有明のハーロック   作:星乃 望夢

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第18話

 

ヘビーメルダーの地下ドック。

 

足場が外され、照明が一斉に点灯された瞬間、そこに居合わせた全ての者が息を呑んだ。

 

通常ならば年単位の時間を要するはずの大改修。

 

それを僅か数ヶ月で完遂し、蘇ったネオ・アルカディア号。

 

その姿は、以前と同じ鮮烈な若葉色を纏ってはいる。

 

だが、その内圧、その存在感は、以前とは別次元の「怪物」へと変貌を遂げていた。

 

「……こいつは、驚いたな」

 

生身のトチローが、帽子を抑えて口笛を吹く。

 

外見上のフォルムは変わらない。

 

だが、見る者が見れば分かる。装甲の継ぎ目、砲塔の可動域、排熱ダクトの配置。

 

その全てが、狂気じみた合理性と、執念によって再構築されているのだ。

 

『へへっ、どうだい? 俺の計算と、みんなの「根性」の結晶さ』

 

AIトチローの声が、誇らしげに響く。

 

アンドラード星での死闘で得られた多くの実戦データ。

 

有明のハーロックが、無意識に行う操艦の癖、判断のタイミング。

 

AIトチローが「焦れったい」と感じていた、松本零士世界の物理法則特有のアナログなタイムラグ。

 

それら全てを解消すべく、電子回路は神経系のように張り巡らされ、この巨艦は有明の手足そのものとして動くように最適化された。

 

だが、それだけではない。

 

この異常なまでの強化を成し遂げた真の要因は、中枢コンピューターに宿る「かつての少年少女たち」──特に、昭和の戦争を知る老兵たちの魂だった。

 

彼らの脳裏には、かつて乗艦し、あるいは憧れ、そして海の底へと消えていった鉄の城たちの記憶が焼き付いている。

 

高速戦艦金剛の如く、速く。

 

戦艦扶桑の如く、一斉射撃の火力を。

 

連合艦隊旗艦長門の如く、堅牢に。

 

そして、戦艦大和の如く、決して沈まぬ不沈艦として。

 

『わしらが乗った船は沈んだ。……じゃが、この船は沈ませぬ!』

 

『装甲が薄い! 敵のビームなんぞ、気合いで弾き返す厚さにしろ!』

 

『エンジン出力、こんなもんじゃ足りん! 限界を超えろ! 焼き付いたらわしらが抑え込む!』

 

それは、かつての敗戦の悔しさをバネにした、文字通りの「ヤケクソ」であり、魂の絶叫だった。

 

物理的な設計図を無視し、ドローンたちがナノマシンレベルで装甲密度を上げ、エネルギー伝導率を限界突破させる。

理論値など知ったことか。

 

「絶対に負けない」という怨念にも似た祈りが、この船をただの機械から、一種の精神生命体へと進化させたのだ。

 

有明のハーロックは、生まれ変わったタラップを上り、艦橋へと足を踏み入れた。

 

空気が違う。

 

以前のような真新しい匂いではない。

 

何十年も戦い続けてきたかのような、凄みのある鉄の匂いがする。

 

舵輪を握る。

 

その瞬間、船体中を駆け巡るエネルギーが、掌を通じて直接脳髄へと流れ込んできた。

 

「……凄いな」

 

有明は震える手で、舵輪を愛おしむように撫でた。

 

「重いが、軽い。……俺の意志より速く、船が反応しようとしている」

 

これはもはや、宇宙戦艦ではない。

 

有明のハーロックという騎士が纏う、最強の「鎧」であり、共に銀河を駆ける「愛馬」だ。

 

「……機械帝国が相手だろうと、全宇宙の艦隊が敵に回ろうと、今の俺たちなら正面から食い破れる」

 

有明はマントを翻し、スクリーンに映るドックの出口を見据えた。

 

その瞳には、かつてないほどの自信と、静かなる闘志が宿っていた。

 

「行くぞ、トチロー。そして、友たちよ!」

 

『合点だ! 暴れようぜ、兄弟!』

 

「ネオアルカディア号、発進!!」

 

ズオオオオオオオオオッ!!

