有明のハーロック   作:星乃 望夢

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第55話

 

惑星大アンドロメダ。その中心部は、生命の温もりを拒絶した絶対零度の静寂と、冷徹な機械知性が支配する無機質な美しさに満ちていた。

 

999がプラットホームに停止し、客車のドアが開かれたその瞬間、鉄郎たちが踏み出した一歩は、数多の物語が辿り着けなかった「新しい現実」への第一歩であった。

 

「……鉄郎、気をつけて。この静寂は、母の冷酷さそのものだわ」

 

メーテルの警告に頷きながら、鉄郎は背後の仲間に視線を送った。そこには、再生した身体で戦士を支える決意を固めたクレアとメタルメナの姿があった。

 

「鉄郎、こっちは俺に任せろ」

 

ミャウダーが、短く、しかし信頼の籠もった声で告げる。

 

「お前は、お前のケジメをつけてこい。俺は、この星の奥底で泣いている同胞を救い出し、この地獄の釜をぶち壊してくる。……『有明の倅』としてな」

 

二人の若者は、言葉を交わす代わりに拳を一度だけ突き合わせた。かつての物語では死の影に消えたはずのミャウダーが、今、生ける剣となって工場の心臓部へと駆けていく。それは、有明のハーロックが運命から略奪した、何よりも輝かしい「希望」の光景であった。

 

 

◇◇◇

 

 

天を突くような巨大な円柱が並び、足元には冷たい霧がたゆたう広間。

 

その中央に、漆黒の亡霊の如く立ち塞がる黒騎士ファウスト。

 

「……来たか、鉄郎」

 

その声は、広大な空間に反響し、重力波となって鉄郎の皮膚を打った。

 

「有明という男が、この宇宙の盤面をひっくり返した。……悲劇を遠ざけ、別れを拒み、死者を呼び戻した。……だが、それゆえに生じた歪みが、この星の海の理を崩壊させようとしている」

 

ファウストはゆっくりと銃を抜き、その銃口を鉄郎の心臓へと定めた。

 

「略奪された平和、盗み出された命。……それが本物であるというのなら、この私という『壁』を越えて証明してみせろ。……父を、過去を、そして定められた物語を殺してでも、前へ進む覚悟があるか!」

 

「……ああ、あるさ!!」

 

鉄郎の声は、地鳴りのように響いた。

 

「俺はもう、一人じゃない! 親父たちの遺志だけじゃない、俺には生きて背中を預けられる仲間がいる! たくさんの家族が、俺の帰りを待っているんだ!!」

 

鉄郎が戦士の銃を引き抜く。その音は、トチローの魂の鼓動そのものであった。

 

その激突の瞬間──。

 

惑星大アンドロメダの外部装甲が、悲鳴を上げるような音を立てて歪み始めた。

 

空間を切り裂くような、禍々しくも美しい、天上の旋律。

 

サイレンの魔女。

 

異質のエネルギーを求めて彷徨う宇宙の捕食者が、ついにその巨大な口を開け、大アンドロメダという「果実」を求めて近づきつつあった。

 

惑星が微かに震え、重力場が狂い始める。ビームが曲がり、火花が逆流する。

 

だが、その混沌とした極限状態の中で、父と子の視線だけは、一本の鋼鉄のレールの如く真っ直ぐに交錯していた。

 

「勝負だ、ファウスト!!」

 

「……来い、我が息子よ!!」

 

二つの戦士の銃が、同時に火を噴いた。

 

それは、物語の終焉を告げる号砲ではなく、現実を自らの手で掴み取るための、魂の爆発であった。

 

大アンドロメダの奥深くに、宿命を撃ち抜く光が溢れ出す。

キャプテンハーロックが、エメラルダスが、有明が、そして銀河に散る34万隻の船団員たちが固唾を呑んで見守るなか、星野鉄郎は今、一人の「男」としての最終試験に挑んでいた。

 

サイレンの魔女の歌声が全てを飲み込もうとするなか、真の自由を懸けた決闘が、暗黒の深淵で苛烈に繰り広げられていた。

 

 

◇◇◇

 

 

惑星大アンドロメダを包み込む空間が、まるで巨大な飴細工のように歪み始めた。

 

