惑星ラーメタルの解放。それは機械帝国という巨大な歯車に、有明海賊船団が正面から楔を打ち込んだ歴史的一歩となった。
戦火の余韻が残る若葉色の装甲を、ドックの修復ドローンたちが愛おしそうに撫でていく。
ネオアルカディア号のタラップを降り、ようやく一息つこうとした俺の目に飛び込んできたのは、赤茶けたヘビーメルダーの砂塵よりも鮮烈な、二つの「色」だった。
燃えるような真紅のマントを翻す、クイーン・エメラルダス。
そして、漆黒の喪服に身を包み、銀河の哀愁をその瞳に湛えた女、メーテル。
「……待たせたようだな。貴女たちをドックで待たせるなど、男としては失格だ」
俺が歩み寄ると、エメラルダスは不敵に口元を緩めた。
「気にするな、有明。……それより、随分と派手な『掃除』をしたようね。地上の男たちが、空を見上げて泣いていたわよ」
「……倅の忘れ物を取りに行っただけさ」
俺は肩をすくめ、視線をメーテルへと移した。
彼女は、かつて自分の故郷であったはずの、しかし今は「解放」という名の静寂に包まれたラーメタルの空を見つめていた。
「……ありがとうございます、キャプテン。……あの星に、もう一度、生身の人間が流す熱い涙を戻してくれて」
鈴を転がすような、けれどどこか遠い調べ。
彼女を乗せて走るはずの銀河超特急999号は、戦場と化したラーメタルの駅を避け、自由の民が支配するこの「第二のトレーダー分岐点」へとその軌道を変えていた。
「礼には及ばん。……俺たちは、自分がそうしたいと思ったからそうした。……自由の旗の下にな」
俺は、二人の魔女を伴い、ターミナルの最上層へと足を向けた。
そこからは、船団の灯火と、その向こうに広がる無限の星の海が一望できる。
エメラルダス、メーテル。
そして、この船団のどこかで酒を煽っているであろう、ハーロックとトチロー。
時空を超え、物語を超え、本来交わるはずのなかった者たちが、今、一つの「港」に集結している。
「……役者は揃ったな」
俺は、右頬の十字傷を無意識に指でなぞった。
この傷が痛むのは、過去の記憶のせいではない。これから来るべき、最大の激動を予感しているからだ。
「あとは……お前だけだ。鉄郎」
俺は、暗黒の宇宙のどこかをひた走るであろう、黒鉄の巨体のライトを想像した。
母を亡くし、復讐を誓い、機械の体を求めて旅を続けてきた少年。
彼がこの分岐点に辿り着いた時、少年は真の意味で「男」へと変わる。
「……無事に、上がってこい。この星の海へ」
俺たちは、それぞれの孤独と誇りを胸に、漆黒の深淵を見つめ続けた。
銀河の命運を乗せた汽笛の音が、静寂の彼方から響いてくるのを待ちながら。
宿命の糸は、今や一本の巨大な鋼のレールへと収束しつつあった。
海賊、魔女、そして時の旅人。
銀河を揺るがす伝説の登場人物たちが、一人の少年の到着を待つために、その鼓動を一つに重ねていたのである。
有明の空に、かつてないほど巨大な「物語」の予感が、静かに、しかし重厚に満ち満ちていた。
◇◇◇
その音は、銀河の静寂を震わせて響き渡った。
ポォォォォォォォォォォォッ!!
高く、鋭く、そして万感の想いを乗せた、銀河超特急999号の汽笛。
プラットホームに立つ俺の隣から、黒い影と赤い影が静かに遠ざかっていく。メーテルとエメラルダス。
二人の魔女は、何も言わずに歩み出し、エメラルダス号へと続くハッチへと消えていった。
メーテルは一度だけ振り返り、潤んだ瞳で俺に、そしてこれから降りてくるであろう「彼」の場所へ視線を送った。
それは、同じ時代を、同じ「昭和の魂」を共有する女としての、静かな配慮。
「男が泣く時、女がそばにいてはいけない」
その不器用で、けれど何よりも美しい掟を、彼女たちは知っていた。
シュッシュッ……ポッ……ポッ……。
蒸気と共に、漆黒の巨体が完全に停止した。
重々しく開く、客車の扉。
現れたのは、制服を正した車掌さんと……そして、一人の若者だった。
2年前の面影を残しながらも、その身体は引き締まり、顔には数えきれないほどの硝煙と泥の跡が刻まれていた。
星野鉄郎。
この2年間を文字通り死線の上で生き抜いてきた少年。
「っ、キャプテン……俺はっ」
客車を降り、俺の前に立った鉄郎の声は、かすれて震えていた。
その手は、トチローから受け継いだ戦士の銃を、壊れ物を扱うように強く握りしめていた。
俺は無言で、彼の肩を片手で力強く叩いた。
ズシリと伝わってくる、若者の重み。それは、彼が背負ってきた犠牲と決意の重さそのもの。
「良く生きていたな、鉄郎。……今は休め」