 

咆哮。

 

以前よりも太く、低く、そして獰猛なエンジン音が、ヘビーメルダーの大地を揺るがす。

 

正真正銘の「NEO」──新たな伝説が、今ここに蘇った。

 

 

◇◇◇

 

 

太陽系絶対防衛線のさらに外縁。

 

冷たい暗黒の空間に、突如として現れた異形の艦隊。

 

ゾアーク帝国。

 

地球人類と似て非なる、しかし同じ肌の色を持つヒューマノイドが支配する多種族連合。

 

彼らの目的は、同種と見なした地球人を「下等な労働力」として奴隷化すること。

 

「……笑わせる。俺たちの故郷を、牧場か何かと勘違いしているようだな」

 

ネオアルカディア号の艦橋で、有明のハーロックは不敵に笑った。

 

この世界は俺の知る歴史とは違う。ゾアークなどという敵は記憶にない。

 

だが、関係ない。

 

地球という名の、美しき青き星。

 

その自由を奪おうとする者がいれば、それが誰であろうと叩き潰す。

 

それが、ドクロの旗の誓いだ。

 

「敵、重機動要塞艦接近! ……デカいぞ、全長3000メートル級!」

 

中年オペレーターの悲鳴に近い報告。

 

モニターを覆い尽くすほどの巨大な要塞が、舐め腐った態度で直進してくる。

 

たった一隻の海賊船など、踏み潰せると言わんばかりだ。

 

「……ただのデカい的だ。トチロー、主砲、三式弾切り替え!」

 

俺は即座に命令を飛ばす。

 

この船は、ヤマトの記憶を持つ老兵たちの魂と、AIトチローの解析により、本来の歴史にはない武装すら再現している。

 

『三式弾切り替えよーし! ……へへっ、花火大会といこうか!』

 

「てーっ!!」

 

ズドォォォォォォン!!

 

最新鋭のビーム音ではない。

 

腹の底に響く、古臭く、野蛮な火薬式の号砲。

 

実体弾。

 

ゾアーク軍は嘲笑っただろう。そんな前時代的な鉄の塊が、最新の慣性制御バリアに通じるものかと。

 

だが、その砲弾は「重さ」が違った。

 

ネオアルカディア号の質量加速と、老兵たちの怨念にも似た気迫が乗った弾頭は、バリアに接触した瞬間、物理法則をねじ伏せるような負荷をかけ──。

 

パリーン!!

 

宇宙空間に、ガラスが割れるような音が響いた。

 

バリアを食い破り、要塞の装甲に深々と突き刺さる。

 

そして、遅れてやってくる閃光。

 

『宇宙戦艦ヤマト2199』のデータから再現された、三式融合弾。

 

それは、要塞の内部に「小さな太陽」を生み出した。

 

灼熱の火球が要塞を内側から食い尽くし、巨体は断末魔を上げる間もなく宇宙の塵と化した。

 

「て、敵戦艦、多数本艦へ急速接近中! ……怒り狂ってます!」

 

「臆するな! ……次はこいつだ。主砲1番、2番、波動カートリッジ弾装填!!」

 

『カートリッジ弾装填よーし! エネルギー充填率120%!』

 

それは、禁断の力。

 

波動エンジンのエネルギーをカートリッジに封じ込め、実弾として撃ち出す、小型波動砲とも言うべき兵器。

 

「てーっ!!」

 

あの音が響く。

 

青白い光の奔流。

 

六筋の閃光は螺旋を描いて収束し、二条の光となって一直線に並んでいたゾアーク戦艦群を、まるで紙細工のように貫通し、溶解させ、消滅させた。

 

だが、敵の数は多い。

 

雲霞の如く湧き出る艦隊に、ネオアルカディア号一隻で包囲されそうになった、その時だった。

 

後方から、凄まじい密度のショックカノンが敵陣を切り裂いた。

 

「……待たせたな、海賊」

 