天から降り注ぐのは、禍々しくも甘美な、絶望の旋律。

 

「やはり焼け石に水だったか」

 

ネオ・アルカディア号の艦橋で、有明のハーロックは苦く吐き捨てた。

 

黒騎士ファウストが、密かに機械エネルギーを放出してまで試みた「延命策」。それは捕食者の食欲を僅かに逸らすだけの、微々たる抵抗に過ぎなかった。

 

変えられぬ宿命。

 

宇宙の絶対的な不条理である「サイレンの魔女」が、その巨大な口を開け、大アンドロメダに宿る莫大なエネルギーを喰らうべく降臨したのである。

 

有明は、通信機を介さず、ただ窓の向こうで並走する深緑の巨艦と深紅の飛行船に視線を送った。

 

キャプテンハーロックとクイーン・エメラルダス。

隻眼の男と、顔に傷を持つ女。

 

彼らと視線が交差した瞬間、言葉を超えた意志が一つに結ばれた。

 

惑星メーテルの時と同じだ。伝説の二隻は、鉄郎の退路を死守するための「防波堤」となるべく、即座に機首を転じた。

 

だが、有明にはその先、彼にしかできない「略奪」の決意があった。

 

「全艦揚陸開始! 魔女の釜に焚べられる前に、同胞を一人残らず略奪しろ!」

 

有明の絶叫が、34万隻の船団を揺るがした。

 

彼の狙いは、大アンドロメダの奥深くにある「命の火を抜き取る工場」。

 

あそこに囚われている、全宇宙から「部品」として運ばれてきた数百万、数千万の生身の人間たち。彼らを魔女に喰わせるわけにはいかない。

 

「第1、第3方面軍、突入!!」

 

若葉色の旗艦を先頭に、有明艦隊が二手に分かれる。

 

第1方面軍、旗艦・昭和ヤマト。

 

指揮を執るのは、地球各地から集まった不屈の魂を持つ男たちだ。

 

「海賊の掃除を邪魔させるな! 敵迎撃艦隊を引き受け、路を死守するぞ!」

 

古色蒼然とした、しかし凄まじい威圧感を放つヤマトが、正面から機械帝国の艦隊を迎え撃つ。三連装ショックカノンが火を噴き、拡散波動砲が敵陣を文字通り「消去」していく。彼らは、同胞の命を救い出す「時間」を稼ぐための、動かぬ壁となった。

 

対して、第3方面軍、旗艦・2199ヤマト。

 

指揮を執るのは、令和の日本から「物語の住人」となることを選んだ、一億三千万の精鋭たち。

 

「敵艦隊は第1方面軍に任せろ! 俺たちは1秒でも早く工場へ到達する!」

 

精密な計器を叩き、ワープを短距離で連続使用する変態的な機動。

 

彼らは敵艦隊との交戦を一切無視し、降り注ぐ対空砲火を「物理演算の誤差」として回避しながら、大アンドロメダの地表へ、工場の中枢へと、一本の鋭い槍となって突き進む。

 

「……急げ! 魂を略奪される前に、俺たちが『命』を略奪するんだ!!」

 

工場のハッチが、有明船団所属の機械化人によって粉砕される。

 

地獄の底で震えていた人々が見上げたのは、崩落する天井の向こう、自分たちを迎えに来た若葉色の巨艦の影であった。

 

サイレンの魔女の歌声が、星の命を吸い込み始める。

 

宇宙の終わりを告げるような光景の中で、海賊国家船団・有明は、死神から命を奪い返すという、全宇宙で最も不遜な「略奪」を今、完遂しようとしていた。

 

「船団残存艦艇はサイレンの魔女中心部へ攻撃開始! ヤツがエネルギーを喰らう魔女ならば、俺たちの意志の火をたっぷりと喰らわせてやれ!」

 

有明のハーロックの号令が、真空の宇宙を震わせる「魂の波動」となって、三十四万隻の全乗組員の心臓に火を灯した。

 

次の瞬間、漆黒の宇宙空間は、人類史上かつてない密度の「光の雨」によって埋め尽くされた。

 

