なくなってしまうかもしれない。
────なら、この二人は?
状況は絶望的。いくらこっちのお兄ちゃんが誰かを殺した記録は無いにしろ、今こうして私たちを襲っているのもまた事実。そこからどうなるかは、全くもってわからない。
私の我儘に付き合わせたせいで、だ。
この数時間で私に向けられた、彼女達の好意は本物だった。私のために動いてくれたのは事実だった。
そして何より、私は────、
「ごめんね、お兄ちゃん」
「うん?」
「私、まだやることある。帰れない」
ねえ、
お兄ちゃんがいないと私はダメなんだ、って。少しの喧嘩をしただけで、少しの言い合いをしただけで。お兄ちゃんの居ない世界を、少しでも想像した私が妬ましかったんでしょ? 贅沢言うな、気持ちも知らないくせに────ってさ。
ねえ、
でもさ、私はアンタだから。こうやってアンタの考えてることは、少しくらいは理解できるつもりだよ。
本当は諦めきれてないんでしょ。自分の身体が酷いことになっても。部屋が荒れ果てても。それでも、H.D.D.は綺麗なままだったじゃん。またお兄ちゃんとプロキシをやれる────そんな未来を願ってるんじゃないの?
ねえ、
それでいて、プロキシ。どんなに困難な道だとしても、依頼者を目的地まで届けるのが私の仕事。
貰いっぱなしは性に合わない。だから、お返しさせてもらうね。勝手に。
くっさい映画みたいな言い回しだけどさ。アンタを連れてくよ、
膝についた泥を払って立ち上がる。それを合図にしたのかは知らないけど、またあちこちから機械の駆動音が聞こえ始めた。
「ちゃんと帰るから、待ってて」
それだけ言い放って、私はお兄ちゃんに背中を向けて────空で変わらず私を見下ろす、こっちのお兄ちゃんに向き合った。
息を深く吸う。吐き出す。
何でお兄ちゃんが引き連れて来たエーテリアスが機械系ばかりなのか。ほんの少し疑問だったけど、今になって納得した。
知能水晶体の機能。その応用。エーテリアスになることで、その範囲が少し広がったか強くなったかはわからないけど。彼らを今、お兄ちゃんは意のままに操ってるんだ。
なら私も、多少無理をすれば────できないことは、ない。
辺りに視線を走らせる。内部構造を読み取る。まずは、二人を組み敷いてる連中から────、
「あ、づ、ゔ────!!」
目から脳にかけて熱が走る。痛みが走る。それでもテューポーンの腕を振るい、周りの連中を薙ぎ倒した。
二人が自由になる。目を見開いて、地面から飛び起きる。
「ごめんね二人とも! まだ、もう少し────付き合って!」
動く、動く、動いてくれる。自分の意識の延長みたいに。それでもその度頭のそこかしこが痛んで、身体が軋んで。強く噛み締めた奥歯が痛くて。
でも辞めるな。意識は手放すな。目を瞑るな。
体が熱を持つ。それでも思考は冷静だった。
お兄ちゃんが向こう側に続く孔に固執するのは何で? 今まで人を襲おうとしなかったのに、この孔に向かう私たちを襲ったのは何でだ。
私、私────私、なら。裂け目を自由に広げたりできるなら。この並行世界への裂け目を広げて、世界同士をぶつけて・・・・・・統合して。また新しい世界を作る。
どうなるかは未知数。だけど、今のこの世の中よりはよっぽど良いものになって。また二人でプロキシをやれる未来が待っているかもしれない。
「でも周りに迷惑────かけてまで、手に入れたハッピーエンド。それで満足!? お兄ちゃん!!」
範囲を広げる。支配権を奪う。奪われる。その繰り返し。視界が揺らぐ。頰を引っ叩く。目の奥が熱くて、鼻から垂れた何かを拭えば手の甲に赤色が付着していて。それでも、
「我慢比べしよっか、お兄ちゃん!! 言っとくけど私、かなりしつこいよ!!」
自由になった二人が、周りのエーテリアスの迎撃を始めてくれる。だから私は倒しやすいように支配権を奪いつつ、空で高みの見物してるお兄ちゃんを引きずり下ろす術を考えればいいだけ。
空を飛べる子。空、空────いる。居た。名前、忘れたけど。この際そこはどうでも良い。
「トリガーッ!!」
無我夢中で叫ぶ。『トリガー』が放った弾丸がお兄ちゃんに被弾する。
その身体がグラつく。お兄ちゃんの意識が、支配権の奪い合いから僅かに逸れる。
だから、空へ飛ばせたソイツの何かしらを使って、お兄ちゃんを地面に引き摺り下ろせば良いだけ。
────そこから先は?
勝算は、ある。方法もある。できる保証は、一切ないけど。
お兄ちゃんが見せた────ビビアンに行った、エーテル侵食の減退。
完全にエーテリアスになってしまったお兄ちゃんに通用するかはわからない。
だけど。さっき、私がお兄ちゃんを呼ぶ声に────彼も反応を確かに示していた。私が今こうしてピンシャンしているのがその証拠だ。
まだ意識は残ってる。可能性はゼロじゃない。ほんの少しの、僅かな可能性にでも縋らないと、私に勝機はない。
支配権が私にあるエーテリアス達で、お兄ちゃんを地面に組み伏せる。縫い付ける。ふらつく足取りで駆け寄って、硬いその体に抱きついた。
あの力の発動条件は? 強い感情の起伏? 相手を思う気持ち?
そんなのはわからない。だけどお兄ちゃんを思う気持ちなら誰にだって負けない。
だって今は、二人分だ。
「ゔ────、ゔ、づ、ゔゔぅぅぅう!!」
思う。願う。想像する。
お兄ちゃんの元の姿を。いつもみたいに私に笑いかけてくれる姿を。
「戻れ、戻れ────戻って!!」
思う。願う。想像する。
こっちの私とこっちのお兄ちゃんが、私たちみたいにまた歩ける未来を。正しい道筋を。
「こんな結末────ッ、間違ってる!!」
目の奥が熱い。視界に火花が散る。
視界目一杯に、『白』が広がって────、
────私は、