通信モニターに映ったのは、太陽系連邦の紋章。

 

そして、あの伝説の艦影。

 

太陽系連邦旗艦 グレート・ヤマト。

 

「フッ。お堅い連邦軍が、海賊に加勢か?」

 

「地球を守るのに、正規軍も海賊もない。……行くぞ!」

 

グレート・ヤマトとネオアルカディア号が並び立つ。

 

50センチ超弩級ショックカノンと、46センチ三連装パルサーカノン。

 

二つの巨神が、交互に、あるいは同時に火を噴く。

 

その光景は、まさに神話の再現。

 

だが、ゾアーク帝国はさらに大きな過ちを犯していた。

 

彼らは知らなかったのだ。

 

「地球を狙う」という行為が、この宇宙で最も恐ろしい男たちを呼び寄せる狼煙になることを。

 

「……右舷より、高エネルギー反応! な、なんだこの識別信号は!?」

 

ゾアーク帝国の通信士が叫ぶ。

 

暗黒の宇宙より、深緑の死神が現れた。

 

宇宙海賊戦艦 アルカディア号。

 

宇宙海賊キャプテンハーロックが舵輪を握り、静かに告げる。

 

『……俺の故郷に手を出す愚か者は、どいつだ』

 

 さらに、頭上の空間軌道から、荘厳な汽笛が鳴り響く。

 

ボオォォォォォォッ!!

 

銀色の装甲列車が、空間鉄道警備隊のエンブレムを輝かせ、次元のトンネルを突き破って躍り出る。

 

銀河鉄道管理局所属ビッグワン。

 

地球人の乗客を守るため、シリウス小隊が戦列に加わる。

 

そして、トドメとばかりに、真紅の飛行船が優雅に、しかし圧倒的な殺気を持って降下してくる。

 

クイーン・エメラルダス号。

 

『……たまたま通りかかっただけよ。でも、気に入らないわね、その旗の色』

 

ゾアーク帝国の司令官は、戦慄しただろう。

 

たった一つの星を攻めたつもりが、いつの間にか伝説の怪物たちに全方位を囲まれているのだから。

 

「……壮観だな」

 

有明のハーロックは、その光景を見て震えた。

 

一人の巨匠・松本零士が描き続けた、様々な宇宙の「最強」たち。

 

交わるはずのなかった物語が、地球という特異点を守るために、今ここに交差している。

 

ドリーム・ステーション。

 

それはまさに、夢の終着駅にして、新たな伝説の始発駅。

 

「総員、全砲門開け!! ……この星の海に、奴らの逃げ場はないことを教えてやれ!!」

 

有明の号令が、全艦隊の攻撃開始の合図となる。

 

ヤマトの波動砲が、アルカディア号のパルサーカノンが、ビッグワンの主砲が、エメラルダスのビーム砲が。

 

一斉に放たれた光の洪水は、ゾアーク帝国の野望を、跡形もなく消し飛ばしていった。

 

その日、太陽系外縁の宇宙は、かつてないほどの輝きに包まれた。

 

それは破壊の光ではない。

 

ひとりの漫画家が描き、数多の少年少女が夢見た「ロマン」という名の、決して消えることのない恒久の光だった。

 

 

◇◇◇

 

 

太陽系外縁での完全勝利は、銀河の歴史という巨大な歯車を、予想もしなかった方向へと回転させた。

 

ゾアーク帝国。

 

多種族を武力と恐怖で統べる巨大な連合国家。

 

その盟主たるゾアーク人が、辺境の星系で「伝説の艦隊」によって壊滅的な打撃を受けた。

 

その事実は、光の速さで支配下の星々へと伝播した。

 

「支配者は無敵ではない」

 

その真実が露呈した瞬間、抑圧されていた種族たちが一斉に蜂起したのだ。

 

内乱、裏切り、下剋上。

 

人間の愚かさと、自由を求める誇りが入り混じった混沌が、ゾアーク帝国の版図を火の海に変えた。

 

そして、その混乱を冷徹な計算機のように見つめる影があった。

 