惑星大アンドロメダを飲み込もうとする巨大な闇の渦、サイレンの魔女。その圧倒的な引力圏の外、安全な距離を保つ残存艦隊から、絶え間なくミサイル、航宙魚雷、そして全火力が吐き出される。

 

それは、もはや精密射撃などではない。人の「夢」と「希望」と「野心」を火薬に詰め込んだ、飽和攻撃という名の絶叫であった。

 

「……計算通りにいかせてたまるかよ、不条理め」

 

有明は、艦橋の窓の外を流れる弾道の軌跡を追った。

 

サイレンの魔女の歌声はあらゆるエネルギーを自らの糧とする。だが、船団が放つのは、ただの物理エネルギーではない。そこには「生きて、明日を奪い返す」という、生物としての根源的な生存本能──「意志の火」が宿っていた。

 

数万、数十万、数百万の魚雷が、魔女の引力に引かれるまま加速し、その中心核へと吸い込まれていく。一発一発は小さな火花に過ぎない。だが、絶え間なく供給され続ける質量と熱量の塊は、魔女という「無限の空腹」に、生理的な不快感とも言える負荷を与え始めていた。

 

この一撃一撃が、大アンドロメダの地表で戦うヤマトの、そして工場に突入した第3方面軍の時間を稼ぎ出している。

 

「喰らえ! これが俺たちの人生だ! 二度と誰にも略奪させない、俺たちの『今』の重さだ!!」

 

通信回線には、兵士たちの怒号と祈りが混じり合う。

 

彼らは知っている。自分たちが今放っているこの火の矢が、工場の奥底で震える同胞のタラップを照らす、唯一の灯火になることを。

 

サイレンの魔女が、初めて苦悶するように身悶えした。

 

エネルギーを喰らう者が、逆にエネルギーの洪水によって溺れ、その動きを鈍らせる。

 

宇宙の摂理、運命という名の残酷な脚本。

 

それらに対し、一人の巨匠の物語を盾に、一三億の命が正面から喧嘩を売っていた。

 

「……トチロー。弾薬の補給を止めるな。魔女の喉元が、火薬で詰まるまで撃ち続けろ」

 

『任せろよ、友よ。発射管が焼け付くまで撃ち続けてやるさ』

 

有明のハーロックの冷徹な命令。

 

惑星大アンドロメダの崩壊と、魔女の捕食。その歴史上の「確定事項」を、有明船団は暴力的なまでの質量と意志によって、今、強引に先送りにし続けていた。

 

それは、神の領域に挑む者たちの、最も美しく、最も凄惨なる叛逆であった。

 

 

◇◇◇

 

 

惑星大アンドロメダの心臓部、白銀の光に満ちた大広間。そこでは、かつての物語が用意した「闇」も「狭隘な屋根の上」という舞台装置も存在しなかった。剥き出しの真実だけを照らす眩い光の下、父と子の決闘は、凄絶なまでに泥臭い「対話」へと化していた。

 

黒騎士ファウストの動きは、精密機械の如く無駄がない。鉄郎が放つ戦士の銃の閃光を、身体をわずかに捻る最小限の挙動で回避し、冷徹な反撃を繰り出す。対する鉄郎は、床を転がり、壁を蹴り、なりふり構わぬ大振りの回避で死線を潜り抜ける。洗練された武人の技術に対し、生身の人間が持つ執念と生存本能がぶつかり合う。

 

「……それだけか、鉄郎! 略奪した平和の上で、牙が鈍ったか!」

 

ファウストの銃撃が鉄郎の肩を掠め、鮮血が舞う。だが、鉄郎の瞳に宿る炎は消えない。転がり、汚れ、喘ぎながらも、少年は一歩も退かずに父へと食らいついていた。それは、言葉を超えた親子の交流。引き金の一撃一撃が、互いの生き様を問い質す叫びであった。

 

同じ刻、惑星の最深部──女王プロメシュームの生命を維持する中枢区画。

 

そこには、かつての「迷い」を断ち切ったメーテルの姿があった。

 

『おやめなさい、メーテル。私を殺すことは、この星を殺すこと。私を殺すことは、お前自身の半身を殺すことなのですよ』

 