「っ、俺はッ、俺は……ッ!」
自分を999に乗せるために、「明日」というバトンを繋ぐために命を捨てた「親父たち」の顔が、鉄郎の脳裏を駆け巡っていた。
俺は一歩踏み出し、自分の黒いマントを大きく広げた。
そして、震える鉄郎の肩を、その漆黒の翼で包み込む。
周囲の喧騒を遮断し、彼だけの「聖域」を作るように。
「人を偲ぶ涙を堪える必要はない。……泣け、鉄郎。泣けるということは、お前がまだ人間として、熱く生きているということだ」
マントの中で、鉄郎の身体が大きく波打った。
俺の胸板に顔を埋め、彼は、喉の奥に押し殺していた感情を、ついに解き放つ。
「っ、くぅぅぅぁぁぁぁぁ…………ッ」
それは、叫びというよりは、魂が絞り出されるような低い慟哭。
2年間、一度も漏らすことが許されなかった、孤独な戦士の涙。
親父たちの遺志を継ぐという重圧、自分だけが生き残ってしまったという悔恨。
それらすべてが、俺のマントの下で、熱い雫となって零れ落ちていった。
俺は何も言わず、ただ彼が泣き止むまで、その背中を支え続けた。
その光景を、船団の12億人は固唾を飲んで見守っていた。
これは、アニメのワンシーンではない。
一人の若者が、過去の悲しみを血肉に変え、本当の「男」へと脱皮するための、厳粛な儀式だった。
◇◇◇
【実況】鉄郎帰還。キャプテンのマントが、世界で一番温かかった件【有明船団】
1 名無しの提督(旗艦ネオアルカディア) 202X/06/20(金) 21:15:14.22 ID:Leiji999
いま……ドックのライブ映像を見てる……。
有明キャプテンが、泣き崩れる鉄郎をマントで包んでやった。
あんなに大きな背中、見たことないよ。
12億人の船団員全員が、今、あのマントの中で一緒に泣いてる気分だ。
5 名無しのコスモドラグーン 202X/06/20(金) 21:16:45.10 ID:WakaBa01
メーテルとエメラルダスが、無言で立ち去るシーン。
「男の時間は邪魔しない」っていう、あの昭和の気遣い。
令和の地球じゃ「コミュニケーション不足」とか言われるかもしれないけど、
この星の海じゃ、あれが最高のリスペクトなんだよな。
12 名無しのヤマト砲術長 202X/06/20(金) 21:18:22.45 ID:SYamato
鉄郎、いい面構えになったな……。
2年前のあの丸っこいガキが、今は俺たちよりずっと「戦士」の顔をしてる。
有明キャプテンの「泣けるとは、生きているということだ」っていう一言。
これ、俺たち12億人の「迷子」全員への救いだよな。
23 名無しの古参戦士(アンドラード出身) 202X/06/20(金) 21:20:05.67 ID:Old_Warrior_A
聞こえるか、鉄郎の慟哭を。
我らアンドラードの民も、あの日、地表に親父たちを残してこの船に乗った。
あの痛みを、この若者も背負って帰ってきたのだな。
泣け、少年。その涙が、次なる戦いのエネルギーになる。
34 名無しの工作員 202X/06/20(金) 21:22:15.33 ID:Worker01
船団中の居酒屋、一斉に無言の乾杯。
誰も喋ってない。みんなモニター見ながら、黙ってグラスを掲げてる。
鉄郎の涙が、俺たちの心の錆を洗い流してくれてるみたいだ。
キャプテン、あんた最高だよ。
あの子を包んでくれて、ありがとう。
48 名無しのメーテル(船団内) 202/06/20(金) 21:24:40.12 ID:Promethium
エメラルダス号のハッチから、メーテル様が外を見つめているのが見えました。
彼女もまた、泣いているのかもしれません。
けれど、彼女は鉄郎の前では決して涙を見せない。
それが「青春の幻影」として旅を続ける彼女の誇りだから。
有明のキャプテンが、彼女の代わりに鉄郎の悲しみを受け止めてくれた。
60 名無しの自由の旗 202X/06/20(金) 21:27:00.00 ID:Ariake88
(スレッドの流速が、静かに、重く続いていく。
12億人のクルーは、自分たちのキャプテンが
一人の若者の「魂の避難所」になったことを、
何よりも誇らしく感じていた。
有明の空に、999号の余韻と、一人の男が再生する産声が、
優しく、どこまでも優しく響き渡っていた。)
100 名無しの提督 202X/06/20(金) 21:30:00.00 ID:Leiji999
「宴の準備だ!! 鉄郎が帰ってきたぞ!! 今日は銀河で一番美味い飯を食わせてやろうぜ!! ヨーソロー!!!」