機械化帝国だ。

 

彼らは、生身の人間(およびヒューマノイド)同士が潰し合う様を好機と捉え、疲弊したゾアーク領へと無慈悲な進軍を開始した。

 

「……なるほどな」

 

ネオアルカディア号の艦長室で、有明は星域図を見つめながら独りごちた。

 

「こうやって、銀河の勢力図は塗り替わり……そして『銀河鉄道999』の時代、機械帝国だけが絶対的な支配者として君臨する静寂の宇宙が出来上がるわけか」

 

歴史のミッシングリンクが繋がった。

 

俺たちの勝利が、皮肉にも機械化帝国の覇権を加速させたのかもしれない。

 

だが、後悔はない。

 

降りかかる火の粉を払った結果、世界がどう動こうと、それは時の運命(さだめ)だ。

 

「だが、やり残したことは片付けねばならん」

 

有明はグラスを置き、立ち上がった。

 

機械化帝国がゾアーク領へ戦力を分散させている今こそ、手薄になった背後を突く絶好の機会だ。

 

「トチロー。進路、惑星アンドラード」

 

『合点だ! ……あの時の借りを、利子をつけて返してやろうじゃないか』

 

船体と一体化した親友の声が、怒りと闘志を孕んで響く。

 

「総員、第一種戦闘配置! ……これより本艦は、雪辱戦を開始する!」

 

惑星アンドラード。

 

かつて涙を飲んで撤退した、悔恨の星。

 

再びその軌道上に現れたネオアルカディア号を待っていたのは、機械帝国の駐留艦隊と、地表を覆う黒い要塞群だった。

 

だが、今の俺たちは、あの時とは違う。

 

逃げるために戦うのではない。

 

勝つために、戻ってきたのだ。

 

「わがアルカディアの戦士たちよ、聞こえるか!」

 

有明が叫ぶ。

 

「あの時、我々は背を向けた。女子供を守るため、苦渋の決断をした! ……だが、今は違う!」

 

『応ッ!!』

 

『わしらの辞書に、二度の敗走という文字はないわ!』

 

『あの地下壕に残った男たちがどうなったか、確かめねば死んでも死にきれん!』

 

船体に宿る老兵たちの魂が、炉心のように燃え上がる。

 

彼らは知っている。

 

撤退の苦しみも、見捨てた友への罪悪感も。

 

だからこそ、この「帰還」に懸ける想いは凄まじい。

 

「行くぞ! 正面突破だ! ……邪魔する奴は、すべて薙ぎ払え!!」

 

ネオアルカディア号が、若葉色の流星となって大気圏へ突入する。

 

迎撃ミサイルの雨を、強化された装甲とバリアが弾き返す。

パルサーカノンが唸り、ショックカノンが轟く。

 

以前は手も足も出なかった機械帝国の重装甲戦艦が、今のネオアルカディア号の前ではブリキの玩具のように吹き飛んでいく。

 

これは復讐ではない。

 

人間の尊厳を取り戻すための、魂の凱旋だ。

 

「……待っていろ、アンドラードの戦士たちよ」

 

有明は、硝煙に霞む地表を見据え、舵輪を強く握りしめた。

 

「今度は俺たちが、お前たちの盾となり、剣となる!」

 

ドクロの旗が、再びこの星の空にはためく。

 

その光景は、絶望の淵にあった地下壕のパルチザンたちにとって、神の再臨にも等しい希望の輝きだった。

 

 

◇◇◇

 

 

アンドラード星の赤茶けた空に、若葉色の巨体が影を落とす。

 

その船尾楼には、かつて撤退の際に掲げていたものよりもさらに大きく、誇らしげな「髑髏の旗」が翻っていた。

 

有明のハーロックは、マイクを握りしめ、全周波数帯域に向けて呼びかけた。

 

それは敵への宣戦布告であり、地下に潜った友への帰還報告だ。

 

「……待たせたな、戦友たち。盃を挙げろ! 人間の未来の為に歌おう!!」

 