星そのものと化したプロメシュームの、全方位から響く嘲笑。しかし、メーテルが握る銃口は微塵も揺らがなかった。

 

物語において、彼女は母への情愛と宿命の間で揺れ動き、生命維持装置を停止させるに留まった。しかし、今の彼女の背後には、運命を略奪してまで駆けつけた友たちの鼓動がある。

 

鉄郎が、ミャウダーが。

 

有明やキャプテンハーロック、エメラルダスが。

 

そして有明の民達が、命を燃やして未来を掴もうとしている。

 

自分一人が母への情という「過去」に縛られ、彼らの戦いを無にすることなど、今のメーテルには許されなかった。

 

「……さようなら、お母様。私は、彼らと共に『明日』へ往きます」

 

メーテルの決意が、銃の引き金に込められた。

 

彼女が放ったエネルギー弾は、装置を停止させるためではなく、根こそぎ破壊するために中枢へと吸い込まれた。連鎖する爆発。星の神経系が一つ、また一つと焼き切れていく。それは、機械化帝国の心臓を物理的に握り潰す、娘としての、そして時の旅人としての峻烈なるケジメであった。

 

凄まじい衝撃波が惑星を駆け抜け、大広間の床を激しく揺らす。

 

崩落し始めた天井を見上げ、ファウストは仮面の下で満足げに目を細めた。そして、再び銃を構え直す。

 

「……動いたか、メーテル。よかろう、鉄郎。……これが最後だ!!」

 

崩れゆく帝国の中心で、父と子の、そして母と娘の、物語を終わらせるための最終章が、炎の中で加速していった。

 

海賊国家船団・有明。

 

その魂を分かち合った者たちの覚悟が、不変のはずだった銀河の摂理を、今、完全に粉砕しようとしていたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

惑星大アンドロメダを震撼させたのは、捕食者の到来を告げる不気味な地鳴りではなかった。メーテルがその迷いを断ち切り、生命維持装置の心臓部を粉砕したことで引き起こされた、惑星中枢の連鎖爆発。その凄絶な轟音こそが、永きにわたる機械化帝国の黄昏を告げる最期の合図であった。

 

立ち込める火花と熱気のなか、二条の光が交差した。

 

鉄郎の頬を掠めた熱線は、鮮血とともに、その若き顔に一筋の「証」を刻みつけた。それは、有明のハーロックやキャプテンハーロックが背負うものと同じ、逃れ得ぬ戦士の刻印。

 

それと同時に放たれた鉄郎の渾身の一撃が、ファウストの握る銃を、その根元から無慈悲に、かつ的確に撃ち砕いた。

 

「何故殺さん……」

 

砕け散った銃の残骸を足元に、ファウストは静かに問うた。仮面の奥にある瞳は、死を覚悟した者の静寂を湛えていた。対する鉄郎は、戦士の銃を収めることなく、毅然と言い放った。

 

「俺は誰かの犠牲の上に立つなんて、これ以上は御免だ。……そして俺は、アンタを連れて行くって決めたんだ」

 

「情けか。そのような甘さでは、この過酷な星の海は──」

 

「違う! 俺は俺の運命に逆らうだけだ。有明さんに教わった通り、海賊らしく、俺の自由と誇りを、俺自身の手で奪い返すんだ!」

 

宿命という名の脚本を破り捨て、父の命さえも死神の手から「略奪」してみせる。その傲岸不遜なまでの決意に、ファウストは初めて、息子の中に眠る真の海賊の魂を認めた。

 

「…………そうか」

 

「それに、アンタには仕事がある。残された機械化人たちを纏め上げ、導くという仕事だ。有明の船団の掟は、『働かざる者食うべからず』だ。死んで逃げるなんて、この俺が許さない」

 

「フッ……フハハハハハ! 毒されたな、鉄郎。あの男の身勝手な流儀に、これほどまでに」

 

ファウストは声を上げて笑った。それは、帝国の幹部としての笑いではなく、一人の不器用な父親としての、誇らしげな高笑いであった。

 

「それだって構わない。それが、俺がこの旅で積み重ねてきたすべてだ」

 

「……良かろう。往くぞ、鉄郎。お前が奪った私の命、使い道は任せる」

 