『ラララーラ、ララララ~、ラララーラ、ララララ~……』

 

通信機から響き渡る、野太く、しかし温かい大合唱。

 

それは電子音ではない。生身の人間たちが、血をたぎらせ、喉を震わせて紡ぐ「魂の波形」だ。

 

その歌声は、機械化帝国のセンサーをジャミングするほどの熱量を持ち、駐留艦隊をイラつかせ、引き寄せた。

 

「……愚かな。ノコノコと戻ってくるとは」

 

機械帝国の司令官は嘲笑い、全艦隊をネオアルカディア号へ向けた。

 

集中砲火。

 

ミサイルの雨、ビームの豪雨が、たった一隻の海賊船に降り注ぐ。

 

だが、爆炎が晴れた後、そこに在ったのは、傷一つ負わず悠然と進む緑の城だった。

 

カアンッ! キィン!

 

戦闘機の機銃が、装甲に弾かれて虚しい金属音を立てる。

 

かつては装甲を貫いたビームも、フェムト単位で積層された対レーザーコーティングによって、まるで水芸のように四方へと霧散する。

 

ミサイルの直撃を受けても、船体は微動だにしない。

 

僅かについた焦げ跡や凹みすら、今のネオ・アルカディア号にとっては痛手ではなく、不沈艦としての「勲章」だ。

 

『へへっ、どうだい? 以前のデータで攻撃してきても無駄だよ! 今の俺たちは、ちょっとやそっとじゃ沈まないぞ!』

 

AIトチローの勝ち誇った声と共に、全砲門が開く。

 

「……消えろ、亡霊ども!!」

 

有明の絶叫。

 

パルサーカノンとショックカノンの嵐が吹き荒れ、機械帝国の艦隊は、紙屑のように宇宙の塵へと還っていった。

 

宇宙を制圧したネオアルカディア号は、そのまま降下を開始する。

 

狙うは、地上の主要拠点。

 

ピンポイント爆撃が、敵の駐屯地、補給路、通信施設を正確に粉砕していく。

 

その轟音は、地下で耐え忍んでいたパルチザンたちにとって、反撃の狼煙となった。

 

「……来たぞ! キャプテンが戻ってきた!」

 

「約束を守ってくれたんだ! 俺たちの家族を守り、そして俺たちを救いに!」

 

地下壕から飛び出す生身の戦士たち。

 

彼らの装備は旧式だが、その目には機械には決して宿らない「鬼」が棲んでいた。

 

空からの援護射撃を受け、パルチザンたちは怒涛の勢いで進撃する。

 

動揺し、指揮系統を寸断された機械化兵など、彼らの敵ではない。

 

そして、夕暮れ時。

 

かつて機械帝国の地上総司令部だった瓦礫の山の上に、一本の旗が突き立てられた。

 

ボロボロになり、煤けた布地。

 

だが、そこに描かれたアンドラードの紋章は、夕日を浴びて黄金色に輝いていた。

 

艦橋からその光景を見下ろした有明のハーロックは、グラスに注いだワインを、窓越しに静かに掲げた。

 

「……見事だ。アンドラードの男たちよ」

 

勝利の美酒。

 

それは、かつてこの場所で飲んだ敗北の苦い酒とは違う、極上の味がした。

 

 

◇◇◇

 

 

ヘビーメルダーの赤茶けた空から降りてきたのは、一見すればスクラップの山が空を飛んでいるかのような、異様な船団だった。

 

機械化帝国から鹵獲した戦艦、大破した巡洋艦のパーツを無理やり繋ぎ合わせた「ニコイチ」「サンコイチ」の継ぎ接ぎだらけの船。

 

洗練されたフォルムも、統一された塗装もない。

 

だが、その艦腹には、誇らしげに二つの紋章が描かれていた。

 

故郷・アンドラードの紋章。

 

そして、自由の象徴たる「白き髑髏」。

 

それだけで十分だった。それだけで、この船が鋼鉄の塊ではなく、熱い血の通った人間の船であることが知れた。

 