「ああ……!」

 

二人の戦士は、崩落を始めた謁見の間を蹴り、走り出した。

背後には、星の命を吸い込もうとするサイレンの魔女の歌声が、すぐそこまで迫っていた。

 

有明の船団が宇宙を埋め尽くし、ヤマトの主砲が魔女を足止めするなか、父と子は共に「生」へと向かって突き進む。

 

それは、かつての物語が辿り着けなかった、宿命への完全なる叛逆。

 

崩壊する大アンドロメダの炎を背に、新たな時代の夜明けが、今まさに始まろうとしていたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

惑星大アンドロメダの崩壊と、宇宙の捕食者「サイレンの魔女」の降臨。その終末的な光景を塗り替えていたのは、三十四万隻の有明船団が放つ、文字通り「桁違い」の火線であった。

 

銀河の常識を遥かに超える物量が、ミサイルと航宙魚雷の奔流となって、魔女の深淵へと吸い込まれていく。その壮絶な「供物」を、二人の海賊はそれぞれの艦橋から見届けていた。

 

深緑の巨艦、アルカディア号。

 

艦長席の傍らに立ち、腕を組んだキャプテンハーロックは、隻眼に映る無数の光跡を静かに見つめていた。

 

「……凄まじいな。あれが、有明の言う『物語を現実に変えた力』か」

 

彼の視界には、一分の隙もなく次々と発射管を空にしていく有明船団の姿があった。それは本来、海賊が好む戦法ではない。海賊とは、一撃必殺の鋭利な刃であるべきだからだ。だが、目の前で行われているのは、国家という巨大な質量を以て、宇宙の不条理そのものを「窒息」させようとする力業であった。

 

『ハハ! 見ろよハーロック! あいつら、弾薬の在庫なんてこれっぽっちも気にしてないぜ。……まるで、この瞬間のために全宇宙から資源を略奪してきたみたいだ!』

 

中枢大コンピューターから響くトチローの声は、かつての親友と、そして異界の親友の両方を讃えるように明るく跳ねていた。

 

「贅沢な弔いだな、トチロー。……奴らは、失われたはずの『夢』を燃料にして、魔女の喉元を焼き切ろうとしている」

 

ハーロックは不敵に口元を歪めた。一人の男が掲げた不器用な旗が、今や銀河の天災さえも足止めする巨大な盾となっている。その事実は、孤高を貫いてきた彼にとっても、眩いほどの希望に映っていた。

 

一方、深紅の飛行船、クイーン・エメラルダス号。

 

エメラルダスは、モニターを埋め尽くすミサイルの雨を静かに睥睨していた。

 

「……恐ろしい男ね、有明。……『意志』に質量を持たせ、それを力で叩きつける。……あれはもはや、海賊という枠を超えているわ」

 

彼女の眼下では、ヱクセリヲン級の居住艦から放たれた無数の魚雷が、サイレンの魔女の声を粉砕していた。

 

彼女が知る「人間」は、もっと脆く、絶望に弱い生き物だったはずだ。だが、この船団に乗る民は違う。彼らは自ら進んで宿命の「外側」へと飛び出し、物語の結末を力尽くで書き換えようとしている。

 

「……いいわ。その不遜なまでの生命力、見せてもらうわよ」

 

エメラルダスは、自分の船のエネルギーを微調整し、鉄郎の退路を乱す余波を打ち消すことに専念した。

 

前線で狂ったように火を噴き続ける有明船団。その後ろ姿は、彼女の目には、かつてトチローが設計図を前に見せていた「子供のような純粋な執念」と同じ色に見えていた。

 

「……散っていった者たちの命を、決して無駄にはしない。……それが、あの男の『略奪』の真意なのね」

 

 

◇◇◇

 

 

漆黒の宇宙に、絶え間なく咲き乱れる火の華。

 

サイレンの魔女が発する絶望の歌声を、有明船団の咆哮が、物理的な爆圧を以てかき消していく。

 

ハーロックとエメラルダス。

 

宇宙の伝説を背負う二人は、新時代の海賊が見せる「底なしの熱量」を、戦友としての敬意を以て受け入れていた。

 

 

 

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