タラップが降り、煤と油にまみれた男たちが降り立つ。

 

駆け寄る女たち、子供たち。

 

抱き合う声、安堵の泣き声がドックに満ちる。

 

「……父ちゃん!」

「よくぞ、無事で……!」

 

だが、歓喜だけではない。

 

戻らなかった父、兄、恋人。その訃報を伝える戦友の言葉に、崩れ落ちる者もいた。

 

しかし、彼らは決して「無駄死にだった」とは言わせない。

 

「あいつのおかげで、俺たちは勝てた」「あいつが礎になって、故郷を取り戻したんだ」と、涙ながらに胸を張る。

 

その悲しみすらも糧にして、彼らはまた一つ強くなる。

 

そして、アンドラード星への帰還を果たした彼らは、そこで安息を貪ることを選ばなかった。

 

「まだ、泣いている仲間がいる」

 

「俺たちだけが自由になっても、この胸の炎は収まらん」

 

彼らは再び船を出した。

 

ネオアルカディア号を旗艦とし、その周囲を固める継ぎ接ぎの船団。

 

人はそれを、恐怖と敬意を込めてこう呼んだ。

 

「有明海賊船団」と。

 

ネオ・アルカディア号、艦橋。

 

有明のハーロックの傍らに、一人の少年が招かれていた。

 

まだ幼さが残る顔立ちだが、その瞳には大人顔負けの、深い悲しみと決意の光が宿っている。

 

両親を機械化人の人間狩りで失った、戦災孤児。

 

「……名は?」

 

有明が問うと、少年は背筋を伸ばし、はっきりと答えた。

 

「ミャウダー。……ミャウダーです、キャプテン」

 

その名を聞いた瞬間、有明の心臓が早鐘を打った。

 

(……そうか。お前が、そうなのか)

 

ミャウダー。

 

『さよなら銀河鉄道999』において、惑星ラーメタルで鉄郎と出会い、友情を結び、そして自らの命を燃やして散っていく、あの若きパルチザン。

 

彼が今、この時代に、まだ少年としてここにいる。

 

運命の皮肉か、あるいは必然か。

 

かつて本物のハーロックが、台羽正や物野正といった若者たちの魂を導いたように。

 

有明のハーロック──平成生まれの昭和の亡霊である俺が、未来の英雄となるこの小さな灯を、背中で導く立場になったのだ。

 

有明はマントを翻し、窓の外に広がる無限の星の海を指差した。

 

「見ろ、ミャウダー。……あれが俺たちの戦場であり、故郷だ」

 

少年は、キラキラと輝く星々を見つめる。

 

「お前の両親は、あの星の海に還った。……だが、悲しむことはない。彼らの魂は、お前の中で生きている」

 

「……はい」

 

「強く生きろ。……いつかお前が、誰かの希望になる日が来る。その時まで、俺が戦い方を、そして『男』としての生き様を教えてやる」

 

有明は少年の肩に手を置いた。

 

それは、重く、温かい、海賊としての洗礼。

 

「ついて来れるか?」

 

「やります! ……僕も、キャプテンのような男になりたい!」

 

ミャウダーの瞳に、憧れの炎が灯る。

 

それはかつて、有明自身がブラウン管の向こうのハーロックに抱いたものと同じ色だった。

 

「……フッ。いい返事だ」

 

有明はニヤリと笑い、舵輪を握りしめた。

 

船団を率い、船を操り、そして若者を導く。

 

それこそが、キャプテンハーロックの仕事だ。

 

「行くぞ、トチロー! ……次の星が俺たちを呼んでいる!」

 

『合点だ! 若いクルーも増えたことだし、張り切っていくかい!』

 

ネオアルカディア号を先頭に、有明海賊船団が星の海へと進路を取る。

 

その航跡は、長く、遠く、未来へと続いていく。

 

かつて憧れた伝説を、今度は自らが紡ぎ出しながら。

 

有明のハーロックの旅は、まだ終わらない。

 

自由の旗がはためく限り、その物語は永遠に続いていくのだ。

 

 

 

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